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【VerΑ編第2章〜古竜の寝所】
28話「古竜の寝所」
しおりを挟む「蔵人さん! そっちお願い!」
「言われるまでも——ない!」
「群れるだけ雑魚なんて相手ならへんな!」
洞窟内に戦闘音が響く。
私は回転しながら、両手の手斧で目の前の女性を切り裂いた。名前の後ろにVRと付いているので中身は男性かもしれないけど。
蔵人さんが放つ銀閃が数人をまとめて斬り伏せ、ミリーが重装備プレイヤーの喉笛を切り裂いた。
「むりむりむり!」
逃げようと背中を見せた、一人のプレイヤーへと右手の斧を投擲。
「うぎゃああ」
見事頭部に当たり、急所補正が入って一発でHPゲージが割れた。
「おお……容赦ないな」
「ポイント大事。逃がしたらもったいないもん」
自分で言いながら……言ってることが段々ミリーに感化されてる気がする……。
【暴王】のメンバーがあらかた片付いたので、改めて辺りをゆっくりと観察した。
そこは、これまで通ってきた通路と違い広い空間だった。壁や天井のいたるところから蒼い光を放つ結晶が出ている。
壁の高いところや天井も掘れるように、台が作られている。おそらく【暴王】が持ち込んだ物だろう。
「綺麗だねえ」
暗い洞窟内で瞬く結晶によってまるで夜空の中にいるみたいだ。
「ここが採掘ポイントかな?」
「やな。【偽アキコ】おらんかったなあ。残念」
「とりあえず採掘する?」
私はうずうずしていた。さっきのストーリークエストのダンジョンもそうだけど、マイホームで取れない素材がいっぱいあった。きっとここもミスリル以外も出るに違いない。
「せやな。ミスリルたんまり取って、マーケットに出店しよか。あーもちろん適正価格でね」
「よーしじゃあ、はい、ピッケル」
私は腕輪からピッケルを出すと、二人に渡した。
「……これ、ピッケルの癖に攻撃力が鬼のように上がっているのだが」
「……そのツッコミならあたしがもうしたで蔵人」
まあアダマンタイトで作ったピッケルだしね。壊れないし、レア素材出やすい効果つき。
「……流石だな……俺自信なくしそう」
「わかる……わかるで蔵人」
「ええ? なんで」
なんか、私だけ仲間はずれみたいになってる!
「冗談やよ? さあ掘ろか! アイテム欄限界まで空けてきたしパンパンなるまで掘るで」
「おお!」
こうして私達はカンカンと鉱石を掘りはじめた。
洞窟はどうやらここで行き止まりのようだけど、一番奥には一際大きな結晶があった。
それはより深い青色で、他の結晶とは少し違うように見える。
「それはレア素材出やすそうだし、ラノアが掘った方がええんかな?」
「だろうねえ。じゃあ私掘るね」
ピッケルを振り上げて、下ろす。
『【竜水晶のかけら】を入手』
『【竜水晶の塊】を入手』
おお、見たことない素材! よーし、気合い入れて掘るぞ!
「とおりゃあ!」
私はその結晶に向けて勢いよくピッケルを叩き付けた。
その瞬間にパキン、という澄んだ音が響き——
「うわわわわ!?」
結晶が砕けた。
勢いあまった私がそのまま結晶があったはずの場所へと前のめりに倒れた。
ガンと、地面に頭を打って、HPゲージが少しだけ削れたのが見える。しかしすぐに緑色のヴェールが私を包み、それを回復させた。かけていたバフで回復したみたいだ。
「あいたた……」
私は起き上がると、あの大きな結晶が無くなって、代わりにぽっかりと穴が壁に空いている事に気付いた。
「……結晶……壊れちゃった」
結晶の光が消えると採掘出来なくなるのは知っているけど、それ自体が壊れて消えるのは初めてだ。
「ラノア、なんか痛そうな音がしたけど、大丈夫?」
「どうした?」
ミリーと蔵人さんが音を聞いて駆けつけてきた。
「なんか、結晶が壊れちゃって」
私は笑って誤魔化そうとするが、二人の視線が私を通り越して後ろの空いた穴へと注がれている。
「……穴空いてるやん」
「そういうスキルか?」
「ち、違うよ! なんか思いっきり叩いたら、割れちゃって」
私は悪くない!
「んー、隠し通路? ということは……奥には更にいいもんがある可能性が高い」
「【暴王】のメンバーが踏み込んだ形跡もないな。まあこのゲームのリアルさ次第ではあるが」
蔵人さんがしゃがんで、穴の奥に続いている通路の地面に積もる埃を触っていた。誰かがそこを通った跡はない。そういうところ結構リアルにしてるゲームだから、蔵人さんの言うとおりだと思う。
「というか、これ、自然な洞窟ちゃう気がする」
ミリーが指差す先を見ると、通路がこれまで通ってきた洞窟のようにでこぼこしておらず、天井も壁も床も直角に交わっている。切り取れば、正方形の断面に見える通路。
ところどころ、崩れていたりしているが、明らかに人の手が加わっている。
「と、なるとこの採掘所が、このダンジョンの終わりではないってことだな」
「凄い! まだ奥があるんだ! 行ってみよ!」
「……ほんまならいったん帰って準備するとこやけど……」
私が奥に行こうとするのを、ミリーが止めた。
けど、その目には好奇心の光が宿っている。
「……フリーダンジョンには必ずボスがいる。ここだけおらんのおかしいと思ってたんよ」
「思ったよりも【暴王】の奴等も弱かったしな」
「ふふーん三人いればボスも余裕だよ!」
この奥に、きっとボスがいる。
「それに多分ミスリルよりもよっぽどいいもんが取れる可能性もある。拠点帰ってまた戻ってくるなんてしてたら【暴王】の連中に見付かってしまうかもしれん」
「決まりだな。俺は余裕だ」
「よーしじゃあ行こう!」
私達は意気揚々と通路の奥へと進んだのだった。
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