上 下
15 / 73
【VerΑ編第1章〜ラノアのマイホーム】

15話「前世との対峙」

しおりを挟む


「きゃああああああああ!」

 私は悲鳴を上げながら逃げ回った。武器ならとっくに捨てた。あんなもん持って逃げれるか!

 むりむりむり! めっちゃ怖い! なにあれ悪魔だよ!

 後ろを振り向かなくても、スピちゃんが爪か牙を私に向けているのが分かる。

「た、た、助けてええええ」

 振り下ろされた爪を間一髪で避けて、スピちゃんの股下をくぐる。鞭のような尻尾が上から振ってくるので、それを横に転がって回避。

 自分の顔のすぐ横に丸太のように太い尻尾が叩き付けられた。

 こんなんで叩いたら死ぬでしょうが!

 爪も牙も尻尾も凶悪すぎる!

「ギャアオオオオオ!」
「帰るうううううう!!」

 何より声が怖い。ビリビリと空気が震えるような咆哮に身体がすくむ。

 え、これどうしたらいいの?

 冷静になって改めてスピちゃんを見ると、頭上にHPゲージがあった。

 「もしかして…倒さないといけない?」

 あれを? 足下を見るとさっき捨てたハルバードが落ちていた。

 これを使って倒すってこと?

 いや無理。どう考えても無理だ。

 脳内で、鈴木さんと田辺社長の声が再生される

『好きに遊べと言ったが……チュートリアルもクリア出来ないとはな……』
『はあ……クビにしようかしら……スタート地点にも立てないなんてこの子……』

 まずい! かなりまずい! 就職して2週間でクビは嫌だ!

 私は、足下の斧槍を拾い上げて、両手で構えた。なぜだか、構えが様になっている。これもゲーム内の仕様だろうか?

「あれはただのトカゲ……トカゲ……」

 吼えながら突進してくるスピちゃん。大丈夫……動きは分かってる……だってあれをずっと動かしていたのは私だ。

「おりゃあ!」

 情けない叫びと共に、私は斧槍を振る。重さに身体が振り回されるが、刃がスピノサウルスの顔にヒット。

 相手の攻撃を合わせるのは得意だ!

 スピちゃんのHPが2割ほど削れた。
 勝てるかもという甘い考えを一瞬持った私をスピちゃんが尻尾で薙ぎ払った。

 避けきれないと判断。
 振っていた斧槍を戻し、防御の姿勢(これもそうしようと思った瞬間に身体が動いた)

 尻尾をまともに正面から受ける。地面に突き立てた斧槍のおかげで吹っ飛ばずに済んだけど、凄い衝撃が身体を駆け抜けた。

 恐る恐る自分のHPゲージを見ると、2割程度しか減っていない。

「あれ? 意外と痛くない?」

 Verβの感覚だとあの尻尾攻撃喰らったら大概のプレイヤーが一撃か二撃で死んでいったけど……もしかして弱くなっている?

 尻尾に続いて上から爪による攻撃が降ってくる。

 私は地面に突き刺していた斧槍の刃の根元を思い切り蹴飛ばして、掴んでいる部分を支点にして回すように刃を跳ね上げた。

 振り下ろされた爪に刃が当たり、黄色のエフェクトと効果音が鳴った。

「パリィやっぱりあった!」

 スピちゃんがのけぞり、高い場所にあった頭部が下がった。その頭部にあの赤いターゲットマーケットが出ている。

「ちゃーーんす!」

 私は斧槍をそのまま頭部へと突き出した。

 ドゥーンという聞き覚えのある効果音と共に、身体が自動的に動く。

 突き刺した斧槍を払うように振り抜くと、そのまま回転しながら遠心力の乗った斧の一撃を叩き込んだ。

「ギュアアアア!」

 後退するスピちゃんのHPがゴリっと削れ、HPは残り3割。
 よし、あとちょっとだ! 

 スピちゃんが咆吼。前脚を地面に付けており、身体に赤いオーラを纏っているし、目も赤くなっている。

「なにあれこわい」

 スピちゃんの姿が一瞬ブレる。
 と思ったら、目の前に大きく開かれた顎。

 一瞬で間合いを詰めたスピちゃんの攻撃に私は反応すら出来ず、そのままバクリと噛まれてしまった。

 あーこれやばいやつだ。

 私は身体をブンブン振り回されて、最後に地面へと叩き付けられた。なんかちょっとアトラクションみたいで楽しい。

 私のHPゲージが削れ、残り1割まで減っていた。赤く点滅しており、ピンチを知らせている。

 吼えながら再びスピちゃんが突進。もう一撃喰らったら負ける!

 待っていたら駄目だ。
 私は叫びながらスピちゃんへと疾走。

「クビは嫌だああああ!!」

 速いが直線的な動きのスピちゃんの目前で、私は走った勢いのまま斧槍を地面へと突き立て——棒高跳びの要領で宙へと舞う。

 こう見えて結構運動は得意なのだ。

 Verβの感覚が蘇る。当たり前だけど——恐竜の姿より人間の姿の方がよっぽど

 私の真下をスピちゃんが通り過ぎる。私は振り上げた斧槍を大上段から重力を乗せて、スピちゃんの立派な背びれへと振り下ろした。

 バガンッ! という効果音と共に、スピちゃんのHPゲージが全て削れ、エフェクトを巻き散らしながら消失。

【YOU HUNTED YOUR PREVIOUS BEAST】

 着地した私の前に、いつもとちょっと違う文字が表示された。
 それと共に、【従属の証:スピノサウルス】を手に入れたというアナウンスがあった。

「……最初から難易度高すぎない?」

 最初からこれでは先が思いやられるなあ……と先行きの不安さに私はため息をついた。

☆☆☆


【君の名は】前々前世オンライン【アキコ】 Part703


443 名前:前世は負け犬
いきなり死にイベントで草

444 名前:前世は負け犬
あああ俺の前世うぜえええええ
再戦させろやああああ

445 名前:前世は負け犬
弓でスズメバチ倒すの無理げーだった

446 名前:前世は負け犬
>>445
そういやサイズ感どうなん?
俺、前世カタツムリだったけどデカかったw

447 名前:前世は負け犬
>>446
デカかった。多分あの死にイベは全部同じサイズになるんじゃね?

448 名前:前世は負け犬
アキコはスピノサウルスが初戦だと思うと笑う

449 名前:前世は負け犬
絶望してそうwww

450 名前:前世は負け犬
ちったあβ経験者の気持ちを理解すりゃいい
スピノサウルスの絶望感は異常だった

451 名前:前世は負け犬
倒してたりしてwww

452 名前:前世は負け犬
いくらなんでもそれはないだろ~
ただ一応倒せるらしいぞ、なんかアイテム貰えるっぽい

…………

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

VRMMOで物作り!~さぁ始めよう、まずは壁からだ~

夢・風魔
SF
物作りが大好きな大学生「栗木望」は、事故で右手を骨折してしまう。 そんな彼に学友がVRゲームを勧め、栗木は初めてのVRMMOをプレイすることにした。 「物作り系スキルがたくさんあるぞ」そんな甘い言葉に誘われた彼が降り立ったのは、何も無い――ただただ草原が広がるだけの場所。 雑貨屋NPCがひとりという状況で、栗木は相棒の獣魔モンスターと共に安全を確保するための『壁』作りから始めた。 *ヒロインの登場予定が今のところ作者脳内にありません。 *小説家になろう カクヨムでも投稿しております。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

処理中です...