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第二章『王都招聘と婚約』
60話 武器と包帯
しおりを挟む「問題は、東の守りですな。我ら二家が同時に王都へ招聘されるというのは異例の事態。流行病は鎮静化しつつありますが……」
シーゲン子爵が、全身包帯姿で会議室の上座に座っている。同席しているのは、シーゲンの街とコンストラクタ村の重鎮たちだ。
そこになぜか僕とマイナ先生が参加させられ、さらにユニィが無理矢理割り込んできた。
「仙術士も神術士も育っているのだろう? それでも問題なのか?」
真面目くさった声で答えるのは、クソ親父だ。やっぱり全身に包帯を巻いている。
ストリナは親父の傷を完治まではさせなかった。おそらく、義母さんの指示だろう。
「仙術に対応する武器も、さほどありませんからな。それに、ナログ共和国にはアノーテがいますぞ」
親父が目を細める。
「彼女は弟子を取っているのか?」
「そのようですな。元々、停戦の条件が師匠の処刑か、王族の人質と仙術の技術公開ですからな。予定通りといったところでしょう」
停戦の条件か。親父は停戦成立後に発効後に、国内に残存していたナログ共和国の部隊に攻撃をしかけ、壊滅に追いやったらしい。その後何があったかは詳しく知らないけど、処刑されていない事を考えれば、王族の人質と仙術の技術公開が行われたということか。
「そうか……。国交の回復は進んでいるのか?」
親父は渋い顔をしている。
「細々と交渉は続いているようですな。一昨日もナログ共和国からの小規模な使節団を通しました。あちらさん、どうも別の国と戦争しているようですが」
なんか僕には話が難しい。
「西はどうなんだ? 塩の輸入は再開されたか?」
あ、塩。塩が余らないと、大手を振って実験出来ないので、その話は聞きたい。
「まだですな。流行病のことがあるので、うちの上層部も焦れてきているようです」
まだか。残念。
「おそらく我々の王都招聘は、ナログ共和国に敵意がないことを示すものである可能性があるでしょうな」
さっきの光景を見る限り、三人が大きな戦力になるのは間違いない。それをまとめて国境から離すのは、やっぱり意図があるわけか。
「このまま王都に出頭して、俺が処分される可能性はありそうか?」
包帯姿なクソ親父の話がやたらきな臭い。そしてシリアスすぎる。
「さて? ですが、パイラ様もあちらでお子ができたようですし、アノーテの弟子たちも今後増えていくでしょう。今、師匠たちを失えば、今度こそナログに併呑されるでしょうな」
二人ともやたらシリアスに語ってるが、包帯でぐるぐる巻きだ。原因になった義母さんは、黙って出された紅茶を飲んでいる。
「お前がいるだろう。『不敗』だしな」
シーゲン子爵、ついさっき義母さんにボロ負けしてたけど。
「師匠たちを粛清した時点で、次はワシの番でしょうな」
親父はため息を一つ、ついた。
「古典派ならやりかねんが、陛下はそのような方ではないな」
確かに、アモン監査官を送り出した一派ならやりかねないかもしれないけど、彼らに親父たちを殺せるだろうかという疑問もよぎる。
「でしょうな。ともあれ、仙術士が本格的に戦うためには、ミスリル製の武具が足りません。そちらはどれくらい用意が?」
「俺とパッケが剣を1振ずつ。あとは村に槍が1本、『死の谷』の砦に槍が1本だな」
少し気まずくなる。僕はミスリルの槍を一本、駄目にしている。5本中の1本をダメにしたわけだ。
「思ったより少ないですな。こちらは10本です。近々もう1本出来上がりますが、防衛にはまったく足りませんなぁ」
赤熊と戦った後に、ミスリルは霊力を流し込むことができるらしいと聞いた。
僕も訓練で霊力の循環を意識させられたことがあるが、僕には霊力というものが良く分からなかった。
だが、説明を聞いた限り、仙術の場合は霊力を体内で循環させたり圧縮させたりして、神術の場合は外に放出するらしい。
親父たちの痛々しい包帯を見ながら考える。
ミスリルという金属について、僕は習っていないのでわからないが、本当に芯までミスリルである必要はあるのだろうか?
例え、もし芯までミスリルである必要があったとしても、単に抑止力というだけなら本物である必要があるだろうか?
武器がたくさんあるように見せかけるだけでも、警戒して戦争は起こらないのではないだろうか?
ミスリルはこちらの世界で、銀の一種と考えられている。これは、前世の奈良時代に使われ、化学の教科書にも載っているあの方法が使えるかもしれない。
「あ、イント君。今何か考えついたでしょ?」
何も言っていないはずなのに、マイナ先生が小さく声をかけてくる。
先生は本当に勘が良い。
「これは悪いことを考えている時の顔なのです」
それに比べて、ユニィは的外れだ。
「マイナ先生、ちょっと抜けださない?」
考えついたらやらずにはいられない。僕らは会議室を抜け出すことにした。
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