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レヴェント編

168.規格外

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 「ねえ、ミヤト。アイツなんか性格違くない?」
 ピンク髪の少女が俺のあまりの変わりように戸惑いながら問い掛けた。
 「えーと……昔からああいうヤツではあった」 
 「「「「「「「「え」」」」」」」」
 その場にいる九人、気絶している男を除いて間の抜けた声を出す。
 あの~、本人がいる前でその反応は止めて頂きたいのですが……。
 俺の願いも虚しく、彼らのドン引きの声は続く。
 「そもそも、なんかおかしくない! なんかアイツ普通に強いんだけど!?」
 「言っただろ? 敬也は弱くはないって」
 「弱くなくても、強いじゃない! うっわ、なんか無茶苦茶騙された気分なんだけど!」
 「同意。普通に弱いと思ってた」
 宮登の連れは悉く俺を馬鹿にしてくる。
 「まあ、アイツは見てくれはすげぇ弱そうだし、仕方ねぇよ。俺もそう思って喧嘩売ったら、負けたし……」
 「「「「「「「「え」」」」」」」」
 再び間の抜けた声が響く。
 ん~、あれ? なんか自分から自白し始めたんですけど、あの人。
 急に自身の敗北を吐露するルーカ君に驚愕した。
 「ああ、なるほどな。ここ最近、お前が妙に落ち込んでたのはそういうことか……そういえば、言ってたな。多分俺のせいだって」
 呆れたような視線をこちらに向けてくるアル。
 いや、俺は悪くないからね?
 「あの~、カミヅカさんは勇者の恩恵を受けていないのではなかったのですか? 魔力もないという話でしたし」
 「多分な。敬也はこっちに来てからも特に変わったところは見てない。他のクラスメイト達は何かしら変化を感じるんだけど、アイツだけは何も感じない」
 「では一体、なぜシド相手にあそこまで善戦できるんですか?」
 「……わからない」
 フィニスの質問に答えを持ち合わせていない宮登はそう言った。
 「アリシアさんは元淵所属で、カミヅカさんは何なのかわからない……もう頭がこんがらがってきてましたわ」
 頭痛を押さえるように頭に手をやるフィニス。
 「――でも、そうでも……ケイヤさんならあの人に、シドに勝てますよ。きっと」
 「オリビアさん?」
 期待の眼差しをこちらに向けてくるオリビア。
 こうもよく分からない要素だらけの俺を見て、尚、信用しようとするオリビアの姿を見てフィニスに続き俺も頭を押さえた。
 あー、そういうの嫌いなんだけどな……。
 期待しないでほしい。俺は君の期待に応えられるような人間じゃない。
 別に何かすごい人間でも、特別な人間というわけでもない。俺は本当にただの一般人、努力をしているだけの一般人なんだ。
 ……まあ、でも――一度した約束は果たさないとな。
 依頼はもう受理されている。俺はオリビアを守る。
 レナとアンドリュオからの依頼、受理した以上、俺は最善を尽くす。
 地面に転がる火だるまに目を向ける。
 火だるまは少し暴れた後、停止した。
 死んだ、か……?
 そんな風に思った瞬間だ。
 火だるまが――そっと立ち上がる。
 「?」
 異変を感じる――というか、だいぶ前から思っていたことなのだが……。
 火だるまは刀を振って火を斬り始める。
 火を、斬る。火を……斬る?
 首を傾げ戸惑う。
 ……やべぇ、意味わからん。
 あまりの常識外の行動に思考が霧散しそうになる。
 それもそうだろう。〝火を斬る〟、これ自体は不可能でもなんでもない。達人ともなれば、火くらい斬るのは容易いだろう。
 でも、あれは次元が違う――
 ただ火を斬っているわけじゃない。火そのもの、
 そんなことできるのか?
 その疑問に反して目の前では火が切り刻まれ、完全に鎮火する。
 「クカカカ。今のは些か、慌てたぞ」
 「本当か? ってかさ、なんでお前、全然ダメージ受けてないの?」
 おかしくないですか? 火を斬るもそうだけど、二発もクリーンヒットした攻撃があるのに、アイツ全然聞いてないですよね。ダメージ、残ってないですよね?
 悠然と立って見せるシドの姿を見て再度理解する。
 コイツは本当に――なのだと。
 こちらの攻撃は会心で入ってもダメージにならない。
 第一、鼓を食らった時点で即座に動けたのがおかしい。鼓は打撃を体の芯に残して、相手の動きに淀みを生む技。食らった直後に普通に動ける事実が狂ってる。
 この技、魔獣にも効いた筈なんだけどな~……。
 呆れ混じりの視線をシドに向けた。
 「ハハ、俺の攻撃は効かないと?」
 「いや、中々効いてるぞ?」
 「なら死ねよ」
 「それは驕りが過ぎる」
 「驕らせてくれよ。俺TUEEEで終わらせてくれよ。なんでそんなに固いんだよ、今はお前TUEEE状態だよ……って、なんだよそれ」
 呆れた声でそう言った。
 「にしても何故俺が転がっている時に攻撃してこなかった? 絶好のチャンスだった筈だ」
 「近づいたら俺が死んでただろ」
 当たり前のように俺は言った。
 コイツが起き上がった時は流石に少し動揺したが、そもそもコイツがその程度で死ぬとは思ってなかったので、油断して近づいたら首が吹っ飛んでいただろう。
 最初からコイツが怪物であると理解している。
 油断はしない。常に全神経を尖らせ、コイツを観察している。
 「ほう。そこまで正確に先が見えていたか」
 「雑魚は雑魚なり考えてんだよ」
 「己が雑魚か。クカカカ、ならばそこに転がる石ころ共は何なんだろうな?」
 「ん? ミジンコじゃないか?」
 寸分の動揺もなくそう言い切る俺を見てズッコケる後ろの皆様方。
 背後からアイツ、私達のことそんな風に思ってたの!、と怒っている声が聞こえたが、無視。
 というか、こっちの世界でミジンコっているの? ゴリラもそうだが、ちょくちょく元世界の生物の名前が知られているのは何でだ?
 ってか、ミジンコを観察できる技術力があるのか、この世界。
 ま、確かにミジンコはギリギリ目視できるサイズではあるが……。
 そんな風に下らない思考を回していると、シドがおもむろに刀を鞘に納めた。そして、ゴキゴキと腕を鳴らして拳を握った。
 「さて。無駄話はこれくらいに、お返しさせてもらうか」
 「それもそうだ――」
 次の瞬間、暴威で強化された俺の五感の感知センサーを越えて突如として目の前にシドが現れる。
 嘘、だろ?
 ギュッと握り込まれる拳を見て瞬間的に両手を防御に回した。
 バキッバキッバキッと砕かれる二本のつるぎ、奴の拳は剣を叩き砕いて俺の腹に深々と突き刺さり、俺は後方へ吹き飛ばされた。
 折れた剣を地面に立て、何とか減速させ静止する。
 俺はオリビア達のところまで吹き飛ばされた。
 「だ、大丈夫ですかっ! ケイヤさん!」
 「ギリ……」
 何とか立ち上がりながら折れた剣をその場に落とす。
 異空間収納から槍を二本取り出し、地面に突き立てる。他にもロングソードを一本取り出し、右手に握る。
 「クカカカ。己、自分で攻撃が効かないと嘆いているわりに、こっちの攻撃はしっかりと効いてねぇじゃねか」
 「効いたら死んでる」
 プッと口の中の血を吐き出し、威勢を吐いた。
 「怪物め。こっちの攻撃を受ける気は毛頭ないと」
 「当たり前だ。こちとら、真面目にただの人間なんでね。お前のような奴の攻撃喰らった一発で死ぬわ」
 「知っているか? ただの人間は、俺を殺す可能性を持たないものだぞ?」
 再び深い藍色の刀身をした刀を取り出した。
 「お前、本当に自分中心に世界が回ってると思ってるみたいだな。フッ、その傲慢――俺が叩き潰してやるよ」
 「やってみろ怪物……クカカ、これほど心が躍るのは一体いつ振りだ? 今宵は本当に良い日だ」
 狂気的な笑みが映るシド。
 その姿は月光を浴び、一層その異質さを露出させる。
 「あっそ。俺は最悪の一日になりそうだ。主にお前のせいで」
 剣を振って構え直す。
 肋骨は大丈夫、内蔵も多分大丈夫。多少筋肉が痛いが、この程度は問題なし……よし、まだいけるな。
 暴威の熱を繰り下げる。血流を抑え、身体強化の率をどんどんと落としていく。
 さて――新武装ニューウェポンの出番だ。

 「ふぅ――、さ、ギアを上げてくぞ」

 俺は感情の薄くなった声でそう呟いた。
 笑みは消え、冷静に冷徹に思考を回す。表情は鉄仮面を被ったかのように無表情になる。
 余分な思考は廃棄し、戦うことだけに集中した。
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