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Ⅳ 恋は異なもの味なもの 編

ラカンのお仕置き(?) ★

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 そう言ってヤツをちら、と見上げてやると、アドルティスが目玉落ちるんじゃないのかってくらい目を見開いて俺を見た。その背中をもう一度トンと突いて俺も玄関までの石段を上がる。するとあいつがちらちら俺の方を見ながらドアの鍵を開けた。俺は先にドアを開けて勝手知ったる家の中へとさっさと入る。

 家の中はもう暗くて、どうやらばあさんはとっくに奥の部屋に引き取って寝ているようだ。前回来た時にあいつが「静かに」って言ってたのを思い出して、俺は気配と足音を殺して狭い階段を上って行った。
 あいつの部屋は相変わらずきちんと片付いていて、天井からいろんな匂いのする干した草だのなんだのがぶら下がっている。
 俺は腰の刀を抜いて荷物と一緒に脇に置くと、勝手にあいつのベッドの傍の棚の引き出しを開けた。

「ちょ、ちょっとラカン! 何してんだよ!  こら勝手に開けるな!」

 アドルティスの抗議を聞き流して、俺は例の一番細い張型と香油を取り出す。
 実はあの後、こいつがこれを買ったと思しきファニエール街の道具屋に行ってそこの店主からいろいろとこういうヤツの使い方を聞いて来た。
 最初の時にアドルティスが言ってた『湯を浴びて道具を使って準備した』ってのはコレのことだ、多分。

 俺は張型と香油を手にやつの部屋を出て階下の浴室に向かう。そんで慌てて追いかけてきて、今は脱衣所の入り口で呆然と立ち尽くしているアドルティスに言った。

「何してんだよ、早く脱げ」
「は?」
「身体洗ってやる。俺は疲れてんだ。早くしろ」

 それだけ言うと、俺は着ている服を脱ぎ捨てて浴室に入る。アドルティスはハッと我に返ったように瞬きをすると、何か言おうと口を開きかけた。それより一瞬早く俺は振り向いて言ってやる。

「それじゃあ、お前に選ばせてやる。大人しく自分から俺と湯を浴びるのか、俺に無理矢理引きずり込まれるのとどっちがいい」
「無理矢…………、それって選択の余地なくないか?」
「オラ、早くしろ。疲れてるって言っただろう」

 俺はアドルティスの顔をじっと見つめて答えを待つ。アドルティスはそわそわと視線をあちらこちらに飛ばして言った。

「………………今脱ぐから待ってくれ」

 その素直さを俺は褒めるべきなんだろうが、正直それどころじゃなかった。腹の底からこみ上げてくる怒りを抑えるのに必死で。

 なんだよソレは。ここはてめぇが怒る場面じゃないのかよ。
 いきなり理由も言わずに勝手にガン飛ばして呼びつけておいて、強引に部屋に上がりこんだ挙句、無理矢理風呂場に連れ込もうとしてるんだぞ、俺は。
 これから自分が何されるか当然わかってんだろう?  なのになんでそんなに無抵抗なんだよ。怒らねぇんだよ。
 やっぱりアレか。期待してるのか。そんなにセックスが好きなのか。こんな、乱暴で強引で自分勝手な俺が相手でも、あっちを満たしてくれんなら誰でもいいのかよ。

 考えれば考えるほど、凶暴な感情が俺の中で暴れだしそうになる。でも頭の片隅はどこか冷静で、とことんこいつに思い知らせてやりたくなる。

 俺に言われた通り服を脱いで、所在なげに立っているあいつを顎で促して壁に向かって立たせた。
 アドルティスは俺より頭一つ分背が低い。ついでに言うなら身体の厚みとか横幅なんかは俺の半分くらいだ。
 壁の方を向いて立ってるあいつの背中はひどく緊張して強張っている。そりゃそうだろう。いくら気の知れた俺が相手とはいえ、いきなり訳も分からずこんなところに連れ込まれて後ろからジロジロ見られてるんだからな。

 俺は自分とは全然違うやつの身体をじっくりと観察する。
 出会った頃は腰のあたりまであった長い髪は今は肩の上あたりで切り揃えて、エルフ特有のすんなりと尖った耳に掛けられている。
 なんとなく、この間こいつと寝た時に初めて意識したうなじをもう一度見たくなって、手を伸ばして髪を掻き上げてみた。するとアドルティスの背中がビクン、と跳ねる。

 俺の赤銅色のごつごつした手があいつの抜けるように白くて細いうなじに重なると、俺たちはつくづく正反対の見た目をしているんだな、と感じた。
 うっすらと浮いてみえる背骨の突起を指先でなぞってみる。するとアドルティスが息を呑んでわずかに背筋を反らせた。
 なんだ、遠慮せず声出せよ。聞かせろよ、この間みたいに。なのに俺の指がどんどん下に降りていっても俯いて声を殺してるこいつの頑なな態度にイラついて、俺は出し抜けにアドルティスの手を取った。

「お前、ここ掴まっておけ」
「え、えっ?」

 俺はあいつの手を掴んで、上の方にある湯の注ぎ口を持たせる。

「オラ、両手で持つんだよ。離したら承知しないからな」
「あ、ああ……」

 アドルティスは言われた通り壁に向かって立ち、バンザイするみたいに両手で注ぎ口を握り締める。こいつ、本気で抵抗しないのな。言いなりかよ。なんなんだよこいつ。

 俺はこいつとここのばあさんがいつも手作りしてるというなんかいい匂いのする石鹸を手に取って、たっぷりと手のひらにこすり付けて泡立てた。そしてアドルティスのうなじから背中、そして腰のあたりを見る。
 本当に、俺や俺が知ってる他のやつらとは全然、似ても似つかない身体だ。両腕を上げてるから余計に突き出た肩甲骨やカーブする背中や腰や尻に続く曲線がひどく目につく。

 湯の注ぎ口に掴まらせたまま何もしようとしない俺に不安になったのか、アドルティスが肩越しにちらちらとこっちを見ている。それを無視して俺は手の泡をアドルティスの背中になすり付けた。そして背骨にそって上下に撫でる。
 それからはひたすら黙々とアドルティスの身体を手で洗い続けた。時々アドルティスがぴくっと動いたりしたけどそれも無視。
 背中を擦って脇腹を前に前に撫でて、それから腰。だんだんアドルティスの息が上がってきて、時々詰めた息を短く吐いたりするのを聞きながら途中何度も石鹸を足してこれでもかってくらい丁寧に洗ってやった。もちろん前も。
 後ろから手を回して腹から下へと撫で下ろした時に、さすがにアドルティスが低く呻いて言った。

「ちょ……ラカン……もういいから……」
「今日のお前に拒否権はない」
「だ、だからなんで!?  ラカン何か怒ってるのか!?」
「なら聞くが、さっき酒場で、俺が誰と来たのか聞いた時になんで誤魔化そうとしたんだ」

 俺がアドルティスの真っ赤になった耳の先っぽに軽く噛みつきながら太腿の付け根を指でひっかいてやると、アドルティスがぐっと息を呑んで固まった。

「そ……それは……な、なんとなく……」
「なんとなく?」
「ええと、夜にあの辺りには行くなってあんた言ってたし、でもどうしても入った品物が見たくて、あ、いや、だから一人じゃ駄目だけど連れがいればいいのかって思ったんだけど、それで」
「それでレンの野郎に声掛けたのか」
「え? いや、あいつとは偶然ラファンのところで会って、ええと」
「おい、さっきから全然説明になってねぇぞ」

 いつものアドルティスらしくない、のろのろとした物言いに思わず舌打ちをする。
 こいつがこんな風に要領を得ない話し方をするのはセックスが絡んだ時だけだと今の俺は知っている。だから余計に腹が立つ。
 あいつらと一緒にいたことを隠そうとした理由をきちんと話そうとしないアドルティスに無性に苛々して、俺はわざといやらしい笑みを浮かべてアドルティスの耳元で尋ねた。

「なぁ、お前あれから自分でヌイたのか?」
「え?」
「コレだよ」

 そう言って出し抜けにアドルティスの、なぜかもうすでに勃ってしまってるイチモツをぎゅっと握ると、アドルティスが息を呑んで固まった。そして尖った耳まで真っ赤にして恥ずかしそうに俯く。

「こないだあれだけ俺にすごいところ見せつけておいて今更恥ずかしがることないだろう? 答えろよ。お前あれから自分でヤッてんのか」

 答えないアドルティスに構わず、やわやわと焦らすように根元を親指で小さく擦りながら聞く。

「なあ。お前、ココだけでイけるのか? 後ろ弄んないとダメなんじゃないのか?」
「な……っ、そんなこと……っ」
「そりゃまあ、こっちを扱けばイけるんだろうがな」

 健気に勃起して震えているモノを押さえながらさらにその奥を引っ掻いてやると、面白いくらいにアドルティスの身体が跳ねた。アドルティスのこめかみに唇の先だけつけて尋ねる。

「お前、それだけで満足できるのか?」

 アドルティスは答えない。ただ壁に額を押し付けて、ハアハアと荒く不規則な息を吐き出している。ほんのり上気いた肩を舌先でなぞって軽く歯を立てるとアドルティスの口からとうとう甘い声が漏れた。

「それよりもお前、自分でイけるのか? こないだは無理だったろうが」

 石鹸でぬめる手のひらをべったりとアドルティスの下腹に押し付けて、ゆっくりと上へ撫で上げる。筋肉はついてるけど俺に比べりゃ断然薄い腹の感触を味わい、持ち上げるように胸を掴む。指の腹が乳首に掠った時にアドルティスがぴくっと反応した。おい。お前まさかこんなところまで感じるのかよ。
 親指と人差し指で挟んで揉んだり擦ったりしていたらやたら素直にぷっくりと硬く立ち上がってきて、まるで「もっと触って。 もっといじめて」って言われてるようで、一体こいつの身体はどこまで素直で快感に弱いんだと呆れつつも感心する。

「なあ。お前、あれからどうしてたんだよ」
「ど、どうしてたって……っ」
「こんないやらしくて堪え性のない淫乱な身体で、男を咥え込まずに十日も過ごせるのか、と聞いているんだ」

 アドルティスがぐっと言葉に詰まった。顔は見えないが、でも肩に力が入ってるのがわかる。俺はアドルティスが怒鳴るか俺を突き飛ばすかするのを待った。でもアドルティスはどっちもしなかった。それがまるで俺の言葉を肯定してるみたいに思えてまたカチンと来る。
 出し抜けにアドルティスの背中から身体を離すと、アドルティスが驚いたように肩越しにこっちを見てきた。俺は湯を出して身体についた泡を流しながらアドルティスに聞いた。

「中、洗うのってどうやるんだ?」
「え……っ」

 アドルティスがギョッとした顔をする。

「なにか道具とかいるのか? どこにある?」
「え、いや、そ、それはあんたが風呂出たら自分でやるから」
「俺は今ここでやれと言ってるんだ。っつーか俺にやらせろ」

 するとアドルティスが掴んでいた湯の注ぎ口から手を離して勢いよく振り返った。

「バ、バカ言うな!  絶対に嫌だ!」
「嫌だじゃねぇよ。お前に選択の余地はない」
「ふ、ふざけるな……! 嫌だって言ってるだろう!?」

 初めてアドルティスが怒りと苛立ちに綺麗な眉を吊り上げる。やれやれ、ようやくかよ。俺は風呂場の壁にアドルティスを押し付けて言った。

「お前に拒否権はないと言っただろう。どうしても嫌なら俺を押しのけてここを出ればいいだろうが」
「っ、そ、そんなこと言ったって……っ」
「俺をぶん殴ったっていいぞ。それくらい痛くもかゆくもねぇ。踏んでる場数が違うからな」
「で、でも……」

 段々アドルティスの言葉の勢いが衰えてくる。

「俺だって本気で嫌がってる相手に無理強いはしない。だがそうじゃないなら遠慮はしないからな」
「…………」
「お前が選べよ。どうするんだ」
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