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【リゾートバイト編3】ひと夏の恋ってもし上手くいってもひと夏で終わりなのかな?
しおりを挟む一番がっかりしたのは誰だろうか。
颯士としては、『頼まれて企画したのに自分だけ一緒に海にいけなかった』という事実から見ても自分が一番がっかりしたと言えるだろう。
だが、そもそもそれは自業自得であり、さらには灯里の方がもっとがっかりしていたなんてことは気付きもしないのがデリカシーなし男たる所以(ゆえん)なのである。
「はぁ、5日間知り合いもいない土地で労働か」
・
・
・
こうなると海に楽しみも見いだせない。
そもそも文科系男子、しかもあまり運動は得意ではないので1人で泳ぎに行ってもなぁ、と言った気持ちがぬぐえないでいた。
そんなことをぼんやりと考えていると、お客さんが来た。
「っしゃーせー(いらっしゃいませー)」
気のない挨拶をしつつ、オーダーされたバーベキュー道具一式を渡してお金を受け取る。
遠目に親子連れがバーベキューを楽しみ、「ダディクール!Year!!」とかはしゃいでいる声を聞いているとなんだかため息もででくる。
これなら地元でバイトで良かったな…
はぁ…
ため息をつくと、それを聞いていたかのように背後から声がした。
「お仕事、大変?」
声をかけてきたのは、1人の女の子だった。
栗色のサラサラとしたロングヘアーに、白いワンピースに白い帽子、いかにもなお嬢様像を体現したような女の子。
年齢は…同じくらいだろうか。
漫画とかでよくある展開なら、このリゾート地のオーナーの一人娘で、病弱で、といったところなのだろうが。
そんなことを思っていると、少女は顔を近づけてきて
「もしもーし、お仕事大変ですか?」
と再び同じ質問をしてくる。
まぁ、ぼちぼちです。と当たり障りもなく返すと
「愛想ないなぁ、もっと笑って笑って!」
と促してくる。
やはりオーナーの娘か、接客態度の視察にきたと考えるのが妥当だろう。
正直、モチベーションも低いしここでクビになって帰るのも手だが、あちらもお金を払って雇っているわけなのでそれなりのクオリティを求めるのも当然だろう。
ニコッ、と爽やかに笑って
「いらっしゃいませー!」
と爽やかに声を上げた。
「今、『爽やかに笑って爽やかに声を上げた』とか自分で思ってない?」
女の子は眉をひそめながら言ってきた。何故わかる…
「いや、笑顔下手くそだなぁと思って。けれど、努力は見られるから本人は至って真面目なのかな、とか思ってさ。」
結構失礼なことを言ってくる。オーナーの娘とは言え、人に言って良いことと悪いことの区別もつかないのだろうか。
と、いけないいけない。仕事と割り切ろう。
「いらっしゃいませー!」
「お、仕事熱心だねぇ!」
お気楽なものだ、こちらは真面目に仕事をしているんだから茶化さないで欲しい。
「キミ、バイトはいつまでなの?」
やれやれ、しつこいな。オーナーの娘だからって調子乗っているんじゃないか?
「今日合わせて5日間ですけども」
「うーん、なるほど」
オーナーの娘は、口許に人差し指を当てて何か考える様子を見せたあと、思い付いたかのように
「じゃあさ、私と遊ぼうよ!」
と言ってきた。
これはアニメとかで良くある展開、と見せかけて罠に違いない。
これで遊ぼうものなら、きっとオーナーに告げ口されて給料を下げられたりするんだ。
「いや、仕事中なので。」
この返しは我ながら見事。
断りながらも真面目に働いているアピールもできる、一石二鳥だ。
「いや、今じゃなくてさぁ、夕方には終わるよね?じゃあ、ホテルのロビーで待ってるからさ。」
全く白々しい後付けだ。見事な返しをされると思っていなかったな。
「だから、名前教えてよ。」
きっとこれは有能なバイトがいることをオーナーに報告するためのものだろう。
それならば名乗っておくのも悪くはない。
「神楽坂颯士(かぐらざかそうし)です。」
名前を聞いたら満足そうにオーナーの娘も名乗り返してきた。
「私は早瀬麗華(はやせれいか)。よろしくね、颯士クン。」
それじゃあまた後で、と麗華さんとやらは去っていった。
・
・
・
夕方、本日のシフトが終わった。
ようやく仕事から解放される。
暑い中での労働、熱中症にでもなるんじゃないかと思ったがそんなことはなく、ただただ疲労感が凄かった。
ただ、ありがたいことにこのバイトは食事もついているのだ。
ホテルのレストランのバイキング、非常にありがたい。
・
・
・
夕食は非常に満足度が高かった。
バイキングでこんな良い肉を出して良いのか?と言うくらい高そうな肉をじゃんじゃんその場で焼いてくれた。
牛の脂身が口のなかでとろけるのは、さながら肉汁のわたあめである。
それを好きなだけ食べられるのだから凄い。
もちろんデザートも高級なフルーツをふんだんに使ったものや雲のようにふんわりと軽いホイップクリームの乗ったケーキがまるで天使の奏でたハープの音色のように舌の上で幸せの音色を鳴らしてなんたらかんたらうんぬんかんぬん…(以下略)
・
・
・
そしてこの大浴場である。
マーライオンがゲーしているお風呂、初めて見た。
凄い。
マーライオン凄い。ゲー凄い。
ただ、あまり周りの方々に股間を見られたくないのでゲーを楽しむ間は少なめに、体を温めると早々に風呂を後にした。
しかし気持ちよかった。
・
・
・
部屋はスタッフ用のもので、客室とは大違いだが、ここまで堪能できれば満足である。
さすがに疲れたし、今日は早々に寝よう。
この待遇ならちょっとモチベーション上がるね。
明日も頑張ろう。おやすみなさい。
颯士としては、『頼まれて企画したのに自分だけ一緒に海にいけなかった』という事実から見ても自分が一番がっかりしたと言えるだろう。
だが、そもそもそれは自業自得であり、さらには灯里の方がもっとがっかりしていたなんてことは気付きもしないのがデリカシーなし男たる所以(ゆえん)なのである。
「はぁ、5日間知り合いもいない土地で労働か」
・
・
・
こうなると海に楽しみも見いだせない。
そもそも文科系男子、しかもあまり運動は得意ではないので1人で泳ぎに行ってもなぁ、と言った気持ちがぬぐえないでいた。
そんなことをぼんやりと考えていると、お客さんが来た。
「っしゃーせー(いらっしゃいませー)」
気のない挨拶をしつつ、オーダーされたバーベキュー道具一式を渡してお金を受け取る。
遠目に親子連れがバーベキューを楽しみ、「ダディクール!Year!!」とかはしゃいでいる声を聞いているとなんだかため息もででくる。
これなら地元でバイトで良かったな…
はぁ…
ため息をつくと、それを聞いていたかのように背後から声がした。
「お仕事、大変?」
声をかけてきたのは、1人の女の子だった。
栗色のサラサラとしたロングヘアーに、白いワンピースに白い帽子、いかにもなお嬢様像を体現したような女の子。
年齢は…同じくらいだろうか。
漫画とかでよくある展開なら、このリゾート地のオーナーの一人娘で、病弱で、といったところなのだろうが。
そんなことを思っていると、少女は顔を近づけてきて
「もしもーし、お仕事大変ですか?」
と再び同じ質問をしてくる。
まぁ、ぼちぼちです。と当たり障りもなく返すと
「愛想ないなぁ、もっと笑って笑って!」
と促してくる。
やはりオーナーの娘か、接客態度の視察にきたと考えるのが妥当だろう。
正直、モチベーションも低いしここでクビになって帰るのも手だが、あちらもお金を払って雇っているわけなのでそれなりのクオリティを求めるのも当然だろう。
ニコッ、と爽やかに笑って
「いらっしゃいませー!」
と爽やかに声を上げた。
「今、『爽やかに笑って爽やかに声を上げた』とか自分で思ってない?」
女の子は眉をひそめながら言ってきた。何故わかる…
「いや、笑顔下手くそだなぁと思って。けれど、努力は見られるから本人は至って真面目なのかな、とか思ってさ。」
結構失礼なことを言ってくる。オーナーの娘とは言え、人に言って良いことと悪いことの区別もつかないのだろうか。
と、いけないいけない。仕事と割り切ろう。
「いらっしゃいませー!」
「お、仕事熱心だねぇ!」
お気楽なものだ、こちらは真面目に仕事をしているんだから茶化さないで欲しい。
「キミ、バイトはいつまでなの?」
やれやれ、しつこいな。オーナーの娘だからって調子乗っているんじゃないか?
「今日合わせて5日間ですけども」
「うーん、なるほど」
オーナーの娘は、口許に人差し指を当てて何か考える様子を見せたあと、思い付いたかのように
「じゃあさ、私と遊ぼうよ!」
と言ってきた。
これはアニメとかで良くある展開、と見せかけて罠に違いない。
これで遊ぼうものなら、きっとオーナーに告げ口されて給料を下げられたりするんだ。
「いや、仕事中なので。」
この返しは我ながら見事。
断りながらも真面目に働いているアピールもできる、一石二鳥だ。
「いや、今じゃなくてさぁ、夕方には終わるよね?じゃあ、ホテルのロビーで待ってるからさ。」
全く白々しい後付けだ。見事な返しをされると思っていなかったな。
「だから、名前教えてよ。」
きっとこれは有能なバイトがいることをオーナーに報告するためのものだろう。
それならば名乗っておくのも悪くはない。
「神楽坂颯士(かぐらざかそうし)です。」
名前を聞いたら満足そうにオーナーの娘も名乗り返してきた。
「私は早瀬麗華(はやせれいか)。よろしくね、颯士クン。」
それじゃあまた後で、と麗華さんとやらは去っていった。
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夕方、本日のシフトが終わった。
ようやく仕事から解放される。
暑い中での労働、熱中症にでもなるんじゃないかと思ったがそんなことはなく、ただただ疲労感が凄かった。
ただ、ありがたいことにこのバイトは食事もついているのだ。
ホテルのレストランのバイキング、非常にありがたい。
・
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・
夕食は非常に満足度が高かった。
バイキングでこんな良い肉を出して良いのか?と言うくらい高そうな肉をじゃんじゃんその場で焼いてくれた。
牛の脂身が口のなかでとろけるのは、さながら肉汁のわたあめである。
それを好きなだけ食べられるのだから凄い。
もちろんデザートも高級なフルーツをふんだんに使ったものや雲のようにふんわりと軽いホイップクリームの乗ったケーキがまるで天使の奏でたハープの音色のように舌の上で幸せの音色を鳴らしてなんたらかんたらうんぬんかんぬん…(以下略)
・
・
・
そしてこの大浴場である。
マーライオンがゲーしているお風呂、初めて見た。
凄い。
マーライオン凄い。ゲー凄い。
ただ、あまり周りの方々に股間を見られたくないのでゲーを楽しむ間は少なめに、体を温めると早々に風呂を後にした。
しかし気持ちよかった。
・
・
・
部屋はスタッフ用のもので、客室とは大違いだが、ここまで堪能できれば満足である。
さすがに疲れたし、今日は早々に寝よう。
この待遇ならちょっとモチベーション上がるね。
明日も頑張ろう。おやすみなさい。
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