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レヴェント編
37.見当違いも甚だしい
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「アマナイ、結局なぜ君はアンドリュオの嘘をわかっていながら了承したんだ? 私が思うに君はとても打算的な人間だ、必要なことへは最善を尽くすだろう。逆に、不必要なことは斬り捨てる人間でもある」
「…………」
「そんな君が下手なリスクを犯すとは思えない、その選択には打算が含まれていた筈だ。君はなぜそんな要求を引き受けたんだ? そして、なぜ君にとって無意味な人助けをしたんだ?」
心底理解できないという感じにこちらを見るレナ、彼女の中の神塚敬也という人間はいま述べたような機械的な人間なのだろう。
なに、間違ってはいないさ。ああ、間違ってない。天無という人間は所詮はそう言ったモノだ、周囲の事を気にかけているようで自分のことしか気にしていない。最低な人間だ。
だからこそ、今回のほぼ無意味とも言える人助けには、何の意義もないことなど明白だ。傍から見てもそうなのであれば、本当に何もない行為だったのだろう。俺にとっては……
「俺は別に誰彼構わず救えるような聖人でもないし、それを成すための力なんて持ってない。所詮は凡人、特別な人間が成すようなことは何もできない。今ここにいるのは凡人の成れの果て……ただそれだけだ」
わかっている。本当に俺という人間はそういうモノなのだと。
「俺には何も守れない。何も救えない。仮に守れても救えても、いつか必ず零れ落ちる。積み上げてきたモノを何度も壊して作り直す、それが俺の在り方――」
そうだ。何度も崩れた。助けたかった人が目の前で死んで、助けなければいけなかった人の目の前で死んで、全部壊して絶望しそうになっても、絶望できない 。
ああ、知っている。だからこそ、そんな俺だから――無意味に人を助ける。
自分の存在すら虚ろで明日には消えてしまっているかもしれない。だからほんの少し、ほんの少しだけでも、■■■■■■■■■■■。
身勝手な独り善がりにもほどがある、自分のために誰かを助けているなんてさ。
でも――今回は少しは違ったのかもしれない。
「無意味な人助けも所詮は自分のため、人との関係が自分を救ってくれるんだと信じていながら、周囲のことなど誰も心から信じていない。結局は自分のための行為、無意味に思えてもそれ以上の事実はない」
「…………そうか、君は――」
レナの言葉を遮るように俺が再び声を上げた。
「でも、アンドリュオに声をかけたのは別にそういった意図があったわけじゃない。回り回ってやってくるモノを望んでいたわけじゃない。ただ、歪な曲り方をしているガキを叩いて直してやっただけ、無意味なことだと承知しているが、 がやりたいと言った気がする」
「っ! …………」
俺の言葉にレナは驚いたような表情をした。だが、少しして優しい微笑みを見せて言った。
「それを言えるなら、君は――〝空っぽな人間〟じゃないな」
「そう、か……?」
「ああ、そうだとも」
レナは小さく笑みを零す。その瞬間だけは見た目相応の少女に見えて、不覚にも可愛いと思ってしまった。
でも、それ以上に自身の不可解な行動への疑問があった。
自分でも理解できない行動原理、心に従って何かを成すなんてできる人間じゃないと思っていた。でも、そう在れるのであれば、別にいいのではないかと思った。
それは実に人間らしい、人情とはこういうモノなのだろうか?
―――おめでたいな……本当に。思考を放棄しただけだろうに、■■について考えるのが怖くて―――
急激に思考が凍える。馬鹿な自身をたしなめるように思考に冷気を吹き込み、いつもの冷静な思考を呼び戻す。
「まあ、そういうわけだ。今度こそもういいな?」
「ああ、知りたいことは知れた。ありがとう」
そう礼を述べたのを見ると俺は再び歩きだし言った。
「…………」
「そんな君が下手なリスクを犯すとは思えない、その選択には打算が含まれていた筈だ。君はなぜそんな要求を引き受けたんだ? そして、なぜ君にとって無意味な人助けをしたんだ?」
心底理解できないという感じにこちらを見るレナ、彼女の中の神塚敬也という人間はいま述べたような機械的な人間なのだろう。
なに、間違ってはいないさ。ああ、間違ってない。天無という人間は所詮はそう言ったモノだ、周囲の事を気にかけているようで自分のことしか気にしていない。最低な人間だ。
だからこそ、今回のほぼ無意味とも言える人助けには、何の意義もないことなど明白だ。傍から見てもそうなのであれば、本当に何もない行為だったのだろう。俺にとっては……
「俺は別に誰彼構わず救えるような聖人でもないし、それを成すための力なんて持ってない。所詮は凡人、特別な人間が成すようなことは何もできない。今ここにいるのは凡人の成れの果て……ただそれだけだ」
わかっている。本当に俺という人間はそういうモノなのだと。
「俺には何も守れない。何も救えない。仮に守れても救えても、いつか必ず零れ落ちる。積み上げてきたモノを何度も壊して作り直す、それが俺の在り方――」
そうだ。何度も崩れた。助けたかった人が目の前で死んで、助けなければいけなかった人の目の前で死んで、全部壊して絶望しそうになっても、絶望できない 。
ああ、知っている。だからこそ、そんな俺だから――無意味に人を助ける。
自分の存在すら虚ろで明日には消えてしまっているかもしれない。だからほんの少し、ほんの少しだけでも、■■■■■■■■■■■。
身勝手な独り善がりにもほどがある、自分のために誰かを助けているなんてさ。
でも――今回は少しは違ったのかもしれない。
「無意味な人助けも所詮は自分のため、人との関係が自分を救ってくれるんだと信じていながら、周囲のことなど誰も心から信じていない。結局は自分のための行為、無意味に思えてもそれ以上の事実はない」
「…………そうか、君は――」
レナの言葉を遮るように俺が再び声を上げた。
「でも、アンドリュオに声をかけたのは別にそういった意図があったわけじゃない。回り回ってやってくるモノを望んでいたわけじゃない。ただ、歪な曲り方をしているガキを叩いて直してやっただけ、無意味なことだと承知しているが、 がやりたいと言った気がする」
「っ! …………」
俺の言葉にレナは驚いたような表情をした。だが、少しして優しい微笑みを見せて言った。
「それを言えるなら、君は――〝空っぽな人間〟じゃないな」
「そう、か……?」
「ああ、そうだとも」
レナは小さく笑みを零す。その瞬間だけは見た目相応の少女に見えて、不覚にも可愛いと思ってしまった。
でも、それ以上に自身の不可解な行動への疑問があった。
自分でも理解できない行動原理、心に従って何かを成すなんてできる人間じゃないと思っていた。でも、そう在れるのであれば、別にいいのではないかと思った。
それは実に人間らしい、人情とはこういうモノなのだろうか?
―――おめでたいな……本当に。思考を放棄しただけだろうに、■■について考えるのが怖くて―――
急激に思考が凍える。馬鹿な自身をたしなめるように思考に冷気を吹き込み、いつもの冷静な思考を呼び戻す。
「まあ、そういうわけだ。今度こそもういいな?」
「ああ、知りたいことは知れた。ありがとう」
そう礼を述べたのを見ると俺は再び歩きだし言った。
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