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12.やっぱり奴が気になる

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 翌日、魔王の間の隅で粉々に割れたまま放置していたミラージュの鏡を、魔法で復元させることにした。

 右手をかざし、呪文を唱えると鏡はヒビ一つない元通りの形になり、徐々にもやのようなものが集まってけばけばしいオカマの顔を映した。

「ちょっとぉ、アタシを叩き割るなんてあんまりよっ!」

 ミラージュは泣きそうな声で叫んだ。

「黙れっ、貴様の所有者はこの我である。自分の持ち物をどう扱おうと我の勝手だっ!」

「そうだけど、割るなんて鏡に対する最大の侮辱よ。魔王様、見損なったわっ!」

 フン、勝手にわめけ、と我はワイングラスをあおった。

「……で、あれからどうなったの? 魔王様はオメガだったんでしょう? やっぱりあの剣士が運命の番だったのかしら?」

 教えてくれるなら許すわ、とミラージュは尋ねた。

「貴様に話してやる筋合いなどないっ!」

「あはっ! どうやら本当にそうだったようね。魔王様ったらわかりやすいわ。あの剣士いかにも最強アルファって感じだったものね」

「おい、無駄口を叩いていないで町の様子を見せろっ! 粉砕された状態に戻りたいのかっ!」

 なによ、もっと詳しく教えてくれたっていいじゃない、とミラージュはごにょごにょと文句を言いながら、サムガリアの町の様子を映し出した。いつもに増して活気づいているように見える。

 剣士リヒトが魔王から王家の秘宝を奪還したと、町中の酒場に人が溢れて飲めや歌えのお祭り騒ぎになっているのだ。

 しかし肝心のリヒトの姿は見当たらない。
 ミラージュは映像を酒場から王国の城へ切り替えた。
 城の中ではお祝いの舞踏会が開かれていて、リヒトは着飾った赤いドレスの美女と踊っている。

「剣士様、次は私と踊りましょう」

「いいえ、私よ」

 と女たちが奴を取り合っている。

 ショックだった。奴のせいで我は仕事も手につかないというのに、奴は人間の女どもとイチャイチャしているなんて。

「あらぁ、あの剣士ずいぶんモテるじゃない。イケメンだものねぇ」

 ミラージュがふふっと笑った。
 我ほどではないが奴もそこそこに美麗な容姿をしているから、考えてみれば女が放っておくはずがない。

「ミラージュよ、……ホストとは何のことだ?」

 奴が言っていた聞き慣れない言葉を物知りなこいつに尋ねてみた。

「ん? ホスト? えっと、……それは異世界の、確かニホンとかいう国のホストクラブで働く人のことかしら?」

「そう、それだっ! それはどういう奴らだ?」

 やっぱりミラージュは大抵のことを知っている。

「ホストクラブっていうまあ閉鎖的な酒場で女性客の話し相手をしたりお酒を作ったりするのが主な仕事ね」

 鏡には金色やピンクに染めた髪を鶏のトサカみたいに逆立て、魚やヘビのようなテカテカとしたスーツを着た奇妙な男たちが映っていた。

 これが奴の前にいた世界か? この中に入れば奴は少し地味だし、品が良すぎるように思うのだが。

「店の外で客の呼び込みもするし、指名を得るために馴染みの客とは営業時間外に外でデートしたりホテルに行ったりすることもあるし。まあ人気商売だからホストって大変よね」

「ホ、ホテル……だとっ!」

 我の手に力が入り、持っていたワイングラスがパリンッ! と割れた。

「つまりホストとは男娼のことか」

「え? うん、まあ……、そういうことをすることもあるわね」

 奴にとってセックスは単なる仕事、特別な意味は何もなかったというのか。我に夢中な素振りをし、やっと見つけた運命の姫、だなんて囁いておきながら……。

「おのれぇ……」

 人間の分際で魔王である我の心を弄ぶとは。
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