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レヴェント編・真紅の血鬼《クリムゾン・ブラッド》

8.後悔の所在

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 実技の後、魔道学の授業を受けた。
 相変わらず宮登達、異世界人のヤバさに驚愕するばかりで、頭が痛い。同時に自身の魔術面――いや、魔法面での弱さに打ちひしがれる。
 前回、シドとの戦いではそれなりに善戦できたが、あれはシドが魔法を使えなかったから、戦えただけだ。あのレベルの強さで魔法を使える相手だったら、勝てる自信がない。俺の魔術は搦め手用であって、真正面から戦うにはあまりにも心許ない。
 紅月の力を使用出来れば、魔法相手でも何とかなるだろうが、毎度自傷で動けなくなるのは困る。
 もうそろそろ、こっちでも方法考えとかないとな……。
 常々、異世界に転移させられた現状に気分が悪くなる。元の世界であれば、その程度どうとでもなったのだが、こっちに来た時は無雪以外は持ってない状態で飛ばされたせいで、ほぼ手ぶら。
 「はぁ~……」
 もう一ヶ月は経過したのにも関わらず、未だに転移させられた現実にため息が漏れる。
 「どうした? また女か?」
 「お前はさ、一発くらい殴ってもいいよな?」
 後ろの席からそう言ってくるアルに向って、イラッとした表情でそう言った。
 「仕方ないだろ? 今や、お前はホラも含めて色々と噂になってるんだ」
 「…………」
 「ルーカやフィニスさん以前からお前は魔力無しで目立ってたからな。二人やシド、ゴチャゴチャにトンデモ情報が流れれば、仕方ない」
 「全て不本意なんだけど……?」
 「本意であろうと不本意であろうと、事実は事実だ。恨むなら過去の自分を恨むんだ」
 アルの言葉を聞いて俺は両手を組んで唸る。
 んー、いやね。そうですよ、全部アルさんの言う通りでございますとも。いくら不本意でも、結果的にその選択をしたのは〝俺〟だ。それは否定しようもない事実。全部ワタクシが悪いですよ。
 不幸を言い訳にしているが、結局は全て自分が悪い。
 「酷な道程だ……はぁ、俺はめんどくさいことは嫌いなんだが……」
 「後悔してるのか?」
 「ん? いいや、それはしてないよ」
 「っ――、やけにあっさり言い切るな」
 「まあな……――アル。俺はさ、選択にだって思ってる。どちらの選択を取っても、得る筈だった結果を失ってるわけだしな」
 一人己の〝 こころの側〟を晒すように語る。
 「もしかしたら、そっちの選択肢を選んでいれば、今より幸福だったかもしれない。あの時ああしていれば、不幸になっていたかもしれない。後悔の全くない人生はない……でもさ、後悔はあっても、自分が決めた選択肢なら、例え果てで後悔しても――って思えるんだよ」
 「――――」
 「、ってのはおかしい言い方かもしれないけど、実際俺はそう思ってる。〝己の信念を曲げる後悔より、結果の果てに得る後悔〟。俺はそう在りたいと思ったんだ……」
 「フン、私との〝約束〟にも、後悔はないと?」
 隣から話を聞いていたアリシアがそう言った。

 「ああ、もちろん」

 俺は恥じらうことなく、キッパリとそう言い切った。
 「っ――、お前は調子が狂う奴だな……本当に」
 動揺し、頬を掻いて呟く。その頬は優しいピンク色に染まっており、そんな照れた姿も可愛いと反射的に思ってしまった。
 彼女の方を向いて言った。
 「一様言っておくけど……今のところ、俺は得られなかった幸福より、得ている幸福の方が多いと思ってる。俺はお前と出会ったことを――お前の隣にいることを、〝信念〟にしても〝結果〟にしても……――後悔はしていない」
 真っ直ぐと彼女を見る。
 これは嘘偽りない本音だ。彼女との出会いで、もたらされた幸福も不幸も……何一つだって後悔に値しない。
 「何度も……死にかけているのに、か?」
 「それは全部俺の選択だ。お前に責任はない」
 「――――」
 アリシアは、言葉に出来ない感情が渦巻いているのか、何やら言葉を発そうとしつつも、寸でで言葉止める。複雑な心境の表情がこちらへ向く。
 そして、そっと口を開いた。

 「お前は以前……私が言った〝優しくて良い奴〟という言葉を否定した。でも、やっぱりお前は

  ――〝優しくて良い奴〟だよ」

 優しい声で彼女は言った。
 「そう、かな……」
 「ああ、私が保証する」
 俺はアリシアの言葉に、以前言ったような言葉を言うことはなかった。
 天無という人間は幸福になって良い存在じゃない。己は誰かのために使わなきゃいけなくて、〝優しい人間〟なんじゃなくて、〝優しく在ろうとする人間〟だ。
 本質的に考えれば、彼女の言葉は的外れだ。
 やはり俺は〝優しくて良い奴〟ではなく、優しく見えるだけの。でも――

 ――嬉しかったんだ。

 その言葉に俺は――

 ――救われたようだった。

 ただ役目を果たすだけの俺を認めてくれる〝誰か〟がいる事実が、それだけで嬉しかった。
 俺は残っているモノを果たすだけの人間。だから、その残っているモノが間違いではないと思わせてくれて、本当に嬉しい。思わず、笑みが零れるほどに……
 やっぱり俺は……コイツの隣に居たい。
 この願いも、無意味なモノなのかもしれない。根本からただの勘違いで、錯覚した感動にあてられているだけなのかもしれない。けれど――

 ――それでもいいと思えたんだ。
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