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【番外編】惚れた病は治りゃせぬ 編

岩屋の湯治場(1)★

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 アドルティスの目にはこの里で見るものすべてが珍しく映るようだが、元々こっちの方で生まれた俺はそうではない。
 ついに今年初めての雪が積もった日の晩、寒さに鼻をぐすぐすいわせているアドルティスを毛皮でぐるぐる巻きにしてから外に連れ出した。慣れない雪道で足を滑らせないように手燭で照らしてやって慎重に歩く。

「こんな夜更けに一体どこへ行くんだ?」

 そう尋ねるやつの手を引きながら「あったかくて気持ちよくて楽しいところだ」と答えた。記憶を頼りに歩いていくと、やがて地面から湯が湧き出ている岩屋の泉にたどり着いた。

「おう、あったあった」
「ラカン、ここは?」
「湯治場だ」

 この辺りは地脈の下に火の道がある。火の道のあるところに湯治場もあり、だ。試しに手を突っ込んでみると熱すぎずぬるすぎる、いい具合だ。

「昔ここに来た時にシャリの野郎に教えて貰ったんだが、枯れちゃいなかったようだな。ありがたい」

 普段、里の者たちもここに来ることがあるのだろう。岩棚の上に半分ほど燃え残った太い蝋燭があったり、かがり火を焚くための鉄の籠があった。そこに持って来た薪を一本放り込んで火をつけ、ついでに蝋燭にも火を移した。

「オラ、お前も脱げよ」
「これは風呂か? 入ってもいいのか?」
「ああ。さすがに雪が積もった晩にわざわざ来る酔狂は俺たち以外にはいないだろうよ」
「そうか」

 アドルティスは少しばかり迷っていたようだったが、俺がさっさと下帯まで解いて湯を被るのを見ると、こくりと頷いた。そして服を脱いで俺の真似をしてかけ湯をする。それから二人で湯に浸かり、深々と息を吐き出した。

「は~~~~生き返るな」
「……確かに……あったかいな…………」

 元々寒さにあまり強くないアドルティスが気持ち良さそうに同意する。俺はザブザブと顔を洗うと、手燭と一緒に持って来た籠から酒の入った土瓶と木の椀を二つ取り出した。それを見てアドルティスが目を丸くする。

「湯の中で酒を呑むのか?」
「こっちでは昔っからの冬の楽しみさ」

 木椀に酒を注いで渡してやると、アドルティスが東の国風に目の高さに椀を掲げてかすかに笑った。どうやらこのあいだの歓迎の宴で覚えたらしい。珍しいこいつの笑顔に少しばかり見惚れながら俺も同じように椀を持ち上げる。
 アドルティスは岩にもたれてちびちびと舐めるように酒を呑みながら、ぼんやりと宙を見つめてふと言った。

「ラカン」
「なんだ」
「この東の国には、本当は一人で来たかったのではないのか?」
「はァ?」

 思わず俺は間の抜けた声で聞き返す。するとアドルティスが俺を見て言った。

「元々誘われたわけでもないのに、無理についてきたようなものだからな」
「いや、それは」

 つい、らしくもなく口ごもる。確かに俺は自分からこいつを東への旅に誘ったわけじゃない。だからと言って迷惑だなんてこれっぽっちも思っちゃいない。けど俺が何か言う前にアドルティスのやつは一人で納得したようにやけにきっぱりとした顔で俺に言った。

「だが俺はここにラカンと一緒に来れて本当に良かったと思っている。道中ずっと、楽しくて仕方なかったからな」
「そうかよ」
「ああ、だからありがとう。ラカン」

 いつものようにクソ真面目な顔をしていうアドルティスを見ているとますます何も言えなくなってしまう。こいつにそう思わされるのは一体これで何度目だろう。
 俺は決してこいつを邪魔に思ってなんかいない。刀を新しく拵えなきゃいけないと思った時、俺は確かに一人でここに来るつもりだった。でも正直、俺はその時それがすごく億劫で面倒で嫌なことだと思ったのだ。

 そりゃあ今までは一人でいる方がずっと気楽で良かった。でもアドルティスは違う。
 俺とこいつはまったく似ているところがない。石だの花だの草だの、アドルティスが心惹かれるものに俺は全然興味がないし、こいつはこいつで俺が年がら年中あちこちほっつき歩いてでかい魔獣を探し回っては挑んでいるのを内心阿呆のすることだと思っているだろう。

 でもこいつが行く先々で見慣れない葉をちぎっては陽に透かしたり揉んで匂いを嗅いだり丁寧に袋にしまったりしていて、その度に足が止まってその日の予定が遅れたとしても、俺は全然面倒に思わない。
 これが他のやつだったらきっとそいつを置いてさっさと一人で先に進んでいっただろう。でも俺はこいつが初めて見る何かを見つけるたびにあの緑色の目がパッと輝くのを見るのが好きだ。
 宿や野宿した先でその日集めたものを並べて俺にあれこれ説明する声を聞くのも好きだ。

 口がうまく回らなかったり気が利かなかったりするせいで俺がついないがしろにしてしまうようなことを、こいつはいつもきちんとこうして俺に伝えてくれる。

 俺がこいつと特別な仲になったきっかけはただの肉欲だった。
 普段とは全然違うこいつの性欲だとか色に蕩けた顔や声があんまりにも俺の好みだったから。俺を欲しがってしがみついてくるこいつがあんまりにもいじらしくて、俺を飲み込むこいつのナカがあんまりにも熱くて狭くて気持ちが良かったから。そういう全部をひっくるめて自分のものにしたくなった。

 でも今ならわかる。ただ身体の相性が良くて具合がいいだけの相手なら俺はこんな風にはならない。途中立ち寄った町で抱えきれないほどの食い物を買いまくって食べきれずに俺に丸投げしてきたとしても怒らないし、しかもその中に馬鹿みたいに辛いインガ豆が混じっていても全部食ってやる。
 もしもこいつがどこか行きたいところや見てみたいものがあるならどこへだって付き合ってやる。
 ようするに、きっかけはどうであれ今の俺はこいつに心底惚れているのだ。

「好きだ、ラカン」

 アドルティスが照れも冗談もなしに、また俺に言う。いかにも幸せそうに緑の目をキラキラさせながらそう言って、それからほんの少しだけ寂しそうに笑うのだ。
 だから俺はそのたんびにアドルティスのうなじを掴んで口づける。柔らかくて薄い舌を絡めとり、敏感な口蓋をくすぐって深く深く口づける。
 するといつもピンと伸びているアドルティスの背骨がくたり、と柔らかくなって俺にしなだれかかってくる。
 一人でなんでもできて誰にも頼らないこいつが身も心も投げ出してくるこの瞬間が、俺はたまらなく好きだった。

「ん……っ」

 目を閉じたアドルティスの身体を持ち上げて俺の上に横向きに座らせる。そして湯の中でアドルティスの滑らかな腰や内腿を撫でながら前に触れてやろうとすると、やつは小さく首を振ってそれを拒んだ。でもそれは別に俺に触られるのが嫌だから、というわけじゃない。

 鬼人の精力というものは人間じゃ及びもつかないほどに恐ろしく強い。ましてやあまり肉の交わりに重きを置かないというエルフなんぞ比べもんにならないだろう。
 そんな俺にもう何年もの間抱かれて夜ごと濃い精を溢れるほど注がれ続けてきたせいか、最近じゃこいつは直接男の徴に触ってやっても勃たないのだ。絶頂する時も中を突かれてじゃなきゃイかないし、どうかすると射精せずにビクビクといつまでも身体を痙攣させながら感じ入っている。

 どこの誰よりも支援魔法に長け、ナイフや弓の腕前だって一級品のエルフの戦士だったこいつをそんな風に変えてしまったことをすまないと思う気持ちがないわけじゃない。でも心のどこかで俺は、もうこいつが俺以外の誰が相手でも達することができない身体になっていることにほの暗い満足を感じていることも事実だ。
 そんなことを言えばさすがのこいつも怒るかもしれん。だからこれは俺が墓場まで持っていく俺だけの秘密だ。

 指先で熱く絡みついてくる粘膜をかき分けて、アドルティスの狭い孔の奥を探っていく。そして届く限りのところまで挿れてちゅこちゅこといやらしく擽ってやると、柔らかな媚肉が吸い付くようにひくついた。

「っは、あん、ァ、はァ……っ」

 気持ちがいいのか、アドルティスが俺にしがみついて尻を浮かす。ひっきりなしに漏れている声はすでにどろどろに甘くて、俺の愛撫に素直に蕩けて応えるこいつにたまらなく欲を掻き立てられた。

「あ、あー、んんっ、ぅ、ぅ、ん、ひぅ……っ」

 指を増やしていけばアドルティスの腰が小刻みに震えだし、俺の指を締め付けてくる。
 俺に抱かれるようになってから段々と、こいつのナカはやたらと濡れやすくなった。まるで女の愛液のように溢れてくる腸液に濡れた指でひくひくと蠕動する内壁を丹念に擦りたてながら、俺はアドルティスに尋ねた。

「このままここをしつこく押し潰されてイくのと、奥をぐちゃぐちゃにかき回されてイくのとどっちがいい?」
「あっ、ァ、お、おく……っ、もっと、おくが、いい……っ」
「そうか、アディは奥んとこずくずくされるのが一番好きだもんな」
「うん……っ、すき……、おれ……、ラカンに、おく、ぐちゅぐちゅされるの、いちばんすき……」」

 とろんと蕩けた目をして、普段からは想像もつかないほど舌ったらずにアドルティスが俺にねだる。

「そうか、よく言えたな。偉いぞ」

 俺はもう一本指を増やすと、とろとろになってる肉壁をこじ開け横襞をほじくりながらご褒美のキスをしてやった。

 こいつは元からあんまり自分の話をしたり、何かしたいとかあれが欲しいとかそういうことを言わないやつだった。でもこのちっちゃな頭の中では結構いろんなことをぐるぐる考えていたようで、それが煮詰まって突然突拍子もない行動に出たりする。俺を酔わせて寝落ちしたところに襲いかかって勝手に俺の摩羅を咥えこんでいたり、ダナンの街の往来でみんなの前でいきなり口づけてきたりしたのがいい例だ。
 だから俺はこいつと付き合うようになってから何度も「言いたいことがある時はちゃんと言え」と言ってきた。俺も決して察しのいい方じゃないから、ずっと内に抱え込んで煮詰まって突然爆発されるよりもそっちの方が断然ありがたい。

 だから今みたいにこいつが素直に俺に何かをねだったり頼ったりするたびにちゃんと褒めるようにしている。こいつのかわいいおねだりはそういう教育の成果だと思うとかわいらしさが倍増するな。などと大真面目に考えている俺も相当の阿呆だ。『病膏肓に入る』とはまさにこのことだ。

 こいつのとろとろの顔とかやらしい声だとか、湯を弾くすべすべだけどしっとり指に吸い付いてくるような肌だとか、そして何より今も俺の指をきゅんきゅん締め付けてくる熱くて狭くてぬるぬるした孔だとかのせいで、俺の摩羅はもうさっきから痛いくらいガチガチに硬く勃起している。
 するとそれに気づいたアドルティスが嬉しそうに微笑んで、あの気難しいラヴァンさえも唸らせる繊細で敏感な五本の指でパンパンに張り詰めた俺の亀頭を撫でてさすってくれた。

「ああ、くそっ」

 今すぐこいつのこのきつきつの狭い孔にぶち込んで思う存分扱きまくりてぇ。
 俺よりずっと細くて小さいこの身体をがっちり抱え込んで動けないようにして、奥の狭い狭いとば口までぐっぷりハメてガンガン突きまくりてぇ。

 知らず、俺の口から洩れる息がフーフーと荒くなっていく。視界が赤く染まって頭の角の辺りが燃えるように熱くなる。ガチ、と牙を鳴らしてアドルティスを抱き込む腕に力を籠めると、あいつの骨がぎしり、と軋んだ。

「いいよ、ラカン」

 不意に聞こえた声に俺はハッと我に返る。するとアドルティスがうっとりした顔で俺を見つめながら囁いた。

「好きなだけ、ラカンのこれを俺の中に挿れて、思う存分、ナカで扱いて」

 湯の中でアドルティスの手が俺のモノをゆるゆる撫でる。

「おれのなか、せまくてきつくて具合がいいって、前に言ってただろう?」

 ああ、言った。言ったがな。けどな。

「ラカンに乱暴にされて、めちゃくちゃに突かれるの、すき」

 絶対にほかのやつらにゃ見せられねぇようなツラでアドルティスが言う。

「なあ、ちょうだい……、ラカンの、硬くて、太くて、血管ビキビキ浮いてる、この凄いの」
「………………くそ……ッ!!」

 俺はギリギリと奥歯を噛み締めて腹の底から全部空気を押し出すと、頭の中でありとあらゆるものを罵り倒しながらあいつを抱えて立ち上がった。そしてそのまま地面に落としてた長着であいつを包んで自分は裸のまま一気に岩屋の湯治場から駆け出した。
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