【R-１８】ドM執事～令嬢に転生したのでプライドの高い堅物イケメン執事を調教して差し上げました～

２．借金返済のために

　後から思えば、彼がおごってくれたのは最初のカフェだけで、デートでは私がチケット代や食事代を払うことがほとんどだった。当時はそんなこと気にしていなかったけれど。

　高校卒業後から地方都市の中規模の会社で正社員の事務員として働き、派手な趣味もこれと言った楽しみもなく一生一人かもしれない漠然とした不安から節約して暮らしをしてきた私にはそこそこの貯金もあり、お金には困っていなかった。

　そしてなにより、ようやく私にも春が来た、恋人が出来たんだ、と私はすっかりのぼせ上っていた。

　なので、まさか勝手に彼の借金の保証人にされているなんて思いもしなかった。
　私の部屋にお泊まりデートに来た時、彼が勝手に私の印鑑を書類に押していたのだ。

　闇金からお金を借り、利子も含めて３０００万円にまで借金が膨らんでいた彼は逃げ、勝手に保証人にされていた私は勤め先にまで取り立てに来られた。



　両親も早くに亡くしていて頼れる親族もいない私は事務の仕事を辞め、風俗で働きながら３０００万円の彼の借金を代わりに返済することを強要された。

　風俗店に勤務していても私の男運の悪さは相変わらずで、変な客に当たってトラブルを起こしすぐにデリヘルの店を辞めた。
　もちろん借金取りがそれで許すはずもなく、次にＭ性感の店で働くことになった。

　当時の私はＭ性感がどういうものなのかさえ知らなかった。
　地味で物静かで男性経験の乏しい私は男性にはリードされたいと思うタイプだから、自分が男性を性的に責めるなんて出来ないと思っていた。

　幸薄顔で外見に自信がない私はそれを隠すためにいつも女王様のようなベネチアンマスクで顔を覆っていた。

　意外なことに私のサービスは客からとても好評で、手厳しい店長から、

「君には生まれ持ったＳ嬢としての才能があるよ。１０００年に一人の逸材といっても過言じゃない」

　と褒められ、店の一番人気嬢にまで登り詰めた。

　店長が言うには、ＳＭのＳはサービスのＳ。つまり嗜虐的でわがままなお嬢様よりも相手へ尽くす地味なタイプの人間こそが本物のＳ嬢向きなのだと言った。

　伝説のＳ嬢、そんな呼ばれ方をするようになり、大企業の重役や著名人からも指名されるようになり、借金もあっという間に残りわずかになった。

　もうすぐこの生活から解放される。



　そう安堵していたある日、私はヤク中の頭のおかしな客に、

「プレイの前に気持ちが良くなる薬を打ってあげましょう」

　と何かの薬を無理やり注射された。激しいめまいがして息が出来なくなり、床に倒れた。目の前が真っ黒になった。

　それが私、音無影子、三十四歳のあまりにひどい人生の終わりのはずだったのだが……。