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第五章『開戦』

140話 戦場からの手紙

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愛するマイナ先生へ


 僕がフロートの街を出てもう2週間になります。街の工事のこと、全部任せてしまってごめんなさい。疲れていないでしょうか? 最近寒くなってきたこともあり、とても心配しています。

 さて一緒に作った飛行船ですが、想定以上の性能を発揮しました。なんとたった1日で王都へ到着し、1日滞在の後、翌日には戦場に辿り着いていました。
 あれは良いものです。きっと未来は明るくなるでしょう。

 ただ、残念なお知らせもあります。あの船は、到着初日に義母さんが墜落させてしまいました。わざとやったようです。
 幸い、乗務員も積荷も雷竜の魔石も無事でした。またモーターから作り直しましょう。あれの軸受にはまだ改善の余地がありそうなので、帰ったらその話をしたいです。

 戦場に到着して以降ですが、最悪の日々でした。僕も巻き込まれて初陣したのですが、人間と戦うというのは本当に嫌なものです。こちらの騎士団にも、戦死者や負傷者がたくさん出ました。

 この戦争、原因は塩だと思うのですが、こんなことになってしまったのは、もしかして僕のせいでしょうか? 良かれと思ってやったことなのに、この結果は納得できません。

 ともあれ、アンタム都市連邦の連合軍は撤退して、僕らは勝ちました。陛下率いる第一、第二、第三騎士団は、このまま公都まで攻め込むそうですが、第十五騎士団はここでお役御免になります。

 帰りは馬車なので、そちらに帰るにはまだしばらくかかりそうです。本格的な冬になるまでには帰りたいのですが、間に合わないかもしれません。

 そうそう、同封した一覧は、うちの領地とシーゲン子爵領出身者の戦死者をまとめたものです。冬に生活に困らないよう、注意を払うよう村長のアブスとオーニィさんに伝えてください。
 遺族には可能な限り手厚く支援してあげたいと思っています。

 ではまた。


◆◇◆◇


「オーニィさん、イント君の手紙、肝心なことが抜けてると思わないですか? 無事だったのは嬉しんだけど……」

 オーニィはマイナから手渡された手紙を読んで、深くうなずいた。

「確かにこれじゃ足りないね。ここには勝ったとしか書いてないけど、とんでもない大金星らしいし?」

「へぇ。そんな情報が入ってるんですね。どう大金星だったんですか?」

 大金星と聞いてマイナは興味を持ったらしい。オーニィは国王から派遣された役人で、諜報部にも所属しているため、その方面の情報網を持っていた。だから、第十五騎士団の驚異的な戦果の情報も入ってきている。

「何でも、イント君たちが到着してから、敵本陣を強襲して全滅させたり、商業都市ビットを寝返らせたりしたとか。ヴォイド様たちは使徒様や守護聖人様、聖騎士長様を天に還したらしいよ。イント君も一隊を率いて敵陣を横断して『断罪の光』を止めて、途中聖騎士長と渡り合ったとかなんとか」

 第十五騎士団によって天に還された人々は、信徒の間では英雄として崇拝されていたテレース派の人物ばかりだ。テレース派にとっては、聖地への遠征でも出なかったような被害となっている。

「それは人間技じゃないですね。それを自慢しないあたり、イント君らしいというかなんというか……」

 マイナは引き攣った笑いを浮かべる。きっと嫌がりながらやったんだろうなというところまで、容易に想像できた。

「でも、オーニィさんの家って、敬虔な信者なんですよね?」

 マイナは続ける。オーニィの所属しているパイソン子爵家は、教会と近い聖堂派貴族だ。教会の総本山である教皇領ルップルが自国に打ち破られるのはどうなのだろうという疑問を持ったのだろう。

「全ては神様の御意志なので、問題ないですよ」

 オーニィはあっけらかんと答える。元々、教会という組織は一枚岩ではない。ただ、どの派閥も神は唯一で、全知全能というのは共通認識としてある。だから負けたということは、テレース派に神のご意思がなかったということだ。勝てたなら何の問題もない。

「へぇ。それなら良かった。でも、わたしが言った肝心なことって、それじゃないんだよね」

 マイナは少しだけ眉を吊り上げた。

「じゃあ婚約者あてなのに事務的すぎる、とか?」

 婚約者に贈る手紙にしては、味気ない。それっぽいのは宛名だけだろう。貴族らしい美辞麗句も一切ない

「違う違う。学校区画で使う教科書、飛行船で翻訳して原稿書くって言ってたのに、その原稿が入ってなくて。楽しみにしてたんだけどなー」

(ん?)

 オーニィはマイナの言葉の違和感に気づいた。

「あれはイント君が持っているもんね」

 そしてカマをかける。この家には他にも不信な点がいくつもあった。

「そうそう」

 オーニィはイントの身辺を隅々まで調べた。領主の館にあった書類や本は全部見たし、持ち物もだいたい把握している。にもかかわらず———

(翻訳?)

「早く帰ってきて欲しいなぁ」

 ため息を一つ。恋する乙女のようにも見える。

「そうですね」

(『コンストラクタ家の秘伝』は実在している? でも、ボクには見つけられなかった。そんなものがもしあるとすれば、それは———)
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