魂を彩る世界で

Riwo氏

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【リゾートバイト編8】お盆がくる頃には夏も終わりを感じさせてくる

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つまり、このフリッフリのお姫様みたいな服をきたオーナー2世顔は、本当にオーナー2世で、パパ(オーナー)に構って貰えなくて邪悪大国に協力してもらい一芝居打った、ってわけらしい。

遅れてきたオーナーは、娘を抱きしめ、

「美穂子(みほこ)~!パパが悪かった!来週あたりハワイに連れていくから許してくれ~!」

とか言っているけれども、この辺は本筋とは関係なくて、むしろとてもどうでも良い話なので割愛することにする。

「真っ先に助けに行ってくれるなんて、キミは最高の男だ!娘をやれるのはキミしかいない!」

とか言ってくるオーナーに、謹んで辞退したら、欲がないだの聖人だの言われて、せめてものお礼にとバイト代に色をつけてもらえたことだけは、運がよかったかもしれない。




次の日、最後の一日を終え、後は明日の朝帰るだけだ。

さすがに疲れたのと、最終日なのでバイキングを堪能しようと、これでもかってほどたくさん食べた。

暴飲暴食、今夜ばかりは食の化身と言われても仕方ないレベルで食べた。

そして大浴場。

疲れをしっかり洗い流しておこう。

今日くらいは長風呂をしても良いか。

他人も自分の股間など気にもしていないことだろう。



……ふぅ。

はぁ~…たった数日が凄く濃かったなぁ。

湯が体にじぃん、と染みる。

さすがに疲れも溜まっていたことを実感した。

ラブコメあり、バトルありって何のキャッチフレーズだよ。

あー…色々あったけど、充実もしていたのかもな。

来年もまた、働くのも悪くないかも。

と一瞬思ったが、来年は受験生なのでやはり無理か。オーナーごめん。


そして麗華さん。彼女はオーナーの娘ではなかったのか。

だとしたら単にリゾートに来ているお客さんだったのかな。

なんとも気まずいままここを去るのが、唯一の心残りかもしれない。





そして帰る日。

ようやく、と言った気持ちもあるが、名残惜しく思う気持ちも強く感じる。

お世話になった人に挨拶してから帰ろうと思っていたが、オーナーは忙しいのか特に顔を見ることもなく、ベテランパートのおばちゃんは

「また遊びに来なさいねー」

と、声をかけてくれた。バイトじゃなくても遊びにくるのも良いかもしれないな、と思った。

キャリーバッグをゴロゴロと引っ張りながら駅へ向かっていると、見覚えのある姿がひょこっ、と顔を出した。

「よっ!」

白いワンピース、お約束のように現れたのはやはり麗華さんだった。

「こんにちは、奇遇ですね。」

わざとらしい挨拶をすると、

「待ってたに決まってるじゃん。」

と、肩にパンチをしてきた。

「冗談、冗談!」

笑いながら逃げようとするものの、荷物が重くてあまり逃げられなかった。

ひとしきり逃げられない大魔王バトルを繰り広げた後、改まって麗華さんが口を開いた。

「颯士クン、強いんだね」

「ん?」

「こないだの、変なヤンキー達が来た時さ」

「あ、あぁ、見ていたんだ。」

なんとも恥ずかしい。勘違いをしていたところも聞かれてしまっていた。

「私、庶民だっていったじゃん。」

ニヤニヤ顔で顔を覗き込んでくる。

「いや、だって…」

お約束のようにでてきた美少女だから、とは言えず、グッと言葉を飲み込むと

「ありがとね、助けに来てくれて。」

つんっ、と鼻先を人差し指でタッチされた。

なんだか、照れくさい。

「ハハハ…」

笑ってごまかす。

…少し、無言の間があった。

「…なんで俺なんかを誘ってくれたの?」

沈黙の気まずさもあったが、今を逃すとこの疑問の答えは永遠に出ない気がして、尋ねてみる。

「そーゆーこと聞いたりしちゃう?」

麗華さんはちょっと困ったような顔をして、少し考え込むと

「キミ、一生懸命なところはちょっとカッコよかったからさ」

ワンピースを翻し後ろを向く。

「夏の熱に当てられちゃったのかもね。」

表情は見えないが、後ろ姿が少し寂しそうに感じる。

「短い間だったけれど、楽しかった。麗華さんに会えて良かったと思う。」

素直な気持ちを伝えた、ただそれだけだったが

「こちらこそだよ。ちょっと色々早かったけどね。」

クイッ、と帽子を目深く被る様子が後ろ姿でも見て取れた。

何も言えずにいると、麗華さんは続けた。

「もう帰っちゃうのかぁ~…」

石を蹴るような動作で地面を蹴って、残念な気持ちを表す。

「ほんの少しの時間、一緒にいただけでもさ、こんなに寂しいものなんだね。」

「限られた時間だったからこそ、寂しいのかも。」

「ずっと一緒にいられても、別れはきっと寂しいよ。」

「…そっか。」

・・・

暫しの沈黙を破るように麗華さんが口を開いた。


「そろそろ、時間でしょ?」

「うん、まぁ…」

「じゃあ、最後にお小言を言わせてもらいます!」

後ろを向いていた麗華さんが目を擦るような素振りをしてから、クルッとこちらを振り向いた。

そのままゆっくりとこちらに歩いてきて、そして口を開いた。

「女の子が誘っても無視するなんて、デリカシーがありません!」

腰に手を当てて、怒ったようなポーズを取って言う。

「あ、あぁ、すまなかった。」

「だから、一発ビンタさせて」

ニッ、と口角を上げて悪戯っぽく言ってくる。

「えー、痛そう」

思わず苦笑いをすると、

「受け止めるのが、良い男でしょ。そーゆーところよ。」

と言い、ハハハ、とお互い笑った。

「よし、じゃあこい!」

「よし、いくぞ~!」

麗華さんが手を振り上げる。

ぎゅっと目をつぶって、来るべき衝撃に備えた。





帰りの電車の中で、バイトをしていた5日間の思い出が頭の中で巡っていた。

夏休みに海で

白いワンピースに女の子に出会って

誘われて、一緒に遊んで

悪い奴らから助け出して…

ちょっとベタすぎるけど、青春っぽかったな。

そして…

そっと頬に手を当ててみる。

ほんのり残る優しい感触、最後に見せた笑顔が浮かぶ。


『いつかまた、夏の日に』

最後の言葉が胸に響いた。

この気持ちは単に寂しさなのか、それとも…。




ふふっ…

こんなことを考える自分に思わず笑みがこぼれた。

夏が過ぎる寂しさと同じなのかもしれないな。





電車が到着し、いよいよ日常に戻ってきたことを実感する。

この『ひと夏の出来事』は、日常に戻ると薄れていくだろう。

だけど。

だけどまた、いつか来る夏の日に期待して。


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