上 下
53 / 64
【番外編】恋も積もれば愛となる 編

ラカンの告白

しおりを挟む
 我ながら恐ろしく単純というか現金だとは思うが、ラカンにそう言われると本当に「ああ、大丈夫なんだ」という気になった。
 ああ、やっぱりラカンはすごい。朝からずっと抱えていた焦りや不安や悩みが、ラカンのたったひと言であっさり吹っ飛んでしまう。
 やっぱり俺はラカンが好きだ。ものすごく好き。
 と、そこで思い出した。

「……なあ、ラカン」
「なんだよ」
「少し聞きたいんだが」
「おう」
「……俺たちはさっきから一体なにをしてるんだ?」
「………………は?」

 あ、ラカンの顔。ノームがどんぐりを食らったような、ってのはこういう顔なんだろうな。ラカンがこんな顔をするなんてものすごく貴重だ。

「だから、ええと……」

 ちょっと躊躇いつつも、ここでちゃんと聞いておかなきゃどうしようもない。俺は唾を飲み込んで腹をくくった。

「なんで俺はさっきからあんたに、その、尻に触られたり……い、挿れられたりしてるんだ?」

 というよりもなぜラカンは俺にそんなことをしたがるの?

 そう尋ねると、ラカンは今度こそ本当に絶句した。俺はすごくいたたまれない気持ちのまま、くしゃくしゃになった敷布を弄って誤魔化す。するとラカンが心底驚いたような顔で言った。

「…………そうか、今のお前はそこからしてわかんないのか」
「…………ああ、そうだ」

 するといきなりラカンが俺の顔を両手で挟んで引っ張った。

「うひゃっ!?」

 俺がラカンの胸に倒れこむと、意外にもあっさり俺の重たいはずの身体を支えて、抱え込むみたいにしてラカンが言った。

「お前、俺のこと好きなんだろう?」
「…………ッ!?」

 まずい。今ものすごく顔が赤くなってる。どうして。どうしてバレてるんだ。
 思わず頭ぐるぐるしてたらラカンがまたニヤリと笑った。

「俺もだ」
「…………は?」
「俺もお前に惚れてる。だから今こういうことしてるんだ。わかるか?」

 間違いなく、このとんでもない事尽くしの今日一日の中で一番の、まさにドラゴンブレス級の衝撃だった。
 ラカン、おれのことすきなの? 
 それじゃ、コレって……

「そうだ。俺とお前は今ものすごくいやらしい、めちゃくちゃエロいセックスをしてるんだよ」

 せっくす。
 え、おれとラカンがせっくす? 

「お前、気持ちよかっただろう? さっき俺にナカ擦られて」

 …………確かに、そうだけど。つまり俺とラカンは……

「お前が俺に好きだって言ってきて、それからもう四年か? 身体はすっかり慣れてるはずだぜ? 一緒にいる時は毎晩欠かさず口かこっちで俺の摩羅咥え込んでるからな、お前」
「ひうんっ!」

 突然、後ろに触れられて思わず身体が跳ねる。

「な? 俺のこと大好きだろう、お前のココ」
「ひゃっ、あうっ! や、まっ、まって、ま……ひん!」

 ぐちゅぐちゅと指で掻きまわされて、気持ちがよすぎて下腹がきゅううっ、と引き攣れた。

「やっ、あっ、ラカ、ラカン……っ!」
「ほら、言ってみろよ。俺に尻の中嬲られるの大好きだ、って。気持ちがいいって」

 す、すごい、すごい、本当に気持ちがいい……っ!
 濡れた粘膜が節立った太いラカンの指に歓喜して絡みついてるのが自分でもよくわかる。なのにラカンはそれきり指を抜いてしまった。そして宥めるようにぽんぽん、と俺の背中を叩く。

「ラ……ラカン……?」

 なんでやめちゃうの……? とはさすがに聞けずに黙って見上げると、ラカンが器用に片方の眉を上げて言った。

「身体はどうであれ、お前自身はしたことがないんだろう? だったら無理することはねぇよ」

 ………………え、そうなの? 今のラカンってこんな紳士なの?
 こう言ってはなんだが死ぬほど驚いた。

 以前ラカンから聞いた鬼人の三大欲求は『強いヤツと戦いたい』『そいつに勝ちたい』で、最後に食欲と性欲がセットになって来るらしい。そしてそれ以外のことは割とどうでもいいのだとか。
 なのにラカンは俺がそういうことをしたことがないし慣れていないってわかった途端、するのを止めた。え、でもあんた、今すごくその気になってたんじゃないのか? だって、さっきからどうしても視界の端で見てしまうラカンの股間の逸物はバキバキに血管浮きたたせてそそり勃ったままだ。

 そんなに気を遣わなくていいのに。だって三十二歳の俺はラカンと付き合ってるんだろう? だから俺のこの身体は簡単にラカンを受け入れられるし、触られただけでこんなに敏感に反応してるんだろう? だったら別に、このまま抱………………と、そこで気が付いた。

 え?
 俺、ラカンと付き合ってるの? 
 は? 四年前に俺の方から好きって言った? 
 それでラカンも俺のことが好き?????

「~~~~~~~~ッツ!?」
「おい、どうしたんだよ。いきなり顔真っ赤にして」

 我慢できずに正座したままベッドに突っ伏した俺の背中をラカンが撫でる。
 ま、待って待って待って待って。好きって、好きって言ったの? 俺が? そんな度胸が俺にあったなんてまったく知らなかったぞ!?

 俺は手で口を覆ったまま、なんとか顔を上げてラカンを見る。
 記憶よりももっと男臭くて、どこかにぶつけたのか鼻がちょっと曲がってて傷も増えてて、そして昔よりちょっとだけ眉間の皴が減ってて俺にニッて笑ってくれるラカンの顔が目の前にある。

「……本当に……?」
「あ?」
「本当に、俺とラカンは付き合ってるの…………?」
「ああ」

 ラカンがなんでもないって顔で頷く。

「俺もここに住んでるくらいだからな」

 なんだって? すごい新情報だ。あ、でも。
 パッと浮かんだ怖い想像に思わず硬直した俺にすぐに気がついて、ラカンがほんの少し口角を上げる。

「ああ、エリザばあさんのことか? 大丈夫、ちょっと足腰は弱ってるが元気だぜ? 今はラヴァン婆さんのとこで向こうの孫娘夫婦と一緒に暮らしてるんだ」
「ラヴァンと?」
「二年前にお前、半年ぐらい俺と東方に行ってたんだよ。その間エリザばあさん一人じゃ心配だからってラヴァンのとこに行って、結局そのまま向こうで一緒に店やったりなんだりして楽しくやってるそうだぜ」
「…………そ、そうなのか」

 良かった。ホッとした。
 思わず胸をなでおろす俺にラカンが「今じゃエリザばあさんの作る石鹸だの茶だのはラヴァンの店の看板商品らしいぞ」と言って笑った。
 ああ、なんだかこのラカンは本当によく笑うな。笑うと言ってもちょっと目を細めて口角が、くっ、て上がる感じの笑い方だけど。でも歳を重ねてますます度胸と覚悟が決まってそうなラカンにはよく似合ってると思う。

 ………………というか、本当にカッコいいな。元からカッコよかったけど大人の余裕というか、こういうちょっとした違いを見せつけられるたびに、なんだかとても落ち着かなくなってしまう。
 うわ、どうしよう。なんだか恥ずかしくてまともに顔が見られない。
 思わず俯いて顔を逸らした俺を、ラカンが屈んで覗き込んでくる。

「なんだ、今度はどうした」
「…………いや、その…………」
「おい、思ってることはちゃんと言えといつも言ってるだろう」
「ラ、ラカンはますますカッコよくなったな、と思って」
「………………」

 あれ、ラカンが黙り込んでしまった。おかしなことを言ってしまっただろうか。するとラカンが突然俺を抱き上げて膝に乗せると、俺の眉間にキスをしながら「そういう二十歳のお前はすごくかわいいぜ」と言った。

 …………っか、かわ…………っ!?

「お、とんがり耳まで赤くなったな」
「い、いや、でも、今の俺はもう三十超えてるわけだし」
「顔の作りの話じゃないぞ? こうして見ると昔のお前って結構なんでも顔に出てたんだな。気づかなかったわ」

 そう言って今度は俺の口にちゅ、って口づけながら睫毛が重なりそうなほど近くで目を合わせてくる。

「…………なあ、アドルティス」
「なんだ?」
「やっぱりお前を抱きたい。いいか?」

 まるで剥き出しの心臓をぐっと掴まれたような気分だった。
 嘘みたいだ。ラカンが俺を欲しがってる。俺を抱きたがってる。え、すごい、すごいな。

 正直、俺は今までラカンより他に好きになった相手はいないし、当然ながら誰ともそういう意味で触れ合ったことがない。
 元々エルフは肉体的な接触に重きを置かない種族で、そのせいで例え夫婦の契りを交わしても一人くらいしか子どもはできないことがほとんどなくらいだ。
 だからラカンに欲しがられるのはとても嬉しいけれど、何をどうしたらいいのかわからないし、正直怖い。
 でも、俺がこのラカンに出会えたのは奇跡みたいなものだ。だから今断ったらきっと後悔すると思った。

「………ああ、構わない」
「ふはっ、相変わらず頭がまともな時はかわいくない物言いだな」

 かわいくない。そうか。一瞬落ち込みそうになったが、元々人付き合いの経験も浅く変わり者と言われ続けた俺がかわいいはずないのだから仕方がない。
 けれどラカンがまた俺の唇に触れるだけのキスをして言った。

「いや、違うな。そういうところもかわいい」

 抱きしめられた拍子に尻のあたりにものすごく熱くて硬いモノが当たる。思わずびくっと肩を揺らすと、不意にラカンの目の奥が光って俺は息を呑んだ。

「なんせ初めてだもんな。怖いよな」

 ニヤリと笑ったラカンが、俺の耳元で囁いた。

「大丈夫。優しく、ゆっくり、たっぷり可愛がってやる」

 その低くて擦れた声に背筋が震える。でもそれは怖いからじゃない。ラカンは昔から意地が悪くて口も悪かったけど、でも、だからってこんな。

「な? 俺と気持ちいいことしようぜ? アディ」

 そう言うラカンを見て、ああ、これが本気になった鬼の顔なんだ、って。
 すっかり頭が馬鹿になってしまった世間知らずの森のエルフの俺はもう、ただ黙って頷くしかなかった。
しおりを挟む
感想 94

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! 時々おまけを更新しています。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...