2 / 64
Ⅰ 窮鼠、鬼を噛む 編
鬼人のラカン
しおりを挟む
先日ギルドで紹介されたのその依頼は洞窟で魔鉱を掘る人たちを魔獣から守る護衛の仕事で、全部で十人ぐらいの男たちがその仕事を引き受けていた。
そこでの俺の役割は剣士や斧使いといった前衛部隊に適切なタイミングで攻撃力やなんかをアップさせる支援魔法を掛ける、いわゆる『バッファー』というやつだった。
俺たちエルフは、腕力はあまり強くはないが目と耳がものすごくいい。だから索敵や、あと弓やナイフが得意な者が多い。俺は生まれつきそれとは別に持っている魔力も結構高かった。
中つ国のエルフほどではないが、俺たち西の森のエルフも精霊を観て言葉を交わし力を借りる術を知っている。
魔力を持つ者がそれをどう力に替えるかはそれぞれ違うが、俺の場合は古い精霊の言葉を使って彼らの守護を得て、守りの力や敵を屠る力を増やす。
その依頼で組んだのは初めて見る顔の男たちだった。
『一番土地勘があるから』と言ってリーダー役を買って出た剣士の話では、その洞窟の近辺にいる魔獣はせいぜいオークや強くてもハイ・オークぐらいで『まあ、お前みたいな初心者は俺らがカバーしてやるから安心しろよ!』って言われて、まだ冒険者としての知恵も経験も浅かった俺は素直に頷いた。
ところが俺たちの目の前に突然現れたのは、何十匹もの飢えたハイ・オークを従えた、より大きくて知恵の回るオーク・キングだった。
「おい、嘘だろ!?」
「なんでキング級がこんなところに……ッ!?」
「こんなの聞いてねぇぞ!!」
一緒に来ていたメンバーたちが口々に叫ぶ。
豚みたいな顔をした、見上げるほど大きな醜い魔獣は耐えがたい臭気を放ち、だらだらと涎を垂らしながら黄色い牙を剥き出してこっちに向かってきた。
初めて見たキング級の魔獣に思わず怯んでしまった俺は、それでも咄嗟にナイフを抜いて防御の構えを取りながらすぐ傍にいるリーダーや他の剣士たちに向かって防御バフの呪言を唱えようとした、その時だ。
「う、うわぁぁあぁぁッツ!!!」
突然隣にいたリーダー役が叫び声を上げて俺の腕を掴むとオーク・キングに向かって突き飛ばしたのだ。
「えっ?」
その頃は恥ずかしいことに俺もまだまだひよっこで、あまりに突然のことに一瞬頭が真っ白になってしまった。本当だったらそこで俺はオーク・キングどもの餌になってスヴェンディルの悲河の向こうに渡っていたと思う。ところがだ。
「何やってんだてめぇ!」
さっきのリーダーの叫び声なんか目じゃないほどの怒声が飛んできて、驚いている俺の頭上をそのリーダー役の男が飛んでいった。
え、飛んでる? ニンゲンって空飛べるの? ってぽかんとしてたらそいつは見事にオーク・キングの顔面にヒットして、地響きをたてて一緒に地面に倒れ込んだ。あの巨大なキング級の魔獣が倒れるということは相当勢いでぶつかったということだ。
ますますぽかん、としてたら後ろから目にも止まらぬ速さで黒い影が飛び出してきて、気が付くと大きな鬼が両手に握った二振りの剣を振りかざして一閃の元にオーク・キングの首を跳ね飛ばしていた。
え、なに仲間割れ? オークと鬼が戦ってるの? いやこのエリア鬼なんて出るの? と一瞬馬鹿のように呆けていたら、噴き出したオーク・キングの返り血で真っ赤になった鬼が振り向いて、足元に這いつくばって腰を抜かしてたリーダーの剣士に向かって怒鳴りつけた。
「てめぇ、自分よりほっそいエルフの女に何してんだ!」
「え、女?」
そこで思わず我に返った。
「いや、俺は男だ」
「あ?」
今思えばキングが倒されて恐慌状態のハイ・オークどもに囲まれてそんなことを言っている場合ではなかったと思うが、今度はその鬼の方がぽかんとした顔で俺を見て、言った。
「……まあどっちでもいいか」
「いや良くない」
よくよく見ると鬼は確かに顔は怖いし角もあったが、普通に服を着ているしこのイエルランドの共通言語も話している。
おまけに「おい、お前らいい金ヅルが逃げてくぜ?」などと言って剣を振り血糊を飛ばすと、洞窟から出てきた別の巨大な魔獣に向かって走り出した。
どう見てもキング級の魔獣を金ヅル呼ばわりするその鬼に呆気に取られていたら、周りにいた他の雇われ剣士や斧使いたちもハッと我に返ったようだった。そしてそれぞれの武器を手に魔獣の群れに向かっていく。
俺は珍しく愉快な気分になって立ち上がると、張り切ってとびきり強力な防御バフと攻撃バフを放った。
その、結局一人でキング級の魔獣どもをのしてしまったその鬼こそが、ギルドから出発する俺たちを見て『なんとなく嫌な予感がした』という理由でついて来ていた鬼人族の剣士・ラカンだったというわけだ。
そして俺にとっては衝撃的だったその出会いから八年、俺とラカンは腐れ縁のようなつかず離れずの関係が続いている。
そこでの俺の役割は剣士や斧使いといった前衛部隊に適切なタイミングで攻撃力やなんかをアップさせる支援魔法を掛ける、いわゆる『バッファー』というやつだった。
俺たちエルフは、腕力はあまり強くはないが目と耳がものすごくいい。だから索敵や、あと弓やナイフが得意な者が多い。俺は生まれつきそれとは別に持っている魔力も結構高かった。
中つ国のエルフほどではないが、俺たち西の森のエルフも精霊を観て言葉を交わし力を借りる術を知っている。
魔力を持つ者がそれをどう力に替えるかはそれぞれ違うが、俺の場合は古い精霊の言葉を使って彼らの守護を得て、守りの力や敵を屠る力を増やす。
その依頼で組んだのは初めて見る顔の男たちだった。
『一番土地勘があるから』と言ってリーダー役を買って出た剣士の話では、その洞窟の近辺にいる魔獣はせいぜいオークや強くてもハイ・オークぐらいで『まあ、お前みたいな初心者は俺らがカバーしてやるから安心しろよ!』って言われて、まだ冒険者としての知恵も経験も浅かった俺は素直に頷いた。
ところが俺たちの目の前に突然現れたのは、何十匹もの飢えたハイ・オークを従えた、より大きくて知恵の回るオーク・キングだった。
「おい、嘘だろ!?」
「なんでキング級がこんなところに……ッ!?」
「こんなの聞いてねぇぞ!!」
一緒に来ていたメンバーたちが口々に叫ぶ。
豚みたいな顔をした、見上げるほど大きな醜い魔獣は耐えがたい臭気を放ち、だらだらと涎を垂らしながら黄色い牙を剥き出してこっちに向かってきた。
初めて見たキング級の魔獣に思わず怯んでしまった俺は、それでも咄嗟にナイフを抜いて防御の構えを取りながらすぐ傍にいるリーダーや他の剣士たちに向かって防御バフの呪言を唱えようとした、その時だ。
「う、うわぁぁあぁぁッツ!!!」
突然隣にいたリーダー役が叫び声を上げて俺の腕を掴むとオーク・キングに向かって突き飛ばしたのだ。
「えっ?」
その頃は恥ずかしいことに俺もまだまだひよっこで、あまりに突然のことに一瞬頭が真っ白になってしまった。本当だったらそこで俺はオーク・キングどもの餌になってスヴェンディルの悲河の向こうに渡っていたと思う。ところがだ。
「何やってんだてめぇ!」
さっきのリーダーの叫び声なんか目じゃないほどの怒声が飛んできて、驚いている俺の頭上をそのリーダー役の男が飛んでいった。
え、飛んでる? ニンゲンって空飛べるの? ってぽかんとしてたらそいつは見事にオーク・キングの顔面にヒットして、地響きをたてて一緒に地面に倒れ込んだ。あの巨大なキング級の魔獣が倒れるということは相当勢いでぶつかったということだ。
ますますぽかん、としてたら後ろから目にも止まらぬ速さで黒い影が飛び出してきて、気が付くと大きな鬼が両手に握った二振りの剣を振りかざして一閃の元にオーク・キングの首を跳ね飛ばしていた。
え、なに仲間割れ? オークと鬼が戦ってるの? いやこのエリア鬼なんて出るの? と一瞬馬鹿のように呆けていたら、噴き出したオーク・キングの返り血で真っ赤になった鬼が振り向いて、足元に這いつくばって腰を抜かしてたリーダーの剣士に向かって怒鳴りつけた。
「てめぇ、自分よりほっそいエルフの女に何してんだ!」
「え、女?」
そこで思わず我に返った。
「いや、俺は男だ」
「あ?」
今思えばキングが倒されて恐慌状態のハイ・オークどもに囲まれてそんなことを言っている場合ではなかったと思うが、今度はその鬼の方がぽかんとした顔で俺を見て、言った。
「……まあどっちでもいいか」
「いや良くない」
よくよく見ると鬼は確かに顔は怖いし角もあったが、普通に服を着ているしこのイエルランドの共通言語も話している。
おまけに「おい、お前らいい金ヅルが逃げてくぜ?」などと言って剣を振り血糊を飛ばすと、洞窟から出てきた別の巨大な魔獣に向かって走り出した。
どう見てもキング級の魔獣を金ヅル呼ばわりするその鬼に呆気に取られていたら、周りにいた他の雇われ剣士や斧使いたちもハッと我に返ったようだった。そしてそれぞれの武器を手に魔獣の群れに向かっていく。
俺は珍しく愉快な気分になって立ち上がると、張り切ってとびきり強力な防御バフと攻撃バフを放った。
その、結局一人でキング級の魔獣どもをのしてしまったその鬼こそが、ギルドから出発する俺たちを見て『なんとなく嫌な予感がした』という理由でついて来ていた鬼人族の剣士・ラカンだったというわけだ。
そして俺にとっては衝撃的だったその出会いから八年、俺とラカンは腐れ縁のようなつかず離れずの関係が続いている。
120
お気に入りに追加
3,411
あなたにおすすめの小説
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います
たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか?
そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。
ほのぼのまったり進行です。
他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
*
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結しました!
時々おまけを更新しています。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる