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後日談やおまけなど

カイの過去と未来と緑の大地(3)

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「こ、こんなの絶対嘘だ! ありえない!!」

 そう叫んだ途端、パッと意識が砂漠の塔に戻る。

『え、でもこういう未来だってアリじゃない? ちなみにこの後、君はアル・ハダールの神子じゃなくてイシュマール大陸全土を支配する力を持つ偉大なるラハルの化身としてあらゆる民に崇拝されながら生涯を送るっていう感じで……』 
「いやいやいやいや、ないから! ちょっと待って!」 

 僕は思いっきり深呼吸をしてきっぱりと言う。

「僕はそんな、大陸を支配するすごい人とかになるつもりは全然ない!」
『なんで? だって君には力があるんだよ? それこそ全知全能のチートがさ。使わなきゃ損じゃん。それに君だって主人公無双好きだろ? そういう話いっぱい読んでたじゃないか』

 確かにそうだ。でも。
 僕はなんとか気持ちを落ち着けて、彼に向かって話した。

「確かにこの世界に来る前の僕はコンプレックスばかり強くて人付き合いも下手で、だから特別顔がいいとか何かすごい力があるだとか、そういうのにすごく憧れてた」

 彼の言う通り、あの日教室で突然この世界に飛ばされた直前にちょうど僕はそのことを考えていた。そんな僕の願望が、この男にアバターとして選ばれた一因だったんだと思う。

「……でも、実際この世界に来て突然唯一無二の《慈雨の神子》だなんて言われても、僕は素直にその『幸運』を受け取れなかった」
『ああ、そういえば初めて登ったエルミランの山頂で、君は『こんな棚ぼた式に得た力なんて到底誇れることじゃない』って思ってたよね。あの二人の隣に並んで立てる理由にはならない、って』

 まるで僕の頭の中まで覗き見ているような彼の発言が気持ち悪い。でも言ってることは合ってる。

「もっと僕が自分に自信があって、そんな力を得たことが自分自身の幸運だと思えていたら、あなたが望んだように物語の主人公らしく派手に力を使いまくって、無双の活躍ができたと思う。でも結局僕はそんな器じゃない。っていうか、そういうことができる性格じゃないんだ」
『うーん、性格とか言われちゃうと、こっちとしてもどうしようもないねぇ』

 小馬鹿にされてる感じがして、ぐっと言葉に詰まる。でも本当のことなんだから仕方がない。

「僕は、全部いろんなことをひっくり返して解決しようとして、歴史を改変するなんていう一番大きな力の使い方をした。でも結果はどうだ。確かに水不足は解決して助かった命はたくさんあったのかもしれないけど、サイードさんの腕はなくなってしまった」

 鋼鉄の大槍で僕をあのエイレケのアダンから助けてくれて、旅の間に弓矢でたくさんの獲物をとってきてくれて、そして僕を抱きしめ愛してくれたサイードさんの右腕を思い出す。強くて逞しくて頼もしくて、そしてとても優しい手だった。

「わかったんだ。どんなにすごいチートな能力をもってしても、何もかもを100パーセント完全に解決できる方法なんてない。それにそういう力を振るうってことは、この世界で積み重ねられてきた皆の人生とか苦労とか努力を全部なかったことにしてしまうのと同じだ。僕はそういうのは嫌なんだ」

 そうだ。僕は前に一度、サイードさんになくした腕を元通りにするかどうかを聞いた。でもサイードさんは断った。その理由は今僕が考えていることと同じなんだと思う。
 僕はどこからか見ている相手に向かって声を張り上げた。
 
「だから僕はもう《神子の力》は使わない。この先もこの世界で生きていくのなら、棚ぼたの力に頼るんじゃなくて、僕自身が努力して成長して、いろんなことに立ち向かっていきたいんだ!」

 そう、だから、一応サイードさんに腕のこと、あと一度だけ聞いて、そしたらもう二度と。
 僕は固唾をのんで彼の反応を待つ。
 多分、僕の出した結論は向こうにとってすごくつまんないことだ。そんな面白くもないキャラクターは排除されてしまうだろうか。新しい主人公と入れ替えられてしまうだろうか。

『……確かにつまんないよね』

 するとやっぱり僕の考えを読んだように、彼は言った。

『だってさぁ、君みたいにやたら理屈っぽくて内省的すぎるキャラってとにかく動かないし、スカッとしないし、こっちだって現実の憂さを晴らしたくてマンガとかゲームとか小説とか見たり読んだりするわけじゃん。主人公がもっとバーン! と活躍して、それこそエイレケの王族倒して国乗っ取ってあのもう一人の彼氏にプレゼントしてあげるとかさぁ、そういうの見たいじゃん』

 はぁ、とものすごいため息をつかれた気がする。

『でもさぁ、なんとなくわかるんだよね。わかっちゃうんだよ。僕も』
「え?」
『だって、言ったじゃん。最初に。僕と君は似てるんだよ、すごく。だから僕のアバターとして向こうから持って来たんだから』

 こっちとしては人の人生を弄ぶような男に似ているなどと言われたくない。するとしばしの沈黙の後、彼が言った。

『……そんなにさ、うまくいきっこないよね。例え物語の中であっても。そんなブレーキをかけちゃうんだよ、心の中で。物語の中でぐらい超ご都合主義を楽しめばいいのに。いやんなるね』
「ははっ」

 わかりすぎるくらいわかるその言葉に思わず笑ってしまう。

『それにさ、苦労して苦労して積み重ねた努力とか経験の上に成り立つ小さな成果の方が嬉しい気持ちもわかっちゃうんだよ、僕も』

 それからしばらくして、彼は言った。

『まあ、いいよ。好きに生きなよ。それもまあ見てて楽しい物語だと思うし。とりあえずこのエリアはこのままにしとくし。万が一何か新しいプロジェクトでここを使うってなったとしても、時間操作して帳尻合わせるとかして君がそこにいる間はそのままってことにしとくし、ほかのやつらにも申し送りしとくし』
「――――ありがとう」

 少しためらいはあったけど、でも僕は彼にお礼を言った。

「……じゃあ」
『ん』

 これが最後の別れだ。だってもう僕は二度とここには来ない。
 僕は再び意識を集中してここから離脱しようとする。でもふと、ずっと奥に押し込めていた考えが浮上する。

「……あのさ、僕が元いた世界って、あの後どうなってるの?」
『え? どういう意味?』
「だからさ、僕は元からいないってことにしたの? それとも……」
『ああ! そこもちょっと悩んだところなんだよね!』

 突然勢いを盛り返して彼がまくしたててくる。

『だってあそこはあくまでリアルなシミュレーション結果が欲しくて動かしてる実験場なわけだから、そんなある日突然ごく普通の高校生が異世界転移しちゃいました! なんて事態起こすわけにはいかないじゃん!? でもやっぱ惜しくてさ、残された方のドラマっていうの? そっちも見たくなっちゃうじゃん!?』

 相変わらず机上の出来事を語るような無神経な物言いに苛立ちが湧いてくる。

「つまり、僕は向こうの世界では教室で突然姿を消した、ってことになってるのか?」
『まあ、そうだね。あ、じゃあついでに覗いてく?』

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