61 / 84
【復讐編19】乗り越えられなかった壁を乗り越えると急激に成長する
しおりを挟む
「椿さんがあの人を斬れるようになればいいんですよ」
颯士はあっさり言ってのけた。
「いや、しかし母は何故、青白い物体を斬れたのか皆目見当もつかないのだよ」
颯士は自信ありげに答えた。
「多分、お母さんは能力者だったんですよ!そして椿さんの一族には能力を発動するための秘伝があると見た!」
「わ、私にそんな力が…?」
満更でもなさそうな椿。だが、
「しかし、そんな方法知らないぞ」
と、すぐに振り出しに戻る。
「恐らく、椿さんのお母さんも、奴らと戦うのは初めてだったはずです。それでも斬ることができたのは、普段から無意識のうちに能力を発動させていたと考えるのが自然ではないかと。」
「つ、つまり…?」
「椿さんの剣術の教えで代々伝わるものとかないのですか?例えば特別な呼吸を使う、とか、心眼で物事の本質を断つ技、とか。」
颯士は名案、とばかりに期待の表情を投げ掛けるが
「うーん、特には…」
と、椿は要領を得ない感じであった。
ボンッ!!!
灯里の方から爆発音にも似た音が聞こえた。
「おぉ、さすが灯里ちゃんだ!やったのではないか!?」
椿は歓声をあげるが、噴煙が晴れてきてボロボロの女の姿が現れた。
「あれだけボロボロなら、もう勝ったも当然じゃないか?」
椿は呑気なことを言うが、颯士は危機感を感じていた。
「…あれはエネルギーを使いすぎじゃないか?」
実際、そうでもしないと大蛇に絞め殺されていたかもしれないが、まともに動けなくなるレベルの消耗である。
そのまま女が灯里を殴り付ける。
「マズい…!!」
さすがに静観はしていられない。
どちらが言い出すでもなく颯士と椿は灯里に向かって走り出していた。
・
・
・
何度目だろうか、女が蹴りつけるところに颯士が身体をねじ込んだ。
背中に女の蹴りが入ったが、痛がってもいられず、そのまま灯里を抱き締めながら転がった。
「颯士クン、私の邪魔をするの…?」
首をガクガク揺らしながら女が言い放つ。
穴が空いた顔がカタカタと震えながら迫ってくる、よもやホラーでしかない。
「能力出ろっ!!!」
注意が颯士に向いた女に、椿が背後から斬りかかったが全く通じない。
椿の攻撃は意に介さず、女は続ける。
「私、そのメスガキのせいでこんなになっちゃった…」
『ひっ…』
颯士の口から恐怖が漏れる。
「だから、あなたの魂をちょうだい…」
完全にホラーである。
灯里を引きずってでも距離を取らねば。
そう思ってはいるのだが、腰が抜けたのか立てない。
ユラリユラリと女は近づいてくる。
「つ、椿さん!!」
助けを求めたいが、もはや伝えたいことを伝え切れるほどの単語が出てこない。
「あし!あし!!」
「(なんだ、ボクサーか何かの話をしているのか?)」
ボクシングに足は重要、なんて話を聞いたことがあるにはあるが…。
椿はフットワーク軽く女の周りを動き回りながら斬りつけたが全く通じない。
むしろ滑稽ですらあった。
颯士も恐怖で文章が出ないからか、単語で断片的に伝える。
「ひざ!ひざ!」
「(なんだ?膝のクッションを使えってことか?)」
椿の動きに上下運動が加わる。
無駄に上下にユラユラ揺れながら女の周りをグルグル回る。
あ、アホなのー!?とは内心思っても言葉が上手く伝えられないから仕方がない。
「ひざ!ひざげり!!」
やっとそれっぽい単語がでたが、椿は女の膝を刀で斬りつけた。
膝斬りではない。
もちろん効果はない。
しかし不謹慎ながら、むしろ不謹慎な状況だからこそ椿のアホな行動がツボに入ってしまう。
女は相当近くまで寄ってきている。
恐怖と面白さが入り交じって
「ふひひ…」
と変な笑いが出てしまう。
「ふひ、膝蹴り!食らわせ!って!って!」
やっと椿に通じたのか、とりあえず椿は言われた通りに膝のクッションで飛び上がってから膝蹴りを食らわせる。
ユラユラと女がふらついて後退りする。
「あ、そうか」
白袴ごしの一撃、これならばダメージも与えられる。
少し距離が稼げた隙に、椿は二人の元に駆け寄る。
二人を抱えて距離を取る姿はさっきのマヌケな姿と違って男前である。
とりあえず安堵して少しだけ落ち着いた颯士が椿にアドバイスをする。
「多分、袴はもう長持ちしないと思います。真面目な話です。大事なのは『斬れるイメージ』です。」
能力はイメージ力が大事。今まで何度も経験してきたことである。
恐らく、椿の母も明確に相手を斬るイメージがあり、無意識に『何でも斬れる』ことを具現化していたのであろう。
「なんでも斬れるイメージ、か…」
呟く椿に、灯里が手を伸ばす。
「椿…ちゃ…」
辛うじて地面に置かれた刀に手が届く。
椿は刀ごとその手を握りしめ、その後、ゆっくりと手を離して立ち上がった。
「任せろ…!」
・
・
・
精神統一…
イメージが大事だと颯士君は言う。
明確に…
あの女を斬るイメージ…
斬れないと思わないことだ。
灯里ちゃん
颯士君
そして、お母さん
皆が見せてくれた。
あの女に触れるビジョン。
そして斬れるビジョン。
いよいよ女が迫ってくる。
ゆっくり、ゆっくりと迫ってくる。
「雑魚はどいてなさいよぉぉぉ!!!」
女が襲いかかってくる。
…
……
『カチン…』
鍔が鳴り、女の頭が地面へと落ちた。
「…イメージ通り。」
颯士はあっさり言ってのけた。
「いや、しかし母は何故、青白い物体を斬れたのか皆目見当もつかないのだよ」
颯士は自信ありげに答えた。
「多分、お母さんは能力者だったんですよ!そして椿さんの一族には能力を発動するための秘伝があると見た!」
「わ、私にそんな力が…?」
満更でもなさそうな椿。だが、
「しかし、そんな方法知らないぞ」
と、すぐに振り出しに戻る。
「恐らく、椿さんのお母さんも、奴らと戦うのは初めてだったはずです。それでも斬ることができたのは、普段から無意識のうちに能力を発動させていたと考えるのが自然ではないかと。」
「つ、つまり…?」
「椿さんの剣術の教えで代々伝わるものとかないのですか?例えば特別な呼吸を使う、とか、心眼で物事の本質を断つ技、とか。」
颯士は名案、とばかりに期待の表情を投げ掛けるが
「うーん、特には…」
と、椿は要領を得ない感じであった。
ボンッ!!!
灯里の方から爆発音にも似た音が聞こえた。
「おぉ、さすが灯里ちゃんだ!やったのではないか!?」
椿は歓声をあげるが、噴煙が晴れてきてボロボロの女の姿が現れた。
「あれだけボロボロなら、もう勝ったも当然じゃないか?」
椿は呑気なことを言うが、颯士は危機感を感じていた。
「…あれはエネルギーを使いすぎじゃないか?」
実際、そうでもしないと大蛇に絞め殺されていたかもしれないが、まともに動けなくなるレベルの消耗である。
そのまま女が灯里を殴り付ける。
「マズい…!!」
さすがに静観はしていられない。
どちらが言い出すでもなく颯士と椿は灯里に向かって走り出していた。
・
・
・
何度目だろうか、女が蹴りつけるところに颯士が身体をねじ込んだ。
背中に女の蹴りが入ったが、痛がってもいられず、そのまま灯里を抱き締めながら転がった。
「颯士クン、私の邪魔をするの…?」
首をガクガク揺らしながら女が言い放つ。
穴が空いた顔がカタカタと震えながら迫ってくる、よもやホラーでしかない。
「能力出ろっ!!!」
注意が颯士に向いた女に、椿が背後から斬りかかったが全く通じない。
椿の攻撃は意に介さず、女は続ける。
「私、そのメスガキのせいでこんなになっちゃった…」
『ひっ…』
颯士の口から恐怖が漏れる。
「だから、あなたの魂をちょうだい…」
完全にホラーである。
灯里を引きずってでも距離を取らねば。
そう思ってはいるのだが、腰が抜けたのか立てない。
ユラリユラリと女は近づいてくる。
「つ、椿さん!!」
助けを求めたいが、もはや伝えたいことを伝え切れるほどの単語が出てこない。
「あし!あし!!」
「(なんだ、ボクサーか何かの話をしているのか?)」
ボクシングに足は重要、なんて話を聞いたことがあるにはあるが…。
椿はフットワーク軽く女の周りを動き回りながら斬りつけたが全く通じない。
むしろ滑稽ですらあった。
颯士も恐怖で文章が出ないからか、単語で断片的に伝える。
「ひざ!ひざ!」
「(なんだ?膝のクッションを使えってことか?)」
椿の動きに上下運動が加わる。
無駄に上下にユラユラ揺れながら女の周りをグルグル回る。
あ、アホなのー!?とは内心思っても言葉が上手く伝えられないから仕方がない。
「ひざ!ひざげり!!」
やっとそれっぽい単語がでたが、椿は女の膝を刀で斬りつけた。
膝斬りではない。
もちろん効果はない。
しかし不謹慎ながら、むしろ不謹慎な状況だからこそ椿のアホな行動がツボに入ってしまう。
女は相当近くまで寄ってきている。
恐怖と面白さが入り交じって
「ふひひ…」
と変な笑いが出てしまう。
「ふひ、膝蹴り!食らわせ!って!って!」
やっと椿に通じたのか、とりあえず椿は言われた通りに膝のクッションで飛び上がってから膝蹴りを食らわせる。
ユラユラと女がふらついて後退りする。
「あ、そうか」
白袴ごしの一撃、これならばダメージも与えられる。
少し距離が稼げた隙に、椿は二人の元に駆け寄る。
二人を抱えて距離を取る姿はさっきのマヌケな姿と違って男前である。
とりあえず安堵して少しだけ落ち着いた颯士が椿にアドバイスをする。
「多分、袴はもう長持ちしないと思います。真面目な話です。大事なのは『斬れるイメージ』です。」
能力はイメージ力が大事。今まで何度も経験してきたことである。
恐らく、椿の母も明確に相手を斬るイメージがあり、無意識に『何でも斬れる』ことを具現化していたのであろう。
「なんでも斬れるイメージ、か…」
呟く椿に、灯里が手を伸ばす。
「椿…ちゃ…」
辛うじて地面に置かれた刀に手が届く。
椿は刀ごとその手を握りしめ、その後、ゆっくりと手を離して立ち上がった。
「任せろ…!」
・
・
・
精神統一…
イメージが大事だと颯士君は言う。
明確に…
あの女を斬るイメージ…
斬れないと思わないことだ。
灯里ちゃん
颯士君
そして、お母さん
皆が見せてくれた。
あの女に触れるビジョン。
そして斬れるビジョン。
いよいよ女が迫ってくる。
ゆっくり、ゆっくりと迫ってくる。
「雑魚はどいてなさいよぉぉぉ!!!」
女が襲いかかってくる。
…
……
『カチン…』
鍔が鳴り、女の頭が地面へと落ちた。
「…イメージ通り。」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』
姜維信繁
SF
1,769年の時を超えて目覚めた古代の女王壱与と、現代の考古学者が織り成す異色のタイムトラベルファンタジー!過去の邪馬壱国を再興し、平和を取り戻すために、二人は歴史の謎を解き明かし、未来を変えるための冒険に挑む。時代考証や設定を完全無視して描かれる、奇想天外で心温まる(?)物語!となる予定です……!
「メジャー・インフラトン」序章5/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 JUMP! JUMP! JUMP! No2.
あおっち
SF
海を埋め尽くすAXISの艦隊。
飽和攻撃が始まる台湾、金門県。
海岸の空を埋め尽くすAXISの巨大なロボ、HARMARの大群。
同時に始まる苫小牧市へ着上陸作戦。
苫小牧市を守るシーラス防衛軍。
そこで、先に上陸した砲撃部隊の砲弾が千歳市を襲った!
SF大河小説の前章譚、第5部作。
是非ご覧ください。
※加筆や修正が予告なしにあります。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
びるどあっぷ ふり〜と!
高鉢 健太
SF
オンライン海戦ゲームをやっていて自称神さまを名乗る老人に過去へと飛ばされてしまった。
どうやらふと頭に浮かんだとおりに戦前海軍の艦艇設計に関わることになってしまったらしい。
ライバルはあの譲らない有名人。そんな場所で満足いく艦艇ツリーを構築して現世へと戻ることが今の使命となった訳だが、歴史を弄ると予期せぬアクシデントも起こるもので、史実に存在しなかった事態が起こって歴史自体も大幅改変不可避の情勢。これ、本当に帰れるんだよね?
※すでになろうで完結済みの小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる