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【番外編】恋も積もれば愛となる 編

アドルティスの告白 ★

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「え、あ、うそ」

 俺は目も口も開いたまま、信じられない思いで枕だかクッションだかをぎゅうううっと握り締めた。
 狭くてきっつい中を、ぐぷぐぷと押し開いて、奥へ、奥へ、熱くて硬い塊が。

「は、はいってきてる……っ」

 うそ、しんじられない。

「ラ……っ、ラカンの……っ、ラカンの、が、はいってきてる……っ!」
「ああ、俺の形にぴったりだろう?」

 そんなことを言ってラカンが笑ってるけれど俺はそれどころじゃなかった。
 ものすごい圧迫感。内臓ごと押されて喉元までぐいぐい持ち上げられてる気分。熱い。苦しい。おなかが、いっぱいで。
 でもすっごい、すっごい気持ちがいい。

「あっ、あっ、あっ」
「いくぞ」

 そう言って、ラカンが一気に奥まで突き上げた。

「~~~~~~~ッツ!!」

 もうそこからは何も考えられなかった。
 首と肩をベッドに押し付けられ、犬のように高く上げた尻を後ろからガツガツと犯されて、揺さぶられて、うそ、うそ、うそ、
 食われてる。食われてる。おれ、まちがいなく、いま、くわれてる。
 俺の脳裏に、子どもの頃に森で見た光景が浮かぶ。森の守り神と言われた巨大な純白の熊が、捕らえた獲物を太い前足で押さえつけて、首筋に噛み付いて肉を食いちぎるさまを。
 太古の森では力こそが正義だ。力の強い者は弱い者を如何ようにもすることができる。それと同じだ。
 野生の獣が俺を犯している。俺を喰らっている。勝てるはずがない。抵抗なんてできるわけがない。

「はうんっ、うあんっ、んぃいっ、ひあっ、んぐっ」

 気持ちいい、気持ちいい、頭おかしくなるくらい気持ちいい。すごい、すごい、おれ、いまラカンにくわれてる、たべられちゃってる。
 けど、頭の片隅でジリジリと真っ赤な警報が点滅してる。
 駄目だ、やっぱりちゃんと言わなきゃ。ほんとは俺は、今のラカンが知ってる俺じゃないんだって。もう何がなんだか全然わかんないけどとにかくちゃんと話をしなきゃ。
 そう、ちゃんと聞かなきゃ、十二年後の俺たちがどういう関係なのか。一体俺たちはさっきから何をしてるのか。

 でも、そんな理性的な言葉は何一つ俺の口からは出てこなかった。
 枕だかクッションだかに頬を押し付けて、もう涙とか涎とか、出るもの全部出して、馬鹿みたいにいやらしい、女みたいな声を出して、ひたすら突かれて揺さぶられて、気持ちがよくて気持ちがよくて、もっともっとって叫びたくて仕方がない。
 するとそんな俺に向かって駄目押しみたいに、後ろからラカンの声が聞こえてきた。

「……っ、なあ、アドルティス、やっぱり、中に出してぇ……っ」

 ラカンもハアハアしてる。ラカンも、きもちいいのかな。おれのなか、きもちいいのかな。
 でも駄目だ。でも欲しい。ラカンが望むことならなんでもしてやりたい。俺が持ってるものならなんでもあげたい。だって、俺はほんとにほんとにラカンが好きなんだ。

 生まれ育った、決してよそ者を受け入れない閉鎖的な西の森を飛び出して、見るもの聞くもの何もかもが初めてだったダナンの街で、ふとした時に聞こえる馬車の音や宵っ張りの酔客の声に飛び起きたりせずにようやく朝まで眠れるようになってきた頃。
 初めて他の冒険者たちと組んだ仕事で、リーダー役を買ってでた男に突然魔獣の前に突き飛ばされて死にそうな目に合わされた。
 その時にラカンだけが怒ってくれたんだ。どうも女のエルフと間違えたみたいだったけど。でもそれは別にどうでもいい。

 親だって一族だって、森を出たいと言った俺に呆れて『好きにすればいい』としか言わなかった。
 手先は器用だけどそれ以外は要領が悪くてものを知らなくて、素直に感情を伝えることもできない俺を、ラカンは馬鹿にしたり呆れたりもしないでいつもいろんなことを教えてくれた。

 野宿で肌寒い夜はぴったりと毛布を巻きつけて荷物を背中にして寝るとちょっと温かいこと。
 ダナンの街でどこの店が一番エールが冷えてるかとか、金山羊亭の串焼きのタレの旨さの秘密とか。ラカンの国の珍しい酒の味だって全部ラカンが教えてくれた。

 それにラカンは優しい。ラカンと一緒に魔獣討伐に行けて浮かれて、つい自分の限界を超えて支援魔法に魔力を費やしすぎてしまった時、そんな初歩的な自分のミスを打ち明けられなくて、ものすごく重く感じる荷物を担いで倒れそうになる自分を叱咤しながら歩いていたらラカンに気づかれた。そして言ってくれたんだ。

――――おい、無理するな。つらい時はちゃんと俺に言え。

 俺が何か隠してても、誤魔化そうとしても、ラカンだけはいつも絶対に気づく。俺が素直に言えない弱音とかそういうのに多分ラカンだけは気づいてくれる。
 だから好き。めんどくさそうな顔をして意地悪なことを言いながら俺の荷物を奪って持って行ってくれる。そんなラカンが好きで好きでたまらないから。

 腰を掴むラカンの太い指がぐっ、と食い込む。その痛みにさえゾクゾクする。

「なあ……っ、明日、なんにも予定入れてないんだろ……っ? そういう約束だもんな、アディ……っ」

 ハアハアと息を荒げた、ラカンのせっぱつまったような声。こんな声、初めて聞いた。
 あんたが本当に欲しがっているなら、俺が拒めるわけがない。でも。でも。おれはあんたのしってるおれじゃない。でも。
 その時、後ろのラカンがぐっと息を詰めた。俺の中のモノがびくびくっとして、そして一番奥に押し付けるみたいにぐりぐりと動いて。そして。

「ひ、い………………ぃぁああぁ……っつ!」

 ふあ……、うそ……、あつい、あつい、おなかのなか、いっぱい、いっぱい。

「ふ……ぁ……」

 おれ、おとこなのに。
 おれはラカンのこと、だいすきだけど、でもラカンはそうじゃないはずなのに。
 だめだよ、おれにこんなことしてちゃ。だって馴染みのおんなのひとだっているし、いつもラカンに惚れてる人だってたくさんいるって、おれしってるんだから。 

 涙と、唾液と、それとくらげみたいにへにゃへにゃした呟きが俺の口から零れ落ちた。

「だめだよ……ラカン、おれなんかと、こんな……」

 その時、ピタリとラカンの動きが止まった。あ、まずい、俺、今何か言った? ひかれた? 呆れられた? 笑われちゃう? 
 でも、俺の耳に突き刺さったラカンの言葉はそんなものじゃなかった。

「お前、誰だ」

 一瞬間が空いて、そして一気に頭からサーって血の気が引いた。ぐらぐらする。心臓が、凍ってしまう。

――――おまえ、だれだ。

 その言葉に、朝からギリギリのところでなんとか保ってきた何かがプツンと切れた。

 俺が誰かって? 俺はアドルティスだよ。
 西の森のエルフで、でも今はダナンの冒険者で、あんたが「戦うのが楽しくなるな」って言ってた支援魔法が使えて、あんたのことが大好きで。

 お前誰だ、なんて、ラカンにだけは言われたくなかった。
 目頭がものすごく熱くなって、喉がすごく痛くて、もう我慢できなかった。

「ふ……っ、うぐ……っ」

 ああ、馬鹿みたいだ。こんなことで泣くなんて。いくらエルフの中じゃ若造もいいところだからって。物心ついてから泣いたことなんてないのに、よりによってあんたの前で。
 でも止められなかった。心臓が痛くて苦しくてものすごく悲しかった。

「おい、どうした」

 少し焦ったような声でラカンが言う。顔を枕に押し付けて抱え込んだ俺の両腕を取ろうとするけど、俺は必死に抵抗した。
 ラカンが「とりあえず、一度抜くぞ」って言って、ズルズルと俺の中からペニスを引き抜く。その、散々擦られて恐ろしく敏感になった粘膜を引きずられる感触に、俺はまた枕にしがみ付いて悲鳴を飲み込んだ。

「おい、大丈夫だからこっち向け。顔見せろ」
「んぐ……、ぜっ……たい、ひっく、イヤだ……っ」
「ほら、アディ。いい子だから」

 だからそのアディって何? そんな風に呼んだこと一度もないくせに。
 でも聞きなれない名前で俺を呼ぶラカンの声があまりにも優しくて、俺は恐る恐る顔を上げてラカンを見る。するとラカンがじっと俺の目を覗き込んだ。

「……お前……、あぁ?」

 思わずビクッとしてしまう。ああ、どうしよう。その先を聞きたくない。聞くのが怖い。
 俺が何か隠し事とか誤魔化そうとしても欺ける気がまるでしないあの目が、全ての真実を見抜く目が俺をじっと見ている。ラカン、今のあんたには俺がどう写ってるの?
 するとラカンが一つ瞬きをして言った。

「ああ、いや、違うな。悪い」

 そして俺のくしゃくしゃになった髪を掻き上げてそっと耳に掛ける。

「……お前、アドルティスだな。でもなんか違うな。くそっ、なんだこれ」
「…………ラカン……っ」

 とうとう俺の目が決壊して涙がぼたぼた流れ落ちた。もう恥ずかしいとかなんとか言ってられない。まずいな。だって俺、見た目は三十超えてるのにこんな子どもみたいに泣いて、みっともなさすぎてラカンだって呆れてるはずだ。

「身体、起こせるか?」
「…………ん」

 ずび、と鼻をすすりながら言うと、ラカンが全然力の入らない身体を引っ張り上げてくれて、そして敷布の端で顔を拭いてくれた。そして立ち上がったラカンが台所から持ってきた水をごくごくと飲む。ああ……おいしい……ようやく一息つけた感じがする……。

 なんとか気持ちが落ち着いたところで、俺の様子を窺ってたラカンが聞いてきた。

「で、一体なんなんだよ」
「…………実は」

 信じて貰えるのかどうかすごく不安だったけど、でも俺は全部正直に話すことにした。
 ラカンには隠し事も上っ面の誤魔化しも効かない。まだ一年も一緒にいない俺でもそれはよく分かってる。だからもう、本当に全部話した。

 今朝目が覚めたらこの家にいたこと。
 俺はまだ二十歳で、故郷の西の森からこのダナンに来てまだ一年経っていないこと。
 ここが十二年後の世界だって頭ではわかっているけど、なぜ自分がここにいるのか、ここでの俺がどういう生活をしていているのか全然知らないこと。

 全部、全部話した。その間ラカンは一言も口を挟まずじっと聞いてくれた。そしてみんなぶっちゃけ終えて口を閉じると、ラカンはぱちくりと瞬きをした。

「……つまり、お前は見た目は三十二のお前だけど、中身はまだ二十歳のアドルティスなのか」
「…………そう」
「十二年分の記憶がない……、記憶喪失とかいうやつか?」

 そうか、俺からしたら未来の俺の中に突然自分が入ってしまった感覚だけど、こっちの人からしたら何かの理由で十二年の記憶を無くしてしまったように見えるのか。
 するとラカンは珍しく困惑したような顔で髪の毛をがしがしと掻き回して、そして言った。

「…………じゃあお前、気持ちの上ではまだ処女だったのか」
「誰が処女だ! 俺は男だ!」

 思わず手元にあった枕で頭をぶん殴る。

「いや、それはわかってるが、じゃあなんて言えばいいんだよ」
「別に言わなくていい!」

 もう一発殴ってやろうと拳を振り上げたところでラカンがニッと笑った。ああ、まただ。この笑い方。こんな風に未来のラカンは俺に笑ってくれるんだな。

「そうか、そりゃいろいろ驚いたよな。悪かった」
「……信じてくれるのか……?」
「おお、信じる信じる」

 拍子抜けするくらいあっさりとラカンは頷いた。

「お前、素直じゃないしすぐ隠し事ばっかするけど、俺にそんなつまらん嘘をつくようなヤツじゃないからな」
「ラカン……っ」

 ああ、駄目だ。また涙腺が馬鹿になる。慌ててまた鼻をすするとラカンはぶっとい腕を組んで言った。

「まあ、なんでこんなことになっちまったのかとか、それは考えても仕方がない。わかるわけないからな」
「いや、しかし……」
「そんな情けないツラするな」

 そう言ってラカンが俺の髪をくしゃくしゃにする。

「とりあえずお前は五体満足で、頭だってしっかりしてる」

 そして俺の顔を覗き込んで言った。

「それに俺もいる。もしこのまま元に戻れなくても心配するな」
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