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レヴェント編

12.逃げ惑う者

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 城下町に出て街並みや人々の服装を見て、やはりここが中世ヨーロッパほどの世界観なのだと再確認した。
 文明の発展度は思っていたより進んでおり、現代でも海外に行けば似たような物を目にすることはできると思う。流石に現代機器はないが、街並みなどは少し古いが思ったよりは原始的じゃない。
 そして、聞き耳を立て話を聞いて分かったが、この世界は魔法や魔力が人々の生活に取り入れられた、一般的なもののようだ。
 色々見て回ったが、想定していた通りこの世界における魔法は、前世界における魔法とは少々概念が違い、魔術すら存在していない。
 この魔法というのも、なにやらよく分からない術理で稼働している。
 近代魔術とは比べものにならないほど、性能的には劣っている。俺としてはその方が楽でいいんだが、まあ、どっこいどっこい、所詮、だしな。
 「はぁ」
 小さくため息を吐き、どちらにせよ面倒なことになることは避けられないのだと思った。
 「おじさん、その林檎、一つ買った」
 「へい、銅貨一枚だよ、兄ちゃん」
 気怠さを感じつつも再び足を動かし、そこで偶然目に入った屋台のリンゴを一つほど購入することにした。
 購入した林檎を齧りながら、逐一周囲の景色を脳の片隅に入れ、城下町を歩いた。
 しばらく道を歩いていると、路地裏らしき場所から男女の言い争うような声が聞こえた。
 声からして複数の男が一人の少女を口説いてる、というかナンパしてるという感じだ。ただ、話しを聞いている限り、少々男性方は誘い方が強引のようだ。嫌がる少女の声が聞こえる。
 「やめてください!」
 「別にいいだろ、俺たちと少し良いことするだけだって、なあ?」
 嫌がられているのに必要以上に迫るナンパ男たち、見ていてあまり気分のいいものではないが、こちらとしては別に無理して関わりに行くようなものでもない。
 「ったく、素直に俺達について来ればいいんだよ!」
 「きゃ!」
 少女の態度にイラついたのか、その腕を強引に掴み連れて行こうとする。

 そんな姿を見て俺は――何故か、助けに行ってしまった。

 「はぁ……お兄さん方? 暴力はよくないですよ?」
 「あ゙? なんだガキ、テメェには関係ねぇだろが!」
 まあ、その通りですよね。声かけて置いてなんだが、やらなきゃよかったって思ってますよ。
 怒りを露わにするナンパ男達、お楽しみを邪魔されてご立腹のようだ。
 自身の馬鹿さに呆れながら、スッと瞳を閉じる。
 正直、俺はこういう正義の味方的なキャラではないんだけどなぁ……はぁ、こちとら優しい人間でも、綺麗な人間でもないんが――まあ、道理は弁えている方だとは思うかな?
 閉じた瞳をゆっくり開き、再び小さくため息を吐いた。
 「おいガキ、立派な正義感だが、相手をしっかりと見定めてから実行するべきだったなぁ。てめぇが正義でも、それを通す力がねぇなら、それは絵空事なんだよ」
 「そうだな、同意する……アンタ、見た目に反して知的なんだな――多少の道理は理解してるようだ」
 集団の中で一際体格のいい男の言葉に、不敵な表情を作りながらそう言った。
 この男の言っていることは酷く正しい……純粋で間違っていない。だが、そうだとしてもやり方は他にもある。
 一つのやり方を真理のように言うのは些か軽薄、物事を理解できぬ子供と変わらない暴論だ。
 「まあ、俺も変わらんか……フッ」
 「なに笑ってるやがる。あまり調子に乗るなよ、ガ――」
 男の言葉が停止する。
 俺がさっきまで食べていた林檎、その芯を投げつけられ思考が停止ストップしたのだ。
 「おい……何の真似だ?」
 「何のと言われても、見たまんまだが? 俺がアンタに向って林檎の芯を投げた、それだけだ。意味としては俺がアンタを挑発してる……それだけだぜ?」
 「殺すぞ、クソガキッ!」
 ニヒルな笑みでそう答えると、怒髪天を突いたとばかりにキレる筋肉男。
 「やれるもんならやってみろ、筋肉マン? 言葉だけじゃ、ただの間抜けだぜ?」
 「ぶっ殺す……おいッ! テメェら、教えてやれ、誰に喧嘩を売ったかを」
 その声と共に周囲の男達がゆっくりとこっちへ近づいてくる。
 さて……やりますか。
 相手が完全にブチ切れたところで俺は覚悟を決める。

 「じゃあ、お兄さん方――See you again」

 俺はそう言うとクルッと回転し、一八〇度回って走り出した。
 「「「「……は?」」」」
 少女を含め、そこにいた者達は呆気み取られたような表情で固まる。一方俺はそんなこと気にせず全力ダッシュ、逃げの一手。
 先程、「言葉だけじゃ、ただの間抜けだぜ?」とか言っておいて、速攻逃げるという摩訶不思議な行動。
 まあ俺~、別にそこまで強くないし、目立ちたくないし、戦いたくないし、めんどくさそうだし、男としての尊厳がブレイクされるだけで済むならそうするよ。
 そんなことを思いながら路地裏を駆け抜ける。
 「お、おい! テメェらアイツを捕まえろ! ゼッテェ殺してやる!」
 男のそんな言葉が聞こえると一斉に男達が走って来る。
 その姿を見た俺は急停止すると共に、その場に落ちている石を即座に拾い、再び一八〇℃回転して構える。
 そして――

 ギリ……狙えるか……

 目標を捉え、全力で石を投げる。
 バンッという音が鳴り響くほど強く左脚を踏み込み、鞭のように右腕をしならせ振るう。
 手からリリースされた石は、空気を切る轟音を鳴り響かせながら飛び、こちらへ来る男達の顔をスレスレに過ぎて飛んで行った。
 スナップにより効いた回転により貫通力の増した石は、少女の腕を掴む男の右腕に突き刺さる。
 「うがァッ!」
 「!」
 少女の驚愕の顔と共に、男の腕から鮮血が吹き上がる。
 投げた石は男の腕にめり込み、肉を抉って静止したのだ。
 「アッあ゙……い、痛ぇ……痛ぇよ……」
 男はその場に蹲って、血を滴らせる腕を強く掴んで嗚咽を零した。
 「おい! アンタ! 逃げるなら今だぞ……?」
 「え……あ、ありがとうございます」
 そういうと少女は逆方向へ走り去っていく。
 男達は俺か少女、どちらを追えばいいかと戸惑う中、男が言った。
 「女はいい! アイツを終え! あの男だけは、ゼッテェ逃がすなッ!」
 その指示によって一斉にこちらへ向かって来る。
 俺も停止した足を再び動かして走り出した。
 「フッ、逃げる者バックラー界のキングと言われ、〝逃げの王フリーキング〟の二つ名を持つ俺を捕まえられるかな?」
 「そんな不名誉な二つ名で威張ってぇんじぇね!」
 そんな言葉が聞こえたが――無視。
 俺は半分以上記憶した城下町の道なりから、最も逃げるのに適した、絶対回避の道キング・オブ・フリーロードを駆け抜けた。
 これこそが〝逃げの王フリーキング〟の逃走法、誰にも追いつけぬ速度で逃げ去るのだ。
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