188 / 244
レヴェント編・真紅の血鬼《クリムゾン・ブラッド》
8.後悔の所在
しおりを挟む
実技の後、魔道学の授業を受けた。
相変わらず宮登達、異世界人のヤバさに驚愕するばかりで、頭が痛い。同時に自身の魔術面――いや、魔法面での弱さに打ちひしがれる。
前回、シドとの戦いではそれなりに善戦できたが、あれはシドが魔法を使えなかったから、戦えただけだ。あのレベルの強さで魔法を使える相手だったら、勝てる自信がない。俺の魔術は搦め手用であって、真正面から戦うにはあまりにも心許ない。
紅月の力を使用出来れば、魔法相手でも何とかなるだろうが、毎度自傷で動けなくなるのは困る。
もうそろそろ、こっちでも方法考えとかないとな……。
常々、異世界に転移させられた現状に気分が悪くなる。元の世界であれば、その程度どうとでもなったのだが、こっちに来た時は無雪以外は持ってない状態で飛ばされたせいで、ほぼ手ぶら。
「はぁ~……」
もう一ヶ月は経過したのにも関わらず、未だに転移させられた現実にため息が漏れる。
「どうした? また女か?」
「お前はさ、一発くらい殴ってもいいよな?」
後ろの席からそう言ってくるアルに向って、イラッとした表情でそう言った。
「仕方ないだろ? 今や、お前はホラも含めて色々と噂になってるんだ」
「…………」
「ルーカやフィニスさん以前からお前は魔力無しで目立ってたからな。二人やシド、ゴチャゴチャにトンデモ情報が流れれば、仕方ない」
「全て不本意なんだけど……?」
「本意であろうと不本意であろうと、事実は事実だ。恨むなら過去の自分を恨むんだ」
アルの言葉を聞いて俺は両手を組んで唸る。
んー、いやね。そうですよ、全部アルさんの言う通りでございますとも。いくら不本意でも、結果的にその選択をしたのは〝俺〟だ。それは否定しようもない事実。全部ワタクシが悪いですよ。
不幸を言い訳にしているが、結局は全て自分が悪い。
「酷な道程だ……はぁ、俺はめんどくさいことは嫌いなんだが……」
「後悔してるのか?」
「ん? いいや、それはしてないよ」
「っ――、やけにあっさり言い切るな」
「まあな……――アル。俺はさ、選択に後悔はつきものだって思ってる。どちらの選択を取っても、得る筈だった結果を失ってるわけだしな」
一人己の〝 の側〟を晒すように語る。
「もしかしたら、そっちの選択肢を選んでいれば、今より幸福だったかもしれない。あの時ああしていれば、不幸になっていたかもしれない。後悔の全くない人生はない……でもさ、後悔はあっても、自分が決めた選択肢なら、例え果てで後悔しても――それでいいって思えるんだよ」
「――――」
「後悔しても後悔しない、ってのはおかしい言い方かもしれないけど、実際俺はそう思ってる。〝己の信念を曲げる後悔より、結果の果てに得る後悔〟。俺はそう在りたいと思ったんだ……」
「フン、私との〝約束〟にも、後悔はないと?」
隣から話を聞いていたアリシアがそう言った。
「ああ、もちろん」
俺は恥じらうことなく、キッパリとそう言い切った。
「っ――、お前は調子が狂う奴だな……本当に」
動揺し、頬を掻いて呟く。その頬は優しいピンク色に染まっており、そんな照れた姿も可愛いと反射的に思ってしまった。
彼女の方を向いて言った。
「一様言っておくけど……今のところ、俺は得られなかった幸福より、得ている幸福の方が多いと思ってる。俺はお前と出会ったことを――お前の隣にいることを、〝信念〟にしても〝結果〟にしても……――後悔はしていない」
真っ直ぐと彼女を見る。
これは嘘偽りない本音だ。彼女との出会いで、もたらされた幸福も不幸も……何一つだって後悔に値しない。
「何度も……死にかけているのに、か?」
「それは全部俺の選択だ。お前に責任はない」
「――――」
アリシアは、言葉に出来ない感情が渦巻いているのか、何やら言葉を発そうとしつつも、寸でで言葉止める。複雑な心境の表情がこちらへ向く。
そして、そっと口を開いた。
「お前は以前……私が言った〝優しくて良い奴〟という言葉を否定した。でも、やっぱりお前は
――〝優しくて良い奴〟だよ」
優しい声で彼女は言った。
「そう、かな……」
「ああ、私が保証する」
俺はアリシアの言葉に、以前言ったような言葉を言うことはなかった。
天無という人間は幸福になって良い存在じゃない。己は誰かのために使わなきゃいけなくて、〝優しい人間〟なんじゃなくて、〝優しく在ろうとする人間〟だ。
本質的に考えれば、彼女の言葉は的外れだ。
やはり俺は〝優しくて良い奴〟ではなく、優しく見えるだけの偽善者。でも――
――嬉しかったんだ。
その言葉に俺は――
――救われたようだった。
ただ役目を果たすだけの俺を認めてくれる〝誰か〟がいる事実が、それだけで嬉しかった。
俺は残っているモノを果たすだけの人間。だから、その残っているモノが間違いではないと思わせてくれて、本当に嬉しい。思わず、笑みが零れるほどに……
やっぱり俺は……コイツの隣に居たい。
この願いも、無意味なモノなのかもしれない。根本からただの勘違いで、錯覚した感動にあてられているだけなのかもしれない。けれど――
――それでもいいと思えたんだ。
相変わらず宮登達、異世界人のヤバさに驚愕するばかりで、頭が痛い。同時に自身の魔術面――いや、魔法面での弱さに打ちひしがれる。
前回、シドとの戦いではそれなりに善戦できたが、あれはシドが魔法を使えなかったから、戦えただけだ。あのレベルの強さで魔法を使える相手だったら、勝てる自信がない。俺の魔術は搦め手用であって、真正面から戦うにはあまりにも心許ない。
紅月の力を使用出来れば、魔法相手でも何とかなるだろうが、毎度自傷で動けなくなるのは困る。
もうそろそろ、こっちでも方法考えとかないとな……。
常々、異世界に転移させられた現状に気分が悪くなる。元の世界であれば、その程度どうとでもなったのだが、こっちに来た時は無雪以外は持ってない状態で飛ばされたせいで、ほぼ手ぶら。
「はぁ~……」
もう一ヶ月は経過したのにも関わらず、未だに転移させられた現実にため息が漏れる。
「どうした? また女か?」
「お前はさ、一発くらい殴ってもいいよな?」
後ろの席からそう言ってくるアルに向って、イラッとした表情でそう言った。
「仕方ないだろ? 今や、お前はホラも含めて色々と噂になってるんだ」
「…………」
「ルーカやフィニスさん以前からお前は魔力無しで目立ってたからな。二人やシド、ゴチャゴチャにトンデモ情報が流れれば、仕方ない」
「全て不本意なんだけど……?」
「本意であろうと不本意であろうと、事実は事実だ。恨むなら過去の自分を恨むんだ」
アルの言葉を聞いて俺は両手を組んで唸る。
んー、いやね。そうですよ、全部アルさんの言う通りでございますとも。いくら不本意でも、結果的にその選択をしたのは〝俺〟だ。それは否定しようもない事実。全部ワタクシが悪いですよ。
不幸を言い訳にしているが、結局は全て自分が悪い。
「酷な道程だ……はぁ、俺はめんどくさいことは嫌いなんだが……」
「後悔してるのか?」
「ん? いいや、それはしてないよ」
「っ――、やけにあっさり言い切るな」
「まあな……――アル。俺はさ、選択に後悔はつきものだって思ってる。どちらの選択を取っても、得る筈だった結果を失ってるわけだしな」
一人己の〝 の側〟を晒すように語る。
「もしかしたら、そっちの選択肢を選んでいれば、今より幸福だったかもしれない。あの時ああしていれば、不幸になっていたかもしれない。後悔の全くない人生はない……でもさ、後悔はあっても、自分が決めた選択肢なら、例え果てで後悔しても――それでいいって思えるんだよ」
「――――」
「後悔しても後悔しない、ってのはおかしい言い方かもしれないけど、実際俺はそう思ってる。〝己の信念を曲げる後悔より、結果の果てに得る後悔〟。俺はそう在りたいと思ったんだ……」
「フン、私との〝約束〟にも、後悔はないと?」
隣から話を聞いていたアリシアがそう言った。
「ああ、もちろん」
俺は恥じらうことなく、キッパリとそう言い切った。
「っ――、お前は調子が狂う奴だな……本当に」
動揺し、頬を掻いて呟く。その頬は優しいピンク色に染まっており、そんな照れた姿も可愛いと反射的に思ってしまった。
彼女の方を向いて言った。
「一様言っておくけど……今のところ、俺は得られなかった幸福より、得ている幸福の方が多いと思ってる。俺はお前と出会ったことを――お前の隣にいることを、〝信念〟にしても〝結果〟にしても……――後悔はしていない」
真っ直ぐと彼女を見る。
これは嘘偽りない本音だ。彼女との出会いで、もたらされた幸福も不幸も……何一つだって後悔に値しない。
「何度も……死にかけているのに、か?」
「それは全部俺の選択だ。お前に責任はない」
「――――」
アリシアは、言葉に出来ない感情が渦巻いているのか、何やら言葉を発そうとしつつも、寸でで言葉止める。複雑な心境の表情がこちらへ向く。
そして、そっと口を開いた。
「お前は以前……私が言った〝優しくて良い奴〟という言葉を否定した。でも、やっぱりお前は
――〝優しくて良い奴〟だよ」
優しい声で彼女は言った。
「そう、かな……」
「ああ、私が保証する」
俺はアリシアの言葉に、以前言ったような言葉を言うことはなかった。
天無という人間は幸福になって良い存在じゃない。己は誰かのために使わなきゃいけなくて、〝優しい人間〟なんじゃなくて、〝優しく在ろうとする人間〟だ。
本質的に考えれば、彼女の言葉は的外れだ。
やはり俺は〝優しくて良い奴〟ではなく、優しく見えるだけの偽善者。でも――
――嬉しかったんだ。
その言葉に俺は――
――救われたようだった。
ただ役目を果たすだけの俺を認めてくれる〝誰か〟がいる事実が、それだけで嬉しかった。
俺は残っているモノを果たすだけの人間。だから、その残っているモノが間違いではないと思わせてくれて、本当に嬉しい。思わず、笑みが零れるほどに……
やっぱり俺は……コイツの隣に居たい。
この願いも、無意味なモノなのかもしれない。根本からただの勘違いで、錯覚した感動にあてられているだけなのかもしれない。けれど――
――それでもいいと思えたんだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
デブの俺、旅編
ゆぃ♫
ファンタジー
『デブ俺、転生』の続編になります。
読んでいただいた方ありがとうございます。
続編になっておりやますが、こちらから読んでいただいても問題なく読んでいただけるかと思います。
料理をしながら旅をするお話です。
拙い文章ですがよろしくお願いします。
テーラーボーイ 神様からもらった裁縫ギフト
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はアレク
両親は村を守る為に死んでしまった
一人になった僕は幼馴染のシーナの家に引き取られて今に至る
シーナの両親はとてもいい人で強かったんだ。僕の両親と一緒に村を守ってくれたらしい
すくすくと育った僕とシーナは成人、15歳になり、神様からギフトをもらうこととなった。
神様、フェイブルファイア様は僕の両親のした事に感謝していて、僕にだけ特別なギフトを用意してくれたんだってさ。
そのギフトが裁縫ギフト、色々な職業の良い所を服や装飾品につけられるんだってさ。何だか楽しそう。
伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました
竹桜
ファンタジー
自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。
転生後の生活は順調そのものだった。
だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。
その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。
これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。
婚約者の命令により魔法で醜くなっていた私は、婚約破棄を言い渡されたので魔法を解きました
天宮有
恋愛
「貴様のような醜い者とは婚約を破棄する!」
婚約者バハムスにそんなことを言われて、侯爵令嬢の私ルーミエは唖然としていた。
婚約が決まった際に、バハムスは「お前の見た目は弱々しい。なんとかしろ」と私に言っていた。
私は独自に作成した魔法により太ることで解決したのに、その後バハムスは婚約破棄を言い渡してくる。
もう太る魔法を使い続ける必要はないと考えた私は――魔法を解くことにしていた。
異世界とか魔法とか魔物とかいわれてもこまる
れのひと
ファンタジー
気がついたら知らない世界にいた菜々美が、自由気ままに歩き回りながら自分の家に帰る方法を探す物語。
魔法とかいわれてもよくわからない、ちょっと便利なもの?魔物とか言われてもどうみてもただの大きな生き物だよね?みたいなのりです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる