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レヴェント編

81.全て捻じ伏せる

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 ルーカの構えは非常にコンパクト、その形は型に嵌ったものに一見感じられる。が――
 「ハァッ―――――!!!」
 「チッ――」
 踏み込みと同時、放たれたのは突き。俺は予想外の速さに舌打ちし、剣の刀身を擦らせ逸らす。
 散る火花、ルーカの攻撃は止まらない。
 逸れた一撃を即座に斬撃を放てる体勢に戻し、左肩から右腰にかけ袈裟斬りが放たれる。凄まじい速度の斬撃、先の体勢から即座にこの切り替えし、驚かされるばかりだ。
 放たれる斬撃を防ぎつつ体を左に回転させ、斬撃に合わせて威力を逃がす。空中で体を反転させて、そのまま打ち下ろすようにルーカの頭目掛けて蹴りを入れる。
 ルーカは即座に蹴りに気づき、魔剣を盾に後ろへ吹き飛ぶ。
 俺達は各々弾かれる。
 あの体勢からこの威力か……フッ、エグイな。
 なんとか着地しつつ、体に残った斬撃の衝撃に苦笑いする。
 斬撃の威力はいなした。だが、それでも尚、ルーカの一撃は骨に響いた。真面に喰らったら一撃で終わりだ、慎重に行かねばならない。
 「その身のこなし。やっぱりお前、ただの異世界人じゃないだろ」
 「そうか? まあ、俺も努力してるしな」
 「…………」
 言葉を聞き、ルーカの顔が酷く怒りに満ちたものとなる。
 ……なるほどな。だから、俺が気にくわないのか。
 何となくルーカの怒りの所在を理解する。故、やはりこの男には敬意を払う価値はあるのだろう。
 「ルーカ。最初からそのつもりだろうけど――魔法、使ってくれて構わない」
 「!」
 酷く驚いた表情を見せ、怒りを宿した顔は霧散する。しかし、すぐさま怒りの表情を取り戻す。
 「お前、俺を――」
 「全力って言ったよな?」
 「っ――!」
 「俺も、全力で相手をしてやる。そんな下らないプライドは捨てろ――俺に勝ちたいんだろ? なら、形振なりふり構っている場合か」
 諭すように俺は言った。
 「一様言っておくが、俺はこの場の結果がどうなろうと、誰かに話したりするつもりはない。生憎俺は誰かを愚弄して楽しむ趣味はないからな。ああ、お前の方は好きにしてくれ、俺に勝ってそれをネタに馬鹿にするのも構わない」
 「魔法を使った俺に勝てると?」
 怒りではなく、純粋な疑問を投げかけてくる。
 「ああ、もちろん。どんなに不利な状況でも、どんなに相手が強かろうと――」
 狂気的な笑みを見せ、グググッと突き出した拳を強く握って見せる。

 「俺はその上で――全部叩き潰してやる」

 「っ――」
 握った拳を開放させ、狂気的な笑みはより一層強くなる。ルーカは狼狽えるように半歩下がる。
 眼前の男は、正体不明の何か。人間であるのか、魔に属する者なのか、そもそも生き物であるのか――分からない。純粋な恐怖が己を襲う。
 だが、ルーカは下がった足を前に出し、覚悟を決める。
 「上等だ。やってやるよッ!」
 「ああ、来い。面白いモノを見せてやる」
 お互いに再び前に踏み出す。さっきと違うところを上げるとすれば、お互いに魔力を漲らせていることだろう。
 「さてさて、ギアを上げていこうか」
 剣を強く握ってそう呟いた。
 「強化アップ
 ルーカがそう一言呟くと同時、足元から魔法陣が形成され彼の体を通過する。瞬間、速度が上昇する。
 ヤバいッ――!
 タイミングがずれる。急加速と同時、ルーカは再び左肩から右腰に掛けての斬撃を放つ。俺は外れたタイミングを無理やり直し、左下から剣を振り上げ放たれる攻撃を撃ち落とす。
 双方、後ろに弾けるが、ダメージは俺の方が大きい。
 斬撃を防いだ右腕が痺れている。発動された身体強化、速度も威力も段違いに向上している。流石は魔法というべきなのだろうか? ほとほと呆れる。
 チッ、やってられねぇな!
 悪態を吐いて再び走り出す。
 しかし、ルーカは立ち止まって詠唱を唱えていた。
 「炎の根源。燃える水面みなも。落ちた火柱。全てを焼き尽くし、全てを灰に変える炎。我が呼びかけに答えよ、業炎グレイト・ブレイズ
 展開される赤色の魔法陣から巨大な〝炎の玉〟が発生する。
 授業で見た火の玉とは比べものにならないその魔法に驚愕するも、即座に情報を処理し対応する。
 よっ、けろッ――!!
 地面を強く蹴り、右に飛ぶ。
 「ゔ――ッ!」
 ジュッと布越しに左腕が焼ける。
 炎の玉は俺が右に飛ぶより速く放たれる。軽く触れただけで肉が焼けた。燃える左腕から火を払い、なんとか消化する。
 フレアとは、大きさサイズ威力パワー速度スピードも桁違い。真面に喰らおうものなら一瞬で骨まで燃えて消し炭になりかねないな。
 左腕の灼熱感。焼けた腕、でも――何とかまだ動きそうだ。
 目線を左腕に軽く向けた後、戦闘継続と判断する。目線を相対する男に向ける、彼の者は既に詠唱を開始している。
 長期戦はこっちが不利。一気に詰める!
 右に向いた体を方向転換シフトしてルーカの方へ走り出す。
 「爆炎の種火。焔の血潮。破裂する空。爆炎に呑まれ、砕け散れ。我が呼びかけに答えよ、爆炎弾エクスプロ―ジョン
 「チッ――」
 走り出した瞬間、詠唱は既に完結していた。
 展開される赤色の魔法陣からは先程よりは小さな炎の玉。しかし、明らかに込められた魔力量が違う。

 刹那――、その所在を解析する。

 踏み込んだ脚は地面を強く蹴り飛ばし、空中へ飛ぶ。
 全身を駆動させ、全力のジャンプ。推定、三メートルほどの高さに至る。炎の玉は真っ直ぐ飛んでいき、飛んだ俺の下で爆発を起こした。
 熱風で俺はさらに三メートル高く飛ばされる。
 ルーカは俺の姿を見失う。そして、俺は空中で体勢を整え落下と同時、ショートソードを振り下ろした。
 「!」
 放たれる殺気に気づいたか、ルーカは打ち上がった俺を発見し、魔剣の刀身でこちらの斬撃を防ぐ。
 ガキンッ、と鋼同士が強くぶつかり合う感覚が響く。弾かれ地面に着地する瞬間、地面を強く踏み込み、連続で斬撃を放つ。詠唱させる隙を与えない。
 接近戦であんなモノを放たれれば、俺は確実に死ぬ。魔法による保護が可能であろうルーカには被弾特攻は無意味、だから詠唱はさせない。このまま押し切る。
 激しい打ち合いが繰り広げられる。
 ルーカが詠唱をしようとした瞬間、詠唱に割いたリソース分の隙を俺が突き、剣術に無理やり引きづり込む。
 身体強化による身体能力スペック差は歴然だが、これくらいなら何とか技術で巻き返せる。
 接近戦の思惑に気づいたルーカは距離を取ろうと下がる。その瞬間――
 「ウガッ――!」
 「逃がすか」
 冷淡な一言と共に、逃げたルーカの頭を焼け焦げた左腕で掴み、そのまま地面に叩きつける。
 ここで――決める。
 地面から立ち上がる間もなく、即座にその首目掛けてショートソードを振り下ろす。
 その時――ルーカは叫んだ。
 「焔剣ブレイブッ―――――!!!」
 瞬間、魔剣から炎が上がり、俺は炎を阻まれ後退を余儀なくされた。
 なるほど。それが、その魔剣の能力か……。
 魔剣を地面に突き刺し、杖の様にして立ち上がるルーカ。魔剣は炎に包まれ、火焔剣と化していた。
 「魔剣・焔剣ブレイブ、か……授業、ちゃんと聞いておくんだったな」
 そんな風に思いつつ、ゆっくりと瞳を起こし解析を開始した。
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