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騎士団長ジェイデンと親友キーガン(1)
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(あーあ、また囲まれちゃってるよ、あいつ)
華やかに着飾った愛らしい女性たちの中心にいる頭一つ半高い騎士服姿の男を眺めながら、キーガンは一人ごちた。彼はきゃらきゃらとさんざめく彼女たち一人ひとりに頷き、真面目腐った顔で何かを答えているようだ。風下にいるせいか、彼女たちのはしゃいだ声とともに彼の声も聞こえてくる。
「団長様がお一人で街にいらっしゃるなんて珍しいですわね」
「もしかして団長様もお祭りにいらしたんですの? 良かったらわたくしたちとご一緒にいかがですか?」
それに対して落ち着いた男の声が答える。
「いや、申し訳ないが今日は非番ではないんだ」
「あら、残念ですこと。けれどほんの少しだけ休憩されるのもよろしいのでは? ねえ!」
「ええ、そうですわ。ぜひ!」
「そういうわけにはいかない。すまない」
(相変わらず律儀なやつだ)
と、キーガンはつくづく思う。誰のことかといえばもちろん王都防衛の要・歴史あるロンダーリン騎士団の史上最年少団長、ジェイデン=ブラックウェルのことだ。
男なら誰もが羨むほどの立派な体格にハッと目を引く男らしい美貌を持ち、初代ダレイアス王以来の名門ブラックウェル家の血をひく、まさに完璧が服を着て歩いているような騎士の鑑だ。
そんなジェイデンは年に一度の祭りのために街へ降りて来た令嬢淑女たちに囲まれて、今日も足止めをくらっていた。
(まあ、確かにあの子たちの気持ちもわからないでもないけどなぁ)
今宵はこのイシュラルの地を生んだ地母神の恵みを祝う星誕節の日だ。彼女たちにとってジェイデンは普段はとても気軽に声を掛けられる相手ではないが、今日ばかりは世の女性たちは皆、母なる神ヴェーラの庇護を受けることができる。多少羽目を外したとしても、祭りの間だけは大目に見てもらえる習わしだ。
だから毎年星誕節に娘たちは身分の上下関係なく精一杯着飾り、意中の相手に愛を告げる。
もちろんここで互いに想いが通じたとしても実際に婚姻を結べるわけではない。市井に暮らす平民たちならともかく、彼女たちも、そしてジェイデン自身が親や家の意向を無視して配偶者を選べる立場にはない。
だからこそ女神の愛が降り注ぐ星誕節の夜に、女性たちはほんのひと時なりとも秘めた愛にまつわる良い思い出が欲しいだけなのだ。
そんな彼女たちをキーガンはとても健気で可愛いと思った。
とはいえ、いい加減そろそろジェイデンを解放してもらわなければ仕事に差し障りが出る。なぜなら星誕祭の真っ最中であってもジェイデンは騎士団の長としてこの王都を守る責務がある。そしてキーガンは副団長として彼の首根っこを掴んででも持ち場に戻らねばならないからだ。
キーガンの今の役目は彼女たちをうまくあしらうことのできない真面目で堅物な彼を救い出すことだ。仕方なくキーガンは愛用の槍を肩にその集団に向かって歩き出した。
「ゴメンな、お嬢さん方。そろそろそこの朴念仁を解放してやってくれないか?」
騎士らしからぬ、と人からよく言われる軽い口調でキーガンが声を掛けると、彼女たちは驚いたように振り向いた。そしてそこにいたのが騎士団の副団長でジェイデンの右腕であり、また彼が無二の親友だと言ってはばからないキーガンだと気づいて笑い合う。
「あら、いけない。またキーガン様に見つかってしまいましたわ」
「残念ですこと。今日はわたくしたちからジェイデン様にお声を掛けられるとても貴重な日ですのに」
「そうだわ。キーガン様もどうかご一緒にわたくしたちと今夜の花火をご覧になりませんこと?」
無邪気にそう言う彼女たちにキーガンは精一杯すまなそうな顔をしてみせた。
「いやいや。お誘いは大変ありがたいが、貴女がたが楽しく星誕祭を祝えるようにこの王都を守ることが我らの使命だからな。どうか我らの代わりに貴女がたの美しさに見惚れているあちらの男性諸氏を誘ってやってくれないか?」
そう言ってニッコリ微笑むと、彼女たちが頬を赤らめてきゃあ、と笑った。
ジェイデン率いるロンダーリン騎士団は普段王城からは出てこない近衛騎士団とは違い、常日頃から警備隊とともに街を警邏している。時にはギルドの傭兵たちとも連携しながら魔獣を退治し王都を守るロンダーリン騎士団の人気は非常に高い。
中でも二十代半ばという前例のない若さで騎士団長となり、卓越した剣技で数々の魔獣の首級を上げてきた、まさに”憧れの騎士様”であるジェイデンの人気は断トツだが、実はキーガン自身の人気もなかなかのものだったりする。
堂々たる体躯に男らしい美貌で、少々威圧感はあるが誰よりも強く同性からも憧れられているジェイデン。
一見細身だがしっかりと鍛えられた長身で、下がった目尻が甘い雰囲気を漂わせる美形のキーガン。
はたから見ると二人はたいそう対照的で、そんな二人が並んでいると非常に目を惹くのだとキーガン自身も知っていた。
今も多くの女性たちが顔を赤くしながら二人を交互に見ている。そんな彼女たちににっこりと微笑んでからキーガンがジェイデンに目くばせをすると、ジェイデンが相変わらずの生真面目な顔と口調で女性たちに謝った。
「彼の言う通り、我らは役目を全うせねばならない。申し訳ないがここで失礼させていただこう」
「ではお嬢さん方、いくら祭りの最中とはいえくれぐれも一人で裏通りへは入らないように気を付けてくれよ? 美しいお嬢さん方を狙う不届き者がいないとは限らないからな」
「はい、キーガン様。ジェイデン様。ごきげんよう」
頬を赤らめてクスクス笑っている彼女たちを後に、キーガンはジェイデンを促し先に歩き出した。
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(本日は17:00、19:00、21:00の三回アップします。明日からは毎朝6時更新です)
華やかに着飾った愛らしい女性たちの中心にいる頭一つ半高い騎士服姿の男を眺めながら、キーガンは一人ごちた。彼はきゃらきゃらとさんざめく彼女たち一人ひとりに頷き、真面目腐った顔で何かを答えているようだ。風下にいるせいか、彼女たちのはしゃいだ声とともに彼の声も聞こえてくる。
「団長様がお一人で街にいらっしゃるなんて珍しいですわね」
「もしかして団長様もお祭りにいらしたんですの? 良かったらわたくしたちとご一緒にいかがですか?」
それに対して落ち着いた男の声が答える。
「いや、申し訳ないが今日は非番ではないんだ」
「あら、残念ですこと。けれどほんの少しだけ休憩されるのもよろしいのでは? ねえ!」
「ええ、そうですわ。ぜひ!」
「そういうわけにはいかない。すまない」
(相変わらず律儀なやつだ)
と、キーガンはつくづく思う。誰のことかといえばもちろん王都防衛の要・歴史あるロンダーリン騎士団の史上最年少団長、ジェイデン=ブラックウェルのことだ。
男なら誰もが羨むほどの立派な体格にハッと目を引く男らしい美貌を持ち、初代ダレイアス王以来の名門ブラックウェル家の血をひく、まさに完璧が服を着て歩いているような騎士の鑑だ。
そんなジェイデンは年に一度の祭りのために街へ降りて来た令嬢淑女たちに囲まれて、今日も足止めをくらっていた。
(まあ、確かにあの子たちの気持ちもわからないでもないけどなぁ)
今宵はこのイシュラルの地を生んだ地母神の恵みを祝う星誕節の日だ。彼女たちにとってジェイデンは普段はとても気軽に声を掛けられる相手ではないが、今日ばかりは世の女性たちは皆、母なる神ヴェーラの庇護を受けることができる。多少羽目を外したとしても、祭りの間だけは大目に見てもらえる習わしだ。
だから毎年星誕節に娘たちは身分の上下関係なく精一杯着飾り、意中の相手に愛を告げる。
もちろんここで互いに想いが通じたとしても実際に婚姻を結べるわけではない。市井に暮らす平民たちならともかく、彼女たちも、そしてジェイデン自身が親や家の意向を無視して配偶者を選べる立場にはない。
だからこそ女神の愛が降り注ぐ星誕節の夜に、女性たちはほんのひと時なりとも秘めた愛にまつわる良い思い出が欲しいだけなのだ。
そんな彼女たちをキーガンはとても健気で可愛いと思った。
とはいえ、いい加減そろそろジェイデンを解放してもらわなければ仕事に差し障りが出る。なぜなら星誕祭の真っ最中であってもジェイデンは騎士団の長としてこの王都を守る責務がある。そしてキーガンは副団長として彼の首根っこを掴んででも持ち場に戻らねばならないからだ。
キーガンの今の役目は彼女たちをうまくあしらうことのできない真面目で堅物な彼を救い出すことだ。仕方なくキーガンは愛用の槍を肩にその集団に向かって歩き出した。
「ゴメンな、お嬢さん方。そろそろそこの朴念仁を解放してやってくれないか?」
騎士らしからぬ、と人からよく言われる軽い口調でキーガンが声を掛けると、彼女たちは驚いたように振り向いた。そしてそこにいたのが騎士団の副団長でジェイデンの右腕であり、また彼が無二の親友だと言ってはばからないキーガンだと気づいて笑い合う。
「あら、いけない。またキーガン様に見つかってしまいましたわ」
「残念ですこと。今日はわたくしたちからジェイデン様にお声を掛けられるとても貴重な日ですのに」
「そうだわ。キーガン様もどうかご一緒にわたくしたちと今夜の花火をご覧になりませんこと?」
無邪気にそう言う彼女たちにキーガンは精一杯すまなそうな顔をしてみせた。
「いやいや。お誘いは大変ありがたいが、貴女がたが楽しく星誕祭を祝えるようにこの王都を守ることが我らの使命だからな。どうか我らの代わりに貴女がたの美しさに見惚れているあちらの男性諸氏を誘ってやってくれないか?」
そう言ってニッコリ微笑むと、彼女たちが頬を赤らめてきゃあ、と笑った。
ジェイデン率いるロンダーリン騎士団は普段王城からは出てこない近衛騎士団とは違い、常日頃から警備隊とともに街を警邏している。時にはギルドの傭兵たちとも連携しながら魔獣を退治し王都を守るロンダーリン騎士団の人気は非常に高い。
中でも二十代半ばという前例のない若さで騎士団長となり、卓越した剣技で数々の魔獣の首級を上げてきた、まさに”憧れの騎士様”であるジェイデンの人気は断トツだが、実はキーガン自身の人気もなかなかのものだったりする。
堂々たる体躯に男らしい美貌で、少々威圧感はあるが誰よりも強く同性からも憧れられているジェイデン。
一見細身だがしっかりと鍛えられた長身で、下がった目尻が甘い雰囲気を漂わせる美形のキーガン。
はたから見ると二人はたいそう対照的で、そんな二人が並んでいると非常に目を惹くのだとキーガン自身も知っていた。
今も多くの女性たちが顔を赤くしながら二人を交互に見ている。そんな彼女たちににっこりと微笑んでからキーガンがジェイデンに目くばせをすると、ジェイデンが相変わらずの生真面目な顔と口調で女性たちに謝った。
「彼の言う通り、我らは役目を全うせねばならない。申し訳ないがここで失礼させていただこう」
「ではお嬢さん方、いくら祭りの最中とはいえくれぐれも一人で裏通りへは入らないように気を付けてくれよ? 美しいお嬢さん方を狙う不届き者がいないとは限らないからな」
「はい、キーガン様。ジェイデン様。ごきげんよう」
頬を赤らめてクスクス笑っている彼女たちを後に、キーガンはジェイデンを促し先に歩き出した。
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