上 下
5 / 48
第一章 異世界転生

5.見知らぬ街

しおりを挟む
 気がつくと、見知らぬ街の広場みたいな場所にいた。
 え、ここどこ……?

 周囲を見回すとファンタジー作品なんかに出てきそうなヨーロッパっぽいメルヘンな街並みが広がっていた。レンガや石で作られた家や塔が並んでいて、教会の大きな鐘の音が聞こえて来る。

 ……まさか、本当に転生しちゃったの?

 唖然として立ち尽くしていると、通りを行く背の高い青年二人組が僕の方をちらりと見た。街並みと同じく彼らの格好もファンタジーっぽい服装だ。

 ひいいっ、もしやカツアゲされる!?
 いじめられっ子気質が体に染みついている僕は二人と目を合わせないように下を向いた。

「おい、見ろよ」
 何だあのデブ、と罵倒されるんじゃないかと身構えた。

「見かけない顔だが、とんでもない美男子じゃないか」
「本当だ、すごくイケメンだ」
 なんだ、助かった。こっちを見たのかと思ったけど、二人の目的は僕じゃなかったみたいだ。

 それよりとんでもない美男子がいるの? どこどこ? 僕も見たいっ!
 振り返ってキョロキョロするけど、背後には噴水があるだけで誰もいない。恐る恐る青年たちの方を見ると彼らが見ているのは僕だった。

「え……?」
 彼らの頭の上には先の折れた三角の耳が乗っていて、鼻の先がチョンと前を向いている。
 僕が言うのもなんだけど、なんかブタっぽい……。

「やっとこっち見た。うは、なんてふくよかでキュートなんだ」
「ねえ君、俺らとお茶しようぜ」
 二人組はそう言って、すぐそこのカフェを親指で示した。

「え、僕とお茶って? 何かの間違いでしょう?」
「何を言っているんだい? 警戒しなくて大丈夫だよ、俺らはただ美しい君と仲良くなりたいのさ」
「君のことが知りたいんだ。ゆっくり話そう。もちろんおごるよ、パフェでもケーキでも好きなものを食べるといい」

 一体、何が起きたの?
 二人ともちょっとぽっちゃりしていて僕の好みじゃないけど、こんなふうにナンパされるのは初めてだからちょっとドキドキしちゃう。

「ちょっと待った、俺が先だ」
 近くの花売りの店から花束を抱えて走って来たこれまた小太りの男性が、僕の前に跪いた。
「俺と結婚してくれっ!」
 うっとりした眼差しで僕を見つめる男性はやっぱり頭に豚耳がついていて鼻が前を向いている。体も顔もブタにしか見えない。

「おいおい、おっさん、何言ってんだ? この子は俺らとお茶するところだ。割り込んで来るなよ」
「割り込むってどっちがだっ! お前らより俺が先に目をつけて一世一代のプロポーズのために大急ぎでこの子に似合う花を買いに行っていたんだ」

 男性は青年たちを押し退けて、真っ赤なバラの花束を差し出した。
「君は俺が探し求めていた運命の人だ。ほら、きれいだろう。君の美しさには敵わないけどね、フッ」
 丸くて小さい目と二重あごの豚顔でキザなセリフを囁かれても、僕の面食いな乙女心は全くときめかない。

「おっさん、いきなりプロポーズなんてするなよ、ドン引きしてんじゃん!」
「何を!? この子は嬉しさのあまり固まっているだけだ! そもそも困らせているのはお前らの方だ、二人がかりでナンパして、卑怯だと思わないのか」
 青年たちと男性はとうとう言い争いを始めてしまった。

「や、やめて、僕を巡って争わないでっ……」
 騒ぎになった広場にはどんどん人が集まって来た。
 誰かこのどうしようもない喧嘩を止めてくれればいいのに、人々はじろじろと僕を見るばかりだ。
「あ、本当だ、すごく豊満で美しい」
「ははあ、これは確かに絶世の美人だな」

 この世界、おかしい。どうなっているんだろう。
 もしかして、転生と同時に神様から類まれな美しさを授けられたってこと!?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気付いたら異世界の娼館に売られていたけど、なんだかんだ美男子に救われる話。

sorato
恋愛
20歳女、東京出身。親も彼氏もおらずブラック企業で働く日和は、ある日突然異世界へと転移していた。それも、気を失っている内に。 気付いたときには既に娼館に売られた後。娼館の店主にお薦め客候補の姿絵を見せられるが、どの客も生理的に受け付けない男ばかり。そんな中、日和が目をつけたのは絶世の美男子であるヨルクという男で――……。 ※男は太っていて脂ぎっている方がより素晴らしいとされ、女は細く印象の薄い方がより美しいとされる美醜逆転的な概念の異世界でのお話です。 !直接的な行為の描写はありませんが、そういうことを匂わす言葉はたくさん出てきますのでR15指定しています。苦手な方はバックしてください。 ※小説家になろうさんでも投稿しています。

異世界転移した心細さで買ったワンコインの奴隷が信じられない程好みドストライクって、恵まれすぎじゃないですか?

sorato
恋愛
休日出勤に向かう途中であった筈の高橋 菫は、気付けば草原のど真ん中に放置されていた。 わけも分からないまま、偶々出会った奴隷商人から一人の男を購入する。 ※タイトル通りのお話。ご都合主義で細かいことはあまり考えていません。 あっさり日本人顔が最も美しいとされる美醜逆転っぽい世界観です。 ストーリー上、人を安値で売り買いする場面等がありますのでご不快に感じる方は読まないことをお勧めします。 小説家になろうさんでも投稿しています。ゆっくり更新です。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

美醜逆転の世界で推し似のイケメンを幸せにする話

BL
異世界転生してしまった主人公が推し似のイケメンと出会い、何だかんだにと幸せになる話です。

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

異世界転生先で溺愛されてます!

目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。 ・男性のみ美醜逆転した世界 ・一妻多夫制 ・一応R指定にしてます ⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません タグは追加していきます。

処理中です...