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【番外編】恋も積もれば愛となる 編
幸せのため息 ★
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「はうっ、あんっ、んあっ、ひあっ、」
さっきから真昼の明るい寝室には俺のバカ丸出しな喘ぎ声と、ぬちゅぬちゅぱちゅぱちゅと耳を塞ぎたくなるような水音とがずっと木霊してる。
「ほら、ここ、気持ちいいだろう? お前のイイところ、な」
そう言ってラカンは太い血管の浮いたすごくいやらしいアレで俺の中のあちこちをゆっくり突いたり押しつぶすみたいにする。そのたびに俺の口からは飲み込み切れない唾液とみっともないくらいにとろとろになった声が、そして俺のペニスからはだらだらと体液が溢れ出ていた。
「……っは……っ、あ、そこ、やら、もう……っひ、あう…………んっ」
あーもうダメだ。あたまがばかになる。きもちよすぎてなにもかんがえられない。
ラカンの話では、俺とこういう関係になったのは四年くらい前らしい。
俺の方が好きってラカンに言って、で、ラカンがそれについて考えて、そして出した結論がラカンも俺のことが好きだ、ってことだったらしい。
というか、よく告白なんてできたな、俺。一生秘密にするつもりじゃなかったのか。
でもいくらそこらへんの状況を聞き質しても、ラカンは曖昧な言葉でのらりくらりとかわすばかりで詳しく教えてくれなかった。
「あふっ、んぐっ、ソコっ、ソコっ、いやだ、んっ、いやだ……っ」
「イヤじゃないだろう? そういう時は気持ちいいって言うんだ」
「で、でも、あっ」
「ほら、言ってみろよ。じゃないとずっとこのまんまだぞ?」
「あ……っ、やだ、そこ……っ、きもちいい、すき……っ、すきィ……っ」
あ、俺、またイってしまった。アソコから精液がとぷとぷ出てる。これで何回目?
付き合って四年って長いのか短いのはよくわからないけど、それでもまったく前に触って貰ってないのに後ろを突かれるだけで何度もイってしまうというのは少し淫らすぎるのではないだろうか。
「どうだ? 辛くないか?」
ラカンは最初の強引さが嘘みたいに優しく俺のこと気遣いながらしてくれてる。でも、俺は気づいてた。あれからラカンがまだ一度も出してないことに。
それに、確かに俺の気持ちは未知の快感にもういっぱいいっぱいだったけれど、でも俺の身体はこれじゃ物足りないって言ってる。もっとガツガツ、さっきみたいにめちゃくちゃ突かれたがってる。
だってその証拠に、俺の身体、まだまだ満足してないらしい。ほら、連続で二度も出したのにまだ萎えてないし。
「ハッ、ハッ、あ……、おなか、あつい」
頭が真っ白になるくらい気持ちがいいのに、まだ腹の奥がぐずぐずしていて全然楽にならない。
「ラカン、ラカン、おれもう、やだああぁあ……」
どうしていいか分からず、つい弱音を吐いてしまう。するとラカンも俺の今の状況を理解したのか、汗で濡れて張り付く俺の前髪を掻きあげて言った。
「それじゃ、どうしてもキツくなったらそう言え。あと声我慢すんなよ。余計しんどくなるだけだからな」
「うんっ、わかった……っ、わかったから、早く、なんとかして……っ」
もうなりふり構わずそうねだると、ラカンは片方の足を肩に担ぎ上げて、一層強く腰を打ち込み始めた。
「はあっ、あんっ、イイっ、すご……っ、あうっ!!」
奥にガッツンガッツン当たってる。そんで時々ぐりぐりされて、また強く穿たれる。すると変化はすぐに訪れた。
「ま、まってラカン……っ、なんか、なんかこれ……っ」
「ん? ハッ、ハッ、どうした……っ」
「んあっ、やだ、なにこれ、なんかヘン……っ」
腰の奥というか、腹の底っていうか、そのへんからすっごいゾクゾクって波みたいに何かがうねりながら押し寄せてくる。
「はあ……っ! あっ、うそうそうそ……っ」
どくんっ、って、全身が心臓になったみたいになって、ぎゅっとなって、そして次の瞬間俺のペニスからまたごぷっとザーメンがあふれ出した。ふあぁあぁあぁ、からだ、びくびくして、痙攣がとまらない……。
「すごいな、またナカだけでイったのか。お前、本気でかわいいな」
「かわ、かわいくなんか……」
今まで感じたことないようなすごい絶頂感に、俺は呆然としつつも言い返す。
あんなみっともない声を出して、しかもこんな明るい部屋でどこもかしも全部ラカンに見られながら。恥ずかしくて泣きたくなる。
するとラカンがひょい、と俺を抱き上げた。そしてあぐらをかいた上に乗せ、今さっきの意地悪な言動とは裏腹に優しく額にキスをする。
「嘘じゃない。お前は誰よりもかわいい俺のオンナだ」
それを聞いて、ずくん、と心臓が痛んだ。
「どうした? アドルティス」
やっぱりラカンは本当に鋭いな。俺の気持ちの小さな変化もすぐに気づいてしまう。
「…………ラカンは」
「おう」
「ラカンは、いいのか……?」
「何が」
「…………俺、あんたが好きになって、付き合ってた俺とは違うんだぞ」
あ、まずい。また目頭が熱い。こめかみにツキンと来る。
「俺はラカンが付き合ってた俺とは違うだろう? あんたはそれでもいいのか……?」
「…………ああ、そういうことか」
納得したようにラカンが一つ瞬きをした。
そう。だって俺は、多分ものすごく勇気を出してラカンに「好き」って告白した俺とは違う。ラカンと出会ってから十二年一緒に過ごして来た思い出も何も持ってないんだから。
三十二歳の俺は、どうやらこのダナンでたくさんの知り合いがいて、みんなに名前を憶えて貰っていて、ギルドのあの毒舌なリンドにも信頼されているらしい。それに二階の部屋にしまってあったたくさんの薬草や薬石を扱える技術を持っていて、きっと今の俺よりずっと賢くていろんなことができるんだと思う。
性格そのものはそう変わってはいないかもしれないけれど、それでもやっぱり大人の分別というか、ちゃんといろいろ成長しているんだと思う。
そう、今目の前にいる頼もしくて優しくてカッコイイ大人のラカンみたいに。
でも今の俺にはそんな経験値もスキルも知識も何もない。そんな俺で、ラカンは本当にいいんだろうか? そのうち絶対物足りなくなって、大人の俺のが良かったって思うんじゃないだろうか?
そう考えて俺がうな垂れてると、ラカンが俺を乗せたまま思いっきり俺の額を指で弾いた。
「いたっ! 何をするんだ!」
「んな顔すんなよ」
そう言ってラカンがニヤリと笑う。
「確かにお前は三十二歳のお前じゃないし、随分とガキっぽいけど、でもお前はお前だろうが」
「え?」
「それに多分お前が考えてるほど三十二のお前と今のお前って変わんねぇぜ? 残念ながら」
「な……っ、どういう意味だ!」
「いや、そのまんまの意味」
とラカンが牙を見せて笑った。それにまた言い返そうとしたら、突然ラカンが俺の頭を自分の胸に引き寄せた。
「それによ。お前、今日の日付知ってるか?」
「ええと……確かギルドの壁新聞で……」
「そう、今日は初夏ユウル月の二日目。明日がお前の誕生日だろうが」
………………絶句。
「え、ラカン、俺の誕生日なんて知ってたのか?」
「当たり前だろ。そりゃ今まで特別何かしたことはないけどよ」
いや、それはわかる。だって鬼人族には誕生日を祝う風習はないって言ってたし。自分の正確な歳も知らないくらいだからな、ラカンは。
それなのに俺の誕生日を覚えていてくれるんだ。
途端に胸がきゅっとなる。
「あと半日もすれば日付が変わってお前も三十二に一つ近づくぜ? きっと追いつくのなんてあっという間だ」
「…………そうかな」
俺はラカンの胸におでこを付けて、深々と息を吐き出した。
きっと俺の言ってることは他の人からしたらすごく馬鹿げたことだと思う。なのにラカンはちゃんと、俺が『二十歳のアドルティス』だと思って話をしてくれる。それがすごく嬉しい。
「まだ不安か?」
「……いや、もう大丈夫だ」
「そうか」
そんなら、とラカンがいきなり俺の尻をべちん! と叩いた。
「オラ、今度はお前が自分で挿れて俺をイかせてみせろ」
「は、はぁああ!?」
あれ、今すごく感動的な場面だったんじゃないのか?
混乱する俺の尻を掴んで、ラカンがそそり勃つ剛直を俺の後ろにあてがう。
「ほら、ゆっくり挿れてみろ」
「え、あ、ひう…………んっ」
あ、すごい、ほんとうにはいってくる。
背中を丸めてラカンの逞しい肩に顔を埋めながら、ゆっくりとソレを中に招き入れる。はあ、このラカンのが入ってくる感触、すごく好きかも……。
ラカンの子種やなにかでどろどろの俺の中は、またラカンのをずっぷりと埋め込まれて喜びに震えてる。もっと、もっときて、もっと奥まできて、って。
「お、重くないか……?」
「全然。もっと食えっていつも言ってるくらいだぜ?」
「そ、そうか……じゃあ……」
そう言って俺は恐る恐る下半身の力を抜いた。
「~~~~~~~~っつっ!!」
完全に息が止まった。すごい、今までで一番奥まで来てる。苦しい、内臓ごと心臓まで押し上げられてるような。
なのに、ものすごく満たされた気持ちになってる。
そこからはもう夢中だった。
「ひっ、あっ、あっ、あ、う…………んっ!」
「お、すごい乱れっぷりだな」
「あっ、すご、すごい……っ、んっ、イイ、きもちいい、ひうっ、もっと、お、おく、もっとついて、めちゃくちゃに、もっと、ラカンの、も、っと……ぉ……っ」
「おい、おまッ、そんな締めつけんな……っ!」
「ラカン、ラカン、すき、すき、だいすきぃ……っ」
「あー、もう、くそっ!」
ラカンが俺を抱え込んだまま突然ベッドに押し倒して、ぎゅうぎゅう抱きしめたままぶるり、と胴震いした。途端に腹のずっと奥の方がすごく熱くなる。
すごく狭い、何かの入口みたいなところをこじ開けられてどくどくと溶岩みたいに熱い精液を流し込まれて、俺の頭まで融けてしまいそうだった。
そしてもし俺が女だったら間違いなく赤ちゃんできちゃうな、とか、これだけ濃い子種を何度も中に出されてたら男でも孕むんじゃないか、とか、恐ろしく馬鹿なことを考えながら、俺は大人の俺でも経験したことがないらしい、いわゆる『射精せずにナカだけで女のように絶頂する』というやつで完全に意識飛ばしてしまっていた。
◇ ◇ ◇
ああ、なんだろう。あったかい。手、手かな? 誰かが俺の手を握ってる。握って、優しく撫でてくれている。あったかい手。好き。俺、この手好きだ。
「おう、気づいたか」
「…………ラカン……?」
そう答えたつもりだったけど、喉がガラガラで声は掠れまくってた。
「待ってろ。水持ってくる」
その言葉と同時に俺の手を覆ってた暖かさが遠のいて、俺はちょっとガッカリしてしまう。
ラカンに口移しで水を飲まされて、そのことにドキドキしながらまたベッドに寝転がる。まったく力が入らない。身体どころか指一本動かせないなんて初めての経験だった。
「いや、さすがに気絶するとか俺も驚いたぜ。そんなに良かったのかよ」
うるさい。誰のせいだ、誰の。するとまた手が暖かくなる。
ラカンが俺の右手を取ってなにかを塗っている。これって……
「…………軟膏?」
そう呟くと、ラカンが頷いた。
「お前、街にいる時は水仕事したり草やなんか触ったりしてるから、すぐ手が荒れるんだよ」
そう言って丁寧に丁寧に、温めて柔らかくくした軟膏を手のひらから指の間まで塗り込んでくれる。
「質のいい薬草を選んで採取するには手や指の感覚が大事なんだろう? 大事な商売道具じゃないか」
そしていい匂いのする軟膏を塗りながら、ラカンがぽつりと言った。
「あのよ、さっきの誕生日の話な。俺だって初めて聞いた時に祝ってやろうとしたことあったんだぜ?」
「え、そうなのか?」
「ま、照れくさくてなんにも言えなかったんだけどよ」
そう言って、ラカンが普段見たことないような顔でちょこっと笑った。
「忘れるな。初めて会った時から、お前はちゃんと俺の大事な相棒だったんだからな」
なんかもう、感動ってこういうのを言うんだろうな。昔のラカンだったらこんなこと絶対言いっこなかっただろう。やっぱりラカンは歳を重ねてますますいい男になったんだ。
それからラカンはいろんなことを話してくれた。最近発見された山腹の迷宮のこと、新しくできたダナン初の甘味処のこと、行きつけの飲み屋の大将が俺のために故郷から取り寄せてる果実酒のこと。でも俺自身のことは教えてくれなかった。
「お前のことは秘密な。楽しみがなくなっちまうだろ」
よく意味がわからなかったけど、それに少し笑って、で、俺は目を閉じた。もう疲労困憊。指一本動かせない。疲れて、でも幸せで、暖かくて。
ラカンがそっと前髪を掻きあげてくれて、俺は全身の力を抜いて心からの安堵のため息をついた。
さっきから真昼の明るい寝室には俺のバカ丸出しな喘ぎ声と、ぬちゅぬちゅぱちゅぱちゅと耳を塞ぎたくなるような水音とがずっと木霊してる。
「ほら、ここ、気持ちいいだろう? お前のイイところ、な」
そう言ってラカンは太い血管の浮いたすごくいやらしいアレで俺の中のあちこちをゆっくり突いたり押しつぶすみたいにする。そのたびに俺の口からは飲み込み切れない唾液とみっともないくらいにとろとろになった声が、そして俺のペニスからはだらだらと体液が溢れ出ていた。
「……っは……っ、あ、そこ、やら、もう……っひ、あう…………んっ」
あーもうダメだ。あたまがばかになる。きもちよすぎてなにもかんがえられない。
ラカンの話では、俺とこういう関係になったのは四年くらい前らしい。
俺の方が好きってラカンに言って、で、ラカンがそれについて考えて、そして出した結論がラカンも俺のことが好きだ、ってことだったらしい。
というか、よく告白なんてできたな、俺。一生秘密にするつもりじゃなかったのか。
でもいくらそこらへんの状況を聞き質しても、ラカンは曖昧な言葉でのらりくらりとかわすばかりで詳しく教えてくれなかった。
「あふっ、んぐっ、ソコっ、ソコっ、いやだ、んっ、いやだ……っ」
「イヤじゃないだろう? そういう時は気持ちいいって言うんだ」
「で、でも、あっ」
「ほら、言ってみろよ。じゃないとずっとこのまんまだぞ?」
「あ……っ、やだ、そこ……っ、きもちいい、すき……っ、すきィ……っ」
あ、俺、またイってしまった。アソコから精液がとぷとぷ出てる。これで何回目?
付き合って四年って長いのか短いのはよくわからないけど、それでもまったく前に触って貰ってないのに後ろを突かれるだけで何度もイってしまうというのは少し淫らすぎるのではないだろうか。
「どうだ? 辛くないか?」
ラカンは最初の強引さが嘘みたいに優しく俺のこと気遣いながらしてくれてる。でも、俺は気づいてた。あれからラカンがまだ一度も出してないことに。
それに、確かに俺の気持ちは未知の快感にもういっぱいいっぱいだったけれど、でも俺の身体はこれじゃ物足りないって言ってる。もっとガツガツ、さっきみたいにめちゃくちゃ突かれたがってる。
だってその証拠に、俺の身体、まだまだ満足してないらしい。ほら、連続で二度も出したのにまだ萎えてないし。
「ハッ、ハッ、あ……、おなか、あつい」
頭が真っ白になるくらい気持ちがいいのに、まだ腹の奥がぐずぐずしていて全然楽にならない。
「ラカン、ラカン、おれもう、やだああぁあ……」
どうしていいか分からず、つい弱音を吐いてしまう。するとラカンも俺の今の状況を理解したのか、汗で濡れて張り付く俺の前髪を掻きあげて言った。
「それじゃ、どうしてもキツくなったらそう言え。あと声我慢すんなよ。余計しんどくなるだけだからな」
「うんっ、わかった……っ、わかったから、早く、なんとかして……っ」
もうなりふり構わずそうねだると、ラカンは片方の足を肩に担ぎ上げて、一層強く腰を打ち込み始めた。
「はあっ、あんっ、イイっ、すご……っ、あうっ!!」
奥にガッツンガッツン当たってる。そんで時々ぐりぐりされて、また強く穿たれる。すると変化はすぐに訪れた。
「ま、まってラカン……っ、なんか、なんかこれ……っ」
「ん? ハッ、ハッ、どうした……っ」
「んあっ、やだ、なにこれ、なんかヘン……っ」
腰の奥というか、腹の底っていうか、そのへんからすっごいゾクゾクって波みたいに何かがうねりながら押し寄せてくる。
「はあ……っ! あっ、うそうそうそ……っ」
どくんっ、って、全身が心臓になったみたいになって、ぎゅっとなって、そして次の瞬間俺のペニスからまたごぷっとザーメンがあふれ出した。ふあぁあぁあぁ、からだ、びくびくして、痙攣がとまらない……。
「すごいな、またナカだけでイったのか。お前、本気でかわいいな」
「かわ、かわいくなんか……」
今まで感じたことないようなすごい絶頂感に、俺は呆然としつつも言い返す。
あんなみっともない声を出して、しかもこんな明るい部屋でどこもかしも全部ラカンに見られながら。恥ずかしくて泣きたくなる。
するとラカンがひょい、と俺を抱き上げた。そしてあぐらをかいた上に乗せ、今さっきの意地悪な言動とは裏腹に優しく額にキスをする。
「嘘じゃない。お前は誰よりもかわいい俺のオンナだ」
それを聞いて、ずくん、と心臓が痛んだ。
「どうした? アドルティス」
やっぱりラカンは本当に鋭いな。俺の気持ちの小さな変化もすぐに気づいてしまう。
「…………ラカンは」
「おう」
「ラカンは、いいのか……?」
「何が」
「…………俺、あんたが好きになって、付き合ってた俺とは違うんだぞ」
あ、まずい。また目頭が熱い。こめかみにツキンと来る。
「俺はラカンが付き合ってた俺とは違うだろう? あんたはそれでもいいのか……?」
「…………ああ、そういうことか」
納得したようにラカンが一つ瞬きをした。
そう。だって俺は、多分ものすごく勇気を出してラカンに「好き」って告白した俺とは違う。ラカンと出会ってから十二年一緒に過ごして来た思い出も何も持ってないんだから。
三十二歳の俺は、どうやらこのダナンでたくさんの知り合いがいて、みんなに名前を憶えて貰っていて、ギルドのあの毒舌なリンドにも信頼されているらしい。それに二階の部屋にしまってあったたくさんの薬草や薬石を扱える技術を持っていて、きっと今の俺よりずっと賢くていろんなことができるんだと思う。
性格そのものはそう変わってはいないかもしれないけれど、それでもやっぱり大人の分別というか、ちゃんといろいろ成長しているんだと思う。
そう、今目の前にいる頼もしくて優しくてカッコイイ大人のラカンみたいに。
でも今の俺にはそんな経験値もスキルも知識も何もない。そんな俺で、ラカンは本当にいいんだろうか? そのうち絶対物足りなくなって、大人の俺のが良かったって思うんじゃないだろうか?
そう考えて俺がうな垂れてると、ラカンが俺を乗せたまま思いっきり俺の額を指で弾いた。
「いたっ! 何をするんだ!」
「んな顔すんなよ」
そう言ってラカンがニヤリと笑う。
「確かにお前は三十二歳のお前じゃないし、随分とガキっぽいけど、でもお前はお前だろうが」
「え?」
「それに多分お前が考えてるほど三十二のお前と今のお前って変わんねぇぜ? 残念ながら」
「な……っ、どういう意味だ!」
「いや、そのまんまの意味」
とラカンが牙を見せて笑った。それにまた言い返そうとしたら、突然ラカンが俺の頭を自分の胸に引き寄せた。
「それによ。お前、今日の日付知ってるか?」
「ええと……確かギルドの壁新聞で……」
「そう、今日は初夏ユウル月の二日目。明日がお前の誕生日だろうが」
………………絶句。
「え、ラカン、俺の誕生日なんて知ってたのか?」
「当たり前だろ。そりゃ今まで特別何かしたことはないけどよ」
いや、それはわかる。だって鬼人族には誕生日を祝う風習はないって言ってたし。自分の正確な歳も知らないくらいだからな、ラカンは。
それなのに俺の誕生日を覚えていてくれるんだ。
途端に胸がきゅっとなる。
「あと半日もすれば日付が変わってお前も三十二に一つ近づくぜ? きっと追いつくのなんてあっという間だ」
「…………そうかな」
俺はラカンの胸におでこを付けて、深々と息を吐き出した。
きっと俺の言ってることは他の人からしたらすごく馬鹿げたことだと思う。なのにラカンはちゃんと、俺が『二十歳のアドルティス』だと思って話をしてくれる。それがすごく嬉しい。
「まだ不安か?」
「……いや、もう大丈夫だ」
「そうか」
そんなら、とラカンがいきなり俺の尻をべちん! と叩いた。
「オラ、今度はお前が自分で挿れて俺をイかせてみせろ」
「は、はぁああ!?」
あれ、今すごく感動的な場面だったんじゃないのか?
混乱する俺の尻を掴んで、ラカンがそそり勃つ剛直を俺の後ろにあてがう。
「ほら、ゆっくり挿れてみろ」
「え、あ、ひう…………んっ」
あ、すごい、ほんとうにはいってくる。
背中を丸めてラカンの逞しい肩に顔を埋めながら、ゆっくりとソレを中に招き入れる。はあ、このラカンのが入ってくる感触、すごく好きかも……。
ラカンの子種やなにかでどろどろの俺の中は、またラカンのをずっぷりと埋め込まれて喜びに震えてる。もっと、もっときて、もっと奥まできて、って。
「お、重くないか……?」
「全然。もっと食えっていつも言ってるくらいだぜ?」
「そ、そうか……じゃあ……」
そう言って俺は恐る恐る下半身の力を抜いた。
「~~~~~~~~っつっ!!」
完全に息が止まった。すごい、今までで一番奥まで来てる。苦しい、内臓ごと心臓まで押し上げられてるような。
なのに、ものすごく満たされた気持ちになってる。
そこからはもう夢中だった。
「ひっ、あっ、あっ、あ、う…………んっ!」
「お、すごい乱れっぷりだな」
「あっ、すご、すごい……っ、んっ、イイ、きもちいい、ひうっ、もっと、お、おく、もっとついて、めちゃくちゃに、もっと、ラカンの、も、っと……ぉ……っ」
「おい、おまッ、そんな締めつけんな……っ!」
「ラカン、ラカン、すき、すき、だいすきぃ……っ」
「あー、もう、くそっ!」
ラカンが俺を抱え込んだまま突然ベッドに押し倒して、ぎゅうぎゅう抱きしめたままぶるり、と胴震いした。途端に腹のずっと奥の方がすごく熱くなる。
すごく狭い、何かの入口みたいなところをこじ開けられてどくどくと溶岩みたいに熱い精液を流し込まれて、俺の頭まで融けてしまいそうだった。
そしてもし俺が女だったら間違いなく赤ちゃんできちゃうな、とか、これだけ濃い子種を何度も中に出されてたら男でも孕むんじゃないか、とか、恐ろしく馬鹿なことを考えながら、俺は大人の俺でも経験したことがないらしい、いわゆる『射精せずにナカだけで女のように絶頂する』というやつで完全に意識飛ばしてしまっていた。
◇ ◇ ◇
ああ、なんだろう。あったかい。手、手かな? 誰かが俺の手を握ってる。握って、優しく撫でてくれている。あったかい手。好き。俺、この手好きだ。
「おう、気づいたか」
「…………ラカン……?」
そう答えたつもりだったけど、喉がガラガラで声は掠れまくってた。
「待ってろ。水持ってくる」
その言葉と同時に俺の手を覆ってた暖かさが遠のいて、俺はちょっとガッカリしてしまう。
ラカンに口移しで水を飲まされて、そのことにドキドキしながらまたベッドに寝転がる。まったく力が入らない。身体どころか指一本動かせないなんて初めての経験だった。
「いや、さすがに気絶するとか俺も驚いたぜ。そんなに良かったのかよ」
うるさい。誰のせいだ、誰の。するとまた手が暖かくなる。
ラカンが俺の右手を取ってなにかを塗っている。これって……
「…………軟膏?」
そう呟くと、ラカンが頷いた。
「お前、街にいる時は水仕事したり草やなんか触ったりしてるから、すぐ手が荒れるんだよ」
そう言って丁寧に丁寧に、温めて柔らかくくした軟膏を手のひらから指の間まで塗り込んでくれる。
「質のいい薬草を選んで採取するには手や指の感覚が大事なんだろう? 大事な商売道具じゃないか」
そしていい匂いのする軟膏を塗りながら、ラカンがぽつりと言った。
「あのよ、さっきの誕生日の話な。俺だって初めて聞いた時に祝ってやろうとしたことあったんだぜ?」
「え、そうなのか?」
「ま、照れくさくてなんにも言えなかったんだけどよ」
そう言って、ラカンが普段見たことないような顔でちょこっと笑った。
「忘れるな。初めて会った時から、お前はちゃんと俺の大事な相棒だったんだからな」
なんかもう、感動ってこういうのを言うんだろうな。昔のラカンだったらこんなこと絶対言いっこなかっただろう。やっぱりラカンは歳を重ねてますますいい男になったんだ。
それからラカンはいろんなことを話してくれた。最近発見された山腹の迷宮のこと、新しくできたダナン初の甘味処のこと、行きつけの飲み屋の大将が俺のために故郷から取り寄せてる果実酒のこと。でも俺自身のことは教えてくれなかった。
「お前のことは秘密な。楽しみがなくなっちまうだろ」
よく意味がわからなかったけど、それに少し笑って、で、俺は目を閉じた。もう疲労困憊。指一本動かせない。疲れて、でも幸せで、暖かくて。
ラカンがそっと前髪を掻きあげてくれて、俺は全身の力を抜いて心からの安堵のため息をついた。
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