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「タオル敷きますから」
 そう言ってゲオルグがベッドに寝転がったままのアリスティドを促した。
「…………待ちくたびれて眠い。起きれん」
 素直に従うのも腹立たしくてそんな憎まれ口を叩いたがゲオルグは気にした様子もなく、見た目に寄らぬ丁寧な所作でアリスティドの背中を支えてベッドに座らせる。
「……立つのが面倒だ」
「そうですか」
 ゲオルグはやはり淡々と答えてアリスティドの手を取り、引っ張り上げた。

 いつも彼が持参してくる大きな沐浴用のタオルをベッドに敷くゲオルグの背中を見下ろしながら、アリスティドは思う。
 ゲオルグはどれほどアリスティドがくだらない要求やいちゃもんをつけても決して怒らない。それどころかまるで何の感情も返さない。その証拠に今もこうして文句を言うだけで何も手伝わずただ突っ立っているだけのアリスティドに苛立つ様子も見せず、一人で黙々と準備をしている。
 汚さぬようベッドや枕に敷く厚手のタオル。そしてゲオルグが枕元に置いた香油を見て思わず顔が熱くなった。未だにそういったものに慣れることができずに直視できない。だがそんな自分に気づかれぬようさりげなく視線をそらそうとした時、ゲオルグが勢いよく着ていたシャツを脱ぎ捨てて上半身裸になった。
 ポロや乗馬で普段から意識して鍛えるようにしているアリスティドよりも遥かに逞しく厚い筋肉に覆われた身体に、一瞬目を奪われる。それが同じ男としての悔しさからなのか、それとももっと別の感情がそうさせるのか、アリスティドは努めて考えないようにしていた。

「どうしますか? 貴方も脱ぎますか?」
 ゲオルグが尋ねる。
「……寒いからいい」
「そうですか」
 本当は寒いなんて嘘だ。今もアリスティドの身体はこれから始まることに興奮して、かつてないほど敏感になっている皮膚の下で沸々と滾り始めている。けれどそれをあっさりと見破られてしまうのは絶対に嫌だった。

「さあどうぞ、アリスティド先輩」
 そうだ、とアリスティドは思い出す。
(あの時も、こいつはそう言った)
――――さあどうぞ、アリスティド先輩。
 アリスティドを仰向けに寝かせ、足元に跪いたゲオルグの手がアリスティドの膝を掴む。そして触れそうなほど近くまで顔を寄せて囁いた。
「力を抜いて。貴方は何もしなくていい」
 低く、腹に響く声でアリスティドの耳に忍び込んでくるその言葉が合図のように、ゾクゾクと背筋を得体の知れない何かが這い上がって来る。

 意外に長いまつ毛を伏せてソコに近づくゲオルグから目が離せない。
 そう、あの初めての夜、アリスティドは同性で年下のこの男に、今までまったく知らなかった快感を教えられた。
 明け透けに言えばその日ゲオルグがしたことは単にアリスティドのモノを握って扱いて射精させただけだ。たかが抜き合い、四六時中顔を付き合わせて共同生活を送る寄宿学校ではよくあることだ、と言われるかもしれない。それでもアリスティドにはそれまでの常識や理性が吹っ飛ぶほどの衝撃だった。
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