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20話:変なエビです

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「とりゃあ!!」
「はっ!!」

 ヘカティとサレーナの一撃で、タコ兵士が爆散。

「行きましょう!」

 走り去る3人を見て、護衛の冒険者や騎士は呆気にとられていた。

「……なんだあいつら」
「いや、というか王女様も強いのかよ」

 そんな声が上がるが、ヘカティ達は無視して巻き貝型建造物の中に入っていく。

「おそらく一番最上階に階層主がいるはずですわ!」
「ちまちま上がるのめんどくせえな」
「任せて! むー……おりゃあああ!!」

 ヘカティの渾身の力でハンマーを振り上げた。ハンマーの先端から衝撃波が放たれ、天井を穿つ。

 パラパラと落ちてくる天井の欠片を腕で庇ったルーケとサレーナは、今さらだなと感じた。

「なんか、この階層って妙にふよふよするから、ジャンプすれば届くよ!」

 そう言って、ヘカティが床を蹴って、自分で開けた天井の穴の奥へと消えた。

「……一緒にされても困るのですが」
「まあ、でもいけるだろ」
「はい……」

 2人がジャンプすると、確かに身体は妙に軽く、簡単に天井の穴を通り抜けた。

 上の階では再びヘカティが天井に穴を開けていた。ついでに上の階いたらしき魔物の断末魔が聞こえた。

「さあどんどん行こう!」

 3人が最短距離で最上階へと進んでいった。


☆☆☆


「……ここまでのようですね」
「ちっ……まさかここまでとは」

 トファースとグラントは、目の前の強大な敵に対し無力だった。

 サレーナ同様、2人は強かった。代々、王家の血には特殊な力が宿っており、それぞれが一騎当千の強者となる。ここまでは正直護衛がいらないぐらいに余裕だった。

 だからこそ、階層主は自分達だけで倒せると踏んだのだった。

 だが甘かった。

 この階層主は異常だ。

「キュイィィ!!」
「避けろ!!」

 衝撃波が飛来し、トファースとグラントが左右に避けた。あれに当たると身体がバラバラになりそうなほどのダメージを受けてしまう。

 その衝撃波を放ったのは、巨大なシャコだった。毒々しい色に染まった身体からは棘が無数に突き出しており、特殊な形状の前腕は、まるでカマキリの鎌にように折れている。

 このシャコこそが、三階層の階層主である、【マンティス・シザー】だった。

 魔術阻害によって接近戦を強いられるが、その硬い甲殻と棘が行く手を阻み、前腕から繰り出せるパンチは、冒険者を一瞬でミンチにしてしまうほどの威力を誇っていた。

 さらに、そのパンチは放つだけで衝撃波を放ち、遠距離から攻撃しようとする者を的確に穿っていくのだ。

 最強との噂も名高いこの階層主に、トファースも、グラントも勝てる気が全くしなかった。

「くそ……どうする」
「死ぬ訳にはいきませんよ」
「だが……ん? なんの音だ?」

 グラントが訝しんだ瞬間――目の前の地面が爆発した。

「到着! なにあれ、変なエビ!」
「シャコだろ、多分」
「あら、グラント兄様にトファース兄様。

 サレーナが、尻餅をついている、これまで一度も見た事のないようなみっともない姿の兄二人を見て、笑みを浮かべた。

「サレーナ!! 何をしている! 逃げろ、あれはお前では敵わない!」
「貴方達は黙って見ていなさい。ヘカティ、ルーケ、やりますわよ!」
「了解だよ!」
「うっしゃまかせろ!」

 シャコが前腕を折りたたみ、パンチを打つ姿勢になると同時に、ルーケが雷矢を放つ。

「キュアアア!!」

 雷撃を嫌がるシャコが悶える隙に、サレーナとヘカティが突っ込む。

 それを見たシャコが神速のパンチを放とうと、折りたたんだ前腕を解放した瞬間――ヘカティとサレーナもまたそれぞれの得物を振りぬいていた。

 巨大な物体同士がぶつかり、破壊しあうような轟音が響く。

「キュアアア!!」

 絶叫を上げたのはシャコのほうだった。

 サレーナのメイスとぶつかった右前腕は無残にも破砕されており、もう使い物にはならないだろう。

 だが、ヘカティがハンマーを叩き付けた左前腕は――シャコの、身体から青い体液が吹き出ている。

「喰らっとけ!」

 そこへ、ルーケの雷矢が再び飛来。雷撃がシャコを襲う。甲殻と棘で雷撃を分散させることが出来ず、多大なダメージがシャコへと入った。


 苦しそうに悶えるシャコの頭上へと飛来したヘカティがハンマーを振り上げた。

「じゃあ、バイバイ!」

 ヘカティのハンマーが振り下ろされ、シャコの頭部へと直撃。

 あっけなくシャコの頭部は爆散。更にその衝撃が床を粉砕し、シャコは建造物の下層へと叩き落とされた。

「お見事ですわ」
「やったね!」
「楽勝だな」

 3人が嬉しそうに手を叩き合っているのを見て、トファースとグラントは悟った。

 人がどれだけ努力しても届かない――高みがそこにあると。

 そして2人は早々に、この塔の攻略を諦めたのだった。

 こうして王位を巡る戦いは――サレーナとキルリアッシュの2人に絞られた。
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