1 / 17
“娘”の物語
承前
しおりを挟む
その日は、とても寒かった。
暗い空。今にも雪が降り出しそうな曇天の下、樹々も土も凍りついていた。
吐き出す息は真っ白で――。
「お前のことだけが、わたしが今ここで生きている理由だよ」
私を抱き締め、額を合わせた彼女は、そう言って笑った。
同じ顔に同じ色の目。体格もほぼ同じ。
けれど、髪の色だけが違う彼女。
「私も……私が生きている理由も、お前だけだ」
私も彼女を抱きしめ返し、同じことを呟く。
凍りつき、しんと静まり返った森には、生き物の気配すら感じられない。
向き合った彼女の頬を撫でて、私は小さく吐息を漏らす。
とても愛しい私の半身。
私には彼女しかいないし、彼女には私しかいない。
世界には、私と彼女のふたりだけ。
――なのに、彼女はもういない。この世界から、消えてしまった。
生きる理由を無くしたはずの私は、何故、未だ生き続けているんだろう。
「一年だ」
そう、“父”は言った。
どうしても、どうしても時間が欲しいと懇願する私に、“父”は嗤う。
「一年、時間をあげよう。その間にできなかったら……わかっているね?」
念を押す“父”に、わたしはただ頷く。
笑みを深め……しかし、笑ってはいない“父”は、「なら、せいぜい好きにやってみればいい」と顎で扉を示す。
頷いたわたしは踵を返し、“父”の元を立ち去った。
一年……凍りついた森に再び若木が芽吹くまでが、私に与えられた時間だった。
暗い空。今にも雪が降り出しそうな曇天の下、樹々も土も凍りついていた。
吐き出す息は真っ白で――。
「お前のことだけが、わたしが今ここで生きている理由だよ」
私を抱き締め、額を合わせた彼女は、そう言って笑った。
同じ顔に同じ色の目。体格もほぼ同じ。
けれど、髪の色だけが違う彼女。
「私も……私が生きている理由も、お前だけだ」
私も彼女を抱きしめ返し、同じことを呟く。
凍りつき、しんと静まり返った森には、生き物の気配すら感じられない。
向き合った彼女の頬を撫でて、私は小さく吐息を漏らす。
とても愛しい私の半身。
私には彼女しかいないし、彼女には私しかいない。
世界には、私と彼女のふたりだけ。
――なのに、彼女はもういない。この世界から、消えてしまった。
生きる理由を無くしたはずの私は、何故、未だ生き続けているんだろう。
「一年だ」
そう、“父”は言った。
どうしても、どうしても時間が欲しいと懇願する私に、“父”は嗤う。
「一年、時間をあげよう。その間にできなかったら……わかっているね?」
念を押す“父”に、わたしはただ頷く。
笑みを深め……しかし、笑ってはいない“父”は、「なら、せいぜい好きにやってみればいい」と顎で扉を示す。
頷いたわたしは踵を返し、“父”の元を立ち去った。
一年……凍りついた森に再び若木が芽吹くまでが、私に与えられた時間だった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
あなたの妻にはなりません
風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。
彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。
幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。
彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。
悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。
彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。
あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。
悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。
「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる