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【番外編】恋も積もれば愛となる 編
ラカンの来訪
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「だ……誰だ……?」
俺は扉越しに尋ねる。だってエリザさんだったら鍵を持ってるはずだから。すると扉の向こうから聞こえてきた声は、俺がこの世で一番大好きな男の声にすごくよく似ていた。
「俺だ。開けてくれ」
………………ラ、ラカン……!?!?!
思わず息を呑んで硬直する。するとまた外から声がした。
「どうした? 何かあったのか?」
間違いない。これ、ラカンの声だ。俺とは全然違う、低くてちょっと擦れてて聞くとドキドキするくらい男らしい声。でも扉越しだからなのか疲れているのか、いつもよりもっと声が低い気がする。それともこの声の低さはもしかして不機嫌の前兆だろうか。そう思って急いで扉を開けようとして気が付いた。
………………待てよ? ここが十二年後の世界だということは、ラカンだって十二年分歳を取ってるってことだ。ええと……ラカンっていくつだったっけ?
いや待てよ。この前ラカンに誕生日を聞いた時、鬼人族には生まれた日を祝う習慣がないとかで年はわからんって言われたんだった。多分三十かそこらだろう、って。ってことは今四十くらい?
でも鬼人族も森のエルフと同じで二百年近く生きるそうだから、多分十二年経っててもあんまり見た目はかわってないと思う……けどどうなんだろう。まったく想像がつかない。
俺は恐る恐る鍵を外して扉を開けて、そして――――絶句した。
なんだこのめちゃくちゃ渋い男前は。
そこにいたのは確かに十二年分、歳を取ったラカンだった。
見上げるほど背が高くて、俺じゃ腕が回るかどうかわからないくらい逞しくて分厚い身体はそのままだ。光が当たると少し赤みがかる短い黒髪と黒光りする角も、そしていかにも意志の強そうな太い眉や鋭い眼光も。
けれど、さっき会った寿命八十年の人間のリンドほど変わってはいないけど、十二年分の歳月は確かに存在してた。
俺の知ってるラカンより鼻とか顎とかがさらにがっしりしてて、それになんというか、ますます男臭さが増している。
「よう、なんかいい匂いがするな」
そう言って入ってきたラカンを俺はただひたすら無言で凝視した。
その口調は全然変わってなくて、でも声はもっと低く太くなってる気がする。というかなんかさらに身体が分厚くなってないか!? 鬼人って何歳まで成長するんだろう。俺なんてちょっと目が細くなって頬のあたりがスッキリしたくらいしか変わってないのに不公平じゃないか?
いや、俺のことはどうでもいい。問題は今目の前にいるラカンだ。
どうやらラカンは結構長い間街を出ていたようで、着ている服や荷物がだいぶ土埃で汚れている。腰には相変わらず黒と赤に塗られた二振りの刀を差していて、記憶よりもさらに厚みのある背中を見ていると、なぜか背筋のあたりがゾクゾクしてきて少し震えてしまった。
そして今、俺はめちゃくちゃに叫びだしたい衝動と必死に戦っている。
う、わ~~~~~~~~!!!!!
俺が知ってるラカンの、いつもピリピリとした気迫に満ちて油断なくあたりを探っているような目と気難しい顔もものすごくカッコよかったけれど、十二年経ったラカンはさらに、さらに死ぬほどカッコよかった。いかん、語彙が圧倒的に足りない。
まだ一瞬しか顔を見てないけど、でも後姿だけでもすごい男の色気というか、圧倒的な何かがガンガン伝わって来る。なんなんだ一体。
それにさっきからやけに腹の奥の方がぞくぞくして、すごく変な感じがする。風邪でもひいたんだろうか。
目が覚めたらいきなり十二年経っていたなんてことになってしまって本当にどうしようかと思ってたけれど、あまりにもカッコいいラカンが見れてこれだけは本当に神様感謝します! と本気で祈りを捧げたくなった。
そしてラカンに気づかれていないのをいいことに、妙に慣れた足取りで俺の前を歩いて台所へと向かうラカンの背中を瞬きするのも惜しんで見つめる。するとラカンが荷物を降ろしながら聞いて来た。
「今日、何してた?」
ああああああ、やっぱり声が渋くてカッコいい……。心臓が痛いくらいバクバクしているなんて気づかれないように、俺はことさら気を付けていつもの無表情で答えた。
「街の雑貨屋とギルドを覗いて、それからスープとパンを作っていたな」
「なんだよ、地味だな」
「そういうラカンはどうだった? ええと、依頼は無事終わったのか?」
なんとか怪しまれないように、それでも興味津々で聞いてみる。
「おお、東の岸壁の迷宮、覚えてるか? 最下層にグエラギルスがいたとこだ。あそこにまたでっかい魔獣が住み着いたらしくてな。ただあそこの地盤がこの間の地鳴りでかなり緩くなってるみたいでそっちの方が危ないって、今回は様子だけ見て戻ってきた」
「そうか」
ラカンは自分より強い魔獣と戦うのが三度の飯より好きだという男だ。それじゃあ今回は暴れられなくて物足りなかっただろう。だから深く考えずに「残念だったな」と言うと、ラカンが振り向いて、ほんの少し目を細めてニッと笑った。
ッツ、わ、笑った~~~~~~~~~~!?!?
いかん、頭が完全に停止して手足も動かない。すごい、あのいつも仏頂面のラカンが。俺に向かってニッ、って。
完全に見蕩れてしまってぼけっとしてると、ラカンにいぶかしげな顔で聞かれてしまった。
「……なんだよ、どうかしたか? お前」
「いや、なんでもない」
いかんいかん。怪しまれちゃいけない。だってこんなかっこいいラカンともっとあれこれおしゃべりしたいし、それとなく今の俺がどんな生活をしてるのか聞き出せるかもしれないし。
「そうだ、そろそろ昼だし何か食べるか? ラカン」
「おう」
俺はそう言っていつもエリザさんと一緒に食事をとっている丸いテーブルを指し示す。そしてラカンが腰を下ろしたのを見てからたっぷりのスープをよそって持って行った。
それからオーブンから出した焼き立てのパンを分厚く切って、ふと思い立って地下から持ってきたチーズを上に乗せてオーブンに戻す。
裏口に行くと、毎朝配達されるミルクの缶がバケツの水で冷やされていた。それも持ってくると、こんがり焼けたチーズパンと一緒にラカンに出した。
「お、いつものチーズが乗ってるやつだな」
「え?」
思わず聞き返すと、ラカンが惚れ惚れするくらい大きな口でパンを咀嚼しながら言った。
「お前、昔から俺がここに来るといつもたっぷりチーズを乗せたのを焼いてくれてたよな」
「そ、そうだったか?」
俺が知ってる限りじゃ、ラカンがこの家に来たことは一度もない。そこまで深い付き合いではないからな。
つまり、俺が知らない十二年の間にもっと親しくなってここでチーズを乗せたパンを振る舞う仲にまでなったってことか。
うわ、すごい、嬉しいな。思わずにんまりと笑ってしまう。多分全然顔は動いてなかったと思うけど。
なんだか興奮しすぎて全然食欲が湧いてこなかったので、俺はお茶だけ淹れてラカンの前に座って飲んだ。
ラカンがパンとスープを三回お代わりしてから、俺は皿やコップを流し台に運びながらしみじみと幸せを噛みしめていた。
ああ、でもこれじゃあラカンにはまだ足りないよな。どうしよう、どこか外に食べに行こうかって聞いてみようか、なんて考えてたら、あまりにも予想外すぎる言葉がラカンの口から飛んできた。
「よし、じゃあ風呂行くぞ」
「…………は?」
「皿洗いは後でもいいだろう? お前も早く来い」
そう言ってラカンは二階へ上がる階段の向こうにある浴室へさっさと行ってしまった。
え? 風呂? 今まだ昼だけど? というかうちで湯を浴びるのか?
いや、それは別にいいんだけれど、まるで俺も一緒に入るみたいな感じじゃなかったか?
そりゃあ同じ討伐依頼を受けて汚れて帰ってきた時にみんな一緒に街の共同浴場へ行ったことだってあるし、一緒に風呂に入ること自体は別に嫌じゃない。
でもなんでうちで? 確かにこの家には湯が出る浴室があるけれど、ただ身体を洗うだけの小さくて狭いところだし、もっと広い共同浴場の方がゆったりできていいんじゃないのか? それになんで俺も一緒に? それとも何か聞き間違えただろうか。
どうしていいかわからず台所で呆然としていると、階段の向こうからラカンの声が聞こえてきた。
「こっち来る時ベッドのとこからアレ持って来いよ」
…………どうやら俺も一緒に風呂場に行くことは決定事項らしい。でもアレってなんだろう? 見当もつかない。
仕方なしに言われた通りエリザさんの部屋だったはずの寝室に行ってベッドを見下ろす。朝起きて、突然のことに動揺したまま家を飛び出たからシーツやなんかもくしゃくしゃだ。
それはともかく、ここらへんに風呂場に持ってくような物があっただろうか。
きょろきょろあたりを見回して、ベッドの横にある小型のキャビネットに気づいた。この中に何かあるのかな。そう思って俺は引き出しを開けてみた。
……………………え、なにこれ。
何か透明の液体の入った瓶と、すべすべしていて細長い棒みたいな物を取り出してみる。なんだろう、これは。
とりあえず棒は置いておいて瓶の方を開けてみると、甘くていい匂いが漂ってくる。これ、香油か? エリザさんの化粧道具か何かだろうか。
それを置いてもう一度謎の棒を手に取ってみる。うーん、わからん。
そいつも香油の隣に置いて、引き出しの中をもう一度覗いてみる。するともっと奥の方に何かがあった。結構持ち重りのするそれを引き出しから取り出してみて、そしてそれが何かを理解した瞬間に取り落とした。
それは黒くて、明らかに男の逸物の形を模した物体だった。
な、なんだこれ。え、これってアレだよな? アレの形だよな? な、なんでこんなものがここに????
俺は床に落としてしまったその恐ろしく卑猥な形のものを呆然と見つめる。そして恐る恐る拾い上げた。
…………アレの形をしているのはわかったが、これちょっとデカすぎないか? こんなサイズの男なんていないだろう普通。あ、これ、ここに魔石を入れて使うのか。ということは魔道具? じゃあこんな形してるけど実は武器かなんかだったりするんだろうか? と思ったその時だった。
俺は扉越しに尋ねる。だってエリザさんだったら鍵を持ってるはずだから。すると扉の向こうから聞こえてきた声は、俺がこの世で一番大好きな男の声にすごくよく似ていた。
「俺だ。開けてくれ」
………………ラ、ラカン……!?!?!
思わず息を呑んで硬直する。するとまた外から声がした。
「どうした? 何かあったのか?」
間違いない。これ、ラカンの声だ。俺とは全然違う、低くてちょっと擦れてて聞くとドキドキするくらい男らしい声。でも扉越しだからなのか疲れているのか、いつもよりもっと声が低い気がする。それともこの声の低さはもしかして不機嫌の前兆だろうか。そう思って急いで扉を開けようとして気が付いた。
………………待てよ? ここが十二年後の世界だということは、ラカンだって十二年分歳を取ってるってことだ。ええと……ラカンっていくつだったっけ?
いや待てよ。この前ラカンに誕生日を聞いた時、鬼人族には生まれた日を祝う習慣がないとかで年はわからんって言われたんだった。多分三十かそこらだろう、って。ってことは今四十くらい?
でも鬼人族も森のエルフと同じで二百年近く生きるそうだから、多分十二年経っててもあんまり見た目はかわってないと思う……けどどうなんだろう。まったく想像がつかない。
俺は恐る恐る鍵を外して扉を開けて、そして――――絶句した。
なんだこのめちゃくちゃ渋い男前は。
そこにいたのは確かに十二年分、歳を取ったラカンだった。
見上げるほど背が高くて、俺じゃ腕が回るかどうかわからないくらい逞しくて分厚い身体はそのままだ。光が当たると少し赤みがかる短い黒髪と黒光りする角も、そしていかにも意志の強そうな太い眉や鋭い眼光も。
けれど、さっき会った寿命八十年の人間のリンドほど変わってはいないけど、十二年分の歳月は確かに存在してた。
俺の知ってるラカンより鼻とか顎とかがさらにがっしりしてて、それになんというか、ますます男臭さが増している。
「よう、なんかいい匂いがするな」
そう言って入ってきたラカンを俺はただひたすら無言で凝視した。
その口調は全然変わってなくて、でも声はもっと低く太くなってる気がする。というかなんかさらに身体が分厚くなってないか!? 鬼人って何歳まで成長するんだろう。俺なんてちょっと目が細くなって頬のあたりがスッキリしたくらいしか変わってないのに不公平じゃないか?
いや、俺のことはどうでもいい。問題は今目の前にいるラカンだ。
どうやらラカンは結構長い間街を出ていたようで、着ている服や荷物がだいぶ土埃で汚れている。腰には相変わらず黒と赤に塗られた二振りの刀を差していて、記憶よりもさらに厚みのある背中を見ていると、なぜか背筋のあたりがゾクゾクしてきて少し震えてしまった。
そして今、俺はめちゃくちゃに叫びだしたい衝動と必死に戦っている。
う、わ~~~~~~~~!!!!!
俺が知ってるラカンの、いつもピリピリとした気迫に満ちて油断なくあたりを探っているような目と気難しい顔もものすごくカッコよかったけれど、十二年経ったラカンはさらに、さらに死ぬほどカッコよかった。いかん、語彙が圧倒的に足りない。
まだ一瞬しか顔を見てないけど、でも後姿だけでもすごい男の色気というか、圧倒的な何かがガンガン伝わって来る。なんなんだ一体。
それにさっきからやけに腹の奥の方がぞくぞくして、すごく変な感じがする。風邪でもひいたんだろうか。
目が覚めたらいきなり十二年経っていたなんてことになってしまって本当にどうしようかと思ってたけれど、あまりにもカッコいいラカンが見れてこれだけは本当に神様感謝します! と本気で祈りを捧げたくなった。
そしてラカンに気づかれていないのをいいことに、妙に慣れた足取りで俺の前を歩いて台所へと向かうラカンの背中を瞬きするのも惜しんで見つめる。するとラカンが荷物を降ろしながら聞いて来た。
「今日、何してた?」
ああああああ、やっぱり声が渋くてカッコいい……。心臓が痛いくらいバクバクしているなんて気づかれないように、俺はことさら気を付けていつもの無表情で答えた。
「街の雑貨屋とギルドを覗いて、それからスープとパンを作っていたな」
「なんだよ、地味だな」
「そういうラカンはどうだった? ええと、依頼は無事終わったのか?」
なんとか怪しまれないように、それでも興味津々で聞いてみる。
「おお、東の岸壁の迷宮、覚えてるか? 最下層にグエラギルスがいたとこだ。あそこにまたでっかい魔獣が住み着いたらしくてな。ただあそこの地盤がこの間の地鳴りでかなり緩くなってるみたいでそっちの方が危ないって、今回は様子だけ見て戻ってきた」
「そうか」
ラカンは自分より強い魔獣と戦うのが三度の飯より好きだという男だ。それじゃあ今回は暴れられなくて物足りなかっただろう。だから深く考えずに「残念だったな」と言うと、ラカンが振り向いて、ほんの少し目を細めてニッと笑った。
ッツ、わ、笑った~~~~~~~~~~!?!?
いかん、頭が完全に停止して手足も動かない。すごい、あのいつも仏頂面のラカンが。俺に向かってニッ、って。
完全に見蕩れてしまってぼけっとしてると、ラカンにいぶかしげな顔で聞かれてしまった。
「……なんだよ、どうかしたか? お前」
「いや、なんでもない」
いかんいかん。怪しまれちゃいけない。だってこんなかっこいいラカンともっとあれこれおしゃべりしたいし、それとなく今の俺がどんな生活をしてるのか聞き出せるかもしれないし。
「そうだ、そろそろ昼だし何か食べるか? ラカン」
「おう」
俺はそう言っていつもエリザさんと一緒に食事をとっている丸いテーブルを指し示す。そしてラカンが腰を下ろしたのを見てからたっぷりのスープをよそって持って行った。
それからオーブンから出した焼き立てのパンを分厚く切って、ふと思い立って地下から持ってきたチーズを上に乗せてオーブンに戻す。
裏口に行くと、毎朝配達されるミルクの缶がバケツの水で冷やされていた。それも持ってくると、こんがり焼けたチーズパンと一緒にラカンに出した。
「お、いつものチーズが乗ってるやつだな」
「え?」
思わず聞き返すと、ラカンが惚れ惚れするくらい大きな口でパンを咀嚼しながら言った。
「お前、昔から俺がここに来るといつもたっぷりチーズを乗せたのを焼いてくれてたよな」
「そ、そうだったか?」
俺が知ってる限りじゃ、ラカンがこの家に来たことは一度もない。そこまで深い付き合いではないからな。
つまり、俺が知らない十二年の間にもっと親しくなってここでチーズを乗せたパンを振る舞う仲にまでなったってことか。
うわ、すごい、嬉しいな。思わずにんまりと笑ってしまう。多分全然顔は動いてなかったと思うけど。
なんだか興奮しすぎて全然食欲が湧いてこなかったので、俺はお茶だけ淹れてラカンの前に座って飲んだ。
ラカンがパンとスープを三回お代わりしてから、俺は皿やコップを流し台に運びながらしみじみと幸せを噛みしめていた。
ああ、でもこれじゃあラカンにはまだ足りないよな。どうしよう、どこか外に食べに行こうかって聞いてみようか、なんて考えてたら、あまりにも予想外すぎる言葉がラカンの口から飛んできた。
「よし、じゃあ風呂行くぞ」
「…………は?」
「皿洗いは後でもいいだろう? お前も早く来い」
そう言ってラカンは二階へ上がる階段の向こうにある浴室へさっさと行ってしまった。
え? 風呂? 今まだ昼だけど? というかうちで湯を浴びるのか?
いや、それは別にいいんだけれど、まるで俺も一緒に入るみたいな感じじゃなかったか?
そりゃあ同じ討伐依頼を受けて汚れて帰ってきた時にみんな一緒に街の共同浴場へ行ったことだってあるし、一緒に風呂に入ること自体は別に嫌じゃない。
でもなんでうちで? 確かにこの家には湯が出る浴室があるけれど、ただ身体を洗うだけの小さくて狭いところだし、もっと広い共同浴場の方がゆったりできていいんじゃないのか? それになんで俺も一緒に? それとも何か聞き間違えただろうか。
どうしていいかわからず台所で呆然としていると、階段の向こうからラカンの声が聞こえてきた。
「こっち来る時ベッドのとこからアレ持って来いよ」
…………どうやら俺も一緒に風呂場に行くことは決定事項らしい。でもアレってなんだろう? 見当もつかない。
仕方なしに言われた通りエリザさんの部屋だったはずの寝室に行ってベッドを見下ろす。朝起きて、突然のことに動揺したまま家を飛び出たからシーツやなんかもくしゃくしゃだ。
それはともかく、ここらへんに風呂場に持ってくような物があっただろうか。
きょろきょろあたりを見回して、ベッドの横にある小型のキャビネットに気づいた。この中に何かあるのかな。そう思って俺は引き出しを開けてみた。
……………………え、なにこれ。
何か透明の液体の入った瓶と、すべすべしていて細長い棒みたいな物を取り出してみる。なんだろう、これは。
とりあえず棒は置いておいて瓶の方を開けてみると、甘くていい匂いが漂ってくる。これ、香油か? エリザさんの化粧道具か何かだろうか。
それを置いてもう一度謎の棒を手に取ってみる。うーん、わからん。
そいつも香油の隣に置いて、引き出しの中をもう一度覗いてみる。するともっと奥の方に何かがあった。結構持ち重りのするそれを引き出しから取り出してみて、そしてそれが何かを理解した瞬間に取り落とした。
それは黒くて、明らかに男の逸物の形を模した物体だった。
な、なんだこれ。え、これってアレだよな? アレの形だよな? な、なんでこんなものがここに????
俺は床に落としてしまったその恐ろしく卑猥な形のものを呆然と見つめる。そして恐る恐る拾い上げた。
…………アレの形をしているのはわかったが、これちょっとデカすぎないか? こんなサイズの男なんていないだろう普通。あ、これ、ここに魔石を入れて使うのか。ということは魔道具? じゃあこんな形してるけど実は武器かなんかだったりするんだろうか? と思ったその時だった。
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