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【VerΑ編第1章〜ラノアのマイホーム】
15話「前世との対峙」
しおりを挟む「きゃああああああああ!」
私は悲鳴を上げながら逃げ回った。武器ならとっくに捨てた。あんなもん持って逃げれるか!
むりむりむり! めっちゃ怖い! なにあれ悪魔だよ!
後ろを振り向かなくても、スピちゃんが爪か牙を私に向けているのが分かる。
「た、た、助けてええええ」
振り下ろされた爪を間一髪で避けて、スピちゃんの股下をくぐる。鞭のような尻尾が上から振ってくるので、それを横に転がって回避。
自分の顔のすぐ横に丸太のように太い尻尾が叩き付けられた。
こんなんで叩いたら死ぬでしょうが!
爪も牙も尻尾も凶悪すぎる!
「ギャアオオオオオ!」
「帰るうううううう!!」
何より声が怖い。ビリビリと空気が震えるような咆哮に身体がすくむ。
え、これどうしたらいいの?
冷静になって改めてスピちゃんを見ると、頭上にHPゲージがあった。
「もしかして…倒さないといけない?」
あれを? 足下を見るとさっき捨てたハルバードが落ちていた。
これを使って倒すってこと?
いや無理。どう考えても無理だ。
脳内で、鈴木さんと田辺社長の声が再生される
『好きに遊べと言ったが……チュートリアルもクリア出来ないとはな……』
『はあ……クビにしようかしら……スタート地点にも立てないなんてこの子……』
まずい! かなりまずい! 就職して2週間でクビは嫌だ!
私は、足下の斧槍を拾い上げて、両手で構えた。なぜだか、構えが様になっている。これもゲーム内の仕様だろうか?
「あれはただのトカゲ……トカゲ……」
吼えながら突進してくるスピちゃん。大丈夫……動きは分かってる……だってあれをずっと動かしていたのは私だ。
「おりゃあ!」
情けない叫びと共に、私は斧槍を振る。重さに身体が振り回されるが、刃がスピノサウルスの顔にヒット。
相手の攻撃を合わせるのは得意だ!
スピちゃんのHPが2割ほど削れた。
勝てるかもという甘い考えを一瞬持った私をスピちゃんが尻尾で薙ぎ払った。
避けきれないと判断。
振っていた斧槍を戻し、防御の姿勢(これもそうしようと思った瞬間に身体が動いた)
尻尾をまともに正面から受ける。地面に突き立てた斧槍のおかげで吹っ飛ばずに済んだけど、凄い衝撃が身体を駆け抜けた。
恐る恐る自分のHPゲージを見ると、2割程度しか減っていない。
「あれ? 意外と痛くない?」
Verβの感覚だとあの尻尾攻撃喰らったら大概のプレイヤーが一撃か二撃で死んでいったけど……もしかして弱くなっている?
尻尾に続いて上から爪による攻撃が降ってくる。
私は地面に突き刺していた斧槍の刃の根元を思い切り蹴飛ばして、掴んでいる部分を支点にして回すように刃を跳ね上げた。
振り下ろされた爪に刃が当たり、黄色のエフェクトと効果音が鳴った。
「パリィやっぱりあった!」
スピちゃんがのけぞり、高い場所にあった頭部が下がった。その頭部にあの赤いターゲットマーケットが出ている。
「ちゃーーんす!」
私は斧槍をそのまま頭部へと突き出した。
ドゥーンという聞き覚えのある効果音と共に、身体が自動的に動く。
突き刺した斧槍を払うように振り抜くと、そのまま回転しながら遠心力の乗った斧の一撃を叩き込んだ。
「ギュアアアア!」
後退するスピちゃんのHPがゴリっと削れ、HPは残り3割。
よし、あとちょっとだ!
スピちゃんが咆吼。前脚を地面に付けており、身体に赤いオーラを纏っているし、目も赤くなっている。
「なにあれこわい」
スピちゃんの姿が一瞬ブレる。
と思ったら、目の前に大きく開かれた顎。
一瞬で間合いを詰めたスピちゃんの攻撃に私は反応すら出来ず、そのままバクリと噛まれてしまった。
あーこれやばいやつだ。
私は身体をブンブン振り回されて、最後に地面へと叩き付けられた。なんかちょっとアトラクションみたいで楽しい。
私のHPゲージが削れ、残り1割まで減っていた。赤く点滅しており、ピンチを知らせている。
吼えながら再びスピちゃんが突進。もう一撃喰らったら負ける!
待っていたら駄目だ。
私は叫びながらスピちゃんへと疾走。
「クビは嫌だああああ!!」
速いが直線的な動きのスピちゃんの目前で、私は走った勢いのまま斧槍を地面へと突き立て——棒高跳びの要領で宙へと舞う。
こう見えて結構運動は得意なのだ。
Verβの感覚が蘇る。当たり前だけど——恐竜の姿より人間の姿の方がよっぽど動かしやすい。
私の真下をスピちゃんが通り過ぎる。私は振り上げた斧槍を大上段から重力を乗せて、スピちゃんの立派な背びれへと振り下ろした。
バガンッ! という効果音と共に、スピちゃんのHPゲージが全て削れ、エフェクトを巻き散らしながら消失。
【YOU HUNTED YOUR PREVIOUS BEAST】
着地した私の前に、いつもとちょっと違う文字が表示された。
それと共に、【従属の証:スピノサウルス】を手に入れたというアナウンスがあった。
「……最初から難易度高すぎない?」
最初からこれでは先が思いやられるなあ……と先行きの不安さに私はため息をついた。
☆☆☆
【君の名は】前々前世オンライン【アキコ】 Part703
443 名前:前世は負け犬
いきなり死にイベントで草
444 名前:前世は負け犬
あああ俺の前世うぜえええええ
再戦させろやああああ
445 名前:前世は負け犬
弓でスズメバチ倒すの無理げーだった
446 名前:前世は負け犬
>>445
そういやサイズ感どうなん?
俺、前世カタツムリだったけどデカかったw
447 名前:前世は負け犬
>>446
デカかった。多分あの死にイベは全部同じサイズになるんじゃね?
448 名前:前世は負け犬
アキコはスピノサウルスが初戦だと思うと笑う
449 名前:前世は負け犬
絶望してそうwww
450 名前:前世は負け犬
ちったあβ経験者の気持ちを理解すりゃいい
スピノサウルスの絶望感は異常だった
451 名前:前世は負け犬
倒してたりしてwww
452 名前:前世は負け犬
いくらなんでもそれはないだろ~
ただ一応倒せるらしいぞ、なんかアイテム貰えるっぽい
…………
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