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【VerΑ編第3章〜大竜星祭】
42話「大竜星祭——sideユーナ」
しおりを挟む「よーし集まったなボンクラ共! いよいよこのゲーム初のイベント【大竜星祭】の——はっじまっりっだあ!!」
赤い妖精がマイクにがなり立てた。と同時に花火が上がる。
赤い妖精の横には白い妖精が飛んでおり、パチパチと手を叩いていた。
場所は巨大なスタジアムのような場所で、巨大なモニターとサブモニターが各所に浮いている。
それを取り囲むように、何万人もの人を収容できる観客席が設けられていた。
歓声がスタジアムを包む。
日傘を差したピンク色の少女が、その観客席の一番上部の立ち見席に立っていた。
赤い妖精が叫ぶ。
「実況はこのスーズと!」
「解説のワタンでお送りしますね」
赤い妖精が今回のイベントの実況役で隣の白い妖精がどうやら解説のようだ。
「スーズさん。さあまもなく始まりますね。イベント参加者達は今どこに?」
「あいつらは待機中さ! あー参加者でまだここでぼーっとして見てる奴は急いで地下へ行けよ!」
「なるほど。確か飛び入り参加も有りなんでしたっけ?」
「有りだが、枠は制限させてもらってる! 飛び込みたいやつは早めに行くことだな!」
ピンクの少女——ユーナは憂いの表情を浮かべながら実況妖精達の会話を聞いていた。
「結局……返信しそびれたな……」
ぽつりとそう呟いたユーナは、深いため息を付いた。
イベントに参加したい気持ちはある。
だけど、ほとんどの群体で断られた。
原因は分かっている。明らかな地雷臭のするHNに、VRアバター。
ろくな装備も持っておらず、武器は課金で手に入るネタ武器だけ。接近職が苦手で、生産職が出来るわけでもない。
前世についても誰もその強さを理解してくれない。
見た目に出ない前世のせいで、前世無しの外れキャラとさえ嘲笑された。
それに【暴王】の馬鹿共による噂によって、余計にやりづらくなった。
だけど、そんな自分をそのまま受け入れてくれた子がいた。
その子は、なんと自分をパーティへと誘ってくれたのだ。
嬉しかった。本当に嬉しかった。素直に飛び付きたかった。
でも、それじゃダメなんだ。
「甘えは堕落……媚びは惰弱……市場価値のない者に居場所はない」
ユーナの独り言を掻き消すように赤い妖精が声を張り上げる。
「さあじゃあルールを説明するぜ!! まずは【Day1】だが……シンプルに魔獣の討伐して得られるポイントで競ってもらう!」
「ベタですね」
「言うな! 分かりやすいのがいいんだよ! ルールは簡単! イベント開始と同時にイベント参加パーティはイベント限定フィールドへとパーティ単位でランダム転移だ! 同じ群体だからって同じ位置には転移しないから注意な! ちなみに群体チャットは生きているから、それでやり取りして合流してもいいし、各パーティで手分けして魔獣を狩ってもいい!」
「なるほど。こうなると参加パーティが多い群体ほど有利ですね」
「この【Day1】ではそうだな! 魔獣にはそれぞれポイントが振ってあって、当然ながら強い奴ほど高ポイントだ! また隠し魔獣もいてそいつもポイントが高い。隅々まで探す事だな! ただ闇雲に倒すだけじゃ稼げないぜ!」
「なるほど……そういった隠し魔獣狙いも有りですね」
「ポイントはパーティ毎に与えられるが、 全滅した時点でポイントは消失! 一人でも残っていればセーフ。やばくなったら逃げ回れ! あとは、全滅したパーティは残念ながら、【Day2】まで復帰出来ないので慎重に行動をすることをオススメするぜ!」
……やはり、三人だけで挑むのは不利だ。
ユーナはとある少女の事を心配するが、それでもその身体はその場から動かなかった
「あとは……まあこれはあまり気にしなくていんだが……フィールドにある物は全て使ってもらって構わないし……事故で他パーティを全滅させた場合は……そのポイントを丸々奪えるルールもある……とか……」
「重要な事をさらりと言いましたねスーズさん」
「あくまでメインは魔獣狩りだからな! だが、奪う者もいるって事は念頭に置いとくことだ。運の悪い奴が駆け上がれるほどランキングは甘くないぜ?」
「確かにそうですね。魔獣だけではなく、他プレイヤーにも注意を払う必要がありそうですね」
「そして【Day1】スタートして24時間経った時点でポイントが高い順にイベントアイテムである【星の砂】をプレゼントだ。イベントランキングはこの【星の砂】所持数で決まるから、【Day1】でコケてもまだ挽回できるから諦めるなよ!」
そこから細かいイベントの説明をし始めた紅白の妖精だったが、ユーナは上の空だった。
その時、通知がユーナの視界の端に表示された。
『パパ、悩み事?』
「っ!!」
ユーナが息を止めた。
『なんか分かんないけど、最近悩んでるみたいだから。私の事は気にしなくていいよ、もう大人だから。パパは全部一人で背負い込むのが悪い癖だって昔ママが言ってたよ。少しは——甘えたら? じゃ私、お婆ちゃん家にいってくるから』
「そういえば、行くって言っていたな……はは、言うことまで母親にそっくりだ……」
ユーナからこぼれる言葉は見た目に似つかわしくない言葉だった。
ただのメッセージだ。
なのに、なぜこんなにも心が軽くなったのだろうか。
「さあああああああああイベントスタートだああああああああああ!!」
赤い妖精の絶叫と共に、ユーナは駆けだした。
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