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第一章 恥ずかしすぎる誤配事件(朋美side)
1.お隣のイケメンくん
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私が彼のマッサージを受けることになったのは、ある恥ずかしい事件がきっかけだった。
話は数日前にさかのぼる……。
ある日の仕事帰り、マンションの入口で声をかけられた。
「こんばんは、笹原さん。今帰りですか」
長い指先でエレベーターのボタンを押し、私に微笑みかけた彼の笑顔の何ときれいなことか……。
眼福……。ああもう、疲れが吹き飛んじゃう……。
このすらりと背が高くてとても人当たりのいいイケメンは、私の部屋のお隣に引っ越してきた小宮蓮くんだ。
私はキュンと甘く胸を痺れさせながら、コンビニで買ってきた缶ビールと食品の入ったエコバッグを体の後ろへ隠した。
「ええ、今日も残業で……」
男性と話すのが苦手な独身喪女の私が苦笑いすると彼も困ったように笑ってくれた。
「月末ですもんね。お疲れ様です」
「小宮くんも今帰り?」
開いたエレベーターのドアへ手を添えて、自然なしぐさで私をエスコートしながら彼は答えた。
「僕も仕事が終わって帰ってきたところです」
社会人だったんだ? てっきり学生だと思っていた。
だって彼がスーツを着ているところなんて一度も見たことないから。今だってラフな普段着だ。
「言ってませんでしたっけ? 僕、マッサージ師なんです」
私の思考を読み取ったかのように彼が答えた。
「へー、そうなんだ」
「あ、そうだ。今日、お客さんからライトをもらったんですけど、どうしようかなって困っていたところなんです。嫌でなければもらっていただけませんか……」
彼はカバンから可愛らしいクマの形をしたフットライトを取り出した。
寝室の足元なんかによく使うコンセントに刺すタイプのライトだった。
「可愛い……。もらっていいの?」
「是非。僕の部屋に置くにはちょっと可愛すぎますから。なんか押しつけるようで、すみません」
確かに可愛らしいクマの形は小宮くんのイメージには合わない。
「ありがとう、大事にします」
小宮くんは安堵したようににこっと笑った。
それぞれの部屋のドアを開け、私たちは、
「おやすみなさい」
と言って別れた。
「隣に越して来ました、小宮です」
と彼が挨拶に来てくれたのは一ヶ月ほど前のことだった。
一人暮らし用のワンルームマンションではそういう挨拶回りをする人って少ないから、律儀なんだなぁと驚いた。
それ以来、会えばこうやって挨拶程度の会話をする仲になった。
私にとって彼は退屈な日常の中の唯一の癒しと言っても過言ではない特別な存在だけど、彼の方は私のことなんて何とも思っていないだろう。
きっと彼はこのマンションに住む全員にあんな風に感じよく接しているのだろうし。
さっそく私は彼からもらった可愛らしいクマのライトを部屋のコンセントへ刺してみた。なかなか可愛い。
そしてコンビニで買ってきた缶ビールなどを冷蔵庫へ入れた。
シャワーを浴びて火照った体へ、冷たいビールを流し込む。
……ああ、幸せ。
枝豆とベビーチーズをつまみながら、スマホを開いた。
「お久しぶり。本日、長女が誕生しました」
学生時代の友達からそんなメッセージと共に生まれたてのしわくちゃな赤ちゃんの写真が届いていた。
確か一昨年、結婚式には呼ばれたけど、しばらく会っていなかった間に妊娠してたんだ?
それすら知らなかった……。
「おめでとう。とっても可愛いね! 母子ともに元気でよかった」
いつも送るテンプレ返信を淡々と入力し、素早く送信した。
今年28歳。友達や会社の同期など私の周りには今、結婚と出産の大波が来ている。
毎月のように結婚式に呼ばれてご祝儀は払う一方。
現在、私には彼氏すらいない。
過去には一度だけ男性と交際したことがあるけど……。
高校時代に初めてできた一歳年上の彼氏。
彼に暴力を振るわれて以来、私はすっかり男性が怖くなってしまい、男性との関わりを極力避けて生きてきた。
でも私、ずっとこのまま一人でいいのかな?
心の奥底じゃ、友達や同僚が優しい彼氏や旦那さんに溺愛されているエピソードを聞いてはとても羨ましく思っている……。
私だって格好良くて優しい彼氏や旦那さんに愛されたいんだ。誰かとイチャイチャしたい。
そのためには何か行動を起こさなきゃ、と思いながらも仕事に追われて毎日があっという間に過ぎていく……。
そうじゃなくても会社とマンションの往復だけの毎日に出会いなんてないし。
年々職場で任される仕事の責任は重くなって、休日もサービス出勤ばかりでプライベートな時間なんてろくに取れない……。
「はあ……」
そう思うと大きなため息が出た。
憂鬱な気持ちを紛らわすために冷蔵庫から新しい缶ビールを取り出してプシュッと開けた。
私も優しい彼氏がほしい。誰かに甘えたい……。
色々な焦りとかストレスとかで、なんかもう押しつぶされそう……。
「うう……、癒されたい……」
そんな調子で私はこの日、お酒を飲み過ぎた。
話は数日前にさかのぼる……。
ある日の仕事帰り、マンションの入口で声をかけられた。
「こんばんは、笹原さん。今帰りですか」
長い指先でエレベーターのボタンを押し、私に微笑みかけた彼の笑顔の何ときれいなことか……。
眼福……。ああもう、疲れが吹き飛んじゃう……。
このすらりと背が高くてとても人当たりのいいイケメンは、私の部屋のお隣に引っ越してきた小宮蓮くんだ。
私はキュンと甘く胸を痺れさせながら、コンビニで買ってきた缶ビールと食品の入ったエコバッグを体の後ろへ隠した。
「ええ、今日も残業で……」
男性と話すのが苦手な独身喪女の私が苦笑いすると彼も困ったように笑ってくれた。
「月末ですもんね。お疲れ様です」
「小宮くんも今帰り?」
開いたエレベーターのドアへ手を添えて、自然なしぐさで私をエスコートしながら彼は答えた。
「僕も仕事が終わって帰ってきたところです」
社会人だったんだ? てっきり学生だと思っていた。
だって彼がスーツを着ているところなんて一度も見たことないから。今だってラフな普段着だ。
「言ってませんでしたっけ? 僕、マッサージ師なんです」
私の思考を読み取ったかのように彼が答えた。
「へー、そうなんだ」
「あ、そうだ。今日、お客さんからライトをもらったんですけど、どうしようかなって困っていたところなんです。嫌でなければもらっていただけませんか……」
彼はカバンから可愛らしいクマの形をしたフットライトを取り出した。
寝室の足元なんかによく使うコンセントに刺すタイプのライトだった。
「可愛い……。もらっていいの?」
「是非。僕の部屋に置くにはちょっと可愛すぎますから。なんか押しつけるようで、すみません」
確かに可愛らしいクマの形は小宮くんのイメージには合わない。
「ありがとう、大事にします」
小宮くんは安堵したようににこっと笑った。
それぞれの部屋のドアを開け、私たちは、
「おやすみなさい」
と言って別れた。
「隣に越して来ました、小宮です」
と彼が挨拶に来てくれたのは一ヶ月ほど前のことだった。
一人暮らし用のワンルームマンションではそういう挨拶回りをする人って少ないから、律儀なんだなぁと驚いた。
それ以来、会えばこうやって挨拶程度の会話をする仲になった。
私にとって彼は退屈な日常の中の唯一の癒しと言っても過言ではない特別な存在だけど、彼の方は私のことなんて何とも思っていないだろう。
きっと彼はこのマンションに住む全員にあんな風に感じよく接しているのだろうし。
さっそく私は彼からもらった可愛らしいクマのライトを部屋のコンセントへ刺してみた。なかなか可愛い。
そしてコンビニで買ってきた缶ビールなどを冷蔵庫へ入れた。
シャワーを浴びて火照った体へ、冷たいビールを流し込む。
……ああ、幸せ。
枝豆とベビーチーズをつまみながら、スマホを開いた。
「お久しぶり。本日、長女が誕生しました」
学生時代の友達からそんなメッセージと共に生まれたてのしわくちゃな赤ちゃんの写真が届いていた。
確か一昨年、結婚式には呼ばれたけど、しばらく会っていなかった間に妊娠してたんだ?
それすら知らなかった……。
「おめでとう。とっても可愛いね! 母子ともに元気でよかった」
いつも送るテンプレ返信を淡々と入力し、素早く送信した。
今年28歳。友達や会社の同期など私の周りには今、結婚と出産の大波が来ている。
毎月のように結婚式に呼ばれてご祝儀は払う一方。
現在、私には彼氏すらいない。
過去には一度だけ男性と交際したことがあるけど……。
高校時代に初めてできた一歳年上の彼氏。
彼に暴力を振るわれて以来、私はすっかり男性が怖くなってしまい、男性との関わりを極力避けて生きてきた。
でも私、ずっとこのまま一人でいいのかな?
心の奥底じゃ、友達や同僚が優しい彼氏や旦那さんに溺愛されているエピソードを聞いてはとても羨ましく思っている……。
私だって格好良くて優しい彼氏や旦那さんに愛されたいんだ。誰かとイチャイチャしたい。
そのためには何か行動を起こさなきゃ、と思いながらも仕事に追われて毎日があっという間に過ぎていく……。
そうじゃなくても会社とマンションの往復だけの毎日に出会いなんてないし。
年々職場で任される仕事の責任は重くなって、休日もサービス出勤ばかりでプライベートな時間なんてろくに取れない……。
「はあ……」
そう思うと大きなため息が出た。
憂鬱な気持ちを紛らわすために冷蔵庫から新しい缶ビールを取り出してプシュッと開けた。
私も優しい彼氏がほしい。誰かに甘えたい……。
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「うう……、癒されたい……」
そんな調子で私はこの日、お酒を飲み過ぎた。
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