魂を彩る世界で

Riwo氏

文字の大きさ
上 下
14 / 84

ヒーローの資格は武器や見た目でなく心意気にある

しおりを挟む
執事シリーズも今年で12作目。
今作の「魔道執事」はこれまでの執事シリーズのテイストをガラッと変えて魔力や呪術で戦う鬼作である。
公開前は批判的な意見も多かったが、実際に始まってみると歴代シリーズの中でも屈指の名作で、新規ファンの獲得にも成功している。
今日は「劇場版 魔道執事~深淵の忠誠心~」の公開日である。
前作の「ワイルド執事」も登場するクロスオーバー作品で、灯里と智子がどれほど心待ちにしていたかは皆さんの想像にも難くないことだろう。

そんなわけで複合施設「A-ONプラザ」に2人は来ていた。
ここならば、映画を見た後、なんとかフラペチーノでも啜りながら映画の感想を熱く語り合えるってものである。

完璧な計画に我ながら惚れ惚れする。私が男なら智子は惚れていること間違いなしだな、なんて思ってニヤニヤしていたら

「何にやにやしてるの~?」

と、智子が覗き込んできた。
か、可愛い。私が男なら惚れていること間違いない!
中学の頃は芋っぽさが抜けない感じだったのになぁ、ダイヤの原石か?

なんてことを思いながらも公開時間が迫ってきたので映画館へと入った。

結果から言うと、「劇場版 魔道執事~深淵の忠誠心~」は最高であった。
いや、最高と言う言葉だけで表しきれないものがあった。

ワイルド執事の先輩執事としての見せ場を作り、前作のファンの気持ちも大事にしつつも魔道執事の心の成長を描き、しっかりと後輩へとバトンが渡されたことを感じる作品であった。
笑いあり、涙ありのこの感動のストーリー、これは1時間や2時間では感想を語り尽くせないぞ…

と、意気込んでいたが、映画の間ずっと我慢していたからかお花を摘みたくなってきた。

「ちょっとお花を摘んできますことよ」

と、ワイルド執事のご主人、マーガレットを意識してお嬢様言葉で便所に向かった。
そそくさと用を足して帰ってくると、我が主、智子が何やら男達と話している。おいおい、親戚のおにーちゃん達にでも会ったんかな?と思っていたら
智子の腕を掴み無理矢理に引っ張っている。

…質の悪いナンパか?

すぐ止めに入ってぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、智子はまだ余裕でチンピラ達をぶっ飛ばせる力があることは知らない。
まして顔を覚えられてまた復讐に来られたりしたら智子が責任を感じてしまう。
何か手は…

少しだけ待ってて、と心のなかで呟きつつ、トイレに逆戻りして個室に入った。
そしてそのまま、服を脱いで下着姿になった。





智子を捕まえたのは、智子に告白した
上級生だった。

「いいじゃん、一度くらい付き合ってくれたら絶対好きにさせる自信あるからさぁ」

と、腕を掴みながら言う。とても好きになってもらいたい奴がすることではない。

「嫌です、やめてください!」

と、気丈に振る舞うも、男4人に取り囲まれてはなす術もない。

「大丈夫だよ、マサさんと付き合うとマジサイコーだから!」

取り巻きの頭からっぽで夢詰め込んでそうなヤンキー崩れもニヤニヤしながら言う。

「俺らにも楽しませてくださいよ」

と、いやらしい笑みを小判鮫のような男が浮かべたところでさらに続く

「ほう、どう楽しむのか私にも教えて貰いたいものだな。」

「そう焦るな…最初は俺から…え?」

途中で聞きなれない声がして後ろを振り返ったマサさんとやらは、すでに取り巻きの一人がのされていることに気付いた。

「な、何者だ!」

智子は、マサさんが狼狽えながら言うセリフに「完全に悪役のセリフだ~」とか思いつつも、聞きなれない、いや、聞きなれた声の主を見た。

「私の名は、白魔道執事!我が主、智子様を返して貰う!」

そこには白い燕尾服に白いマスクの「魔道執事」がいた。

白魔道執事は飛び上がって必殺技を繰り出す。

「魔道ファイアーフォーク!!」

魔道ファイアーフォークとは、魔道執事の必殺技の1つで、魔道の力で地獄の炎をまとったフォークを投げつける技である。大体、演出的に敵が避けたところにある机や地面にカカカッと刺さって炎の柱をあげる、いわば通常技である。

白魔道執事はどこからともなく取り出した炎に燃えるフォークを投げつけた!

と思いきやフォークっぽい形状のベチョベチョした何かを投げつけた。
マサさん、その他にベチョッと当たる。

「こんなのとろろ芋フォークじゃねーか!」

ヤンキー崩れがヤジを飛ばすが、

「うるさい」

と、白魔道チン撃で眠って貰った。

「なんだコイツ!ふざけた格好しやがって!」

と、飛びかかってくる最後の取り巻きには

「魔道聖水波!」

と、両手からべちょっとした水流を出した。

とろろ芋のような濁流に取り巻きが飲み込まれる。

智子は思った。とろろ芋波やんけ、と。
マサさんは思った。魔道なのに聖水って、と。

「貴様で最後だ!」

ノリノリで白魔道執事はマサさんに告げる。

「く、くそう…」

マサさんは苦し紛れに智子を捕らえて
人質作戦にでた。

「く、くるな、来たらコイツがどうなるかわからんぞ!」

「無駄な抵抗を…!」

そうセリフを決めるも、白魔道執事の仮面が、燕尾服が少しずつ煙になってきている。
マズい、能力の制限時間が近づいてきている。
時間稼ぎをさせるわけにはいかない…!

消えつつある仮面にいち早く気付いた智子は何かを察した。

「白魔道執事さん!私に構わず逃げて!」

そんなこと出来るわけがない。

「あなたを置いて逃げたら、生きていけません!」

だが少しずつ服も消えていく。ブラ紐がうっすらと透けてきているのを見て余計に智子は焦った。

「執事なら言うことを聞いて!!」

燕尾服の命の灯火が今、消えようとしている。よもや迷っている暇はない。

「主よ、私を信じて目を瞑っていてください。」

智子が言われた通りに目を閉じると白魔道執事はマサさんの方に駆け出した。

「こ、こいつがどうなってもいいのか!」

やけくそに叫び智子を盾にするマサさんだが

「どうにもならん!!」

と、白執事仮面は最高速で近づいてきたかと思うと、ふっと目の前から姿を消した。

ひらり、とぼろぼろの燕尾服だけが目の前に舞っている。

「え?」

対象を見失ったマサさんが呆気に取られていると、超高速ブーストで視界の外に移動していた白魔道執事、いや、下着姿の灯里が壁を蹴りロケットのように突っ込んできた。

「魔道クロススラッシュ!!!」

マサさんが灯里の姿を確認するより先に、両腕を交差してきりつける動作の一撃でマサさんを吹っ飛ばした。

シュタッ!

羽ばたく鳥のようなポーズで地上に降り立った灯里の背後でマサさんは爆発…いや、べちゃっと壁に叩きつけられた。

「とろろ芋スラッシュやんけ…」

そのセリフを最後に、マサさんはガクッと力尽きた。

「我が主、そのままあと10秒だけ目を瞑っていてください。」

灯里はそう言うともう一度燕尾服を作り出そうとしたが、いかんせんイメージするための時間が足りない。
やむなしか…

「我が主よ、またお会いしましょう。いつでもあなたを見守っています。」

そう言い残すと灯里は下着姿のままトイレにかけていった。

下着姿で人の多そうな通りに入るのは
さすがに恥ずかしすぎる。

服をイメージしようとするもドロドロと液体が出るばかりなのでとりあえずドロドロを垂れ流して身に纏いながらトイレへと急ぐのであった。





その後、何食わぬ顔でトイレで着替え直し、智子を迎えに行った。

「おーい、ともこー、どこいってんのー?」

駆け寄ってきた智子は灯里の腕に抱きついてきた。
何か囁いているけどよく聞こえない。
怖かったのかな?と思いながらも

「なに~?甘えん坊~?とりあえずカフェに行こ!」

と、手を繋ぎ直した。

「なんとかフラペチーノでも飲んで気分直ししよ!」

そう言いながら智子は灯里を引っ張った。

「ありがと、私の執事さん」

灯里の耳には届かない大きさで言ったのが智子の優しさだった。

友達と過ごす1日。今日も良い1日になりそうだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

第31回電撃大賞:3次選考落選作品

新人賞落選置き場にすることにしました
SF
SFっぽい何かです。 著者あ:作品名「boolean-DND-boolean」

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

特殊装甲隊 ダグフェロン 『廃帝と永遠の世紀末』 第五部 『カウラ・ベルガー大尉の誕生日』

橋本 直
SF
遼州司法局実働部隊に課せられる訓練『閉所白兵戦訓練』 いつもの閉所白兵戦訓練で同時に製造された友人の話から実はクリスマスイブが誕生日と分かったカウラ。 そんな彼女をお祝いすると言う名目でアメリアとかなめは誠の実家でのパーティーを企画することになる。 予想通り趣味に走ったプレゼントを用意するアメリア。いかにもセレブな買い物をするかなめ。そんな二人をしり目に誠は独自でのプレゼントを考える。 誠はいかにも絵師らしくカウラを描くことになった。 閑話休題的物語。

しちせき 14.4光年の軌跡 

主道 学
SF
学校帰りの寄り道で、商店街へ向かった梶野 光太郎は、そこで街角にある駄菓子屋のガチャを引いた。 見事不思議なチケット「太陽系リゾート地。宇宙ホテル(宇宙ステーション・ミルキーウェイ)」の当たりを引く。 同時刻。 世界各地でオーロラが見えるという怪奇現象が起きていた。 不吉な前兆を前に、光太郎たちは宇宙ステーション・ミルキーウェイへ宿泊するが……。 度々改稿作業加筆修正をします汗 本当にすみません汗 お暇潰し程度にお読みくださいませ!

令和の俺と昭和の私

廣瀬純一
ファンタジー
令和の男子と昭和の女子の体が入れ替わる話

MMS ~メタル・モンキー・サーガ~

千両文士
SF
エネルギー問題、環境問題、経済格差、疫病、収まらぬ紛争に戦争、少子高齢化・・・人類が直面するありとあらゆる問題を科学の力で解決すべく世界政府が協力して始まった『プロジェクト・エデン』 洋上に建造された大型研究施設人工島『エデン』に招致された若き大天才学者ミクラ・フトウは自身のサポートメカとしてその人格と知能を完全電子化複製した人工知能『ミクラ・ブレイン』を建造。 その迅速で的確な技術開発力と問題解決能力で矢継ぎ早に改善されていく世界で人類はバラ色の未来が確約されていた・・・はずだった。 突如人類に牙を剥き、暴走したミクラ・ブレインによる『人類救済計画』。 その指揮下で人類を滅ぼさんとする軍事戦闘用アンドロイドと直属配下の上位管理者アンドロイド6体を倒すべく人工島エデンに乗り込むのは・・・宿命に導かれた天才学者ミクラ・フトウの愛娘にしてレジスタンス軍特殊エージェント科学者、サン・フトウ博士とその相棒の戦闘用人型アンドロイドのモンキーマンであった!! 機械と人間のSF西遊記、ここに開幕!!

『邪馬壱国の壱与~1,769年の眠りから覚めた美女とおっさん。時代考証や設定などは完全無視です!~』

姜維信繁
SF
1,769年の時を超えて目覚めた古代の女王壱与と、現代の考古学者が織り成す異色のタイムトラベルファンタジー!過去の邪馬壱国を再興し、平和を取り戻すために、二人は歴史の謎を解き明かし、未来を変えるための冒険に挑む。時代考証や設定を完全無視して描かれる、奇想天外で心温まる(?)物語!となる予定です……!

処理中です...