魂を彩る世界で

Riwo氏

文字の大きさ
上 下
43 / 84

【復讐編1】異性と遠出するといつもよりもカッコ可愛く感じるものだよね

しおりを挟む
「こないだのコンクール、受賞しちゃった」

照れ臭そうに颯士が伝えてきたのはいつもの放課後。

何が『しちゃった』よ、可愛い子ぶった言い方しちゃって、とは思うものの、いつも努力する姿を見ていたので素直に嬉しくもある。

隣町の市の開催する小さな美術展、決して大きな賞ではないが、颯士の嬉しそうな顔を見ていると大きな意味があったようにも感じる。

これを口実に、という下心が全くないわけではないが、評価されているところを一目見たい気持ちに偽りはない。

会場に作品を見に行きたい旨を伝えると、

「描いている時いつも見てたじゃん」

と悪態をつきながらも、見て欲しそうな様子が伝わってくる。

それじゃ、明日10時、現地集合で!

多少強引ではあるが、これくらいの楽しみあっても良いと思う。お互いに。






入賞作品の展示場所は隣県の市民文化ホール。

行きなれていない場所なので遅刻しないよう待ち合わせ時間よりちょっと早めに来たつもりではあったが、よっぽどそわそわしていたのだろう、既に颯士は入り口で待っていた。

いつもより少しお洒落をしてきたものの、デリカシーなし男がそんなところに気付くわけもなく、今日の主役は颯士だし、まぁいっかの精神で早速展示ホールに入場した。

人の指を形作る粘土細工、抽象的すぎて何を表しているのか分からない四角いオブジェ、鳥が魚を捕らえる瞬間を捉えた写真、自分の背の2倍はあろう大きさの肖像画…

芸術にはそれほど明るくないが、作品の数々には『エネルギー』が込められているのを感じられた。

「俺のはこっち」

部門ごとに分けられた展示ブース、同じ部門の応募作品を無言で見て回る颯士は真剣そのものだ。

いくつか並べられた作品の中に颯士の作品を見つけた。
相対的に見ても大きく目立つような取り上げられ方ではないが、それでもここに颯士の作品が並べられていることが嬉しかった。

それに加えて、絵に触れる機会が増えてきたことで、人の絵を見ること自体にも興味が芽生えたように感じる。

じっくり観察して、頭でイメージして…

「こらこら、吉村さんよ」

颯士に言われてハッと気付く。

最優秀賞として飾られていた絵。

大正時代を思わせるような袴の美人。

その絵には吸い込まれるような魅力があった。

思わず無意識のうちに美人を想像して創造してしまっていたようだ。

すぐに回収したことと、周りに人がいないタイミングだったので事なきを得たが、颯士の絵を差し置いて他の作品に見惚れていたようで少し申し訳ない気持ちになる。

しかし颯士は気にした様子はなく、

「これ、魂が込もってるよな」

と、言う。

純粋にそれは、尊敬の念すら抱いているようにも見えた。

こちらが気を遣っていることを知ってか知らないでか、

「そろそろ出ようか」

と言ってきた。

気遣いだとしたら、普段のデリカシーなし男と同一人物とはとても思えないな、と内心ニヤニヤしてしまった。

ここで解散するのも惜しいし、せっかくだからどこか観光していこうか、と誘ってみると

「いいよ、どこ行こっか」

と、すんなり承諾。

この近辺で有名なところは、神社、植物園、滝、唐揚げ屋、あとは夜景の綺麗なスポットがいくつか…

この中だと神社が一番近いかな?

いくつかある神社のうち、徒歩でいける距離のものを調べてみる。

「透明な鳥居と、赤い千本鳥居があるんだってさ」

颯士がスマホをポチポチしながら呟く。

神仏にはあまり明るくないが、写真を見る限りだと『映え』そうな美しさがある。

次回のコンテストに向けて受賞祈願をするのも悪くない。

「じゃあそこで決定!」

二人だけの満場一致で神社へと向かうこととした。

少し距離はあるが、色々話しながら歩いている時間さえ、かけがえなく感じて、到着しなければいいのにとすら思えた。

しかし、そんな思いとは相反して楽しい時間とは一瞬で過ぎ去るもので、あっという間に神社に到着した。

「確かにこれは『映え』るな」

透明、と言うよりはエメラルドグリーンに近い鳥居を見て、感心したように颯士は呟いた。

クリスタルをイメージさせる、その鳥居をくぐると赤い鳥居がズラ…っと連なっていた。

「これが千本鳥居か」

実際に千本あるのかは分からないが『千本あるかのような』圧巻さはある。

連なった鳥居をくぐるのは、さながら異世界への入り口に招待されているようにも感じる。

鳥居と鳥居の隙間から差し込む光が良いエフェクトとなり、『天国へ行くのってこんな感じなのかな?』なんて考えもぼんやり浮かんできた。

それから二人で参拝し、境内に座り込んでひと休みすることにした。

「しかし、今日の展示作品面白かったよな」

颯士が今日みた作品の様子を嬉々として語り始めた。

「あの謎のオブジェとか理解できなかったわ、ただの歪んだ四角じゃないのか、ってね」

笑いながら言う颯士に、こんな形のやつでしょ?と手のひらの上で作ってみせる。

「似てる似てる!」

と笑う颯士に、私も芸術家になれるかしら?とふざけてみせると

「なれるなれる、能力使ってスーパークリエイターで売りだそうぜ」

とふざける颯士にこちらも思わず笑みが出る。

それじゃあこれのタイトルは?

と、展示されていた作品を模した物質を作り出した時だった。


「出たなっ!!妖し(あやかし)め!!」

澄んだような、しかし突き刺さるような声が境内に響き渡った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

しちせき 14.4光年の軌跡 

主道 学
SF
学校帰りの寄り道で、商店街へ向かった梶野 光太郎は、そこで街角にある駄菓子屋のガチャを引いた。 見事不思議なチケット「太陽系リゾート地。宇宙ホテル(宇宙ステーション・ミルキーウェイ)」の当たりを引く。 同時刻。 世界各地でオーロラが見えるという怪奇現象が起きていた。 不吉な前兆を前に、光太郎たちは宇宙ステーション・ミルキーウェイへ宿泊するが……。 度々改稿作業加筆修正をします汗 本当にすみません汗 お暇潰し程度にお読みくださいませ!

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

「メジャー・インフラトン」序章5/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 JUMP! JUMP! JUMP! No2.

あおっち
SF
 海を埋め尽くすAXISの艦隊。 飽和攻撃が始まる台湾、金門県。  海岸の空を埋め尽くすAXISの巨大なロボ、HARMARの大群。 同時に始まる苫小牧市へ着上陸作戦。 苫小牧市を守るシーラス防衛軍。 そこで、先に上陸した砲撃部隊の砲弾が千歳市を襲った! SF大河小説の前章譚、第5部作。 是非ご覧ください。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

怪獣特殊処理班ミナモト

kamin0
SF
隕石の飛来とともに突如として現れた敵性巨大生物、『怪獣』の脅威と、加速する砂漠化によって、大きく生活圏が縮小された近未来の地球。日本では、地球防衛省を設立するなどして怪獣の駆除に尽力していた。そんな中、元自衛官の源王城(みなもとおうじ)はその才能を買われて、怪獣の事後処理を専門とする衛生環境省処理科、特殊処理班に配属される。なんとそこは、怪獣の力の源であるコアの除去だけを専門とした特殊部隊だった。源は特殊処理班の癖のある班員達と交流しながら、怪獣の正体とその本質、そして自分の過去と向き合っていく。

第31回電撃大賞:3次選考落選作品

新人賞落選置き場にすることにしました
SF
SFっぽい何かです。 著者あ:作品名「boolean-DND-boolean」

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

処理中です...