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レヴェント編

131.■を殺せる者

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 早朝、鳥のチュンチュンという可愛らしい声が聞こえる。
 服を着替え鞄の中に制服と教科書を詰め、少し早い時間に寮を出た。
 寮を出ると、道から逸れた獣道を歩いて広場に向った。
 到着した広場はひどく廃れている様子だった。中央の噴水は水こそ流れているが、苔や蔦が無造作に生え、噴水自体はボロボロ。広場には手入れされていない木々や花々、所々砕けて苔の生えている石畳。
 見た目の通りここは長年整備されていない広場である。
 ここはレナから教えてもらった場所なのだが、曰く、今の校舎ができる前の旧校舎の時に作ったものらしいが、旧校舎を壊す時、この広場も壊す予定だったのに依頼を忘れて壊してもらえなかったらしい。
 絶妙にめんどくさがりなレナは、もう一度依頼するのが面倒という理由でこの広場を放置し続けた結果、今の有様とのこと。
 今では一切人の寄りつかない草臥れた広場である。
 「まあ、誰も使わないなら使わしてもらおうかな」
 俺としては人目につかないところで体を動かせればそれでいいので、ありがたく使わさしてもらう。
 噴水の縁に荷物を置き、準備運動を開始する。
 しっかり全身の筋を伸ばし、怪我の防止をする。流石に二日連続で体をぶっ壊すわけにはいかないので、しっかりと準備運動に取り組む。
 体温が上昇し、体が火照って来たところで準備運動終了。
 「さて、運動運動――ん?」
 トントンと軽く跳躍し運動開始と思ったところで、茂みの方がガサガサと音を立てた。どうやら何者かが近づいてきたようだ。
 って、あれ? どうしてここに……。
 疑問を浮かべた顔で襲来者に目を向ける。
 「ん? ケイヤか?」
 「やっぱりアリシアか。どうした?」
 「いや、こっちのセリフなのだが……」
 茂みの奥からやって来たのはアリシアであった。
 ん~、普通に人、来たな。
 誰も此処へは来ないと高を括っていたが、普通に彼女が現れ当てが外れた。だが、彼女の様子を見て同類なのだと悟る。
 「アリシアもここで運動……というか、鍛錬を?」
 「ああ、この学園に来てからは毎朝この場所で軽く体を動かしている。というか、お前もそうなのか?」
 「一様な。ま、といっても今日が初日なんだけどな、寮生活自体が二日前からだ。そもそも、この場所を知ったのが昨日だし」
 「そうか、確か異世界人は転移後はしばらくの間、王城で匿われていたらしいしな」
 納得するようにアリシアは言った。
 「ああ、その時は王城の客間を使わさせてもらってた。因みにアリシアと初めて会ったのはあの時は召喚されて二日目だったな」
 彼女はそうかと呟くと、噴水の元に荷物を下ろし軽く準備運動を始めた。
 「アリシア、丁度いいし一緒に朝練しないか? まあ、お前とはどうせ実技の授業で一緒だけどさ、普通にどんなトレーニングをする気になる。それに俺一人じゃ限界もあるだろうし、アドバイスがあればしてほしい」
 「そうだな。お前には淵の連中に手が届くことの証明、そして私の隣に立つ資格を啓示するという約束がある。まあ、私も手助けくらいしてやるさ」
 「フッ、まったく、めんどくさい約束をしたもんだよ。でも……サンキュ、アリシア」
 「諦めてもいいんだぞ?」
 「一度言ったことは必ず最後まで果たすのが俺の信条だ」
 「フン。……果たせるといいな」
 鼻で笑われつつも、彼女は嬉しそうに笑みを浮かべていた。
 修正者絡みじゃないけど、まあ……たまには こころの思った通りに従うくらいは許してくれよな、女神様。
 冗談めかしたニュアンスで天上から見ているであろう女神に向けて、心の中で呟いた。
 どこからか、アンタはいつもそうでしょ! と言われている気がしたが、きっと気のせいだろうと気にしないことにした。
 「因みに今の俺はお前たち、淵との差ってどれくらい?」
 「文字通り天と地だ」
 「ひでぇ評価」
 「仕方ないだろ、お前は魔力が無いんだ、限度はどうしても見えてくる」
 「いや、何度も言うようだけど、魔力が無いわけじゃないからな? ただ少ないだけだ」
 「魔法が出せなければ無いことと変わりないだろ」
 「うっ――!」
 痛い所を突かれ思わず押し黙る。
 「まあ、天と地といっても単純な戦闘能力では、という話だ。お前の場合、単純な戦闘能力では測れないポイントが顕著に高い。それに私の感覚だが、お前は振れ幅が大きい印象を受ける。お前、局所的には――私に勝てるだろ」
 「……まー、……そりゃ、ね」
 「ハッキリ言え」
 「はい。まあ、真面目な話……やろうと思えばと思うよ。あくまで現状知ってる力に限れば、俺の全部を使えばほぼ百パー殺せるよ」
 「だろうな……」
 その言葉に納得したような表情を見せるアリシア。
 「ま、あくまで局所的だし、それをする意味がない。それにあくまで俺の全部を使えばで、その全部を使ったらほぼ間違いなく俺は。相打ち覚悟で一度お前を殺せるかどうかの賭けギャンブル……さっきも言ったけど、そんな賭けをする意味も理由もない以上はしない」
 「本当か?」
 「嘘だと思うなら信じなくてもいい。俺はお前に勝てない、それがお前の事実になるさ」
 「――そういう話じゃない」
 「ん?」
 疑惑を含んだ目線と共に発せられる言葉に、思わず首を傾げた。
 「お前本当は、全部を使わなくても私に勝てるんじゃないか?」
 「…………」
 無言。アリシアから向けられていた目線は鋭く訝しむような目に変化し、ジッとこちらに向けられる。
 俺は彼女に背を向け回答を述べる。
 「……さあな。俺はお前の実力の全てを知らない、だからどう予想していいかわからん。以上」
 「…………」
 「言っておくけど、これ以上の回答は持ち合わせてないぞ?」
 首をアリシアの方へ向けそう言った。
 「……そう、か」
 彼女は少し悲しそうに俺の背中を見て、そう一言を零した。
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