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3章 2学期

077 二人きりのお泊り会①

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 予想以上の降雨、台風かってぐらい大雨がこの辺りに降り注いだ。
 傘は使い物にならなくなり、念のために着てきたかっぱもぐしゃぐしゃだ。
 ただ何とか目的地に到着し、家のチャイムを鳴らした。

「はーい、あ、太陽さん!」
「やぁ……こんにちは」
「ぐしょぐしょですね……」

 死ぬかと思いました。
 神凪家へ到着した僕は月夜に中へ入れてもらい、リビングに座り込む。
 月夜からタオルを貸してもらい、濡れた所をふき取った。

「18時過ぎに来るって聞いてましたけど……」
「この雨だからさ。ちょっと弱まったタイミングで家を出たんだ。そうしたら急に強くなってきて……」

 12月上旬。来週から学期末テストが始まるのだ。当然毎回順位が厳しい僕は星矢に教えを乞うわけである。
 今日は土曜日なので泊まり込みでお願いする予定だ。星矢が18時までバイトのため、飯を食べてのんびりといった感じだ。
 このテスト前のお泊り会は恒例なので月夜も慣れっこだ。

「コーヒー淹れましたよ。どうぞ」
「悪いね~。助かるよ」

 神凪家に暖房なんてものはない。ストーブがあるにはあるが、基本節約志向なので暖かいものを着ることが前提である。
 僕も泊まり用に厚手のフリースを持ってきたのでぬかりはない。
 しかし、強い雨だな。星矢のやつ帰れるのか?

 18時も過ぎ、まったり月夜と話していたら、スマホに着信が入る。
 案の定星矢であった。

「おー、先に上がらせてもらってるよ」
「そうか。だが、こっちがよくない。川が氾濫したらしい。今日帰れないかもしれないな」
「え」
「この雨、明け方までらしいな。また連絡する」

 そんなこと言って星矢は電話を切ってしまった。
 星矢が帰ってこれないってことは勉強会は……ついに僕は赤点取ってしまうのか……?
 まぁ……仕方ないか。

「お兄ちゃん帰れないんですか?」
「そうだね……。川が氾濫したらしい」
「そうですか! じゃあ……二人きりですね!」

 月夜さんの目がぎらりと光ったような気がした。
 二人きり……そうか二人きりなのか。
 最近月夜がかなり迫ってくることが多く、僕としては嬉しいような胸が苦しいようなそんな日々を過ごす。
 今日は星矢もいるから大丈夫だと思っていたが……これはまずい。

「お兄ちゃんは食べて帰ってくるだろうし、ごはんにしましょう」
「そ、そうだね」

 か、考えすぎだろうか。

 ◇◇◇

 このお泊り会の嬉しいポイントの1つが月夜の料理を食べられるということである。
 エプロンをつけて、髪をまとめて、決して大きくはないキッチンで料理をする姿勢は被写体としてもぐっとくるものだ。
 僕はカメラをまわして、月夜にシャッターを向ける。

「もう! 盗撮禁止です」
「悪いけど……もう僕に恐いものはないんだ」

 度重なる撮影のおかげで月夜を撮ることに躊躇はない。僕はただ美しいものを撮るマシーンなのである。
 包丁さばき、鍋やフライパンの使い方、料理をしながら物を洗う流れもスムーズだよな。

「冗談抜きで月夜はいいお嫁さんになれるよね」
「この時代にいいお嫁さんってのはどうかと思いますけど、でも旦那様に料理を食べて美味しいって言ってもらいたいってのは分かりますね」

 ぐつぐつと煮込まれた鍋を持ち、リビングのテーブルに置いた。
 おお! これは肉じゃがではないですか。
 そのままサラダや卵焼き、味噌汁などが作られ食卓を彩った。
 ご飯もよそってもらい、頂きます。

「この肉じゃが美味しいなぁ。 味がしみ込んでいて……たまらん」
「旦那様が美味しいって言ってくれた」
「ぶほっ」

 月夜はにこにこ笑いながら同じように肉じゃがに箸をつける。
 カウンター攻撃をくらった感じだ。
 この料理が毎日食べられるなら……それはそれで。
 神凪家の料理は兄も妹も 大食漢なのでとにかく量が多い。質もいいんだが……量も多いから毎日食べてたら確実に太るな……。

 ご馳走様をして片付けの手伝いをするが、断られてしまった。お客さんという扱いらしいが何か申し訳ないな。
 月夜は夕食の片付けを終え、エプロンを外し、まとめていた髪を降ろした。栗色のサラサラの髪がふわりと広がるところを見ると髪フェチとしては気分上々となる。
 机の上でスマホを見ていた僕に月夜は声をかける。

「じゃあ、お風呂に入りますね。太陽さんは……」
「今日は来る前に入ってきたからいいよ」
「分かりました」

 月夜はキッチンの隣にある。風呂場への扉を開き中へ入っていた。
 そして、サラサラの栗色の髪と首だけを出して唇が動く。

「鍵はないですけど、覗いちゃダメですよ」
「覗かないって……」

 いつも星矢がいるから覗きようもないだけど……今日は二人きり。
 アホか。そんなことしたら逮捕だけじゃすまなくなる。月夜に嫌われてまで……覗きにいくなどありえない。

 それにしても二人きりに動揺したけど……杞憂になりそうだ。そうだよな、いくら月夜でも家の中でまでは誘ってはこないか。

「お待たせしました~」
「ああ、っ!?」
「じゃあ……一緒に勉強しましょう」

 風呂から上がった月夜の姿を見て……杞憂でもなんでもなく、これから狩りにいくそんな……気迫を感じたのであった。
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