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レヴェント編・真紅の血鬼《クリムゾン・ブラッド》

16.その背中は――

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話し合いを終えた後、俺達はそれぞれ一度寮へ帰った。
 使える駒……もとい友人達とは後に冒険者ギルドで落ち合うことにして、俺は準備をした。
 準備、といっても制服を着替えただけであり、基本的に武具などは異空間収納エア・ボックスに格納してあるので、準備の時間は然程掛からない。
 純白の制服から普段着にしている黒い服を身に着け、部屋を出た。
 寮を出てすぐ、道の脇にアリシアが立っているのを発見した。
 「早いな」
 「まあな」
 彼女は黒と紫を基調とした服を身に着けており、腰には冰晶剣が携えられていた。
 「待っててくれたのか?」
 「ああ」
 「先に行っててくれて構わなかったけど、まあ……折角待ってくれたんだし、一緒に行こうぜ」
 「ん」
 少し恥ずかしそうに頬を掻いた彼女は小さく返事を返した。
 そんな彼女の表情がとても可愛らして、らしくなく彼女を見つめてしまった。
 やはり、アリシアは弩級に美人だ。クールな装いをしているが、その実かなり可愛らしい部分のあるその様子は、ギャップも相まって本当に可愛いと思う。
 ……ホント、可愛いよな。
 「どうかしたか?」
 「いや、何でもない」
 俺は何だか照れ臭くなり、頬を掻いて彼女から視線を逸らした。
 と、ここでもう一人の人物が背後から現れ――突撃してきた。
 「危ない」
 「うぶふ――ッ!」
 吹き飛ばされる俺を見てアリシアが驚いたような表情をした。
 地面を転がった後、突撃された背中を押さえて立ち上がり、少しだけ怒りを含んだ表情でその人物に言った。
 「おい、詩織。お前は殺す気か?」
 呆けた顔で首を横に振る詩織。
 「じゃあ何で背後から頭突きをかましてくるんだよ」
 「敬也が危ないと思ったから」
 「? なにが?」
 首を傾げて問い掛ける。
 「美魔女に心を奪われる可能性がある」
 「…………」
 神妙な面持ちで何とも言えないことを口にする詩織に、俺は呆れた眼差しを向ける。
 ただ、アリシアに見惚れてしまったのは事実なので、発言は控えることにした。確かに俺は、アリシアに こころを動かされかけていたのかもしれない。
 ……こ、ころ?
 不意に、自分の思考に戸惑いが生まれた。
 俺の こころは空白だ。なのに、なぜ? アリシアという一人の女性をに〝無いモノ〟が動いたと錯覚している?
 これは、愛……恋、というものか?

 ……………………………
 ……………………………
 ……………………………

 ―――――――――――
 ―――――――――――
 ―――――――――――

 ……――いや、違う。
 そんなモノを、俺が懐く筈がない。
 そうだ……きっと気のせいだ。
 自身の懐いているモノに蓋をして、歩き出す。その全てが、だと思い込んで。
 「……二人とも、行こう」
 「「…………」」
 二人は何故だか、酷く驚いた表情をしていた。

 それは俺が、とても――哀しげな表情をしていたからだろうか?

 静かな歩みを進める哀愁漂う背中を、二人は無言で追いかけた。
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