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レヴェント編

118.それを偽善と言うのだろうか?

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 二層三層と探索を進めつつ、道中の魔物と戦闘を行うも大した障害もなく五層へ到着した。
 いやぁ~、あの二人いると負ける気がしねぇ。
 しみじみそう思う。
 圧倒的な実力を持つ二人は道中の魔物を容易く葬る。討伐速度も呆れるほど早い。
 回数を重ねれば同じ討伐速度になるのだが、遺跡内はまだまだ俺にとって未知の魔物は多い、やはり自の能力差はこの程度では埋まらないらしい。
 「さて、今回守護者に用はない。虱潰しにオークを探そう」
 ドリアの提案に賛成の意を見せ、俺達は五層でオークを探し始めた。
 てっきり簡単に見つかると思ったのだが、予想外にオークの群れは見つからず十数分の時間が経過した。
 「全然見つからないな。魔物ってのはこんなモノなのか?」
 「いや、
 「そうなのか?」
 顎に手を当て考え込むようにそう言うアリシアに問い返す。すると、頷き同意を見せる。
 「そもそも、遺跡の魔物とここまで出会わないということがおかしい」
 シュナの言葉を聞いて確かに、とこの数十分を思い返す。
 五層に上がってから俺達は魔物に一切遭遇していない。こんなものかと俺は流したが、どうやらこれは異常事態のようだ。
 ……嫌な予感がする。
 不思議な悪寒がして、一時撤退を視野に入れる。その時――
 「ん? あれ……煙、か?」
 現在地から少し離れた場所に焚火と思わしき煙が見えた。その瞬間、俺はドリアたちに冷徹な視線を向ける。
 やっぱりか。
 そう心の中で声を漏らした。
 焚火の存在に気づいた俺を見て、しまったという表情を浮かべるドリアたち、そんな反応を見てアリシアとシュナも完全に彼らを見切る。
 エア・ボックスからロングソードの柄を握――

 ―――――ゾクッ―――――

 急激に悪寒が強くなる。
 全身に鳥肌が走り思考より先、反射的に声が出た。
 「お前ら、避けろッ!」
 俺の声で危機を瞬時に理解したアリシアとシュナは即座に剣を抜き、周囲に警戒を向ける。だが、ドリアたちは先のやり取りのせいか、反応に一瞬遅れていた。
 ズドンッ、と地面を叩き潰すような音が鳴り響く。
 「か、カルボぉぉぉぉぉおおッ!!」
 ドリアが声を上げる。
 彼らに目を向けると、三人の内一人が背後から放たれた攻撃により右足をグシャリと潰されていた。
 ドリアたちから視線を外し、攻撃を放った生物に視線を変える。
 「アリシア、あれがオーク?」
 眼前には、優に五メートルはある巨大な体躯をした二足歩行の獣が立っていた。
 イノシシを巨大化させて二足歩行にしたような見た目をしている。口元には大きな牙、その体は筋肉の塊と評せるものだった。明らかにヤバいオーラが出ている。
 「ケイヤ、最悪だ」
 「やっぱりあれオークじゃない?」
 「いや、オークで間違いない」
 「あ、そうなの」
 俺の疑問にシュナが答える。その解答に俺はガックリする。
 アレは明らかに俺の倒せる分類ではない。それを二十体は流石に無理があるだろう。きっと俺も、ドリアの仲間どうように手足、あるいは胴体が潰される。
 即死は避けられるかな……?
 そんな風に思考を回していると、アリシアが言った。
 「なるほど。どうりで手練れの冒険者が返って来ないわけだ。――変異個体アンレギュラか」
 「変異個体?」
 「ああ」
 彼女の言葉を聞いて脳内のデータを起こす。
 確か変異個体とは、低確率で出現する特殊な魔物。
 魔素を過剰吸収したことにより、肉体が大きく変化し、通常個体レギュラより遥かに強力な個体になるという。遺跡内は魔素濃度が高いため、遺跡外に比べて変異個体の出現率が高いと聞いた。
 まあ、遺跡内の魔物はすぐリスポーンするゲームみたいなもの、外の魔物と違って生殖で増えてるわけじゃない。確率は遺跡内のが高いわな。
 脳から情報を取り出していると、変異オークの背後からぞろぞろと通常オークが現れる。数は優に五十はいた。
 そうか。アイツが司令塔になって、他の個体を従えてるのか。
 ここまで他の魔物を見なかったのも、全部あいつらが殺したのだろう。
 「く、クソ。へ、変異個体がいるなんて聞いてないぞ!」
 ドリアの仲間も一人が悪態を吐くようにそう言った。
 「ミート、文句は後にしろッ! まずはカルボを安全な場所に」
 「お、おう」
 同様しながらもドリアの指示を聞き入れるミートは、足を失ったカルボに肩を貸し、ズケズケと逃げていく。
 俺はそんな様子を見て彼らの元へ走って行った。
 「おい、ケイヤ! そんな奴ら後にしろ!」
 「そうだ。今はそいつらに構っている時間はない」
 「…………」
 背後から聞こえる静止の声を無視して、ただ走る。
 「ヴァアァァアアアアアッ」
 オークの咆哮、それはドリアたちのすぐ傍にいた一体のオークだった。オークは咆哮と共に拳を振り上げ、ドリアたちをまとめて叩き潰すつもりのようだ。
 間に合うっ、かなッ!
 拳が振り下ろされるより速く、俺はドリアたちに体当たりして弾き飛ばす。
 「危なっ――」
 ドンッ、と鈍い音が背後で鳴り響き、押し潰された風で突風が吹いた。
 ギリっ、ギリ。
 少しでも躊躇っていたら死んでいた。
 これは……他人に配慮してる余裕はないよな。
 状況のヤバさに苦笑してドリアたちを見る。悩んでいる暇はないため、俺はアリシアとシュナに――
 「悪い」
 そう一言送って、彼らに言った。
 「おい、お前たち」
 「な、なんだよ」
 「転移結晶を使え」
 「は?」
 転移結晶。稀代の天才魔導師こと、レナ・ケーンレスが生み出した魔道具。
 青鉐せいせきと呼ばれる名の通り青い鉱石に特殊な魔法式を刻み込むことで、一度だけだが特定の位置に転移する事の出来る魔道具である。
 小、中、大の大きさがあり、小では一斉に十人、中は三十人、大で五十人とかなりの人数が可能だが、基本は小を使うらしい。
 遺跡前の受付で購入することができ、今回は五階層ということで小を一つしか購入していない。そして、持っているのはドリア……まあ、作戦通りなのだろうがな。
 「は、じゃない。ソイツを死なせたくないんだろ? なら、転移結晶で逃げろ」
 「でも、お前らは……」
 「俺達のことはどうでもいい。どうにかしてみせる」
 「…………」
 「これに懲りたら、下劣な思考は捨てるんだな」
 「……わ、わかった」
 そう言ってドリアは懐から出した青色の転移結晶を使い、その場から消えた。
 バカしたかな? ……まあ、悪い奴でもないし、いいか。
 小さく笑みを浮かべた後、即座に戦闘態勢を取りつつ、アリシアたちの元へ向かう。
 「なんだその顔? もしかして俺も転移結晶で逃げるとでも?」
 「そうじゃない。お前がそんなお人好しだったとは思わなかった。お前は私と同じで、悪に容赦はないタイプだと思っていたんだが……」
 「同じくだ。私も、カミヅカならあの三人を見捨てると思った」
 「君ら酷くない?」
 彼女達には俺が血も涙もない鬼にでも見えているのだろうか?
 「まあ、確かに俺は悪には相応の対応をするさ……でも、どう見ても悪党に向いてない、軽く道を踏み外しただけの男達を見殺しにするほど、酷い人間でもない」
 「「…………」」
 「ま、罰はしっかり受けてもらうけどな」
 二人は俺の話を聞いて微笑を浮かべる。
 「転移結晶のことはすまん。逃げる方法が一個消えた」
 「心配するな。このオークを全て殲滅すれば何の問題もない」
 「そうだな。私とアリシアがいれば、最悪何とかなる」
 「じゃあ、俺は死体にならないように頑張りますよ」
 そう言って俺達は各々、武器を構え臨戦態勢をとった。
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