1 / 57
第一章 今日中に契約を取ってこないとクビだ! (蒼side)
1.入社半年、僕だけ契約ゼロ
しおりを挟む
「おい、野々原っ!」
上司の鬼塚課長が、今期の契約件数を示したグラフの貼られた壁をバンッ! と叩いて僕を睨んだ。
僕、野々原蒼は法人向け大型ウォーターサーバーの製造及びレンタル販売をする、ハッピーウォーター株式会社の営業マン、なんだけど……。
「お前だけ契約ゼロとはどういうことだっ!? もっと気を引き締めて取り組めと言ったはずだよなっ!?」
課長が怒鳴るのも無理はない。同じ営業二課で働く人たちの名前の上には契約件数を示す高く伸びた棒グラフがあるのに、一件も契約が取れていない僕の名前の上だけは入社してから半年間、ずっと空白のままだ。
「……すみません。僕なりに気を引き締めて頑張っているつもりなんですけど、でも……」
「はぁ? 頑張っているだとっ!? だったらどうしてそれが数字に表れないんだよ、おかしいだろうがっ!」
顔を真っ赤にして怒鳴る鬼塚課長を前に、僕は下唇を噛んでうつむいた。
課長の言う通り、自分でも本当に不甲斐ないって思っている。
決してサボっているとか仕事に対してやる気がないとかそんなことはない。僕なりに必死に飛び込み営業を頑張ってこの結果だ。甘えかもしれないけど、そもそもどんくさくて口下手な僕には営業の仕事なんて向いていない。
僕は学生時代に交通事故で両親を亡くし、道路工事や引っ越し屋など力仕事のアルバイトをしながらどうにか大学を出た。昔からのんびりしている性格だけど背が高くて体力だけは自信があるから、製造の現場仕事か、重たいウォーターサーバーのタンクの納品などの肉体労働だったら自分を活かせると思ってこの会社を志望したのに、いざ入社してみると僕は営業職、それも新規顧客の獲得のための飛び込み営業を行う営業二課に配属されてしまったのだった。
「まったくどうしたものかっ」
課長は大きなため息をついた。
「……お前と同期入社の津田はちゃんと契約が取れていると言うのに」
近くを通りかかった津田千晴くんが前髪をさらっと撫でた。
「うふふ、鬼塚課長、いくら同期入社とはいえ、優秀な僕と比べては野々原くんが気の毒ですよ……」
そう言って彼は自信たっぷりにほほ笑んだ。
「とにかく野々原、お前はこの営業二課の足を引っ張るお荷物なんだよっ! 今日中に契約取れなかったらお前はクビだっ! わかったかっ!」
「え、そんなぁっ」
入社してから半年経って未だに契約ゼロなのに、今日急に契約が取れるわけがない。
うちの会社ってもしかしてブラック企業なのかも? でも亡き両親の残した借金と奨学金の返済に追われている僕は会社をクビになるわけにはいかない。
大学時代の就活で唯一内定をもらったのはこのハッピーウォーター株式会社だけだったから、ここをクビになったら他に雇ってくれる会社なんてないだろう。
こうなったら、どうにかして今日中に、契約を取るしかない。
会社から叩き出された僕は、手持ちの企業リストを頼りに早朝から飛び込み営業をした。
けれど、何社回っても相変わらず受付で門前払いされた。
「弊社ではアポなしで担当者に取り次ぐことはできかねます。お引き取りください」
「担当者と面識はおありですか? ……でしたら結構です! 新規営業は断るように言われておりますので」
僕は手厳しい受付嬢たちに軽くあしらわれて、担当者に会って商談することすらできないのだ。
いつの間にか外が真っ暗になっていた。企業リストは残り一社しかない。
「株式会社美麗クリエイション。主に玩具の製造販売をする会社かぁ……」
リストに記載された売上高、利益、従業員数などのデーターを見る限りでは、契約相手として申し分なさそうだ。
この一社に賭けるしかない。
上司の鬼塚課長が、今期の契約件数を示したグラフの貼られた壁をバンッ! と叩いて僕を睨んだ。
僕、野々原蒼は法人向け大型ウォーターサーバーの製造及びレンタル販売をする、ハッピーウォーター株式会社の営業マン、なんだけど……。
「お前だけ契約ゼロとはどういうことだっ!? もっと気を引き締めて取り組めと言ったはずだよなっ!?」
課長が怒鳴るのも無理はない。同じ営業二課で働く人たちの名前の上には契約件数を示す高く伸びた棒グラフがあるのに、一件も契約が取れていない僕の名前の上だけは入社してから半年間、ずっと空白のままだ。
「……すみません。僕なりに気を引き締めて頑張っているつもりなんですけど、でも……」
「はぁ? 頑張っているだとっ!? だったらどうしてそれが数字に表れないんだよ、おかしいだろうがっ!」
顔を真っ赤にして怒鳴る鬼塚課長を前に、僕は下唇を噛んでうつむいた。
課長の言う通り、自分でも本当に不甲斐ないって思っている。
決してサボっているとか仕事に対してやる気がないとかそんなことはない。僕なりに必死に飛び込み営業を頑張ってこの結果だ。甘えかもしれないけど、そもそもどんくさくて口下手な僕には営業の仕事なんて向いていない。
僕は学生時代に交通事故で両親を亡くし、道路工事や引っ越し屋など力仕事のアルバイトをしながらどうにか大学を出た。昔からのんびりしている性格だけど背が高くて体力だけは自信があるから、製造の現場仕事か、重たいウォーターサーバーのタンクの納品などの肉体労働だったら自分を活かせると思ってこの会社を志望したのに、いざ入社してみると僕は営業職、それも新規顧客の獲得のための飛び込み営業を行う営業二課に配属されてしまったのだった。
「まったくどうしたものかっ」
課長は大きなため息をついた。
「……お前と同期入社の津田はちゃんと契約が取れていると言うのに」
近くを通りかかった津田千晴くんが前髪をさらっと撫でた。
「うふふ、鬼塚課長、いくら同期入社とはいえ、優秀な僕と比べては野々原くんが気の毒ですよ……」
そう言って彼は自信たっぷりにほほ笑んだ。
「とにかく野々原、お前はこの営業二課の足を引っ張るお荷物なんだよっ! 今日中に契約取れなかったらお前はクビだっ! わかったかっ!」
「え、そんなぁっ」
入社してから半年経って未だに契約ゼロなのに、今日急に契約が取れるわけがない。
うちの会社ってもしかしてブラック企業なのかも? でも亡き両親の残した借金と奨学金の返済に追われている僕は会社をクビになるわけにはいかない。
大学時代の就活で唯一内定をもらったのはこのハッピーウォーター株式会社だけだったから、ここをクビになったら他に雇ってくれる会社なんてないだろう。
こうなったら、どうにかして今日中に、契約を取るしかない。
会社から叩き出された僕は、手持ちの企業リストを頼りに早朝から飛び込み営業をした。
けれど、何社回っても相変わらず受付で門前払いされた。
「弊社ではアポなしで担当者に取り次ぐことはできかねます。お引き取りください」
「担当者と面識はおありですか? ……でしたら結構です! 新規営業は断るように言われておりますので」
僕は手厳しい受付嬢たちに軽くあしらわれて、担当者に会って商談することすらできないのだ。
いつの間にか外が真っ暗になっていた。企業リストは残り一社しかない。
「株式会社美麗クリエイション。主に玩具の製造販売をする会社かぁ……」
リストに記載された売上高、利益、従業員数などのデーターを見る限りでは、契約相手として申し分なさそうだ。
この一社に賭けるしかない。
6
お気に入りに追加
233
あなたにおすすめの小説
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
何も知らないノンケな俺がなぜかラブホでイケメン先輩に抱かれています
波木真帆
BL
俺、葉月亮太は直属の上司である八神悠亮さんと、休日出勤で郊外にあるショッピングモールの試飲イベントに来ていた。大盛況で帰途についたのも束の間、山道で突然のゲリラ豪雨に遭遇し、急いで近くの建物の駐車場に避難した。トイレと食事を期待して中に入ったのだが、そこはなんとラブホテルでしかも2時間は出られない。
一緒に過ごすうちになんとなくおかしな雰囲気になってきて……。
ノンケの可愛い社会人3年目の天然くんとバイなイケメン先輩の身体から始まるイチャラブハッピーエンド小説です。
おそらく数話で終わるはず。
R18には※つけます。
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
好きな人が「ふつーに可愛い子がタイプ」と言っていたので、女装して迫ったら思いのほか愛されてしまった
碓氷唯
BL
白月陽葵(しろつきひなた)は、オタクとからかわれ中学高校といじめられていたが、高校の頃に具合が悪かった自分を介抱してくれた壱城悠星(いちしろゆうせい)に片想いしていた。
壱城は高校では一番の不良で白月にとっては一番近づきがたかったタイプだが、今まで関わってきた人間の中で一番優しく綺麗な心を持っていることがわかり、恋をしてからは壱城のことばかり考えてしまう。
白月はそんな壱城の好きなタイプを高校の卒業前に盗み聞きする。
壱城の好きなタイプは「ふつーに可愛い子」で、白月は「ふつーに可愛い子」になるために、自分の小柄で女顔な容姿を生かして、女装し壱城をナンパする。
男の白月には怒ってばかりだった壱城だが、女性としての白月には優しく対応してくれることに、喜びを感じ始める。
だが、女という『偽物』の自分を愛してくる壱城に、だんだん白月は辛くなっていき……。
ノンケ(?)攻め×女装健気受け。
三万文字程度で終わる短編です。
ひとりぼっち獣人が最強貴族に拾われる話
かし子
BL
貴族が絶対的な力を持つ世界で、平民以下の「獣人」として生きていた子。友達は路地裏で拾った虎のぬいぐるみだけ。人に見つかればすぐに殺されてしまうから日々隠れながら生きる獣人はある夜、貴族に拾われる。
「やっと見つけた。」
サクッと読める王道物語です。
(今のところBL未満)
よければぜひ!
【12/9まで毎日更新】→12/10まで延長
【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜
有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)
甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。
ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。
しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。
佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて……
※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>
気付いたらストーカーに外堀を埋められて溺愛包囲網が出来上がっていた話
上総啓
BL
何をするにもゆっくりになってしまうスローペースな会社員、マオ。小柄でぽわぽわしているマオは、最近できたストーカーに頭を悩ませていた。
と言っても何か悪いことがあるわけでもなく、ご飯を作ってくれたり掃除してくれたりという、割とありがたい被害ばかり。
動きが遅く家事に余裕がないマオにとっては、この上なく優しいストーカーだった。
通報する理由もないので全て受け入れていたら、あれ?と思う間もなく外堀を埋められていた。そんなぽややんスローペース受けの話
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる