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ミナミくん、初めてのキス。
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小さく舌打ちをして呉凱がベッドから立ち上がる。そして南の横を通ってドアの前に立った。
「じゃあ、今客と一緒にこの部屋に入ってきたところな」
「はい」
「まず最初に客にキスしろ。思いっきりディープなやつな」
「はっ!?」
つい反射的に聞き返して南は我に返る。そう、ここはソープなのだ。客に対して擬似恋愛とセックスを提供する場だ。とは言え、ソープと聞いて泡踊りだの尺八だのホンバン行為だのを連想していた南にとって、一番簡単かつ最初のサービスとしてキスという行為があることはまったくの予想外だった。
それでも南は気を取り直すと、呉凱を自分の初めての客だと思って精一杯柔らかい表情を浮かべて近寄った。
「まず客の手を握れ」
そう言われて南は両手で呉凱の右手を取る。
(うわ、手のひら、すごい分厚い)
獣人とひと口にいってもその見た目も様々で、完全に『二足歩行している動物』にしか見えないのもいれば、人間にとても近い見た目に長い兎の耳だけがぴょっこり出ているような者もごく少数だがいたりする。どうやら元々の種族の違いだけでなく人間との混血度にもよる差もあるらしい。
呉凱は顔は完全に虎で、無造作にまくり上げた袖から伸びている太い腕は人間と同じような形をしているが虎縞の毛皮に覆われている。恐らく服に隠れている他の部分も同じような感じなのだろう。
手はとても大きくて分厚く、形としては人間とよく似ているがやはり全面に毛が生えていた。
(あ、でも肉球はないんだ)
さすがに職場の獣人相手でもこんな風に手を握り合ったりする機会などないので、実質南が獣人と肉体的な接触を試みるのはこれが初めてだ。思わず呉凱のがっしりと大きな手を取り、そっと撫でてみる。
(……あったかくて、手のひらは硬い。でも、甲の方は……?)
つい好奇心を押さえきれずに呉凱の手の甲を毛並みに沿って撫でると、予想外に滑らかな感触に思わずピクン、と肩が跳ねた。
(…………え、き、きもち、いい……っ)
昔住んでいたアパートの裏によくいた三毛猫の背中を思い出してなぜだか嬉しくなる。もっと撫でてみようとした時に、頭の上から低くて太い声が降ってきた。
「………………おい」
「え、あ、はいっ!」
(そうだった、今研修中だった!)
慌てて南は顔を上げ、呉凱の手をきゅっと握って言う。
「ミ、ミナミです。今日はよろしくお願いします」
(そ、それから、キス)
南はやぶれかぶれで目を閉じ、一生懸命背伸びをすると呉凱の唇に自分のものを重ねた。だがいかんせん身長差がありすぎてつま先立ちの身体がぐらり、と倒れそうになる。
「う、わっ」
「おっと」
すかさず呉凱が南の脇の下に手を入れて支えてくれた。
「あ、ありがとう、ございます……」
面接の初めに呉凱に「ちっちゃい」と言われて思わず腹を立てたが、これでは確かにチビ以外の何者でもない。そうなると先ほどムッとした顔をしてしまった自分がひどく恥ずかしくて思わず顔が赤くなった。
(だ、だめだ。なんとかこの店長さんにいいとこ見せて、雇って貰わないと)
そう決意して南は顎を上げ、眼鏡がぶつからぬよう、黒く濡れた呉凱の鼻先を避けるように首を少し傾げると、下からそっと彼の口に吸いついた。
ちろ、と舌先で探るように舐めてはまた吸う。そして大きく開けた口で甘噛みするようにそっと歯を立てると、呉凱がかすかに笑ったような気がした。
(こ、こんな風で、いいのかな……)
自慢じゃないが南は獣人はおろか人間相手でも誰かと付き合った経験がない。だから必死に相手がどうしたら喜んでくれるか、気持ちがいいかを考えて、拙いながらもキスをくり返す。
ちゅ、とまた吸いついて、ぺろりと舐める。尖らせた舌先で口の合わせ目をなぞると呉凱が口を開けてくれた。その隙間から思い切って舌を忍び込ませる。するとすぐに温かくてざらついた呉凱の濡れた舌に触れて思わず声を上げた。
「っ、ひゃ」
「なんだ」
呉凱が首を傾げて南を見下ろしたのに慌てて首を振る。まさかセックスどころかキスも未経験だとバレればさすがに雇ってもらえなさそうな気がした。
南はもう一度覚悟を決めると、今度は思い切って大胆に呉凱の濡れた厚い舌に絡めて深く口付ける。するとそれまで南のなすがままだった呉凱が突然南の舌を軽く噛んでさらに引き込もうとした。思わず驚いて肩がビクン! と跳ねる。
「ミナミ、客に何されても動揺だけはするな。足元見られていいようにされるぞ」
わずかに開いた口の隙間からそう言われて、南は瞬きで首肯する。そして片手を呉凱の太い胴に回してさらに背中を反らせると、呉凱に精一杯気持ちを込めたキスをした。
「そのくらいでいい」
呉凱が南の胸を押して知らせる。南はふらつきそうになる両足を叱咤して、なんとか呉凱の前に立った。
「次は客の服を脱がせろ」
南は言われた通りにまた背伸びをして、呉凱の腕まくりした白いワイシャツのボタンを一つずつ丁寧に外していく。それを盛り上がった逞しい肩から落としてその下のTシャツも脱がせようと引っ張った。だがあまりに呉凱の背が高すぎて頭が抜けそうにない。南は少し考えて、呉凱に頼んだ。
「あの……すみません。少し、屈んで貰えますか……?」
するとニヤリ、と笑って呉凱が上半身を折り曲げる。今まで一度も見えなかった呉凱の頭のてっぺんの、両耳の間の丸みがなんとなく可愛らしくて知らず口元が緩んだ。
「ありがとうございます」
そう言って脱がせた服をベッドに置くと、今度は呉凱の前に膝立ちになり、ベルトのバックルを外して黒いスラックスを落とす。そして現れたボクサーの膨らみのあまりの大きさに一瞬南の息が止まった。
(ス、スゴイ…………)
思わずごくり、と唾を呑み込んだ南に気づいたのか、上から呉凱の声が降って来る。
「言っとくが勃っちゃいねぇぞ」
「え、ウソ」
「ウソじゃねーって」
(た……勃ってなくて、これだけ大きいの……っ?)
なんというか、スゴイ、という言葉しか浮かんでこない。一瞬手が止まったのを、南が怯えているのだと勘違いしたのか、呉凱が言った。
「どうする、怖けりゃ止めとくか?」
「え? い、いいえ、やります」
「なら次はパンツも脱がせ。せいぜいエロい雰囲気出せよ」
「はい」
南は呉凱の前に膝立ちになったまま、下から見上げて呉凱のボクサーパンツに手をかける。そしてその目を捕らえたままゆっくりと、肌に手を這わせるようにしてボクサーを下ろしていった。呉凱が足を抜いたところで初めてナマで呉凱のモノを見る。
今まで南が見たことのある他人のブツは、せいぜい前の世界でネットでこっそり見ていたゲイポルノのモデルのナニぐらなものだ。そんな映像に出演するくらいだから確かに彼らのモノは大きかったが、それにしたって呉凱のソレは迫力が違った。
南の片手では余りそうなほど太い竿に大きくエラの張った亀頭。そしてずっしりと重そうな陰嚢がぶら下がっている。
(こ……これから、コレを触ったり、い、いろいろするんだ……)
またしてもごくり、と生唾を飲み込む。今、自分が不安や恐怖よりもずっと激しく興奮しているのを、南はまざまざと感じていた。
なにせ南はおのれの性癖に気づいた頃から自分の中を男の肉棒で荒々しく突かれるさまを想像しながら指だのなんだので自慰をしてきたのだ。だが実際にホンモノをくわえ込んだことはまだ一度もない。
初めて間近に男のモノを目の前にして、例え相手が恋人でもなんでもなくアルバイト先の店長さんであったとしても興奮するなと言う方が無理な話だった。
「そんじゃ次、お前の番な」
呉凱の声に南はハッと我に返る。そして立ち上がると呉凱の指示通り精一杯いやらしい雰囲気を匂わせようと自身のボクサーパンツのウエストに指を入れた。
(…………きっつ……!)
あまりにピッタリ張り付いているせいでなかなか脱げないそれを、南は腰をくねらせながら必死に脱ごうとする。それを見ながら呉凱が「なかなか上手いじゃねぇか」と言って南は思わず顔を上げた。
「いつもそうやってやらしい感じで脱げよ」
「…………わ、わかりました」
怪我の功名とでも言おうか、予想外の効果に南はホッと内心胸を撫で下ろしながらやっとのことでその小さなボクサーを脱いだ。
「じゃあ次、風呂な。ところでお前、眼鏡どうする」
「え、あ、かけたままだと曇りますよね。でも俺、これ取るとなんにも見えないんですが……」
元々視力が悪かった南だが、この世界に飛ばされてきた時に服は着ていたのになぜか眼鏡がなかった。だから苦労して手に入れた獣人用のややサイズの大きい眼鏡は命の次に大事なものだったりする。
「まあ、本番ん時はコンタクト入れればいいだろ。今日のとこはそこに置いといて、足元気をつけて中入れ」
そう言って呉凱が片手を突き出す。一瞬その意味がわからなかった南だが、それが自分が危なくないように手を取ろうとしてくれているのだと気づいて思わず俯いた。
正直、こっちに来てからこんな風にストレートに誰かに気遣われたことなど数えるほどしかない。突然の呉凱の優しさに急に感情が昂りそうになって、南は慌てて気を引き締めた。
眼鏡を棚に置き、差し出された手を取ってバスルームへと歩き出す。形としては南が呉凱をエスコートする格好だが、実際は呉凱が南の手を引いて転ばないように連れて行ってくれた。
(……やっぱり、優しいな、この店長さん)
そう思いながら南は中を見回す。眼鏡のない視界はぼんやりとぼやけていたが、そこがなかなかの広さで、大きな湯船と壁には空気で膨らませた大きなバスマット、そして洗い場の中央には深い溝のある椅子がサイズ違いでいくつか置いてあるのはわかった。
「じゃあ、今客と一緒にこの部屋に入ってきたところな」
「はい」
「まず最初に客にキスしろ。思いっきりディープなやつな」
「はっ!?」
つい反射的に聞き返して南は我に返る。そう、ここはソープなのだ。客に対して擬似恋愛とセックスを提供する場だ。とは言え、ソープと聞いて泡踊りだの尺八だのホンバン行為だのを連想していた南にとって、一番簡単かつ最初のサービスとしてキスという行為があることはまったくの予想外だった。
それでも南は気を取り直すと、呉凱を自分の初めての客だと思って精一杯柔らかい表情を浮かべて近寄った。
「まず客の手を握れ」
そう言われて南は両手で呉凱の右手を取る。
(うわ、手のひら、すごい分厚い)
獣人とひと口にいってもその見た目も様々で、完全に『二足歩行している動物』にしか見えないのもいれば、人間にとても近い見た目に長い兎の耳だけがぴょっこり出ているような者もごく少数だがいたりする。どうやら元々の種族の違いだけでなく人間との混血度にもよる差もあるらしい。
呉凱は顔は完全に虎で、無造作にまくり上げた袖から伸びている太い腕は人間と同じような形をしているが虎縞の毛皮に覆われている。恐らく服に隠れている他の部分も同じような感じなのだろう。
手はとても大きくて分厚く、形としては人間とよく似ているがやはり全面に毛が生えていた。
(あ、でも肉球はないんだ)
さすがに職場の獣人相手でもこんな風に手を握り合ったりする機会などないので、実質南が獣人と肉体的な接触を試みるのはこれが初めてだ。思わず呉凱のがっしりと大きな手を取り、そっと撫でてみる。
(……あったかくて、手のひらは硬い。でも、甲の方は……?)
つい好奇心を押さえきれずに呉凱の手の甲を毛並みに沿って撫でると、予想外に滑らかな感触に思わずピクン、と肩が跳ねた。
(…………え、き、きもち、いい……っ)
昔住んでいたアパートの裏によくいた三毛猫の背中を思い出してなぜだか嬉しくなる。もっと撫でてみようとした時に、頭の上から低くて太い声が降ってきた。
「………………おい」
「え、あ、はいっ!」
(そうだった、今研修中だった!)
慌てて南は顔を上げ、呉凱の手をきゅっと握って言う。
「ミ、ミナミです。今日はよろしくお願いします」
(そ、それから、キス)
南はやぶれかぶれで目を閉じ、一生懸命背伸びをすると呉凱の唇に自分のものを重ねた。だがいかんせん身長差がありすぎてつま先立ちの身体がぐらり、と倒れそうになる。
「う、わっ」
「おっと」
すかさず呉凱が南の脇の下に手を入れて支えてくれた。
「あ、ありがとう、ございます……」
面接の初めに呉凱に「ちっちゃい」と言われて思わず腹を立てたが、これでは確かにチビ以外の何者でもない。そうなると先ほどムッとした顔をしてしまった自分がひどく恥ずかしくて思わず顔が赤くなった。
(だ、だめだ。なんとかこの店長さんにいいとこ見せて、雇って貰わないと)
そう決意して南は顎を上げ、眼鏡がぶつからぬよう、黒く濡れた呉凱の鼻先を避けるように首を少し傾げると、下からそっと彼の口に吸いついた。
ちろ、と舌先で探るように舐めてはまた吸う。そして大きく開けた口で甘噛みするようにそっと歯を立てると、呉凱がかすかに笑ったような気がした。
(こ、こんな風で、いいのかな……)
自慢じゃないが南は獣人はおろか人間相手でも誰かと付き合った経験がない。だから必死に相手がどうしたら喜んでくれるか、気持ちがいいかを考えて、拙いながらもキスをくり返す。
ちゅ、とまた吸いついて、ぺろりと舐める。尖らせた舌先で口の合わせ目をなぞると呉凱が口を開けてくれた。その隙間から思い切って舌を忍び込ませる。するとすぐに温かくてざらついた呉凱の濡れた舌に触れて思わず声を上げた。
「っ、ひゃ」
「なんだ」
呉凱が首を傾げて南を見下ろしたのに慌てて首を振る。まさかセックスどころかキスも未経験だとバレればさすがに雇ってもらえなさそうな気がした。
南はもう一度覚悟を決めると、今度は思い切って大胆に呉凱の濡れた厚い舌に絡めて深く口付ける。するとそれまで南のなすがままだった呉凱が突然南の舌を軽く噛んでさらに引き込もうとした。思わず驚いて肩がビクン! と跳ねる。
「ミナミ、客に何されても動揺だけはするな。足元見られていいようにされるぞ」
わずかに開いた口の隙間からそう言われて、南は瞬きで首肯する。そして片手を呉凱の太い胴に回してさらに背中を反らせると、呉凱に精一杯気持ちを込めたキスをした。
「そのくらいでいい」
呉凱が南の胸を押して知らせる。南はふらつきそうになる両足を叱咤して、なんとか呉凱の前に立った。
「次は客の服を脱がせろ」
南は言われた通りにまた背伸びをして、呉凱の腕まくりした白いワイシャツのボタンを一つずつ丁寧に外していく。それを盛り上がった逞しい肩から落としてその下のTシャツも脱がせようと引っ張った。だがあまりに呉凱の背が高すぎて頭が抜けそうにない。南は少し考えて、呉凱に頼んだ。
「あの……すみません。少し、屈んで貰えますか……?」
するとニヤリ、と笑って呉凱が上半身を折り曲げる。今まで一度も見えなかった呉凱の頭のてっぺんの、両耳の間の丸みがなんとなく可愛らしくて知らず口元が緩んだ。
「ありがとうございます」
そう言って脱がせた服をベッドに置くと、今度は呉凱の前に膝立ちになり、ベルトのバックルを外して黒いスラックスを落とす。そして現れたボクサーの膨らみのあまりの大きさに一瞬南の息が止まった。
(ス、スゴイ…………)
思わずごくり、と唾を呑み込んだ南に気づいたのか、上から呉凱の声が降って来る。
「言っとくが勃っちゃいねぇぞ」
「え、ウソ」
「ウソじゃねーって」
(た……勃ってなくて、これだけ大きいの……っ?)
なんというか、スゴイ、という言葉しか浮かんでこない。一瞬手が止まったのを、南が怯えているのだと勘違いしたのか、呉凱が言った。
「どうする、怖けりゃ止めとくか?」
「え? い、いいえ、やります」
「なら次はパンツも脱がせ。せいぜいエロい雰囲気出せよ」
「はい」
南は呉凱の前に膝立ちになったまま、下から見上げて呉凱のボクサーパンツに手をかける。そしてその目を捕らえたままゆっくりと、肌に手を這わせるようにしてボクサーを下ろしていった。呉凱が足を抜いたところで初めてナマで呉凱のモノを見る。
今まで南が見たことのある他人のブツは、せいぜい前の世界でネットでこっそり見ていたゲイポルノのモデルのナニぐらなものだ。そんな映像に出演するくらいだから確かに彼らのモノは大きかったが、それにしたって呉凱のソレは迫力が違った。
南の片手では余りそうなほど太い竿に大きくエラの張った亀頭。そしてずっしりと重そうな陰嚢がぶら下がっている。
(こ……これから、コレを触ったり、い、いろいろするんだ……)
またしてもごくり、と生唾を飲み込む。今、自分が不安や恐怖よりもずっと激しく興奮しているのを、南はまざまざと感じていた。
なにせ南はおのれの性癖に気づいた頃から自分の中を男の肉棒で荒々しく突かれるさまを想像しながら指だのなんだので自慰をしてきたのだ。だが実際にホンモノをくわえ込んだことはまだ一度もない。
初めて間近に男のモノを目の前にして、例え相手が恋人でもなんでもなくアルバイト先の店長さんであったとしても興奮するなと言う方が無理な話だった。
「そんじゃ次、お前の番な」
呉凱の声に南はハッと我に返る。そして立ち上がると呉凱の指示通り精一杯いやらしい雰囲気を匂わせようと自身のボクサーパンツのウエストに指を入れた。
(…………きっつ……!)
あまりにピッタリ張り付いているせいでなかなか脱げないそれを、南は腰をくねらせながら必死に脱ごうとする。それを見ながら呉凱が「なかなか上手いじゃねぇか」と言って南は思わず顔を上げた。
「いつもそうやってやらしい感じで脱げよ」
「…………わ、わかりました」
怪我の功名とでも言おうか、予想外の効果に南はホッと内心胸を撫で下ろしながらやっとのことでその小さなボクサーを脱いだ。
「じゃあ次、風呂な。ところでお前、眼鏡どうする」
「え、あ、かけたままだと曇りますよね。でも俺、これ取るとなんにも見えないんですが……」
元々視力が悪かった南だが、この世界に飛ばされてきた時に服は着ていたのになぜか眼鏡がなかった。だから苦労して手に入れた獣人用のややサイズの大きい眼鏡は命の次に大事なものだったりする。
「まあ、本番ん時はコンタクト入れればいいだろ。今日のとこはそこに置いといて、足元気をつけて中入れ」
そう言って呉凱が片手を突き出す。一瞬その意味がわからなかった南だが、それが自分が危なくないように手を取ろうとしてくれているのだと気づいて思わず俯いた。
正直、こっちに来てからこんな風にストレートに誰かに気遣われたことなど数えるほどしかない。突然の呉凱の優しさに急に感情が昂りそうになって、南は慌てて気を引き締めた。
眼鏡を棚に置き、差し出された手を取ってバスルームへと歩き出す。形としては南が呉凱をエスコートする格好だが、実際は呉凱が南の手を引いて転ばないように連れて行ってくれた。
(……やっぱり、優しいな、この店長さん)
そう思いながら南は中を見回す。眼鏡のない視界はぼんやりとぼやけていたが、そこがなかなかの広さで、大きな湯船と壁には空気で膨らませた大きなバスマット、そして洗い場の中央には深い溝のある椅子がサイズ違いでいくつか置いてあるのはわかった。
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