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【番外編】恋も積もれば愛となる 編
街の様子
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俺はラカンが好きだ。
いつだって顔が見たいし声が聞きたいし一緒にいたい。そんな風に思う相手は今まで一人もいなかった。
初めて出会って彼に助けられて以来、嬉しい偶然が重なって何度もラカンと一緒にいろいろな依頼をこなしてきた。その間に、二振りの剣で真っ先に魔獣に飛び掛かって戦うラカンを補佐する支援魔導士として割とうまく役目を果たしてこれたと思う。
ラカンに『お前と一緒だとすごく戦いやすくて気持ちがいいな』と言われた時は嬉しくて嬉しくて空でも飛べそうなくらい舞い上がってしまった。
といっても、極力感情を抑えて森の古木のように静かで穏やかな生き方を良しとする森のエルフらしく、表情にも態度にも全然現れていなかったと思うけど。
時々自分がもっと素直に『嬉しい』とか『楽しい』とか、そういうのを表現できる性質だったらな、と思う。そうしたらラカンに、会えて嬉しいとか一緒に組めて楽しいとか伝えられたかな。いややっぱり駄目だ。だって俺がラカンのことが大好きだってことがバレたらいけない。そんなことがバレてしまっては気持ち悪がられて二度と一緒に依頼を受けたりできなくなってしまうからな。
そうそう、昨日の夜はラカンが久し振りにダナンに戻って来る日で、もしかしたら会えるかもしれないと思ってラカンが定宿にしてるところの食堂にこっそり覗きに行ったんだった。もし偶然会えたら、お疲れって言って、一緒に酒でも飲めるかな、って。
でも昨夜、ラカンはまだダナンに戻ってきていなかった。
今回のラカンの仕事は、中央都市へ向かう商隊の護衛だ。もちろん剣鬼と呼ばれるほど強くて経験豊富なラカンが慣れた中央都市までの道中で魔獣におくれをとるようなことはそうそうないだろう。それでも何かあったのだろうか、と少し不安になる。
会いたいなぁ。ちょっと顔を見て、元気かどうかわかるだけでもいいんだけどな。
もちろんそれ以上のことを求めてはいけない。
なぜなら俺にとってのラカンは誰よりも強くてかっこよくて大事な人だけど、ラカンからしたら単に時々仕事で一緒になる相手の一人でしかない。
以前、魔獣の討伐依頼で一緒になった男がラカンに惚れて一度でいいから抱いて欲しいって迫った時は『趣味じゃない』ってあっさり振られてたから男に興味はないらしい。まあ、自分より強いやつと戦うことが三度の飯より好きだという雄の塊みたいな鬼人族の剣士なら当然だろうけど。
それにラカンにはどこかの花街の娼館に女がいるんだそうだ。やっぱり何かの依頼で一緒になった魔導士からそう聞いたことがある。
いいな。どんな女の人なんだろう。ラカンはどんな女がタイプなんだろうな。
……いかんいかん。つい現実逃避してしまった。
とにかくなんで俺はエリザさんの部屋で寝ていたのか。エリザさんはどこにいるのか。それだけでも調べなくては。
俺は辺りの気配を伺いつつ二階の自分の部屋に行ったら、なぜかそこは薬草を乾かしたりいろんな物が閉まってある納戸になっていた。
俺が使っていた小さなベッドも置いてあったけど使われてる形跡もないし、チェストにしまってあるはずの俺の服もなかった。
仕方なくエリザさんの部屋に戻ってそこの引き出しを開けると……あった。俺の服だ。不思議に思いながらも手早くそれに着がえて、辺りの様子を探るために家を出た。
◇ ◇ ◇
エリザさんの家の周りの街並みは確かに記憶にあったのと変わらなかった。でも表の通りに出ると微妙に違和感を感じる。あ、あそこの店、あそこは飲み屋だったはずなのに雑貨屋になっている。おかしいな。
…………しかもなんだこれ。今まで見たことない薬石がある。これ流紋石だよな。流紋石ってシトリニア産のとガドル山の黄色いのしかないはずなのに。そう思って思わずまじまじ見ていると店主らしき男に声を掛けられた。
「それは昨日中央から入ってきた東の産の流紋石だよ」
「……この種類のは初めて見たが」
「初めて? いやいや、あんたいつもよくうちに来てくれてるだろう? これは五年くらい前に発見されて以来、うちでもかなりの量を扱ってるよ」
「…………そうか」
五年前に発見された? いやそんな話は聞いていないし、大体この店昨日までなかっただろう。昨日までは飲み屋だったんだから。
デュラハンにつままれたような気分で通りを歩いていくと、お目当ての冒険者ギルドが見えてきた。さすがにギルドは記憶と違っては………………いや、建て増しされてるな。たった一日で? 一体どうなってるんだ。
早速中に入ろうとした時、見知らぬ男に声を掛けられた。
「やあ、アドルティス! 今日は鬼の旦那と一緒じゃないのかい?」
鬼の旦那? 誰だそれは。もしかしてラカンのことか?
その男は金髪で背が高く割と整った容貌をしてるが、やたら親し気に近寄って来るその顔にやっぱり見覚えはなかった。
ダナンの街に来てから、知らない男や女にやたらベタベタされたりしつこく話し掛けられたことが何度もあったのでこいつもそういうやつだろうか。俺が黙ってそいつを見ていたら、そいつは肩をすくめて言った。
「なんだい、昔みたいにそんな取り付く島もない顔をして。それよりリナルアが君に会いたいと言っていたよ。最近は魔石だけじゃなく薬石にも興味を持ちだしたらしい。そういうの詳しいだろう?」
もし会ったら話を聞いてやってくれ、と言ってその男は陽気に手を上げて去って行った。一体誰だったんだろう。それにリナルアって?
首を傾げながらギルドに入って目当てのところに行く。それはこのギルドの職員が書いて毎日張り出している壁新聞だった。
最近発見された魔獣の情報やこの辺り一帯の出没状況、落石で通れなくなった峡谷の場所から新しく出店した武器屋のお得情報など、いろんな話が載っている。
隅から隅まで読んだけれど特に目を惹く事件や事故はなく、ちらっと載ってないかな? と思ったラカンの名前も見当たらなかった。
どうしよう、ラヴァンのところに行ったらエリザさんが今どこにいるのかわかるだろうか。そう考えながらふと顔を上げて、壁新聞の一番上に書いてある日付を見た。
『アルウム歴九九四年 神聖帝国歴三四八年 初夏ユウル月二日目』
…………きゅうひゃくきゅうじゅうよねん??????
おかしい。日付は合ってる。初夏ユウル月二日目。間違いない。でも年号が間違ってた。
今はアルウム歴九八二年のはずだ。十二年も未来の日付が書いてあるじゃないか。
ギルドの職員たちは仕事柄こんなつまらないミスをしたりしない。討伐依頼や報酬の計算なんかで間違いがあったら、元々荒っぽい冒険者たちから吊るし上げを食らう羽目になるからな。
ということは……………………どういうことなんだろう?
いつだって顔が見たいし声が聞きたいし一緒にいたい。そんな風に思う相手は今まで一人もいなかった。
初めて出会って彼に助けられて以来、嬉しい偶然が重なって何度もラカンと一緒にいろいろな依頼をこなしてきた。その間に、二振りの剣で真っ先に魔獣に飛び掛かって戦うラカンを補佐する支援魔導士として割とうまく役目を果たしてこれたと思う。
ラカンに『お前と一緒だとすごく戦いやすくて気持ちがいいな』と言われた時は嬉しくて嬉しくて空でも飛べそうなくらい舞い上がってしまった。
といっても、極力感情を抑えて森の古木のように静かで穏やかな生き方を良しとする森のエルフらしく、表情にも態度にも全然現れていなかったと思うけど。
時々自分がもっと素直に『嬉しい』とか『楽しい』とか、そういうのを表現できる性質だったらな、と思う。そうしたらラカンに、会えて嬉しいとか一緒に組めて楽しいとか伝えられたかな。いややっぱり駄目だ。だって俺がラカンのことが大好きだってことがバレたらいけない。そんなことがバレてしまっては気持ち悪がられて二度と一緒に依頼を受けたりできなくなってしまうからな。
そうそう、昨日の夜はラカンが久し振りにダナンに戻って来る日で、もしかしたら会えるかもしれないと思ってラカンが定宿にしてるところの食堂にこっそり覗きに行ったんだった。もし偶然会えたら、お疲れって言って、一緒に酒でも飲めるかな、って。
でも昨夜、ラカンはまだダナンに戻ってきていなかった。
今回のラカンの仕事は、中央都市へ向かう商隊の護衛だ。もちろん剣鬼と呼ばれるほど強くて経験豊富なラカンが慣れた中央都市までの道中で魔獣におくれをとるようなことはそうそうないだろう。それでも何かあったのだろうか、と少し不安になる。
会いたいなぁ。ちょっと顔を見て、元気かどうかわかるだけでもいいんだけどな。
もちろんそれ以上のことを求めてはいけない。
なぜなら俺にとってのラカンは誰よりも強くてかっこよくて大事な人だけど、ラカンからしたら単に時々仕事で一緒になる相手の一人でしかない。
以前、魔獣の討伐依頼で一緒になった男がラカンに惚れて一度でいいから抱いて欲しいって迫った時は『趣味じゃない』ってあっさり振られてたから男に興味はないらしい。まあ、自分より強いやつと戦うことが三度の飯より好きだという雄の塊みたいな鬼人族の剣士なら当然だろうけど。
それにラカンにはどこかの花街の娼館に女がいるんだそうだ。やっぱり何かの依頼で一緒になった魔導士からそう聞いたことがある。
いいな。どんな女の人なんだろう。ラカンはどんな女がタイプなんだろうな。
……いかんいかん。つい現実逃避してしまった。
とにかくなんで俺はエリザさんの部屋で寝ていたのか。エリザさんはどこにいるのか。それだけでも調べなくては。
俺は辺りの気配を伺いつつ二階の自分の部屋に行ったら、なぜかそこは薬草を乾かしたりいろんな物が閉まってある納戸になっていた。
俺が使っていた小さなベッドも置いてあったけど使われてる形跡もないし、チェストにしまってあるはずの俺の服もなかった。
仕方なくエリザさんの部屋に戻ってそこの引き出しを開けると……あった。俺の服だ。不思議に思いながらも手早くそれに着がえて、辺りの様子を探るために家を出た。
◇ ◇ ◇
エリザさんの家の周りの街並みは確かに記憶にあったのと変わらなかった。でも表の通りに出ると微妙に違和感を感じる。あ、あそこの店、あそこは飲み屋だったはずなのに雑貨屋になっている。おかしいな。
…………しかもなんだこれ。今まで見たことない薬石がある。これ流紋石だよな。流紋石ってシトリニア産のとガドル山の黄色いのしかないはずなのに。そう思って思わずまじまじ見ていると店主らしき男に声を掛けられた。
「それは昨日中央から入ってきた東の産の流紋石だよ」
「……この種類のは初めて見たが」
「初めて? いやいや、あんたいつもよくうちに来てくれてるだろう? これは五年くらい前に発見されて以来、うちでもかなりの量を扱ってるよ」
「…………そうか」
五年前に発見された? いやそんな話は聞いていないし、大体この店昨日までなかっただろう。昨日までは飲み屋だったんだから。
デュラハンにつままれたような気分で通りを歩いていくと、お目当ての冒険者ギルドが見えてきた。さすがにギルドは記憶と違っては………………いや、建て増しされてるな。たった一日で? 一体どうなってるんだ。
早速中に入ろうとした時、見知らぬ男に声を掛けられた。
「やあ、アドルティス! 今日は鬼の旦那と一緒じゃないのかい?」
鬼の旦那? 誰だそれは。もしかしてラカンのことか?
その男は金髪で背が高く割と整った容貌をしてるが、やたら親し気に近寄って来るその顔にやっぱり見覚えはなかった。
ダナンの街に来てから、知らない男や女にやたらベタベタされたりしつこく話し掛けられたことが何度もあったのでこいつもそういうやつだろうか。俺が黙ってそいつを見ていたら、そいつは肩をすくめて言った。
「なんだい、昔みたいにそんな取り付く島もない顔をして。それよりリナルアが君に会いたいと言っていたよ。最近は魔石だけじゃなく薬石にも興味を持ちだしたらしい。そういうの詳しいだろう?」
もし会ったら話を聞いてやってくれ、と言ってその男は陽気に手を上げて去って行った。一体誰だったんだろう。それにリナルアって?
首を傾げながらギルドに入って目当てのところに行く。それはこのギルドの職員が書いて毎日張り出している壁新聞だった。
最近発見された魔獣の情報やこの辺り一帯の出没状況、落石で通れなくなった峡谷の場所から新しく出店した武器屋のお得情報など、いろんな話が載っている。
隅から隅まで読んだけれど特に目を惹く事件や事故はなく、ちらっと載ってないかな? と思ったラカンの名前も見当たらなかった。
どうしよう、ラヴァンのところに行ったらエリザさんが今どこにいるのかわかるだろうか。そう考えながらふと顔を上げて、壁新聞の一番上に書いてある日付を見た。
『アルウム歴九九四年 神聖帝国歴三四八年 初夏ユウル月二日目』
…………きゅうひゃくきゅうじゅうよねん??????
おかしい。日付は合ってる。初夏ユウル月二日目。間違いない。でも年号が間違ってた。
今はアルウム歴九八二年のはずだ。十二年も未来の日付が書いてあるじゃないか。
ギルドの職員たちは仕事柄こんなつまらないミスをしたりしない。討伐依頼や報酬の計算なんかで間違いがあったら、元々荒っぽい冒険者たちから吊るし上げを食らう羽目になるからな。
ということは……………………どういうことなんだろう?
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