魂を彩る世界で

Riwo氏

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【魂なき世界3】大人の男ってのはちょっと秘密や影がある方が格好良く見えるけど普通のおじさん達も一生懸命生きています

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「何故、私を襲ってきたの?右腕はどこで手に入れたの?」

会社員風の男は、一度は驚きに染めたその顔を真顔に戻していた。

「ある意味では誰でもよかったんだがな。」

肘から先が砕けた右腕を左手で掴みながら独り言のように呟く。

「使える魂かどうかは俺たちでは判断できない。だから強そうな魂は手当たり次第狙っている。」

魂を集めている…

と言うことは…

「あの女の手の者なの?」

椿との出会い、死闘が思い出される。

あの時、女は首だけになったがとどめはさせていなかった。

『生きていた』という表現が正しいかは分からないが、あれから朽ちずに生き延びていたのだろう。

「あの人を知っているということは、お前が椿か?いや、刀を使っていないからもう一人の能力者の女か。」

やはりあの女の関係者だったようだ。しかも私たちの情報も持っている。

能力者なのがバレてしまったのはちょっとマズいか。

「あまり形とかをイメージするのは得意ではないのだがな。」

「…何の話?」

聞き返した瞬間、男の右腕に僅かにのこった青白い腕が刃へと変化した。

シュッ…

目の前を光の筋となった刃が通り抜け髪の毛を掠めたが、咄嗟に頭を後ろに下げて躱す。

魂が少なかったのか、短い刃だったお陰で助かった。

「ここはひとまず引くこととする。」

そのまま刃を地面に叩きつけると、刃が煙幕となり男の姿を隠した。

咄嗟に腕で顔をガードするが、煙幕が消える時には既に男の姿はなくなっていた。





翌日、この事態に対してアクションを起こしたのは意外な人物であった。

美術室で昨日の出来事を話して、あーだこーだ会議をした帰り道、その男は校門で待っていた。

「よぉ、灯里…と、何クンだったかな?」

颯士は臨戦態勢に入る。

「颯士です。今更、あの日の報復ですか?」

その意外な人物…谷崎は笑いながら言った。

「いやいや、そんなんじゃないって。ちょっとそっちに用事があってさ。」

それでも臨戦態勢を解かない颯士。

「ちょっと見ない間に男の目をするようになったじゃないか。」

谷崎が称賛すると、そんなのいいから、と言いたげに灯里が前にでる。

「颯士、大丈夫。この人は敵じゃないから。それより用事って?」

谷崎の顔から笑みが消える。

バッティングセンターにでもいこう、という雰囲気ではなさそうだ。

周りを見回し複数の生徒が残っていることを確認すると、谷崎は提案してきた。

「ここじゃなんだし、とりあえず場所を変えよう。」





いつもの河原なら、あまり人通りもなくて話しやすいということで3人は河原の石に腰かけて話していた。

「それで、用事って?」

急かすように灯里が話を切り出す。

谷崎はタバコを取り出そうとしたが、未成年が目の前にいることを認識するとスッと胸ポケットにしまいなおした。

「…最近、ニュースとかで通り魔事件が増えているって報道があるのは知っているよな?」

「いや、知らないけど…」

「…」

谷崎は呆れたようなしぐさをして、颯士の方に向き直る。

「そっちは?」

「もちろん知っていますよ。被害者は外傷はあまりないにも関わらず軒並み意識不明になっている、ってやつですよね。」

「十分だ。」

灯里は少しバツが悪そうにしていたが、

「そ、それでその事件がどうしたの?」

と強引に会話に入ってきた。

「灯里、以前俺に龍を放つ技を使ったよな。」

無言で灯里がうなずく。

「あの技が『魂』を使って放っているということは?」

「…知ってるわよ。」

自分が犯人とでも疑われている気がして、灯里は苦虫を潰したような顔になった。

昨日の襲撃事件と相まって察しがついた。

「もう分かった、説明しなくていい。犯人は魂を奪って回っているっていうことね。」

「随分物分かりがよいな。」

「私も昨日、襲われたからね。」

意外そうな顔を谷崎がする。

「既に襲われていたとはな。」

「そゆこと。だから私が犯人ではないわ。」

疑われていると思って不機嫌そうに灯里が言う。

「別に疑ってないって。ただ、忠告と、できれば協力をお願いしたいと思ってな。」

谷崎はタバコを吸えないことに若干ソワソワしている。早く切り上げて一服したい気持ちもあるのだろう。

「犯人は魂の力が強い人間を積極的に狙っている。つまり能力者は狙われやすいということだ。」

谷崎は簡潔に纏めるが

「魂の力?」

灯里にはまた新たな疑問が生まれる。

「なんだ、そんなことも知らなかったのか。能力が開花するヤツは強く何かを思う力、つまり魂の力が強いってことなんだよ。」

それだけではないがな。と付け足す谷崎の言葉は灯里の耳には入っていなかった。

「(執事愛しさに能力開花しちゃうなんて、私どんだけー!?)」

顔が真っ赤になる灯里を見て、谷崎は何かを察してヤレヤレ…と言った顔をしている。

「谷崎さんは何故、能力のことにそんなに詳しいんですか?」

アワアワなっている灯里の代わりに颯士が訊ねる。

「うーん、それは…まぁ、いずれな。」

はぐらかす谷崎、聞かれたくない事情があるのだろうが…。

しかしなんとなくだが、この人は悪人ではないような、騙して利用しようとしているとかそんなことではないような気がした。

「ってなわけで、灯里にはこの襲撃事件の解決に協力してもらいたい。」

アワアワなっていた灯里だが、シリアスな頼みにハッとなる。

「おっけ、私自身も気になることがあるし。」

「んじゃ俺も手伝います。吉村1人だけ行かせるわけにはいかないし。」

「よしきた、そうこなくちゃな!じゃあ、作戦会議だ!」

3人の意思が固まった。

「っと、その前に…」

谷崎はちょっと離れたところまで歩いていくと、胸ポケットからタバコを出し、一服した。

「未成年の力を借りないといけないってのはつらいねぇ。」





『近づいてはいけない危険な場所』

この繁華街から離れた廃ビル街は人通りが少なく、何があっても大事になりづらい。

青白い両腕を持った大男がまさに今、ヤンチャそうな男の魂を抜きだそうとしていた。

「ふんっ、手ごたえのない…。」

胸に突っ込んだ青白い右腕を抜き出すと、その手の中には濃い緑色に光る玉が握られていた。

本当に偶然、通りかかっただけで、正義感や事件の調査をしていたわけではない。

ただ、思わず口から言葉が漏れてしまっていた。

「ヤバいの見ちゃったにゃ~…」

ネコミミのフードがゆさゆさと揺れた。
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