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竜殺し編・《焔喰らう竜》
第七話・「竜伐隊」
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突如として現れたツインピンク(ピンク色のツインテ女子)。
緊迫した空気感を容易く砕き――鮮烈な登場。傲岸不遜なその様子に、知人であろうクレアを呆れさせ、初対面の俺にもめんどくさいのが来た、と思わせてくる。
外人……だよな。
その外見的特徴から見て北欧――ヨーロッパ系の出身だと思われる。
クレアや春姉と同じ碧眼、それと特徴的なピンク髪。確か苺色の金糸とかいう、ヨーロッパ系の人種に稀に現れるという桃色髪だろう。多分。
……にしても真っピンクだな。
実物を見たことがなかったけど、こんなにもわかりやすくピンク色の髪というのは珍しいのではないだろうか? 確か、ストロベリーブロンドは日の下で淡く色めく程度だと聞いた。
そう考えると、月の下でこうも判りやすく発色しているのはかなりすごいことなのだろう。
まあ、染めている可能性も全然あるけど……。
などと余分なことを考えていると、クレアが彼女へ向けて疲れた様子で問い掛けた。
「……ルジュ、何の用?」
「そんなの決まってるでしょ?」
暗い笑みを浮かべ煽るようにそう口にする。
すると次の瞬間、ツインピンクは小さな胸を張って声高らかに宣言した。
「私がこんな辺境の島国に来たのは! 竜退治なんて下らない目的のためなんかじゃない!
私はアナタ――っ! クレア・ファシフィス・アーゼンベルグを!
――私のライバルを打ち倒しに来たのよっ!!」
「「――――」」
ふふ~ん、と威張った様子のツインピンク。俺とクレアはそんな彼女を見て呆れて声が出なくなる。
この切羽詰まった状況で自分の事を優先する傲慢さ。おそらく竜の恐ろしさを知っているであろう魔術師でありながら、竜の殲滅を下らないと吐き捨てるその姿……ある種の尊敬すら抱きそうだ。
多分、これが彼女のツンデレ発言なのだろう。でないと流石に薄情過ぎるし。
呆れながらそんな事を考えていると、
「――叢真、先を急ぎましょう」
「え? お、おい……!」
呆れた様子のクレアはツインピンクの宣言を無視して、俺の手を引いて再び走り出した。
背後の少女へ視線を向ける。そこにいた少女は一切の反応もされず、無視されたという現実を受け入れられていないようで、ポカーンとした表情で何度も目をパチパチとさせながら、誰もいない虚空を覗いていた。
「クレア、アレいいのか?」
「いい。アレは無視しておくに限るよ」
俺の手を引きながら彼女は、とても興味さなげに遠い目をしながらそう言った。
「し、知り合いじゃないのか?」
「知り合いではあるけど――それだけだよ。大して交流もないし、仲がいいわけでもない。ただ向こうが勝手に付き纏って来て、毎度ああやって勝負を吹っかけて来るの」
「な、なるほど……でも、今回の竜は同じみたいだし、軽く情報共有くらいはした方がいいんじゃないのか?」
「さっき当人が竜退治には来てないって言っていたし、その必要はないんじゃないかな?」
「あれはツンデレ的な発言……もとい、言葉のあや的なものだと思うけど」
「そう?」
「…………」
本当にビックリするぐらいあのツインピンクに興味を示さないクレア。
正直な話、俺自身もさっきのやり取りから彼女が非常にめんどくさい人物という印象が付いて、出来れば今後は関わりたくないと思ってしまっている。
ツンデレキャラってリアルで会うと結構めんどくさいんだな。
そんな感想を抱いていると、背後からダダダンと地面を駆ける音が聞こえた。
「わかったわっ! じゃあこうしましょっ!」
「うおっ!?」
真後ろに現れた少女を見て思わず声を出して驚く。
ツインピンク――再稼働。
まるでさっきのやりとりが嘘のように、ニッコリと笑みを浮かべて元気いっぱいに提案を持ち掛けて来る。あんまりにも嬉しそうな笑みを浮かべる彼女を見て、そのメンタルはすごいと素直に感心した。
「私とあなたでどっちが先に竜を殲滅できるか、その勝負をしましょう!」
小さい子が親に自分の頑張りを話す時のような表情でクレアにいう彼女だが、
「――――」
無視――
目線すら彼女に向けることなく、クレアは華麗に無視をかました。
「く、クレア?」
「――――」
「ねえ、聞いてるのクレア!」
「――――」
「ねえってッ!」
どんなに彼女が呼び掛けてもクレアは反応せず、まるで彼女がいない者のように俺へ話し掛けて来る。
あんまりにも自然に話し掛けて来るせいで、あのツインピンクは俺の作り出した幻なのではないか? という疑念すら湧いてきた。
「なあ、相槌でもいいから反応くらいは……――」
「――――」
ツインピンクが不憫に思えてきて、そう彼女に声を掛けてみたが、その話題を口に出した瞬間に――完全無視。
彼女関連の話のみ、俺からの言葉すら遮断される。
それほどまでにツインピンクのことが嫌いなのか、それとも集中力を乱されるのが嫌だったのか。
などと思案してみたが、単に前者が理由だと思った。
「ねえクレア! 勝負! 勝負しましょっ!」
「――――」
「話くらい聞きなさいよッ!」
「――――」
「勝負勝負勝負勝負――勝負!」
「――――」
クレアの無視に次ぐ無視、駄々をこねる子供の様に勝負と連呼するツインピンク。
混沌的地獄な絵面に思わず苦笑いを浮かべる。
「おーいクレア。流石に可哀想になってきたぞ」
「誰が可哀想よッ! 私はゼンっぜん! 可哀想なんかじゃないから! ってかアンタ誰……? ねえクレア、その男なに?」
「――――」
「だから! 無視するなぁ――――ッ!!!」
悲痛な叫び――しかし、依然としてクレアは無視を続けた。
あんまりにも無視され続けたせいか、若干泣きそうな表情をするツインピンク。
流石にここまでくるとただのイジメな気がして、クレアに苦言を呈そうと思った――その時だった。ムスッとしかめっ面したツインピンクが、何か思いついたような表情をすると共に、クレアを嘲笑うような微笑を零したのだ。
その表情を見た俺は何だか嫌な予感がしたものの、それを招いたのは彼女だと思い、諦観することにした。
「クレア――アナタもしかして私と勝負するのが怖いの?」
クスクスと笑いを零しながら、彼女はクレアを小馬鹿にするようにそう言った。
流石にそれは通じないだろ……。
あのクレアが挑発程度で動じるとはとても思えなかった。
そんな俺の思いと裏腹に、ツインピンクのそのセリフを口にしてから、彼女の意識が彼女に向いているようなそんな気がした。
「天才魔術師とか言われてる割に、私からの勝負からは逃げるの~?」
「――――」
ツインピンクのしょうもない挑発。
しかし、微かにクレアの表情が歪むのが見えた。彼女、イメージ的にこういう挑発には乗らないと思ったが、どうもかなり効いているらしい。
これがツインピンクだからなのか、彼女の元の気質かは知らないが、とりあえずツインピンクの目論見は成功していると言える。
「まあ? 最っ――強、大大大天っ才魔術師である〝私〟と、勝負するのが怖いと思うのは仕方ないけど……最初から負けを認めて勝負しないなんて、〝白魔の魔弾使い〟の名が泣くわよ?」
「――――」
ピシッ――と、クレアの額に青筋が立ち、顔に暗い影が入る。
――明らかに怒っています。
どんな地雷が潜んでいたかは知らないけど、おそらくツインピンクはその地雷を見事に踏み抜いたのだろう。
彼女から発せられる異様な怒気にツインピンクも気付いたようでビクリと体を震わせ、怯えたような反応を見せる。しかし、すぐに調子を取り戻し、再び地雷原に突っ込む。
「プププー! 周囲に持て囃されるだけで、実力が伴ってないと大変ね~。そんな側だけ大切にしちゃう人間になっちゃうなんて、かわいそ~。それに比べて私は側も内も最高の完璧超人……完璧過ぎてごめんなさいね、クレア」
そう言い放つツインピンク――その時、何かがブチ切れる音が聞こえた。
ピタリ、と急に足を止めるクレア。俺とツインピンクもその動きに合わせて足を止め、暗い影を落とし俯く彼女を見る。
「……、私に――」
「ん?」
ここに来てついにクレアが喋り出す。
漏れ出した怒気は形にせずとも、俺達二人は確かに感じた。ガクガクと震えるツインピンク、それとしれっと距離を取る俺。
クレアがゆっくりと口を開いて言った。
「200戦中――0勝200敗しているボンボンお嬢様が、よくそんな調子いいこと言えるのね?」
ニッコリと暗い笑みを浮かべながら挑発する。
「――、は?」
その言葉を聞いたツインピンクからプチリと何かが切れる音が聞こえる。さっきまで恐怖に顔が青くなっていた筈なのに、簡単に挑発に乗って怒りを露わにする。
……コイツは単に乗せられ易いだけだな。
クレアの時と違い、寸分も迷うことなくそう思った。どう考えても彼女はそういう気質だろう、それはこの短い時間で判ることだった。
というか、200戦も勝負してるならもうそれは友人の領域だと思うだけど……クレアは認めないんだろうな。
「もしかして忘れたかな? これまで自分が、どう私に負けて来たかを」
「は? は? は?」
語彙力が死んでいる。
こんなにも挑発に乗り易いヤツそうはいないだろう。ツンデレ体質的に仕方がないのかもしれないが、それにしても一言で堪忍袋の緒が切れるのは些か堪え性がなさ過ぎる。
睨み合う二人。今すぐにでも殴り合いを始めそうな雰囲気に、どうしたものかと思案する。
この二人、今がどういう状況かわかって喧嘩しているのだろうか?
「わかった」
バチバチと視線をぶつけ合う中、不意にクレアがそう口にした。
「そんなに勝負したいならいいよ――〝勝負〟しましょう」
「ええ、望むところよ!」
「――えっ?」
急遽勝負が決定。思わず戸惑った声が漏れる。
「完膚なきまでに――」
「ズタズタに――」
「負かす」「壊す」
火花を散らす二人。そしてなぜか、退いた筈の俺がそんな二人の中間に立たされる。
「二人とも。勝負もいいけど、今は争っている場合じゃ――」
一応仲裁しようと声を掛けたら、
「叢真、君は黙って」「平民、アンタは黙ってなさい!」
「……あ、はい。すみませんでした」
二人の圧に押し負けた俺は肩身を狭くしてそう言った。
というか、なぜ平民呼び?
緊迫した空気感を容易く砕き――鮮烈な登場。傲岸不遜なその様子に、知人であろうクレアを呆れさせ、初対面の俺にもめんどくさいのが来た、と思わせてくる。
外人……だよな。
その外見的特徴から見て北欧――ヨーロッパ系の出身だと思われる。
クレアや春姉と同じ碧眼、それと特徴的なピンク髪。確か苺色の金糸とかいう、ヨーロッパ系の人種に稀に現れるという桃色髪だろう。多分。
……にしても真っピンクだな。
実物を見たことがなかったけど、こんなにもわかりやすくピンク色の髪というのは珍しいのではないだろうか? 確か、ストロベリーブロンドは日の下で淡く色めく程度だと聞いた。
そう考えると、月の下でこうも判りやすく発色しているのはかなりすごいことなのだろう。
まあ、染めている可能性も全然あるけど……。
などと余分なことを考えていると、クレアが彼女へ向けて疲れた様子で問い掛けた。
「……ルジュ、何の用?」
「そんなの決まってるでしょ?」
暗い笑みを浮かべ煽るようにそう口にする。
すると次の瞬間、ツインピンクは小さな胸を張って声高らかに宣言した。
「私がこんな辺境の島国に来たのは! 竜退治なんて下らない目的のためなんかじゃない!
私はアナタ――っ! クレア・ファシフィス・アーゼンベルグを!
――私のライバルを打ち倒しに来たのよっ!!」
「「――――」」
ふふ~ん、と威張った様子のツインピンク。俺とクレアはそんな彼女を見て呆れて声が出なくなる。
この切羽詰まった状況で自分の事を優先する傲慢さ。おそらく竜の恐ろしさを知っているであろう魔術師でありながら、竜の殲滅を下らないと吐き捨てるその姿……ある種の尊敬すら抱きそうだ。
多分、これが彼女のツンデレ発言なのだろう。でないと流石に薄情過ぎるし。
呆れながらそんな事を考えていると、
「――叢真、先を急ぎましょう」
「え? お、おい……!」
呆れた様子のクレアはツインピンクの宣言を無視して、俺の手を引いて再び走り出した。
背後の少女へ視線を向ける。そこにいた少女は一切の反応もされず、無視されたという現実を受け入れられていないようで、ポカーンとした表情で何度も目をパチパチとさせながら、誰もいない虚空を覗いていた。
「クレア、アレいいのか?」
「いい。アレは無視しておくに限るよ」
俺の手を引きながら彼女は、とても興味さなげに遠い目をしながらそう言った。
「し、知り合いじゃないのか?」
「知り合いではあるけど――それだけだよ。大して交流もないし、仲がいいわけでもない。ただ向こうが勝手に付き纏って来て、毎度ああやって勝負を吹っかけて来るの」
「な、なるほど……でも、今回の竜は同じみたいだし、軽く情報共有くらいはした方がいいんじゃないのか?」
「さっき当人が竜退治には来てないって言っていたし、その必要はないんじゃないかな?」
「あれはツンデレ的な発言……もとい、言葉のあや的なものだと思うけど」
「そう?」
「…………」
本当にビックリするぐらいあのツインピンクに興味を示さないクレア。
正直な話、俺自身もさっきのやり取りから彼女が非常にめんどくさい人物という印象が付いて、出来れば今後は関わりたくないと思ってしまっている。
ツンデレキャラってリアルで会うと結構めんどくさいんだな。
そんな感想を抱いていると、背後からダダダンと地面を駆ける音が聞こえた。
「わかったわっ! じゃあこうしましょっ!」
「うおっ!?」
真後ろに現れた少女を見て思わず声を出して驚く。
ツインピンク――再稼働。
まるでさっきのやりとりが嘘のように、ニッコリと笑みを浮かべて元気いっぱいに提案を持ち掛けて来る。あんまりにも嬉しそうな笑みを浮かべる彼女を見て、そのメンタルはすごいと素直に感心した。
「私とあなたでどっちが先に竜を殲滅できるか、その勝負をしましょう!」
小さい子が親に自分の頑張りを話す時のような表情でクレアにいう彼女だが、
「――――」
無視――
目線すら彼女に向けることなく、クレアは華麗に無視をかました。
「く、クレア?」
「――――」
「ねえ、聞いてるのクレア!」
「――――」
「ねえってッ!」
どんなに彼女が呼び掛けてもクレアは反応せず、まるで彼女がいない者のように俺へ話し掛けて来る。
あんまりにも自然に話し掛けて来るせいで、あのツインピンクは俺の作り出した幻なのではないか? という疑念すら湧いてきた。
「なあ、相槌でもいいから反応くらいは……――」
「――――」
ツインピンクが不憫に思えてきて、そう彼女に声を掛けてみたが、その話題を口に出した瞬間に――完全無視。
彼女関連の話のみ、俺からの言葉すら遮断される。
それほどまでにツインピンクのことが嫌いなのか、それとも集中力を乱されるのが嫌だったのか。
などと思案してみたが、単に前者が理由だと思った。
「ねえクレア! 勝負! 勝負しましょっ!」
「――――」
「話くらい聞きなさいよッ!」
「――――」
「勝負勝負勝負勝負――勝負!」
「――――」
クレアの無視に次ぐ無視、駄々をこねる子供の様に勝負と連呼するツインピンク。
混沌的地獄な絵面に思わず苦笑いを浮かべる。
「おーいクレア。流石に可哀想になってきたぞ」
「誰が可哀想よッ! 私はゼンっぜん! 可哀想なんかじゃないから! ってかアンタ誰……? ねえクレア、その男なに?」
「――――」
「だから! 無視するなぁ――――ッ!!!」
悲痛な叫び――しかし、依然としてクレアは無視を続けた。
あんまりにも無視され続けたせいか、若干泣きそうな表情をするツインピンク。
流石にここまでくるとただのイジメな気がして、クレアに苦言を呈そうと思った――その時だった。ムスッとしかめっ面したツインピンクが、何か思いついたような表情をすると共に、クレアを嘲笑うような微笑を零したのだ。
その表情を見た俺は何だか嫌な予感がしたものの、それを招いたのは彼女だと思い、諦観することにした。
「クレア――アナタもしかして私と勝負するのが怖いの?」
クスクスと笑いを零しながら、彼女はクレアを小馬鹿にするようにそう言った。
流石にそれは通じないだろ……。
あのクレアが挑発程度で動じるとはとても思えなかった。
そんな俺の思いと裏腹に、ツインピンクのそのセリフを口にしてから、彼女の意識が彼女に向いているようなそんな気がした。
「天才魔術師とか言われてる割に、私からの勝負からは逃げるの~?」
「――――」
ツインピンクのしょうもない挑発。
しかし、微かにクレアの表情が歪むのが見えた。彼女、イメージ的にこういう挑発には乗らないと思ったが、どうもかなり効いているらしい。
これがツインピンクだからなのか、彼女の元の気質かは知らないが、とりあえずツインピンクの目論見は成功していると言える。
「まあ? 最っ――強、大大大天っ才魔術師である〝私〟と、勝負するのが怖いと思うのは仕方ないけど……最初から負けを認めて勝負しないなんて、〝白魔の魔弾使い〟の名が泣くわよ?」
「――――」
ピシッ――と、クレアの額に青筋が立ち、顔に暗い影が入る。
――明らかに怒っています。
どんな地雷が潜んでいたかは知らないけど、おそらくツインピンクはその地雷を見事に踏み抜いたのだろう。
彼女から発せられる異様な怒気にツインピンクも気付いたようでビクリと体を震わせ、怯えたような反応を見せる。しかし、すぐに調子を取り戻し、再び地雷原に突っ込む。
「プププー! 周囲に持て囃されるだけで、実力が伴ってないと大変ね~。そんな側だけ大切にしちゃう人間になっちゃうなんて、かわいそ~。それに比べて私は側も内も最高の完璧超人……完璧過ぎてごめんなさいね、クレア」
そう言い放つツインピンク――その時、何かがブチ切れる音が聞こえた。
ピタリ、と急に足を止めるクレア。俺とツインピンクもその動きに合わせて足を止め、暗い影を落とし俯く彼女を見る。
「……、私に――」
「ん?」
ここに来てついにクレアが喋り出す。
漏れ出した怒気は形にせずとも、俺達二人は確かに感じた。ガクガクと震えるツインピンク、それとしれっと距離を取る俺。
クレアがゆっくりと口を開いて言った。
「200戦中――0勝200敗しているボンボンお嬢様が、よくそんな調子いいこと言えるのね?」
ニッコリと暗い笑みを浮かべながら挑発する。
「――、は?」
その言葉を聞いたツインピンクからプチリと何かが切れる音が聞こえる。さっきまで恐怖に顔が青くなっていた筈なのに、簡単に挑発に乗って怒りを露わにする。
……コイツは単に乗せられ易いだけだな。
クレアの時と違い、寸分も迷うことなくそう思った。どう考えても彼女はそういう気質だろう、それはこの短い時間で判ることだった。
というか、200戦も勝負してるならもうそれは友人の領域だと思うだけど……クレアは認めないんだろうな。
「もしかして忘れたかな? これまで自分が、どう私に負けて来たかを」
「は? は? は?」
語彙力が死んでいる。
こんなにも挑発に乗り易いヤツそうはいないだろう。ツンデレ体質的に仕方がないのかもしれないが、それにしても一言で堪忍袋の緒が切れるのは些か堪え性がなさ過ぎる。
睨み合う二人。今すぐにでも殴り合いを始めそうな雰囲気に、どうしたものかと思案する。
この二人、今がどういう状況かわかって喧嘩しているのだろうか?
「わかった」
バチバチと視線をぶつけ合う中、不意にクレアがそう口にした。
「そんなに勝負したいならいいよ――〝勝負〟しましょう」
「ええ、望むところよ!」
「――えっ?」
急遽勝負が決定。思わず戸惑った声が漏れる。
「完膚なきまでに――」
「ズタズタに――」
「負かす」「壊す」
火花を散らす二人。そしてなぜか、退いた筈の俺がそんな二人の中間に立たされる。
「二人とも。勝負もいいけど、今は争っている場合じゃ――」
一応仲裁しようと声を掛けたら、
「叢真、君は黙って」「平民、アンタは黙ってなさい!」
「……あ、はい。すみませんでした」
二人の圧に押し負けた俺は肩身を狭くしてそう言った。
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