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第三章 森での暮らし

22.森での暮らし

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 コーヒーとトーストの朝食を取ると、シャンは家の裏で薪割りを始めた。
 僕は森を歩いてトリュフ採取へ出かけた。豚人になってからというもの鼻がものすごく敏感だから、注意深く歩き回るだけで土の中のトリュフの匂いを感じるのだ。
 においのする場所を少し掘っただけで簡単にトリュフが見つけられてしまう。面白いようにどんどんトリュフを見つけて持ってきたカゴはすぐにいっぱいになった。

 森の中はもちろんトリュフのにおいだけじゃなく、草木や苔、腐りかけた倒木、落ち葉などの色んなにおいがして刺激的だ。
 刺激的といえば、昨夜の狼みたいになったシャンのケダモノって感じのオスのにおい……。思い出しいただけで脳が痺れるほど色気ムンムンだった……。

 一人でトリュフ採取に来たのは、昨日あんなことがあったばかりでシャンのそばにいるのが少し気まずいからだ。荒々しく抱かれたときのことを思い出して僕は全身が熱くなってしまう。

 まさか、あの穏やかなシャンがあんなに狂暴になってしまうなんて……。あのとき、満月を見たから? それっておとぎ話の狼男じゃないか。
 そのあたりのことは色々と疑問に思ったけど、相手の気にしていることをずけずけと聞くのって良くないと思う。

「どうしてそんなに太ってるの?」
「ちょっとは痩せようとか思わないわけ?」
 前の世界では僕に平気でそんなことを聞いてくるクラスメイトもいたけど、そういうデリカシーのない発言に僕はいつもひどく傷つけられていた。

 だから僕自身シャンに対してそんな真似はしたくないから、詳しく聞けなかった。
 シャンは狼男なの? ブタなのに?

***

 あの満月の夜から数日が経ったが、シャンはあれから一度も狼になることはなく元の優しい性格の豚人のままだ。
 シャンの家のカレンダーには日付の横に色々な暦のようなものが書いてあって、その中に月の満ち欠けについても記載されていた。
 シャンは満月を気にしてカレンダーを見ていたのだ。

 今まであまり気にしたことはなかったけど、月って29.5日周期で満月がやってくるらしい。

 次の満月までまだだいぶある……。

 そう、僕はシャンがまた狼になってしまう夜を密かに楽しみにしているのだ。
 あれから二人で仲良く暮らしていて毎日が楽しいけど、甘いムードになってもシャンが手を出してくることはなく、実は少し物足りなく思っている。

 今日は一緒に台所で白パンを作っている。毎日食べているパンは買ったものじゃなく、シャンが粉を捏ねてかまどで焼いて作っているのだ。

 パンなんてスーパーやコンビニで買うものだと思っていたから、手作りだと聞いたときはすごく驚いた。
 けど、実際にやってみるとパン作りって楽しい。ふっくらと発酵させた生地を何等分かに分けて、丸め直すときの何とも言えない不思議な手触りを僕はとても気に入った。

 シャンは器用だから手際よく丸めた生地に切れ込みを入れて、鉄板に並べていく。
「僕の丸めたやつ、なんかいびつ」
「ふふ、平気だよ、これはこれで味があるからいいじゃん。色んなのがあっていいんだよ」

 僕が手伝うといつも料理が台無しになるけど、シャンはそんなの気にしないで笑ってくれる。そんな優しいところがやっぱり大好きだ。

 シャンが分厚いミトンをはめた手でパンを乗せた鉄板をかまどへ入れてくれた。
 今日はシンプルな白パンだけど台所に置いてあった古いレシピ集にはパイやクロワッサンの作り方も載っていた。

「ねえ、今度はアップルパイを作ろうよ。見て、美味しそうじゃない?」
 デブの僕は甘いもの大好きだから、テカテカしたパイの写真のページを開いてシャンにリクエストした。

「いいけど、パイ生地を作るなら街までバターを買いに行かないと。たっぷり用意しないと作れないんだ」
「え、そうなの?」
 レシピに書かれた分量を見た。
「嘘っ、パイ生地ってこんなにバター入れるのっ!?」
 バターを齧っているようなもんじゃないか。おまけに中に入れるリンゴもたっぷりの砂糖で煮ているのだ。

 シャンとここで暮らし始めてわかったことだけど、前の世界で頻繁に買って食べていたドーナツやケーキなんかは信じられないほど甘かったし、カップラーメンやスナック菓子なんかすごく味が濃かった。それをストレスのはけ口として毎日バクバク食べていたんだから太っていたわけだ。
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