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レヴェント編

134.ソラには記憶

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 一様学園に歩き出した俺達三人だが、見た目平和詐欺が発生していた。
 なぜかって? そりゃもう、見たまんまだよ。
 右腕にはアリシアが、左腕にはオリビアが体を寄せて掴んでいるという状況である。傍から見れば、両手に花というやつだ。
 一つ言いたい。いま、羨ましいと思った奴、殴ってやるからこっち来い。
 言っておくけど、全然嬉しくないからなっ! この二人に掴まれたら両手千切れるわっ!
 この二人、他の学園生に比べて魔力が高いらしい。ステータスにおける魔力値の高さは筋力にも多少反映する。この世界の人間が軒並み高い身体能力を持つのは、皆が体内に魔力を宿しているからである。
 基本、魔術師の家系でもない限り、生まれながらにして現象や事象を引き起こせる魔力を持つ者はいない。
 それは星源オド、この世界で魔素と呼ばれてる魔法の動力。この世界は他世界に比べてオドの濃度が濃く、魔法なんていう大量に魔力を使用する術式を使用できている。
 俺はオドの吸収効率が悪すぎて、折角オドに満ちた世界なのに魔術を満足に使えない。
 性能がポンコツな回路による生源マナの生成量じゃ、魔術なんて真面に使える筈がない。とことん魔術師に向いてない体だよ。
 と、愚痴はこれくらいにして彼女たちの話に戻る。
 いま説明した通り、オドの満ちた世界では生まれる生命の悉くが、普通の世界に比べて身体能力が高い傾向にある。
 アリシアに関しては、まあ、実技授業やギルド、遺跡で散々見た圧倒的膂力があるのは知っている。だが、予想外だったのは左腕を掴んでいる少女だ。
 オリビア、華奢な見た目に反して万力のような力を持っている。
 よく考えれば彼女も実技授業で上級組に入る実力者である、近接戦闘の能力も高いようだ。
 なら、あの時、戦えばよかったじゃん!
 ふと、彼女に初めて会った時を思い出し愚痴を叫ぶ。
 確かにあの時、オリビアは剣を持っていなかった。だが彼女の基礎性能スペックなら、あの悪漢たちを返り討ちにすることぐらいできただろう。
 つまり! 俺の両腕は、骨がへし折られるなほどの力で握られているのだ! 痛ぇッ!
 正直もう限界だ。
 腕もそうだが、俺を挟んで喧嘩するアリシアとオリビアの威圧で胃がキリキリしてきた。
 「あの~、二人とも? その手を離していただけると、とーっても平和的になると思いませんか?」
 「思わないな」
 「思いませんね」
 びっくりするほど息の合った二人に、呆れた表情で俺は言う。
 「君らホントは仲良いでしょ?」
 「どこが」「です?」
 「うぐッ――、そういうところです」
 両腕の肉がグチュと潰れるのを感じる。
 マジで痛いし、マジで姉妹みたいな同調シンクロだ。
 感嘆した表情で彼女達を見る。痛い目に遭っていながら、俺は未だに危険地帯に足を踏み入れるのだった。
 にしても、周囲の目が痛いね。ものすごく。
 やはり傍から見れば、両手に花というやつなのだろう。男子生徒からは恨みがましい表情を向けられ、女子生徒からはコソコソと何かを言われている。
 うッ。目立たないようにしているのに、なぜ、だ……。
 現状の妙に目立ってしまっている自分に絶望する。
 まあ、魔力無しの時点で悪目立ちはしてたけどね。それで今は、魔力無しの役立たず+女垂らしという不名誉なあだ名が追加されたわけだ……え、酷くね?
 自身の立場がどんどんと地に落ちていく感覚に泣きそうになった。
 そんな中、ふと、俺はある人物を思い出しオリビアに視線を向ける。
 「そう言えばオリビア、エヴァはどうした?」
 「いまですか……」
 「いや、なんかすっかり記憶から消えてたよ、あの赤頭」
 「…………」
 まじですか的な表情をこちらへ向けてくるオリビアに俺は、マジですよという表情を浮かべ返した。
 すると呆れた様子でエヴァについて話し始めた。
 「エヴァは寝坊です。何度起こしても反応がなかったので置いて行きました」
 「オリビア、お前って結構薄情なんだな」
 俺がそういうとオリビアが、顔をブンブンと横に振って否定する。
 「ち、違いますよ! エヴァが私を置いて先に行って、と言ったから置いて行っただけですよ!」
 どんなところでその発言だよ!?
 思わず内心でツッコミが飛ぶ。
 絶対それ、強敵か、魔王とかからオリビアを逃がす時に言うやつじゃん、そんな自分の寝坊なんかに使うなよ!
 呆れた双眸を女子寮のある方へ向ける。
 「痛でッ」
 なぜか腕を掴む二人の力が強くなった。骨がメシメシと軋んでいる。
 痛いです……。
 「はぁ。僕、何か悪いことしたかな?」
 「したな」「しました」
 「お前らは打ち合わせでもしたのか……」
 目の前で火花を散らせる二人の姿に呆れた表情を零した。
 「はぁ~……。俺を挟んで喧嘩するなよ」
 ボソリとそう呟く。

 ふと――風が吹いた。

 記憶の影を見る。
 彼女達の姿が記憶の姿と重なる。二人の姿に俺は、〝何か〟の面影を見ていると気づく。
 これは……元の俺の記憶なのだろうか?……――いや、少し違う気がする。
 なぜか、この記憶の在処が完全には己ではないことがわかる。であればこれは一体誰のモノなのか……そんなこと、天無に分かるわけがない。
 でも――この記憶は温かかった。
 決して気分の悪いモノではない。それどころか愛おしい記憶、永久とわにだって続いてほしいと願う。そんな記憶だ。
 きっとこの記憶の持ち主も、同じ気持ちだったのだろう。

 風が吹く――

 白昼夢は消え、現実は回帰する。
 「――――」
 思わず立ち止まる。
  こころが感傷的に思い立つ。
 俺はきっと、もう――幻のように成れない、と。
 知っていたし、知っている。そんなことはずっと昔に理解している。けど、白紙になってから思い返すと……やっぱり辛い。本当は嫌だ、でも、そう在るしかない。
 「ケイヤ?」「ケイヤさん?」
 「ん? どうした?」
 我に返ったようにあっけらかんとした声と表情でそう言った。
 「それはこっちのセリフだ。なんで急に立ち止まった。それにお前、その表情――」
 「何でもないよ」
 「何でもないような人の表情に見えないんですけど」
 「気のせいだ……ああ、気のせいだ」
 「「…………」」
 帰ってくる声は無い。返せる言葉は無い。

 それは俺が――あんまりも悲しげに、諦め切った表情をしているからだ。

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