上 下
26 / 251
レヴェント編

25.空っぽ

しおりを挟む
 彼女、レナと少し会話をして判明したのだが、この世界には一度修正者が来たことがあるらしい。レナはその修正者と知り合いとのこと。
 その修正者の名前は夜境やきょう
 レナが俺を修正者と断定し、記憶の中の人物だと思ったのは俺がその夜境という人と面影が似ていたからだそうだ。
 修正者の件は女神から一切聞いていない。それがワザとなのか、単に忘れていたのか、どちらにせよ知らないが不注意にもほどがある。
 腕を組んでため息を吐く、そして俺はこちらに向いている視線に気づく。
 「…………」
 「何だよ」
 「いや。やはり似ている、そう思っただけだよ……本当の違うのか?」
 「何度も言わせないでくれ。俺は夜境なんて奴は知ら、ない――多分」
 そう言いかけて歯切れが悪くなる。
 理由は単純だ、俺は記憶喪失であり前の自分を知らない。もしかしたらその夜境って奴が俺という可能性は……零じゃない。
 「?」 
 表情を強張らせ考え込む。
 「なあ。その夜境って奴はそんなに…………そんなに俺に似ているのか――?」
 恐る恐るそう質問した。なぜだかわからないがその質問を口にするのに強い躊躇いがあった。胸の奥で突っかかる〝何か〟……いや、本当の自分を知るなのだろう。
 「そうだな……雰囲気が、とても似ている」
 「雰囲気?」
 「そうだ。君は彼にとても雰囲気が似ている、なんだかとても――だ――」
 「! …………そう、か」
 一瞬、心臓がドキリと跳ねたのを感じた。
 「他にも表情が似ていると思う。何を考えているのか分かりずらい表情」
 「あー、それは俺の場合、単に表情を作ってるだけだ。冷静を装ってるだけで内心はここまで冷静じゃない、ただのポーカフェイスだ」
 「ん? そうなのか? その割には板についていないか?」
 「まあ。慣れだな。こういう表情をよく作ってたんだよ」
 「ふん、なるほど」
 顎に指を当てながら得心いったという表情で頷いた。
 「じゃあ、あの人も……夜境も、君と同じように表情を作っていたかもしれないな……」
 「…………」
 無意識に類似点を指摘していたのだが、結局類似点になってしまい再び心臓が跳ね上がる違和感を感じる。ただ、その違和感の正体を意識では認識できていない。故に正体不明の感覚に戸惑うばかりである。
 「「――――」」
 しばしの沈黙、お互いに情報が散漫としている為か言葉を止め、各々の思考に意識を割いている。
 『修正者・夜境、俺に似ている』、この事実は俺にとっては限りなく大きいことだが、あまり嬉しいものでもない。その人物が仮に俺なのだとしてやはり――俺はなのだろうか? ……俺は、そう思わずにはいられない。
 記憶の無い俺は空っぽな器、そこに至るまでの経緯経験を失って何者なのかも分からない、今までの俺とは全く違う〝何か〟なのだろう。
 思考が暗く沈む――
 やはり俺は恐れている。自分自身を知ることを……過去には思い出したいと思っていたが最初だけだった、年月が経つにつれ〝今の自分〟の自我が強くなる、〝過去の自分〟とは別人だ。
 だから俺は―――
 己の■■を独白しようとしたその時。ドバンッと勢いよく扉が開いた。すると次の瞬間、白色の何かがこれまた勢いよく飛んで来た。
 なにやら泣き喚きながら……
 「ぐ ろ゙ ま゙ ざ ま゙ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ ぁ あ゙」
 「ちょ、え、やめ――うでぶッ!!」
 勢いよく飛んで来た白い物体は正確に俺の腹部目掛けて飛んで来た。そして俺は白い物体により弾き飛ばされ、地面に白い物体と共に転がり落ちた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

奪い取るより奪った後のほうが大変だけど、大丈夫なのかしら

キョウキョウ
恋愛
公爵子息のアルフレッドは、侯爵令嬢である私(エヴリーヌ)を呼び出して婚約破棄を言い渡した。 しかも、すぐに私の妹であるドゥニーズを新たな婚約者として迎え入れる。 妹は、私から婚約相手を奪い取った。 いつものように、妹のドゥニーズは姉である私の持っているものを欲しがってのことだろう。 流石に、婚約者まで奪い取ってくるとは予想外たったけれど。 そういう事情があることを、アルフレッドにちゃんと説明したい。 それなのに私の忠告を疑って、聞き流した。 彼は、後悔することになるだろう。 そして妹も、私から婚約者を奪い取った後始末に追われることになる。 2人は、大丈夫なのかしら。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

わがまま姉のせいで8歳で大聖女になってしまいました

ぺきぺき
ファンタジー
ルロワ公爵家の三女として生まれたクリスローズは聖女の素質を持ち、6歳で教会で聖女の修行を始めた。幼いながらも修行に励み、周りに応援されながら頑張っていたある日突然、大聖女をしていた10歳上の姉が『妊娠したから大聖女をやめて結婚するわ』と宣言した。 大聖女資格があったのは、その時まだ8歳だったクリスローズだけで…。 ー--- 全5章、最終話まで執筆済み。 第1章 6歳の聖女 第2章 8歳の大聖女 第3章 12歳の公爵令嬢 第4章 15歳の辺境聖女 第5章 17歳の愛し子 権力のあるわがまま女に振り回されながらも健気にがんばる女の子の話を書いた…はず。 おまけの後日談投稿します(6/26)。 番外編投稿します(12/30-1/1)。 作者の別作品『人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています』の隣の国の昔のお話です。

婚約破棄は結構ですけど

久保 倫
ファンタジー
「ロザリンド・メイア、お前との婚約を破棄する!」 私、ロザリンド・メイアは、クルス王太子に婚約破棄を宣告されました。 「商人の娘など、元々余の妃に相応しくないのだ!」 あーそうですね。 私だって王太子と婚約なんてしたくありませんわ。 本当は、お父様のように商売がしたいのです。 ですから婚約破棄は望むところですが、何故に婚約破棄できるのでしょう。 王太子から婚約破棄すれば、銀貨3万枚の支払いが発生します。 そんなお金、無いはずなのに。  

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

婚約破棄られ令嬢がカフェ経営を始めたらなぜか王宮から求婚状が届きました!?

江原里奈
恋愛
【婚約破棄? 慰謝料いただければ喜んで^^ 復縁についてはお断りでございます】 ベルクロン王国の田舎の伯爵令嬢カタリナは突然婚約者フィリップから手紙で婚約破棄されてしまう。ショックのあまり寝込んだのは母親だけで、カタリナはなぜか手紙を踏みつけながらもニヤニヤし始める。なぜなら、婚約破棄されたら相手から慰謝料が入る。それを元手に夢を実現させられるかもしれない……! 実はカタリナには前世の記憶がある。前世、彼女はカフェでバイトをしながら、夜間の製菓学校に通っている苦学生だった。夢のカフェ経営をこの世界で実現するために、カタリナの奮闘がいま始まる! ※カクヨム、ノベルバなど複数サイトに投稿中。  カクヨムコン9最終選考・第4回アイリス異世界ファンタジー大賞最終選考通過! ※ブクマしてくださるとモチベ上がります♪ ※厳格なヒストリカルではなく、縦コミ漫画をイメージしたゆるふわ飯テロ系ロマンスファンタジー。作品内の事象・人間関係はすべてフィクション。法制度等々細かな部分を気にせず、寛大なお気持ちでお楽しみください<(_ _)>

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...