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【VerΑ編第2章〜古竜の寝所】

31話「フロントゲートガーディアン戦——sideミリー」

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「ボス戦慣れてるあたしが虎をやるから、そっちは2人にまかせた」

 そう言って、ミリーが駆ける。その走りに迷いはない。

「無茶しちゃダメだよ!」
「任せろ」

 背中にかかる言葉が嬉しい。ミリーが獰猛な笑みを浮かべながら叫ぶ。

「同じネコ科同士、仲良く——しようや!」

 見た目通り鈍重な動きで斧を横薙ぎに振る【フロントゲートガーディアン】。背の低いミリーと比べればまるで巨人のように見えるその虎の巨像に、しかしミリーはひるむことなく飛び込む。

「人型なら負けない!」

 ミリーが常時発動パッシブスキルである【弱点目視】によって急所を見る。

「こいつら二体とも、背中と頭が弱点っ!!」
「分かった!」
「助かる」

 情報を共有しておき、さて、どう攻めようかと舌なめずりをするミリー。

 二体出てくるボスって事は……まあ大概、どっちかが弱ったらパワーアップか特殊行動始めるパターンやな。
 まあその時はその時だ。

 思考を中途半端に中断し、ミリーは戦闘モードへと自身を切り替えていく。

 リアルでのミリーは特に格闘技をやっているわけでもスポーツを嗜んでいるわけでもない。
 運動は嫌いじゃないが、負けず嫌いかつゲームが好きなミリーは、VRゲーム内で身体を動かす方が性に合っていた。

 ミリーが躊躇無く【フロントゲートガーディアン】が振りまく斬撃の嵐の中に飛び込む。

 一撃は恐ろしく重いだろうが、動きは遅い上に、予備動作が長い。
 パリィはおそらく出来るだろうが、万が一タイミングを外したら危険と判断した。

 ミリーが横薙ぎ、横薙ぎ、縦振りの3連撃を躱し、ボスに肉薄。
 目の前にある鎧へとラノアに貰ったナックルで殴り付けた。

 鈍い音と共に、ボスの頭上のHPゲージが削れたのを確認するとすぐにバックステップ。
 ミリーの目の前を、ボスが柄を短く持ちカウンター気味に払った一撃を通った。

「削れたのは削れたが、ダメージはいまいちか」

 おそらく1割も削れていない。

 ボスが斧の柄を地面に叩き付ける動作をすると、ボスの全身から蒸気が噴き上がり、目が一段と強い赤光を放つ。

「っ!! スキル!?」

 これまでとは比べものにならないほどの速い踏み込みと共にボスが大上段から斧を振り下ろす。

 ミリーが迷いながらも横へとステップしてそれを躱す。叩き付けられた斧から蒸気が刃の様に噴出、斧の更に先まで蒸気による衝撃波が届く。

 更にその後、溜めていた蒸気を鎧から全方向へと放出。

 後ろに避けていたら危なかった、とミリーはホッとしながらもあの踏み込みの速さを今後の行動パターンとして覚えておく。あとは、隙が大きいからと殴りに行ったらあの蒸気を喰らう事も念頭に入れないと。

 嫌らしいボスだ。大技は喰らうと下手したら一撃でアウトで、細かい技でその隙を潰している。

「ははっ、これこれ! これだから——ゲームは止められない!」

 ボスの横薙ぎ、一回転しながらの全周囲攻撃。
 隙を見付けて、ミリーが飛び込む。

 拳撃を叩き込む、一発、二発、もう一発!

 ミリーの弾丸のようなパンチを食らいながらもボスは平然と斧と持ち上げると、柄を地面へと叩き付けた。

「しまっ——っ!!」

 地面から衝撃波が放たれて、ミリーが吹っ飛ぶ。

 数メートルは吹き飛ばされたミリーだが、ネコのように身体を捻らせ着地。すぐに地面を蹴る。

「あれも注意せなあかん。欲張り過ぎた!」

 幸い、あれのダメージはさほどだ。HPが2割ほど削れたが、まだ許容範囲内。

「慎重になりすぎて、

 ミリーが呟きながら、自らのHPゲージとスタミナゲージとその下にもう一つあるゲージを見つめていた。
 道中で使わずにおいたおかげでかなり溜まっているが、使うタイミングが難しい。

「まあだけど——行動パターンは覚えたで虎ちゃん」

 ミリーが迫るボスの薙ぎ払いをジャンプで躱す。そのまま、ボスの頭を蹴って一回転。
 ボスの背後に着地すると同時に身体を回転させながら渾身のストレートをボスの背中へと叩き付けた。

 ボスの背中は何かのタンクのような物を背負っており、どうやらそれが弱点のようだ。

「ゴガアアア!!」

 ボスが背中を隠そうと振り向きながら斧を払う。

「そう来ると思ってた!」

 地面に伏せて四足獣のような格好で躱すミリーが、そのままボスの股下をくぐった。
 そして前進のバネを使って、立ち上がりながらのアッパーを背中のタンクへとぶつけた。

 タンクから、破裂音と共に蒸気が漏れ出す。

 すると、ボスが力尽きたように斧に持たれながら膝を折った。

「ワンダウン! チャンス!」

 ミリーがすかさず、連撃を叩き込む。
 最後の一発の前に、ミリーが右拳をまるで溜めるような動作で振りかぶった。右手が赤く発光。

 武器に付いているスキルである【暗黒武踏】が発動。

 踊るような連撃の最後に黒いオーラを纏った、右のフルスイングがボスの頭部へと命中。
 強烈な破壊音と共に、ボスのHPゲージが大きく削れ5割を切った。

 ミリーがラノア達を見ると、狼の像もHPが残り4割ほどまでに削れている。上手く2人ともやっているようだ

 すると、二体のボスが赤く光りながら同時にバックステップ。横並びになると——

「やっぱりな!」

 二体は赤く光りながら、互いへと向けて武器を振るった。
 
「合体してる!」

 それぞれの武器が合わさった瞬間に、二体のボスから歯車やらパイプやら伸びて融合。

「ガルガグワアアア!!」

 叫びながらこちらへと向かって来たのは一回り大きくなり、背中合わせで一体化した姿だった。

 腕が四本、左右それぞれに斧と剣を装備。頭部も二つあり、前面が虎、後面が狼になっている。

「えー合体とかずるい!」
「仕方ない、そういう仕様なのだろう。まるで両面宿儺りょうめんすくなだな」
「こっからは連携するで!」

 その巨像のHPゲージが統合されて一本になっており、名前も変わっている。

 その名は——【眠りを守りしスクハザ】

 このダンジョン【古竜の寝所】の、ボスである。

「さあ……ランカー3人の連携、見せたろ!」

 ミリーが嬉しそうに吼えるのを合図に、全員が動き出した。
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