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「……大丈夫ですか?」
 ゲオルグの声がする。アリスティドが強張った腕から力を抜くと、ゲオルグが「抜きますよ」と言ってゆっくりと腰を引いた。
「…………っふ、……っ」
 ずるずると抜けていく感覚にアリスティドはたまらず呻く。するとゲオルグがアリスティドの背中を支えて積んだ布団にもたれさせた。
「水です」
 あらかじめ用意していたのか、ゲオルグが口元にグラスを当てる。アリスティドは酷い乾きに気づいて一心不乱に飲み下そうとしたが、手も口も喉も思うように動かせずに零してしまった。
「……っ、あ」
 ゲオルグが黙って濡れた場所をぬぐう。そしてグラスを支えて少しずつアリスティドの口へ水を流し込んでくれた。
「……すまん」
 そう答えたつもりだったが散々あえいだ喉が痛くて声が出ない。まるでアリスティドの様子を窺うようにじっと見つめるゲオルグを見返して、気が付いた。
「…………ゲオルグ、……それ」
 ゲオルグがアリスティドの視線の先を追う。そして自分の股間を見て呟いた。
「ああ」
 ゲオルグのモノはいまだにガチガチに勃起したままだった。その怒張の猛々しさに、無意識のうちにアリスティドはごくり、と唾を呑み込む。
「ゲオルグ、お前、まだ……」
「俺はいいんですよ」
 ゲオルグはそう言うと、タオルでアリスティドの額をぬぐう。
「早く汗を拭かないと風邪をひく。それとも湯を使いますか?」
「……っ、だが」
 するとゲオルグがアリスティドを見て言った。
「俺は奉仕委員です。俺の仕事は貴方を気持ちよくすることで、自分がいい思いをすることではないですから」
「っな…………ッ」
 思わずアリスティドは茫然とゲオルグを見つめる。だがゲオルグはそんなアリスティドに構わず、汗や精液で汚れたアリスティドの身体を拭き、傍らの籠から出した部屋着を着せながら答えた。
「俺たち奉仕委員を呼ぶのは何も男子生徒ばかりではありません」
 ということは女子生徒で奉仕委員を呼ぶ者がいるということか。
「え、本当に?」
 驚きについ声を上げたアリスティドにゲオルグが「シッ」と人差し指を自分の口に当てる。
「気を付けて。そろそろ祈りの鐘が鳴る頃です」
「……え、あ、ああ」
 そうなればどこの部屋も静まり返って、声が響きやすくなる。するとゲオルグがグラスに残った水でタオルを濡らして言った。
「少しヒヤッとします。我慢して下さい」
「んっ」
 濡れたタオルで散々犯された後腔をぬぐわれ、アリスティドは身を竦める。だが思うさま擦られ続けてぽってりと熱を持ったソコに濡れた水の感触は気持ちが良かった。丁寧にそこを綺麗にしながら、ゲオルグがまた言った。
「女子の場合は同じ女子委員を呼ぶ者が多いですが、特に希望がなければ男子の委員が行くこともある。実際、呼んだ生徒と委員との間で何をするかはそれぞれですが、万が一にも女子が妊娠だのなんだのといった問題を起こすわけにはいきませんから」
「……え、では……」
 口ごもるアリスティドを、ゲオルグがちら、と見る。
「俺たちは相手が望むことならなんでもしますが、自分がイくことだけは許されてないんです」
 そう言うとゲオルグは立ち上がり、床に落ちていたシャツを着る。そして勃起したままのモノが引っかからぬように慎重にスラックスを履いて言った。
「では、失礼します」
「え、あ、おい、ゲオルグ」
「疲れたのならこのまま寝て下さい。毛布はちゃんと被るように」
 ゲオルグは汚れたタオルを拾って扉の方へと向かう。
「お休みなさい。アリスティド先輩」
 そう言って、あっさりと姿を消してしまった。アリスティドはただ呆然と閉まったドアを見つめる。
 薄暗い部屋の外からかすかに生徒たちのざわめきと足音が聞こえてくる。おそらく夕拝の鐘に備えて談話室などから戻ってきているのだろう。
 アリスティドは力を抜いて、ゲオルグが積んだ毛布にもたれて深々と息を吐き出す。
 まだ身体の奥深くに熱が残っているような気がする。じんじんと疼く後腔。初めての責めと愛撫に尖ったままの乳首が部屋着に擦れて甘やかな痺れが走る。
 ぼんやりとゲオルグが出て行ったドアを見つめながら、アリスティドは考えた。
 今までゲオルグは、自分を嫌っているからこんな仕打ちをするのだと思っていた。嫌いだからアリスティドを快楽漬けにして、性的な交わりがなくては生きていけないような淫らな身体に変えてしまったのだ、と。
 だがゲオルグがアリスティドに与える快感はあまりにも容赦がないのに、触れる手と舌だけはいつでも思わず叫びだしたくなるほど丁寧で優しい。そしてその言葉も。そのことがひどくアリスティドを混乱させる。
(本当に、あいつという男がわからない)
 腹が読めず行動も予測できない相手を身近に置くことは、ほんの一つの瑕瑾が命取りになる貴族社会においては浅慮はなはだしい行為だ。なのにどうしても彼の手を拒めない。
(……欲のせいだ。この腹立たしい肉欲がそうさせるんだ)
 それにしても、とアリスティドは思う。
(なぜあいつは奉仕委員などという仕事についているのだろうか)
 自分を馬鹿にした何歳も年上の上級生を殴り飛ばすことを躊躇わないような男が、なぜ。
 どれほど考えても答えはわからず、アリスティドはゲオルグに言われた通り毛布を引き寄せ頭まで被る。結局夕食を取らず仕舞いだったか少しも腹は減っていなかった。
(……身体が、あたたかい)
 そしてアリスティドはゲオルグに貫かれた熱を孕んだままの身体を抱えて、数日ぶりの深い眠りに落ちた。
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