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第五章 通じ合った想い(朋美side)
18.助けに来てくれた彼
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公園の入口、私たちのすぐ目の前に黒いセダンが止まった。
運転しているのはこの前淳士と一緒にいた舎弟らしき男の一人だ。
「乗れっ」
後部のドアを開け、淳士は私を車へ押し込もうとした。
「……いやぁっ」
どうしよう、逃げられない。
そのとき背後から誰かが走ってくる足音が聞こえた。
「朋美さんっ!」
蓮くん声だった。
「ふん、邪魔させるかっ」
公園の手前の角から淳士のもう一人の舎弟の金髪の太った男が蓮くんに襲いかかった。
手にはバットを持っている。
「危ないっ……!」
私の叫びが届いたのか蓮くんは間一髪、バットをかわした。
金髪の男がアスファルトに叩きつけたバットがバキンと音を立てて折れてしまった。当たらなくて良かった。
折れたバットを捨てた男が蓮くんに飛びかかった。
二人がもみ合いになっている様子を私は息を呑んで見守ることしかできない。
「おいおい、正義のヒーローが助けに来たみたいな顔するなよ。あいつはストーカー野郎だと言っただろ、正義はむしろ俺だ」
淳士は舌打ちし、蓮くんがやられる様子を私に見せつけようとしているみたいだった。
男のこぶしが蓮くんの頬に当たり、唇の隅から血がたらりと垂れた。
「蓮くんっ……」
「キレのある動きだろ? 今じゃデブだが、あいつは昔プロのボクサー目指していたからな。一般人が敵うわけないんだ」
淳士はケラケラ笑った。
どうしよう、私を助けに来たばっかりに、このままじゃ蓮くんが……。
何もできず、私はただただ見守ることしかできない。
「おい、何してる!」
自転車に乗った一人の警察官がたまたま公園の前を通りかかった。
「喧嘩か!?」
「げっ、やべっ……」
セダンの運転席の舎弟がそう呟いた。
淳士は急いで私を後部座席へ連れ込もうとしたが、
「……お巡りさん、助けてっ!」
と私は震える声で叫んだ。
「ん? 何事だ?」
警察官が車の方を見たので淳士は舌打ちして私を突き放した。そして車に乗り込むと、すぐに出発させた。
金髪の男はいつの間にかその場から逃げていなくなっていた。
蓮くんと私は警察官に駅前交番まで連れて行かれ、事情を聞かれた。
私は松山淳士と高校時代に交際していたことと、蓮くんを殴った男は淳士の舎弟であることを交番の中で正直に話した。
昔付き合っていた恋人とこんなトラブルになってしまうなんて、蓮くんは私に幻滅しただろうか……。蓮くんを巻き込んでケガまでさせてしまったことは本当に申し訳なく思う。
静かに聞いてくれていた蓮くんの横顔を見ると形のいい唇の端の出血は止まっていたものの、赤く腫れて痛々しかった。
「あの公園の辺りは前々から暗くて物騒だから防犯灯の設置が検討されているんですよ」
警察官は付近の見回りを強化することを約束してくれた。
交番を出て、私は蓮くんに何と声をかけたらいいかわからずに、しばらく黙ってマンションの方向へ歩いていた。
「蓮くんを巻き込んじゃってごめんね……」
「……いえ、そんな」
「唇のところ、痛む? 病院、行く? 私のせいだからもちろん治療費は出すから」
「このぐらい何でもないです」
蓮くんはふぅっとため息をつき肩を落とし、足を止めこちらを見た。
「淳士って人が言っていたこと、全部本当です」
淳士が言っていたことって……。
「……子供の頃、近所に住んでいた、あの蓮くんってこと……?」
「ええ、そうです。今まで黙っていて、ごめんなさい」
蓮くんは気まずそうに目を泳がせていた。
「……そうなんだ? 別人のように変わったから全然気づかなかった。近所に住んでいた蓮くんっていうとお金持ちのお爺さんに可愛がられていたふくよかな男の子って印象だったから」
私はクスッと笑った。
「僕、正体を隠して朋美さんに近づいて、ストーカーですよね」
「ストーカー? 蓮くんは私に何か悪いことをしたかしら?」
執着されているという面ではきっと淳士も蓮くんもあまり変わらないのかもしれない。でも、どうしてだろう。蓮くんに対して嫌悪感はない。
うつむいて上目遣いで、今にも泣き出しそうな目の前の彼の表情に、少年時代のあの蓮くんの面影が見えた。
「……ずっと好きだったんです。子供の頃からずーっと朋美さんのことが忘れられなかったんです」
蓮くんは心底申し訳なさそうに言った。
「そっか、嬉しい……」
私は彼に笑ってみせた。
「えっ、嬉しいだなんて……。朋美さん、わかってないんじゃないですか? 俺はストーカーなんですって。朋美さんのSNSから住所探り出して隣に引っ越してきたやばい奴ですよ?」
「そうかもしれないけど、それを聞いても不思議と嫌だとは思わないの」
むしろ、ドキドキしてしまっている。
運転しているのはこの前淳士と一緒にいた舎弟らしき男の一人だ。
「乗れっ」
後部のドアを開け、淳士は私を車へ押し込もうとした。
「……いやぁっ」
どうしよう、逃げられない。
そのとき背後から誰かが走ってくる足音が聞こえた。
「朋美さんっ!」
蓮くん声だった。
「ふん、邪魔させるかっ」
公園の手前の角から淳士のもう一人の舎弟の金髪の太った男が蓮くんに襲いかかった。
手にはバットを持っている。
「危ないっ……!」
私の叫びが届いたのか蓮くんは間一髪、バットをかわした。
金髪の男がアスファルトに叩きつけたバットがバキンと音を立てて折れてしまった。当たらなくて良かった。
折れたバットを捨てた男が蓮くんに飛びかかった。
二人がもみ合いになっている様子を私は息を呑んで見守ることしかできない。
「おいおい、正義のヒーローが助けに来たみたいな顔するなよ。あいつはストーカー野郎だと言っただろ、正義はむしろ俺だ」
淳士は舌打ちし、蓮くんがやられる様子を私に見せつけようとしているみたいだった。
男のこぶしが蓮くんの頬に当たり、唇の隅から血がたらりと垂れた。
「蓮くんっ……」
「キレのある動きだろ? 今じゃデブだが、あいつは昔プロのボクサー目指していたからな。一般人が敵うわけないんだ」
淳士はケラケラ笑った。
どうしよう、私を助けに来たばっかりに、このままじゃ蓮くんが……。
何もできず、私はただただ見守ることしかできない。
「おい、何してる!」
自転車に乗った一人の警察官がたまたま公園の前を通りかかった。
「喧嘩か!?」
「げっ、やべっ……」
セダンの運転席の舎弟がそう呟いた。
淳士は急いで私を後部座席へ連れ込もうとしたが、
「……お巡りさん、助けてっ!」
と私は震える声で叫んだ。
「ん? 何事だ?」
警察官が車の方を見たので淳士は舌打ちして私を突き放した。そして車に乗り込むと、すぐに出発させた。
金髪の男はいつの間にかその場から逃げていなくなっていた。
蓮くんと私は警察官に駅前交番まで連れて行かれ、事情を聞かれた。
私は松山淳士と高校時代に交際していたことと、蓮くんを殴った男は淳士の舎弟であることを交番の中で正直に話した。
昔付き合っていた恋人とこんなトラブルになってしまうなんて、蓮くんは私に幻滅しただろうか……。蓮くんを巻き込んでケガまでさせてしまったことは本当に申し訳なく思う。
静かに聞いてくれていた蓮くんの横顔を見ると形のいい唇の端の出血は止まっていたものの、赤く腫れて痛々しかった。
「あの公園の辺りは前々から暗くて物騒だから防犯灯の設置が検討されているんですよ」
警察官は付近の見回りを強化することを約束してくれた。
交番を出て、私は蓮くんに何と声をかけたらいいかわからずに、しばらく黙ってマンションの方向へ歩いていた。
「蓮くんを巻き込んじゃってごめんね……」
「……いえ、そんな」
「唇のところ、痛む? 病院、行く? 私のせいだからもちろん治療費は出すから」
「このぐらい何でもないです」
蓮くんはふぅっとため息をつき肩を落とし、足を止めこちらを見た。
「淳士って人が言っていたこと、全部本当です」
淳士が言っていたことって……。
「……子供の頃、近所に住んでいた、あの蓮くんってこと……?」
「ええ、そうです。今まで黙っていて、ごめんなさい」
蓮くんは気まずそうに目を泳がせていた。
「……そうなんだ? 別人のように変わったから全然気づかなかった。近所に住んでいた蓮くんっていうとお金持ちのお爺さんに可愛がられていたふくよかな男の子って印象だったから」
私はクスッと笑った。
「僕、正体を隠して朋美さんに近づいて、ストーカーですよね」
「ストーカー? 蓮くんは私に何か悪いことをしたかしら?」
執着されているという面ではきっと淳士も蓮くんもあまり変わらないのかもしれない。でも、どうしてだろう。蓮くんに対して嫌悪感はない。
うつむいて上目遣いで、今にも泣き出しそうな目の前の彼の表情に、少年時代のあの蓮くんの面影が見えた。
「……ずっと好きだったんです。子供の頃からずーっと朋美さんのことが忘れられなかったんです」
蓮くんは心底申し訳なさそうに言った。
「そっか、嬉しい……」
私は彼に笑ってみせた。
「えっ、嬉しいだなんて……。朋美さん、わかってないんじゃないですか? 俺はストーカーなんですって。朋美さんのSNSから住所探り出して隣に引っ越してきたやばい奴ですよ?」
「そうかもしれないけど、それを聞いても不思議と嫌だとは思わないの」
むしろ、ドキドキしてしまっている。
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