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レヴェント編

97.内なんて知れたもんじゃない

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 廊下を小走りで学園を抜けようとする。
 レナから伝えられたギルドのある場所、俺の脳内地図にピンを立てる。
 なんだろう……嫌な予感? いや、ガックリ落ちるような……
 彼女は俺がギルドへ向かう前、「ギルドには私の知り合いがいる。まあ、デジャブになるだろうけどよろしく」と、場所の説明と共になにやら意味深なことを述べてきた。
 その話を聞いてからだろうか? 何だか心と体が重く怠くなるのを感じた。
 「この倦怠感、魔力無しがバレて学園長室に呼ばれた時に似てるな」
 面倒臭いような、やる気の出ないあの感じだ。折角テンションが元通りになったのに、既に下がり気味なのは勘弁してほしい。
 「はぁ~……」
 大きなため息をして、廊下を走った。
 「そこの貴方? もう授業の始まる時間ですよ、教室にお戻りになった方が良いのでは?」
 「?」
 背後からそう引き留める声が聞こえ、足を止めて後ろ振り返った。
 「あら貴方、カミヅカ・ケイヤさんじゃないですか」
 上品さを帯びた優しい口調でそう名前を呼ばれ、彼女の名を記憶から掘り出す。
 「えーと、フィニス……エリューベンズさん、でしたっけ?」
 「あら、私の名前、憶えて下さってたんですね」
 嬉しそうに微笑みながらそう言った。
 フィニス・エリューベンズ。竜殺しの異名を持つアゼス・エリューベンズの実妹にして、一年生にして既に学園序列で九七位、百位圏内に入っている人物である。
 昨日の今日ですご……。
 オリビア達から聞いた話では、彼女は昨日上級生から決闘を申し込まれ、軽く打ち勝ってしまったらしい。そして、今朝の内には序列が九十七位に成っていた、とのことだ。
 竜殺しの妹を倒して名声を上げようとした馬鹿が打ち負かされたわけだ。悲しいね、名も知らぬ先輩よ……。
 「そういうフェニスさんこそ、僕なんかの名前よく憶えてましたね」
 「まあ、貴方は何かと会話の話題に上がりますからね」
 「お互い、嫌な方に知名度がありますもんね」
 俺は魔力無しの無能者として、彼女は竜殺しの妹として。まあ、彼女に関しては本人の意向の問題だろうけど、確かに肩書きの大きさでプレッシャーに押し負けるなんてことはよくある話だ。
 竜殺しの妹に〝紫電の女神〟、ね……まあ、美貌もそうだが、剣術もすごいしねこの人。
 「そう言う割には、私の名前がパッと出て来なかったようですが?」
 「うっ……面目ないです」
 名前が出てからは情報がボロボロと思い出されるのに、それまで一切記憶から排除していたので申し訳ない気持ちが込み上がってきた。
 正直、俺は彼女に対しての関心はない。目的の害にならないと判断して、判断の卓に乗せていない。
 強いて思うことがあれば……彼女の兄についてと、彼女の剣の純粋さ程度だ。だが、それも些細な問題、別に知らなくても問題ないので、積極的に何かすることはない。
 「ところでもうすぐで授業が始まりますよ? 廊下を歩いていてよろしいのですか?」
 「ああ、それなら大丈夫です。僕、今から特例授業免除にしてもらったので、今からギルドに向うんですよ」
 「そうなのですか? 確か異世界人の方はしばらくの間、特例授業免除はできないと聞いていたんですが。そもそも私達も授業で遺跡探索を行うまでは、念のため生徒のみでの活動は禁止という事になっています」
 「そうですね。まあ、僕の場合、いてもいなくても変わりないですし、それなら少しでも鍛えられる場に居た方がいいと、特別に許可を貰ったんですよ」
 「ああ、なるほど。そういうことですか」
 得心いったという表情をするフィニスさん。しかし、なにやら表情が硬くなる。
 「カミヅカさん、その心意気はとても素晴らしいですが、自身のお体も十分に気遣ってあげてくださいね。貴方は剣術の腕に自信があるようですが、魔法が使えないというのは相当な足枷です」
 真剣な表情で心配するように語る。
 「ギルドの依頼には魔物討伐も含まれるでしょう。魔物は確かに知能は低いですが、種によっては魔法を行使することもあります。命を最優先で考えてください」
 「……フィニスさん。あなた優しいですね」
 「そうでしょうか?」
 頬を少し赤くしてそう答える。
 「ええ、それが……の類でなけば」
 「――――」
 言葉を止め、驚愕の表情がこびり付く。
 「それは、どういう――」
 「そのまま意味ですよ、そのままの……。じゃあ、僕はこれで」
 「…………」
 複雑な気持ちを孕んだ瞳がジッとこちらを向いていたが、俺は無視して学園を出た。
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