37 / 64
Ⅴ エルフの恋も信心から 編
『今週のエルフ様』
しおりを挟む
そう言って突然襲い掛かってきたレンとリナルアの兄妹に連れて行かれたのは、偶然にもついこの間ラカンと夕飯を食べた飲み屋だった。あの木苺のコーディアルを飲んだ店だ。しかもその時と同じテーブルについた途端、隣に座ったレンがひそひそ声で聴いてきた。
「なあ、アドルティス。あの噂は本当なのか?」
「噂?」
「これよ」
そう言ってリナルアがドン! とばかりにテーブルに一枚の紙を出す。それは普段ギルドの掲示板に貼ってある壁新聞を破り取ったものだった。
ギルドの職員が手作りしている壁新聞にはダナンの街でのイベントや最近ルーマ地方で起こった異変や珍しい魔獣についての注意事項など、色々なお役立ち情報が書かれている。
って、え、あれ破ったりしたら駄目だろう。他の人たちが見れなくなるじゃないか。バレたら受付統括のリードあたりに大目玉食らうんじゃないか?
「違うわよ。これは表の壁新聞じゃなくて裏のよ」
「裏?」
「壁新聞じゃなくてごく少部数だけ印刷されて早い者勝ちで貰えるんだ。ダナンの冒険者の面白おかしい話とかファニエール街の店の噂とかが載ってる」
そ、そんなのがあるのか……知らなかった……。というかファニエール街ってラカンも通ってる色街だろう? あんなところの噂話って……まさかラカンのこととかも載ってるんだろうか?
気になって覗き込もうとすると、リナルアが「これ! ここのとこよ!」と紙面を指差した。
そこには、ダナンの住民たちが匿名で投稿している記事を集めたコーナーだった。
一番上には『ダナンの酒場で一番人気の歌姫が今付き合っている男は誰か』っていう内容で、その次は変わった魔道具ばかり作っている西グレン通りのイカレクラフターが今年作った魔道具の役に立たない度ランキングらしい。
なんだ? この『今週の輝くイケメン剣士様』ってコーナー。これどう見てもレンのことだよな。おっかけファンによる『街で見かけたレン様情報』か。誰が読むんだそんなの。
思わず顔を上げて隣を見たら、レンが『そこは見なくていいよ』と言って手で隠してしまった。
「ほら、これだよ。これ」
「…………は?」
そう言って指差したのは『今日の輝くイケメン剣士様』の隣。なんと『今週の麗しのエルフ様』と書いてある。
へえ、ダナンにもそんなに有名なエルフがいるのか。知らなかった。どこ出身のエルフなんだろう、リード辺りに聞いたらわかるかな。などと考えながら記事を読んでみた。
――――――――――――
今日もエルフ様が古の薬師様の採取依頼を一発でクリアしてた。あの厳しい薬師様の要求する基準をなんなく越えられるエルフ様さすがだし相変わらずお美しくて今日も飯が旨い。
――――――――――――
え、なにこれ。古の薬師様ってラヴァンのことだよな? 厳しいって書いてあるし。彼女の基準を超えられるエルフって……もしかして俺のことなのかこれ。しかも俺が依頼をこなすと飯が旨いってなんでだ? というか一々俺の納品状況とか見てる人がいるの?
「あなた、ダナンで知らない人はいないってくらい有名なのよ? いまいち実感してないみたいだけど」
とリナルアがちょっと呆れたような顔をして言う。
なんと答えていいかわからず、その下の記事を読む。そっちはさらに問題ありだった。
――――――――――――
今日、エルフ様がなんだかすごくぼんやりした顔でギルド受付に荷物の受け取りに来てた。他の子は「いつもと変わんないじゃない」とか言ってたけど麗しのエルフ様ファンクラブ会員ナンバー一桁の私にはわかる。あれは絶対ぼんやりしてた。ってかエロかった。
――――――――――――
「エ、エロ……っ!?」
え、いや、なにそれ。といいつつ『荷物の受け取り』という言葉でそれがいつのことかすぐにわかった。あれだ。ギルド経由で取り寄せた乾燥サラサ紙を取りに来た時だ。
確かあれは……そう、ラカンがなぜか機嫌が悪くて、でもってめちゃくちゃに抱かれたあの夜の次の日だ。
……間違いなくぼんやりしてたな。だってあの日一日中ずっと俺の腰を掴んでたラカンの手の感触とか、後ろにラカンの太くて堅くて熱いアレが入ってるみたいな感覚が消えなくて、それに耳に吹き込まれる低くて擦れた声とか圧し掛かって来る身体の重みとか……いかん、また思い出してしま……っ
「ア、アドルティス? 大丈夫か?」
思わず口を押さえて机に突っ伏しそうになった俺の背中をレンが心配そうに撫でてくる。
「…………だ、大丈夫だ」
「アドルティス、そっちの記事じゃなくてね」
と言ってリナルアがその下を指差した。え、まだあるの?? と思って恐る恐る読んでみる。
――――――――――――
ギルド裏の飲み屋で飲んでたら麗しのエルフ様来た。相棒の鬼さんを迎えに来たみたい。
なんかエルフ様胸倉掴まれてぐいっと引っ張られて耳元にちゅう♡されてて思わずケララ鶏の唐揚げ噴いた。
――――――――――――
「………………は、はぁあぁあッ!?」
と叫んだ。いや叫びそうになった。実際には目玉落っこちそうなほどかっぴらいて絶句した。え、なにそれ、いつ俺がラカンとちゅう♡♡だって!?!?!?
「なあ、これ、相棒の鬼さんってラカンだよな? 他に鬼っていないもんな?」
「護術士のゴランも鬼って感じだけど一応人間だし、鬼っていうよりオーガって顔だもんね。それにあなた彼と組んだことだってないよね? ある?」
「というか『ちゅう』って何だ!? アドルティス、あの鬼にそんなことされちゃったのか!? 皆が見てる飲み屋なんかで!?」
「…………い、いや、誤解だ。レン。そんなことはされてない」
ぐらぐらする頭で、なんとかそこはきっぱりと否定した。
だってこれ、あの時のことだろ? ラカンが妙に機嫌悪かった時の。
俺が雑貨屋に薬石が入荷したのを見に来たらレンがいて、で、話してたらリナルアがラカンを探してるのにぶつかって。
そしたら偶然向かいの店で飲んでたラカンの殺気がしたから、レンとリナルアをまいてラカンのところに行った時のことだ。
その時は本当にラカンの機嫌が悪くて……。それに窓から俺のこと見てたらしいラカンがもしリナルアに気づいたら、リナルアと飲みに行っちゃうんじゃないかと思って誤魔化そうとしたら急にラカンが怒り出したやつだ。
その時確かに襟首掴まれて耳元であれこれ言われたけど、ただそれだけだ。
そんなまさか、こんな店の中でラカンが俺にちゅう♡なんてするわけがないだろう。ちょっと考えただけで嘘だってわかることだ。
……と、そこまで考えて、俺は思わず柄にもなく意気消沈してしまった。だって俺、ラカンとすっごいセックス何度もしちゃってるけど、ちゅーはしたことない。うん、まあ、頼めばしてくれるのかもしれないんだけど、でもなんていうかさ。
「アドルティス? 何をそんなしょんぼりしてるんだい?」
「ねぇ、大丈夫? ひょっとして具合でも悪いの? お水飲む?」
レンとリナルアに心配されてしまった。大丈夫となんとか答えるとリナルアが肩をすくめて言った。
「まあ、違うならいいんだけど。この裏新聞、毎回結構いい加減だし。でもあなた本当にこの街じゃ有名人なんだから、もう少し気を付けた方がいいわよ。いろいろと」
そしてレンがなぜか鼻息も荒く言ってくる。
「そうだぞ。ただでさえアドルティスはいろんなやつに目をつけられてるんだから。こんな噂を立てられて勘違いした野郎に襲われでもしたら……!」
「うーん、でも相手がラカンって書かれてたら逆にみんな慌てて逃げてきそうな気もするけどね」
「………………だな」
何か二人で納得してるようだったが、俺は落ち込んでしまったまま浮上できず、正直それどころじゃなかった。
ラカンとキス。そんなのしたいに決まってる。でもしたことない。だってそんな感じじゃなかったし。
あんまり深く考えないラカンのことだから、俺が頼めばキスくらいしてくれるんじゃないかと思う。でも初めてのキスを、俺の方からお願いしてしてもらうって、そんなのって、やっぱり悲しくないか?
それにラカンはいつも本能でなんでも決める。つまり俺とセックスはできてもキスは嫌だって無意識に思ってたからしなかったのだとしたら、そしたら俺はもう二度と立ち直れないと思う。
いやだな。なんでそんな贅沢なこと考えるようになっちゃったんだろうか。前はバッタリ会えただけで嬉しかったし、話ができただけで、一緒に飯が食えただけでものすごく嬉しかったし、ましてやあんな風に抱いて貰えて俺の中にいっぱい注いでもらってもう死んでもいいくらい幸せだったのに。
ラカンが他の金級の冒険者たちと緊急討伐依頼に出掛けてから七日経つ。そう、まだたった七日なのだ。なのに会いたくて会いたくてたまらない。
今までだって一か月や二か月いないことだってあったのに。その時は平気…………とは言えなくても一応普通に過ごせてたのに。
あ、なんかちょっとまずいな、これは。今まであんまり考えないようにしてたのに。頭がキリキリする。
ラカンに会いたい。すごく会いたい。
俺は前にここで夕飯を食べた時ラカンが座ってた、でも今は空っぽの席を見る。
ラカンがなぜか俺のために木苺のコーディアルを頼んでくれた。そんなの初めてだ。お互いいつも質より量のエールばっかだし。
確かにラカンは大抵怖い顔してるし結構意地悪だけど、怒ってても眉間のシワとか暗く光ってる目とかすごくかっこいいし、いつもより低い声にもゾクゾクしてしまう。
でも後でちゃんと『苛々してて悪かった』って言ってくれるところとか、ラカンが好きすぎてちょっとおかしい俺のことも呆れずに最後まで付き合ってくれる、すごくいいやつだ。
それに時々すごく優しくなる。ちょうど俺に綺麗な赤色の酒を頼んでくれた時みたいに。
だからあの日、俺は本当に幸せだったんだ。今一緒に緊急討伐に行ってる彼らがラカンを呼びに来るまでは。
ああああラカンに会いたいなあああと頭の中で絶叫した瞬間、後ろから俺が今聞きたい声とは真逆の、やけにキラキラした声が飛んできた。
「なあ、アドルティス。あの噂は本当なのか?」
「噂?」
「これよ」
そう言ってリナルアがドン! とばかりにテーブルに一枚の紙を出す。それは普段ギルドの掲示板に貼ってある壁新聞を破り取ったものだった。
ギルドの職員が手作りしている壁新聞にはダナンの街でのイベントや最近ルーマ地方で起こった異変や珍しい魔獣についての注意事項など、色々なお役立ち情報が書かれている。
って、え、あれ破ったりしたら駄目だろう。他の人たちが見れなくなるじゃないか。バレたら受付統括のリードあたりに大目玉食らうんじゃないか?
「違うわよ。これは表の壁新聞じゃなくて裏のよ」
「裏?」
「壁新聞じゃなくてごく少部数だけ印刷されて早い者勝ちで貰えるんだ。ダナンの冒険者の面白おかしい話とかファニエール街の店の噂とかが載ってる」
そ、そんなのがあるのか……知らなかった……。というかファニエール街ってラカンも通ってる色街だろう? あんなところの噂話って……まさかラカンのこととかも載ってるんだろうか?
気になって覗き込もうとすると、リナルアが「これ! ここのとこよ!」と紙面を指差した。
そこには、ダナンの住民たちが匿名で投稿している記事を集めたコーナーだった。
一番上には『ダナンの酒場で一番人気の歌姫が今付き合っている男は誰か』っていう内容で、その次は変わった魔道具ばかり作っている西グレン通りのイカレクラフターが今年作った魔道具の役に立たない度ランキングらしい。
なんだ? この『今週の輝くイケメン剣士様』ってコーナー。これどう見てもレンのことだよな。おっかけファンによる『街で見かけたレン様情報』か。誰が読むんだそんなの。
思わず顔を上げて隣を見たら、レンが『そこは見なくていいよ』と言って手で隠してしまった。
「ほら、これだよ。これ」
「…………は?」
そう言って指差したのは『今日の輝くイケメン剣士様』の隣。なんと『今週の麗しのエルフ様』と書いてある。
へえ、ダナンにもそんなに有名なエルフがいるのか。知らなかった。どこ出身のエルフなんだろう、リード辺りに聞いたらわかるかな。などと考えながら記事を読んでみた。
――――――――――――
今日もエルフ様が古の薬師様の採取依頼を一発でクリアしてた。あの厳しい薬師様の要求する基準をなんなく越えられるエルフ様さすがだし相変わらずお美しくて今日も飯が旨い。
――――――――――――
え、なにこれ。古の薬師様ってラヴァンのことだよな? 厳しいって書いてあるし。彼女の基準を超えられるエルフって……もしかして俺のことなのかこれ。しかも俺が依頼をこなすと飯が旨いってなんでだ? というか一々俺の納品状況とか見てる人がいるの?
「あなた、ダナンで知らない人はいないってくらい有名なのよ? いまいち実感してないみたいだけど」
とリナルアがちょっと呆れたような顔をして言う。
なんと答えていいかわからず、その下の記事を読む。そっちはさらに問題ありだった。
――――――――――――
今日、エルフ様がなんだかすごくぼんやりした顔でギルド受付に荷物の受け取りに来てた。他の子は「いつもと変わんないじゃない」とか言ってたけど麗しのエルフ様ファンクラブ会員ナンバー一桁の私にはわかる。あれは絶対ぼんやりしてた。ってかエロかった。
――――――――――――
「エ、エロ……っ!?」
え、いや、なにそれ。といいつつ『荷物の受け取り』という言葉でそれがいつのことかすぐにわかった。あれだ。ギルド経由で取り寄せた乾燥サラサ紙を取りに来た時だ。
確かあれは……そう、ラカンがなぜか機嫌が悪くて、でもってめちゃくちゃに抱かれたあの夜の次の日だ。
……間違いなくぼんやりしてたな。だってあの日一日中ずっと俺の腰を掴んでたラカンの手の感触とか、後ろにラカンの太くて堅くて熱いアレが入ってるみたいな感覚が消えなくて、それに耳に吹き込まれる低くて擦れた声とか圧し掛かって来る身体の重みとか……いかん、また思い出してしま……っ
「ア、アドルティス? 大丈夫か?」
思わず口を押さえて机に突っ伏しそうになった俺の背中をレンが心配そうに撫でてくる。
「…………だ、大丈夫だ」
「アドルティス、そっちの記事じゃなくてね」
と言ってリナルアがその下を指差した。え、まだあるの?? と思って恐る恐る読んでみる。
――――――――――――
ギルド裏の飲み屋で飲んでたら麗しのエルフ様来た。相棒の鬼さんを迎えに来たみたい。
なんかエルフ様胸倉掴まれてぐいっと引っ張られて耳元にちゅう♡されてて思わずケララ鶏の唐揚げ噴いた。
――――――――――――
「………………は、はぁあぁあッ!?」
と叫んだ。いや叫びそうになった。実際には目玉落っこちそうなほどかっぴらいて絶句した。え、なにそれ、いつ俺がラカンとちゅう♡♡だって!?!?!?
「なあ、これ、相棒の鬼さんってラカンだよな? 他に鬼っていないもんな?」
「護術士のゴランも鬼って感じだけど一応人間だし、鬼っていうよりオーガって顔だもんね。それにあなた彼と組んだことだってないよね? ある?」
「というか『ちゅう』って何だ!? アドルティス、あの鬼にそんなことされちゃったのか!? 皆が見てる飲み屋なんかで!?」
「…………い、いや、誤解だ。レン。そんなことはされてない」
ぐらぐらする頭で、なんとかそこはきっぱりと否定した。
だってこれ、あの時のことだろ? ラカンが妙に機嫌悪かった時の。
俺が雑貨屋に薬石が入荷したのを見に来たらレンがいて、で、話してたらリナルアがラカンを探してるのにぶつかって。
そしたら偶然向かいの店で飲んでたラカンの殺気がしたから、レンとリナルアをまいてラカンのところに行った時のことだ。
その時は本当にラカンの機嫌が悪くて……。それに窓から俺のこと見てたらしいラカンがもしリナルアに気づいたら、リナルアと飲みに行っちゃうんじゃないかと思って誤魔化そうとしたら急にラカンが怒り出したやつだ。
その時確かに襟首掴まれて耳元であれこれ言われたけど、ただそれだけだ。
そんなまさか、こんな店の中でラカンが俺にちゅう♡なんてするわけがないだろう。ちょっと考えただけで嘘だってわかることだ。
……と、そこまで考えて、俺は思わず柄にもなく意気消沈してしまった。だって俺、ラカンとすっごいセックス何度もしちゃってるけど、ちゅーはしたことない。うん、まあ、頼めばしてくれるのかもしれないんだけど、でもなんていうかさ。
「アドルティス? 何をそんなしょんぼりしてるんだい?」
「ねぇ、大丈夫? ひょっとして具合でも悪いの? お水飲む?」
レンとリナルアに心配されてしまった。大丈夫となんとか答えるとリナルアが肩をすくめて言った。
「まあ、違うならいいんだけど。この裏新聞、毎回結構いい加減だし。でもあなた本当にこの街じゃ有名人なんだから、もう少し気を付けた方がいいわよ。いろいろと」
そしてレンがなぜか鼻息も荒く言ってくる。
「そうだぞ。ただでさえアドルティスはいろんなやつに目をつけられてるんだから。こんな噂を立てられて勘違いした野郎に襲われでもしたら……!」
「うーん、でも相手がラカンって書かれてたら逆にみんな慌てて逃げてきそうな気もするけどね」
「………………だな」
何か二人で納得してるようだったが、俺は落ち込んでしまったまま浮上できず、正直それどころじゃなかった。
ラカンとキス。そんなのしたいに決まってる。でもしたことない。だってそんな感じじゃなかったし。
あんまり深く考えないラカンのことだから、俺が頼めばキスくらいしてくれるんじゃないかと思う。でも初めてのキスを、俺の方からお願いしてしてもらうって、そんなのって、やっぱり悲しくないか?
それにラカンはいつも本能でなんでも決める。つまり俺とセックスはできてもキスは嫌だって無意識に思ってたからしなかったのだとしたら、そしたら俺はもう二度と立ち直れないと思う。
いやだな。なんでそんな贅沢なこと考えるようになっちゃったんだろうか。前はバッタリ会えただけで嬉しかったし、話ができただけで、一緒に飯が食えただけでものすごく嬉しかったし、ましてやあんな風に抱いて貰えて俺の中にいっぱい注いでもらってもう死んでもいいくらい幸せだったのに。
ラカンが他の金級の冒険者たちと緊急討伐依頼に出掛けてから七日経つ。そう、まだたった七日なのだ。なのに会いたくて会いたくてたまらない。
今までだって一か月や二か月いないことだってあったのに。その時は平気…………とは言えなくても一応普通に過ごせてたのに。
あ、なんかちょっとまずいな、これは。今まであんまり考えないようにしてたのに。頭がキリキリする。
ラカンに会いたい。すごく会いたい。
俺は前にここで夕飯を食べた時ラカンが座ってた、でも今は空っぽの席を見る。
ラカンがなぜか俺のために木苺のコーディアルを頼んでくれた。そんなの初めてだ。お互いいつも質より量のエールばっかだし。
確かにラカンは大抵怖い顔してるし結構意地悪だけど、怒ってても眉間のシワとか暗く光ってる目とかすごくかっこいいし、いつもより低い声にもゾクゾクしてしまう。
でも後でちゃんと『苛々してて悪かった』って言ってくれるところとか、ラカンが好きすぎてちょっとおかしい俺のことも呆れずに最後まで付き合ってくれる、すごくいいやつだ。
それに時々すごく優しくなる。ちょうど俺に綺麗な赤色の酒を頼んでくれた時みたいに。
だからあの日、俺は本当に幸せだったんだ。今一緒に緊急討伐に行ってる彼らがラカンを呼びに来るまでは。
ああああラカンに会いたいなあああと頭の中で絶叫した瞬間、後ろから俺が今聞きたい声とは真逆の、やけにキラキラした声が飛んできた。
87
お気に入りに追加
3,411
あなたにおすすめの小説
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる