53 / 80
第二章 向田さんちの無花果の樹
向田さんを御披露目します。
しおりを挟む
向田さんの国に来て数日経った。
ナピーナップの王族達は向田さん達となんか色々話し合っている。
向田さんの国を昔あった場所、今のナピーナップに戻すか、新しい場所にするか、みたいなことが主な話し合いらしい。
まあ、俺を含めてうちのパーティーは話し合いに混ざっていないので全部なんとなく聞いた話だ。
多分昔あった場所に戻すんじゃなくて世界樹の別な場所に扉を移してみたいなのが濃厚だろう。
「安田様、王様が話がおありだそうです」
ん?話し合い終わったかな?
呼びに来た騎士と共に王族達の部屋に向かう。
「おお、安田殿、ようやく話がまとまったのだ」
部屋に入っていくとニコニコしてるヒゲ王様が話しかけてくる。
「向田さんの国どうすんのか決まりました?」
「うむ、やはり別な場所に扉を移すことになった」
ああ、やっぱそうなんだ。
しかし国の領土内に別な国が突然できるとかって大丈夫なんだろうか?
住民同士の軋轢みたいなのとか文化の壁みたいのとか国土の問題だとか……。
いやまあ、偉い人達がその辺りも全部含めて話し合った最終結果がこれなんだろう。
そもそも地図にダーツ刺してふらふら来た部外者の俺には関係ないとこだわな。
「それでだな。一度王都に戻って民達に救い主様を大々的に御披露目などしたいのだが、救い主様方と共に安田殿達も一緒に来てくれんか?」
ふむふむなるほどね。
「いいですよ。みんなに言っときますね」
「うむ、よろしく頼む」
というわけで俺達は二万才のおじいちゃんを連れてナピーナップの王都に行くことになった。
「うん、昔と比べて随分変わっているねえ」
向田さんが馬車の窓から町並みを見て呟いてる。
腰が悪いのか向田さんは杖を持ってる。
今は向田さんの国から飛行船で王都に戻り馬車で城に向かっているところだ。
町並みを見て変わっているねえ、とか言ってるが向田さんの知っているこの国の姿は一万年以上昔のヤツなわけだから、そりゃ色々変わってるだろう。
むしろ昔と一緒の町並みだったらちょっとしたホラーだよ。
「昔はスパゲッティー屋さんが多かったんだけどなあ」
え?
そんな位の違いしかないの?
昔と比べて商店街の店舗が変わってるね、位の違いしかないの?
一万五千年も経ってるのに?
……時の流れは残酷とか誰が言ったんだ。
「スパゲッティー屋さんが多かったんですか?」
思わず聞いてしまった。
「うん、たらこスパゲティーとかウニのスパゲティーとか出す店が多かったねえ」
一万五千年分の壮大な国の歴史の話してるはずなのにスパゲティーの種類の話されたわ。
なんだかな。
そして王城について使わせてもらってる部屋でみんなで一休みして夕食だ。
「うむ、ラーメンなんて久しぶりだ。一万五千年ぶり」
夕食のラーメンをみんなで食ってる時の向田さんのセリフだ。
スケールが小さいようでとんでもなくでかい。
「龍臣、向田のじい様が言ってたが、この国は昔はスパゲティ出す店がたくさんあったのか?」
気になってたのかラーメン食いながら京が聞いてきた。
「んん、ていうかこの世界は結構食文化がぐるぐるしてるんだ。色んな時代にちょいちょい日本人が来て自分の好きな食い物流行らすからな」
気になったから鑑定で調べてみたのだ。
二万年に来た日本人がパスタ流行らせたり、一万年前に来た日本人がラーメン流行らせたりする。
何万年規模の話だからな。
日本人が伝えても長い年月の間に文化が途絶えたり風化したりする。
そして文化が消えたところにまた日本人が現れて別なもの流行らせたりする。
だからもう世界中で食文化ごちゃごちゃなのよな。
「はあ、すごい話だね。まあどこでも口に合う食べ物があるのはいいよねえ」
鈴木さんがラーメン美味しそうに食いながら、栄養を体にたくさん蓄えられる能力の持ち主らしい発言をする。
うん、まあそうよね。
どこでも口に合う食べ物があるのはいいよね。
「じゃあ俺たちも異世界に何か食文化をもたらそうか」
せっかくだしなんか流行らせようぜ。
「ふむ、流行すとしたら例えば何?」
食べ物の話題が好きな鈴木さんが食いついてくる。
例えばそうだなあ……。
「……ハギスとか」
「ハギスって羊の胃袋に羊の内臓だか詰めた料理だよね。そもそも安田くんそれ食べたことあるの?」
いやないけどね。
なぜだかスコットランドの伝統料理が頭に浮かんだんだよね。
臭いとか不味いとか散々言われてたかわいそうなヤツ。
その名はハギス。
まあ、食べたことないんだけど。
「龍臣お前そもそも作り方すら知らんだろ」
吸血鬼にまっとうな突っ込みされたわ。
「……じゃあ、ブルートヴルスト」
「それ豚の血でできたソーセージだよね。安田くんなんでさっきから妙にあくが強いものばっかりなの?」
「違うんだよ。この世界だと日本にありそうな料理は大概あるんだよ。今からやろうと思ったら変化球な料理になるんだよ」
「いや、変化球過ぎるでしょ。変化しすぎてストライクゾーンから外れてるからね」
「……えーと、じゃあエスカルゴは?フランス料理の」
「いや~、ん~、カタツムリもどうなんだろうか?」
うーん、異世界料理は難しいな。
そもそもなぜ俺の頭には行ったこともない西ヨーロッパ系の食い物ばかり浮かんだんだろうか?
食べたことも無いし。
まあ、あれだな。
俺には異世界の食文化に新しい風を吹かせる才覚は無いってことだな。
「そういえば向田さんなにやら来週辺りにこの国の国民に挨拶するんですよね。大丈夫なんですか?」
ラーメン食い終わってまったりしていると東くんが思い出したように向田さんに語りかける。
「うん。そうなんだよねえ、なにを語ってもらっても構わないとか言われてるんだけど、そもそもワシ人前が苦手なんだよねえ」
向田さんが微妙に落ち込んでるような口調で話してくる。
まあ、元スパイだからな。
そりゃあ人前は苦手でしょうね。
……いや待て、2万年も経ってるのに?
もうなんか色々慣れてんじゃないのかな?
……何万年経とうが人間の本質はそんなに変わらんってことなんだろうか?
しかし向田さんの御披露目まで一週間もあんのか、暇だな。
「じゃああれだ。もうみんなで創作料理を異世界に流行らせよう。一週間暇だし」
「え~、まあ確かに暇だしね~」
俺たちの作った創作料理で異世界に新風を巻き起こそうぜ。
というわけであっという間に一週間が経過した。
「いや~、俺達に料理を創作するセンスは無かったねえ」
「うん、もう後半は感覚が一周して美味しいってなんだろう状態だったからね」
最終的にリンゴの豚肉巻きカツレツ風味をはじめ、訳のわからない生ゴミがたくさん出来上がってたからな。
新風なんて全く巻き起こせなかったね。
料理人ってすごい人々だったんだな。
「自分わかりましたよ。不味いとか美味しいとか、主観でしかないんですよ。善悪と同じなんです」
東くんなんて料理を通して勇者として大切な価値観がなにやらグラグラしだしたからな。
この子まだグラグラしてるわ。
いやいや、今日は向田さんの御披露目会だからな。
気を取り直して気合い入れんと。
……いや別に俺たちが気合い入れる必要ないか。
気合いいれて突っ立って傍観していよう。
「向田さん大丈夫?」
「う、うん多分……大丈夫かな?」
おじいちゃん緊張しまくりじゃないか。
なんか足が震えてるわ。
足がぷるぷるぷるぷるしてるわ。
あ~大変だこれ。
「向田さんあの雲出そう。それ乗って移動しよう」
起きてる向田さんとはじめて会った時に乗ってた雲、あれに乗せて移動させよう。
自分の足で歩かせたらこの人なにもないとこでもひっくり返りそうだ。
「そ、そうじゃね」
向田さんは魔法の袋から雲を出して乗る。
「勇者様方、こちらへ」
執事っぽい人に案内させられて控室みたいなとこに通される。
今は城のでっかいテラスみたいなとこで王様が国民に演説してる最中だ。
なにやら町の広場が一望できて国民がめちゃくちゃ集まってるから演説する用のとこなんだろうな。
広場からもこっちがよく見えるはずだ。
「この国の神話に出てくる向田様は確かにおられたのだっ、一万年も前から我々を守っていてくださったっ。この国を訪れた勇者方と私の二人の息子、そして第三騎士団の精鋭達が向田様の国につながる扉を見つけ、封印を解いて向田様を解放してくれたのだっ」
「「「「「うおおおおおっ!!!!!!」」」」」
国民の盛り上がりがすごい。
そういえばこの国来た時もなんかこんな大騒ぎだったな。
そういう国民性なんだろうか?
そして第三騎士団の隊長や隊員達、カワウソやら他のパーティーメンバーに勲章とか授けたり、王子二人を誉めたり、なぜかブーちゃんの四股を披露したりしてから向田さんの出番になった。
「向田さん、頑張って」
「そうだぞじい様、国民などかぼちゃの集まりだと思えばよいのだ」
「向田さんなら大丈夫ですよ」
「う、うむ、頑張るよ」
勇者勢が激励する。
向田さんはまだガチガチだが。
「……向田さんなら大丈夫、頑張ってください」
最後に鈴木さんの激励が飛ぶ。
「……うん、頑張ろう」
お、鈴木さんの激励で向田さんに気合いが入ったかな。
「向田様、こちらへ」
執事っぽいひとに案内させられて向田さんはテラスみたいなとこに出ていく。
「……ん?」
「何?」
「なんだ、光が……」
パーティーメンバーや王族達が騒いでいる。
向田さんが雲に乗ってテラスに出ていった瞬間からなにやら辺り一面に光の玉みたいのがふわふわし出したからだ。
なんだこれ?
あ、向田さんのところ中心に光の玉がふわふわしてるが、よく見たらそこかしこで光の玉がふわふわしてる。
……これ無花果の世界樹から出てんな。
国民集まってる広場、城、多分この世界樹全体から光の玉が溢れてるはずだ。
世界樹が気をきかせてくれたんだろうか?
木だけに……。
「おお、救い主様」
「おお、ありがたや」
「おお、なんということじゃ」
「神話はまことであったのか」
「なんと眩い」
国民が涙を流しながら向田さんを拝んだり跪いたりしている。
騎士や王様達もまた泣いてるわ。
まあ、でも拝みたくなるのもしょうがないわな。
もうビジュアルが神様か、天国に行っちゃったおじいちゃんかだからな。
どっちに転んでも拝まれる対象だわ。
……俺も拝んどこうかなって気持ちになるな。
なにやらご利益がありそうだ。
「……え~」
神様スタイルの向田さんが何かを話そうとしている。
「本日はお日柄もよく、えー、晴々しい天気にも恵まれ、えー、あー」
……向田さんど緊張したままだったわ。
そして向田さんの演説が終わった。
なぜか校長先生の朝礼みたいに「継続は力なりっ」とか最終的に言ってたが、国民は最初から最後まで泣き通しだったからなんでも良かったんだろう。
多分あの場で向田さんがサラリーマン川柳読み始めても泣いてたんじゃないだろうか。
「いやあ、ワシ何しゃべってた?継続は力なりとか言ってたような気がするんじゃが、なんでそんなこと言ったんじゃろう」
向田さんは記憶飛ぶくらい緊張してたらしい。
「さて、なんにしてもこれで一通り解決かな」
「龍臣、なんだっけな?あの毒電波?だかはどうなったんだ」
京が曖昧な記憶を手繰り寄せるように話かけてくる。
あ~そうだったわ。
そんなんあったな。えーと。
鑑定結果
封印されている毒電波は無花果の世界樹の真下海底5000メートルの辺りに封印されています。
ちなみに安田達を邪魔した崩壊の力がこの世界の魔物システムに干渉しており封印された毒電波が魔物化しそうになっています。
魔物化して地下で数が増えて地上に溢れて来たら大変な被害が出ます。
溢れるまでに23462年ほどかかります。
それと崩壊の力がこの国にいる一人の魔法使いのオッサンに反応してオッサンが魔王化しそうになっています。
魔王化まで2462年ほどかかります。
心のケアが必要です。
おおう、なんやねん。
……おお、えー?
なんだろうな。いつもと違ってめちゃくちゃ猶予があるな。
なんだろうなこの微妙な肩すかし感。
ナピーナップの王族達は向田さん達となんか色々話し合っている。
向田さんの国を昔あった場所、今のナピーナップに戻すか、新しい場所にするか、みたいなことが主な話し合いらしい。
まあ、俺を含めてうちのパーティーは話し合いに混ざっていないので全部なんとなく聞いた話だ。
多分昔あった場所に戻すんじゃなくて世界樹の別な場所に扉を移してみたいなのが濃厚だろう。
「安田様、王様が話がおありだそうです」
ん?話し合い終わったかな?
呼びに来た騎士と共に王族達の部屋に向かう。
「おお、安田殿、ようやく話がまとまったのだ」
部屋に入っていくとニコニコしてるヒゲ王様が話しかけてくる。
「向田さんの国どうすんのか決まりました?」
「うむ、やはり別な場所に扉を移すことになった」
ああ、やっぱそうなんだ。
しかし国の領土内に別な国が突然できるとかって大丈夫なんだろうか?
住民同士の軋轢みたいなのとか文化の壁みたいのとか国土の問題だとか……。
いやまあ、偉い人達がその辺りも全部含めて話し合った最終結果がこれなんだろう。
そもそも地図にダーツ刺してふらふら来た部外者の俺には関係ないとこだわな。
「それでだな。一度王都に戻って民達に救い主様を大々的に御披露目などしたいのだが、救い主様方と共に安田殿達も一緒に来てくれんか?」
ふむふむなるほどね。
「いいですよ。みんなに言っときますね」
「うむ、よろしく頼む」
というわけで俺達は二万才のおじいちゃんを連れてナピーナップの王都に行くことになった。
「うん、昔と比べて随分変わっているねえ」
向田さんが馬車の窓から町並みを見て呟いてる。
腰が悪いのか向田さんは杖を持ってる。
今は向田さんの国から飛行船で王都に戻り馬車で城に向かっているところだ。
町並みを見て変わっているねえ、とか言ってるが向田さんの知っているこの国の姿は一万年以上昔のヤツなわけだから、そりゃ色々変わってるだろう。
むしろ昔と一緒の町並みだったらちょっとしたホラーだよ。
「昔はスパゲッティー屋さんが多かったんだけどなあ」
え?
そんな位の違いしかないの?
昔と比べて商店街の店舗が変わってるね、位の違いしかないの?
一万五千年も経ってるのに?
……時の流れは残酷とか誰が言ったんだ。
「スパゲッティー屋さんが多かったんですか?」
思わず聞いてしまった。
「うん、たらこスパゲティーとかウニのスパゲティーとか出す店が多かったねえ」
一万五千年分の壮大な国の歴史の話してるはずなのにスパゲティーの種類の話されたわ。
なんだかな。
そして王城について使わせてもらってる部屋でみんなで一休みして夕食だ。
「うむ、ラーメンなんて久しぶりだ。一万五千年ぶり」
夕食のラーメンをみんなで食ってる時の向田さんのセリフだ。
スケールが小さいようでとんでもなくでかい。
「龍臣、向田のじい様が言ってたが、この国は昔はスパゲティ出す店がたくさんあったのか?」
気になってたのかラーメン食いながら京が聞いてきた。
「んん、ていうかこの世界は結構食文化がぐるぐるしてるんだ。色んな時代にちょいちょい日本人が来て自分の好きな食い物流行らすからな」
気になったから鑑定で調べてみたのだ。
二万年に来た日本人がパスタ流行らせたり、一万年前に来た日本人がラーメン流行らせたりする。
何万年規模の話だからな。
日本人が伝えても長い年月の間に文化が途絶えたり風化したりする。
そして文化が消えたところにまた日本人が現れて別なもの流行らせたりする。
だからもう世界中で食文化ごちゃごちゃなのよな。
「はあ、すごい話だね。まあどこでも口に合う食べ物があるのはいいよねえ」
鈴木さんがラーメン美味しそうに食いながら、栄養を体にたくさん蓄えられる能力の持ち主らしい発言をする。
うん、まあそうよね。
どこでも口に合う食べ物があるのはいいよね。
「じゃあ俺たちも異世界に何か食文化をもたらそうか」
せっかくだしなんか流行らせようぜ。
「ふむ、流行すとしたら例えば何?」
食べ物の話題が好きな鈴木さんが食いついてくる。
例えばそうだなあ……。
「……ハギスとか」
「ハギスって羊の胃袋に羊の内臓だか詰めた料理だよね。そもそも安田くんそれ食べたことあるの?」
いやないけどね。
なぜだかスコットランドの伝統料理が頭に浮かんだんだよね。
臭いとか不味いとか散々言われてたかわいそうなヤツ。
その名はハギス。
まあ、食べたことないんだけど。
「龍臣お前そもそも作り方すら知らんだろ」
吸血鬼にまっとうな突っ込みされたわ。
「……じゃあ、ブルートヴルスト」
「それ豚の血でできたソーセージだよね。安田くんなんでさっきから妙にあくが強いものばっかりなの?」
「違うんだよ。この世界だと日本にありそうな料理は大概あるんだよ。今からやろうと思ったら変化球な料理になるんだよ」
「いや、変化球過ぎるでしょ。変化しすぎてストライクゾーンから外れてるからね」
「……えーと、じゃあエスカルゴは?フランス料理の」
「いや~、ん~、カタツムリもどうなんだろうか?」
うーん、異世界料理は難しいな。
そもそもなぜ俺の頭には行ったこともない西ヨーロッパ系の食い物ばかり浮かんだんだろうか?
食べたことも無いし。
まあ、あれだな。
俺には異世界の食文化に新しい風を吹かせる才覚は無いってことだな。
「そういえば向田さんなにやら来週辺りにこの国の国民に挨拶するんですよね。大丈夫なんですか?」
ラーメン食い終わってまったりしていると東くんが思い出したように向田さんに語りかける。
「うん。そうなんだよねえ、なにを語ってもらっても構わないとか言われてるんだけど、そもそもワシ人前が苦手なんだよねえ」
向田さんが微妙に落ち込んでるような口調で話してくる。
まあ、元スパイだからな。
そりゃあ人前は苦手でしょうね。
……いや待て、2万年も経ってるのに?
もうなんか色々慣れてんじゃないのかな?
……何万年経とうが人間の本質はそんなに変わらんってことなんだろうか?
しかし向田さんの御披露目まで一週間もあんのか、暇だな。
「じゃああれだ。もうみんなで創作料理を異世界に流行らせよう。一週間暇だし」
「え~、まあ確かに暇だしね~」
俺たちの作った創作料理で異世界に新風を巻き起こそうぜ。
というわけであっという間に一週間が経過した。
「いや~、俺達に料理を創作するセンスは無かったねえ」
「うん、もう後半は感覚が一周して美味しいってなんだろう状態だったからね」
最終的にリンゴの豚肉巻きカツレツ風味をはじめ、訳のわからない生ゴミがたくさん出来上がってたからな。
新風なんて全く巻き起こせなかったね。
料理人ってすごい人々だったんだな。
「自分わかりましたよ。不味いとか美味しいとか、主観でしかないんですよ。善悪と同じなんです」
東くんなんて料理を通して勇者として大切な価値観がなにやらグラグラしだしたからな。
この子まだグラグラしてるわ。
いやいや、今日は向田さんの御披露目会だからな。
気を取り直して気合い入れんと。
……いや別に俺たちが気合い入れる必要ないか。
気合いいれて突っ立って傍観していよう。
「向田さん大丈夫?」
「う、うん多分……大丈夫かな?」
おじいちゃん緊張しまくりじゃないか。
なんか足が震えてるわ。
足がぷるぷるぷるぷるしてるわ。
あ~大変だこれ。
「向田さんあの雲出そう。それ乗って移動しよう」
起きてる向田さんとはじめて会った時に乗ってた雲、あれに乗せて移動させよう。
自分の足で歩かせたらこの人なにもないとこでもひっくり返りそうだ。
「そ、そうじゃね」
向田さんは魔法の袋から雲を出して乗る。
「勇者様方、こちらへ」
執事っぽい人に案内させられて控室みたいなとこに通される。
今は城のでっかいテラスみたいなとこで王様が国民に演説してる最中だ。
なにやら町の広場が一望できて国民がめちゃくちゃ集まってるから演説する用のとこなんだろうな。
広場からもこっちがよく見えるはずだ。
「この国の神話に出てくる向田様は確かにおられたのだっ、一万年も前から我々を守っていてくださったっ。この国を訪れた勇者方と私の二人の息子、そして第三騎士団の精鋭達が向田様の国につながる扉を見つけ、封印を解いて向田様を解放してくれたのだっ」
「「「「「うおおおおおっ!!!!!!」」」」」
国民の盛り上がりがすごい。
そういえばこの国来た時もなんかこんな大騒ぎだったな。
そういう国民性なんだろうか?
そして第三騎士団の隊長や隊員達、カワウソやら他のパーティーメンバーに勲章とか授けたり、王子二人を誉めたり、なぜかブーちゃんの四股を披露したりしてから向田さんの出番になった。
「向田さん、頑張って」
「そうだぞじい様、国民などかぼちゃの集まりだと思えばよいのだ」
「向田さんなら大丈夫ですよ」
「う、うむ、頑張るよ」
勇者勢が激励する。
向田さんはまだガチガチだが。
「……向田さんなら大丈夫、頑張ってください」
最後に鈴木さんの激励が飛ぶ。
「……うん、頑張ろう」
お、鈴木さんの激励で向田さんに気合いが入ったかな。
「向田様、こちらへ」
執事っぽいひとに案内させられて向田さんはテラスみたいなとこに出ていく。
「……ん?」
「何?」
「なんだ、光が……」
パーティーメンバーや王族達が騒いでいる。
向田さんが雲に乗ってテラスに出ていった瞬間からなにやら辺り一面に光の玉みたいのがふわふわし出したからだ。
なんだこれ?
あ、向田さんのところ中心に光の玉がふわふわしてるが、よく見たらそこかしこで光の玉がふわふわしてる。
……これ無花果の世界樹から出てんな。
国民集まってる広場、城、多分この世界樹全体から光の玉が溢れてるはずだ。
世界樹が気をきかせてくれたんだろうか?
木だけに……。
「おお、救い主様」
「おお、ありがたや」
「おお、なんということじゃ」
「神話はまことであったのか」
「なんと眩い」
国民が涙を流しながら向田さんを拝んだり跪いたりしている。
騎士や王様達もまた泣いてるわ。
まあ、でも拝みたくなるのもしょうがないわな。
もうビジュアルが神様か、天国に行っちゃったおじいちゃんかだからな。
どっちに転んでも拝まれる対象だわ。
……俺も拝んどこうかなって気持ちになるな。
なにやらご利益がありそうだ。
「……え~」
神様スタイルの向田さんが何かを話そうとしている。
「本日はお日柄もよく、えー、晴々しい天気にも恵まれ、えー、あー」
……向田さんど緊張したままだったわ。
そして向田さんの演説が終わった。
なぜか校長先生の朝礼みたいに「継続は力なりっ」とか最終的に言ってたが、国民は最初から最後まで泣き通しだったからなんでも良かったんだろう。
多分あの場で向田さんがサラリーマン川柳読み始めても泣いてたんじゃないだろうか。
「いやあ、ワシ何しゃべってた?継続は力なりとか言ってたような気がするんじゃが、なんでそんなこと言ったんじゃろう」
向田さんは記憶飛ぶくらい緊張してたらしい。
「さて、なんにしてもこれで一通り解決かな」
「龍臣、なんだっけな?あの毒電波?だかはどうなったんだ」
京が曖昧な記憶を手繰り寄せるように話かけてくる。
あ~そうだったわ。
そんなんあったな。えーと。
鑑定結果
封印されている毒電波は無花果の世界樹の真下海底5000メートルの辺りに封印されています。
ちなみに安田達を邪魔した崩壊の力がこの世界の魔物システムに干渉しており封印された毒電波が魔物化しそうになっています。
魔物化して地下で数が増えて地上に溢れて来たら大変な被害が出ます。
溢れるまでに23462年ほどかかります。
それと崩壊の力がこの国にいる一人の魔法使いのオッサンに反応してオッサンが魔王化しそうになっています。
魔王化まで2462年ほどかかります。
心のケアが必要です。
おおう、なんやねん。
……おお、えー?
なんだろうな。いつもと違ってめちゃくちゃ猶予があるな。
なんだろうなこの微妙な肩すかし感。
0
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
ファンタジー
薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。
そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。
舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。
舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。
以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・
「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。
主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。
前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。
また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。
以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
転生騎士団長の歩き方
Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】
たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。
【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。
【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。
善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です
しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。
リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?
あくの
ファンタジー
15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。
加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。
また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。
長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。
リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる