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歌う竜の町
こんなの聞いてない
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「さあ、遠慮はいらん! かかってくるがいいぞ!」
「ああ、うん、今日も絶好調だね」
くすりと笑ってミーケルは、一歩下がった。
男たちの身のこなしからすると、たしかに素人に毛が生えた程度だろう。だが数はたしかに多い。
自分はエルヴィラの手が回らないところをなんとかしよう、と考えて――
初手からいきなり突撃し、一気にふたりを沈めたエルヴィラに、男たちは息を呑む。
ミーケルも「あれ、まともに鳩尾に入ると、全部持っていかれるもんねえ」と呟いて、自分の腹を押さえた。
「先手必勝、いかなる場合も全力を尽くせは我が家の家訓だ。貴様らが数を頼りに驕ったのが運の尽きよ!」
油断なく構えながら哄笑するエルヴィラの姿は、いったいどっちが悪人かと考えてしまうようなものだった。
「く、くそっ!」
「ふははは腰抜けどもめ! 貴様ら程度に遅れを取るエルヴィラ・カーリスではないわ!」
気を取り直した男たちが、今度こそ全員でエルヴィラに飛びかかる。たちまち狭い路地で乱闘が始まった。
「――どういうことなの?」
見た目はそれほど背が高いわけでもなく、男性顔負けの筋肉だるまというわけでもない。なのに、どうしてあの人数を相手にああも互角以上に殴り合いができるのか。
“悪魔混じり”という種族の物珍しさとあの胸の大きさで、ミーケルの護衛という建前の愛人ポジションにでも収まってるんだと思ったのに。
まさか、本当に護衛だというのか。
「もう、どうしてこうなるのよ」
ぎり、と唇を噛んで、ここは出直そうと踵を返し、そのまま走り出そうとしてどすんとひとにぶつかった。
「ちょっと、何突っ立ってるのよ!」
腹立ち紛れに怒鳴りつけて、そのまますぐに立ち去ろうとした。なのに、目の前の見知らぬ相手に腕をしっかり掴まれてしまう。
いったい何なのと悪態をつきつつ、改めてぶつかった相手を見上げれば――
「お嬢ちゃん、目論見外れちゃったね?」
「な、なによあんた!」
琥珀に近い金髪に翠玉の目の背の高い男が、にっこりと笑って顔を覗いていた。
「昨日、なんか絡んでたから、気になって見てたんだよね」
「な、何を……」
「まあまあ。あの兄さんにも責任がないわけじゃないし、こういう中途半端なことしてわだかまりを残すのもよくないと思うんだよ、俺」
「何を言ってるのよ。誰なの、あんた」
「俺はアライトっていうんだ。だからお嬢ちゃん、少しちゃんと話をしよう」
笑顔のくせにしっかりと掴んだ腕に隙はまったく見当たらず、振り解こうにもびくともしない。
娘は観念したかのように、小さく頷いた。
* * *
「ふん、やはりチンピラなどこの程度だったか」
「はいはい」
ミーケルはパンパンと得意げに手を払うエルヴィラを引き寄せて、痣だの擦り傷だのができた場所に、小回復の魔術をかけていく。
「ああ、顔に痣も傷も作って」
「あれだけ数がいてはいちいち完全に躱す暇などなかったんだ。それにナイフまで出してきたからな。避けるならナイフのほうに集中しなきゃならなかったし、拳は力を逃しつつ受けたほうが面倒が少なかったんだ」
「面倒が少ない、じゃないよ。何日腫れたままになると思ってるんだ。鼻だって折れやすいんだからね」
顔を顰めたミーケルに言われて、エルヴィラは思わず首を竦める。チンピラのナイフよりもこの顔のミーケルのほうが怖い。
「この程度、爺様に扱かれてた頃は日常茶飯事だったぞ」
「君のお祖父さんて、ほんとうにどんなひとだったの」
「強かった」
「それはわかってる」
ひととおり目立つ傷を治してほっと息を吐き、それから倒れた者たちの怪我が腕の一本程度に収まってることを確認した。
まんいち死人が出たら即座にここを出なきゃならないと考えたのだが、その心配はないようだ。
リーダー格の男が「くそ、なんで……」と呻く。その声が聞こえたのか、ミーケルがしゃがみ込んで笑った。
「この子さ、クラーケンやら竜やらと一騎打ちやらかしたり屍竜に先陣切って突っ込んでったりするような脳筋騎士なんだよね。君ら程度が敵う相手だと思う?」
「なんだそれ……聞いてねえ」
「ま、相手を見極めることもできなかった自分を恨むんだね。自業自得だよ」
ふん、と鼻で笑って立ち上がり「行こうか」と振り返る。
すると、エルヴィラが「呼んでる」と指差した路地の向こうで、人型になったアライトが手招いていた。
*****
※この世界の平均身長は、地域にもよりますが、成人女性で160半ば~後半、成人男性で175~180程度としております。だいたい北方出身ほど体格がよくなります。
※エルヴィラさんの身長は約160cm。平均より低めです。体脂肪率は低めで腹筋は割れてるため、ややがっちり。見た目より体重は重め(60kgくらい)でも、引き締まってます。そしてその体脂肪率で何故という奇跡のFカップ。体脂肪少ないのに何故乳が育つのか。
あと、めちゃくちゃ食べます。体型は気にしてないわりに、尋常じゃない運動量なので太りません。ミケ背負ってスクワットとか軽くこなします。
乙女回路が内蔵されている脳筋で、先に殴れば勝つると思ってるタイプでもあります。
※ミーケルの身長は180cm強。平均よりやや高くらいです。腹筋は割れておらず、縦線入ってるくらい。ちょっとスポーツとか部活頑張ってる男子程度の筋肉量で細マッチョ未満です。なので、体重は70ちょいくらいかと。
食べる量も本気出したエルヴィラの半分くらいだし、見た目商売なので体型とかも一応気にしてます。
自分は顔がいいことを自覚しているタイプのクズ男です。「ただしイケメンに限る」の成功体験を積んで今に至っています。
「ああ、うん、今日も絶好調だね」
くすりと笑ってミーケルは、一歩下がった。
男たちの身のこなしからすると、たしかに素人に毛が生えた程度だろう。だが数はたしかに多い。
自分はエルヴィラの手が回らないところをなんとかしよう、と考えて――
初手からいきなり突撃し、一気にふたりを沈めたエルヴィラに、男たちは息を呑む。
ミーケルも「あれ、まともに鳩尾に入ると、全部持っていかれるもんねえ」と呟いて、自分の腹を押さえた。
「先手必勝、いかなる場合も全力を尽くせは我が家の家訓だ。貴様らが数を頼りに驕ったのが運の尽きよ!」
油断なく構えながら哄笑するエルヴィラの姿は、いったいどっちが悪人かと考えてしまうようなものだった。
「く、くそっ!」
「ふははは腰抜けどもめ! 貴様ら程度に遅れを取るエルヴィラ・カーリスではないわ!」
気を取り直した男たちが、今度こそ全員でエルヴィラに飛びかかる。たちまち狭い路地で乱闘が始まった。
「――どういうことなの?」
見た目はそれほど背が高いわけでもなく、男性顔負けの筋肉だるまというわけでもない。なのに、どうしてあの人数を相手にああも互角以上に殴り合いができるのか。
“悪魔混じり”という種族の物珍しさとあの胸の大きさで、ミーケルの護衛という建前の愛人ポジションにでも収まってるんだと思ったのに。
まさか、本当に護衛だというのか。
「もう、どうしてこうなるのよ」
ぎり、と唇を噛んで、ここは出直そうと踵を返し、そのまま走り出そうとしてどすんとひとにぶつかった。
「ちょっと、何突っ立ってるのよ!」
腹立ち紛れに怒鳴りつけて、そのまますぐに立ち去ろうとした。なのに、目の前の見知らぬ相手に腕をしっかり掴まれてしまう。
いったい何なのと悪態をつきつつ、改めてぶつかった相手を見上げれば――
「お嬢ちゃん、目論見外れちゃったね?」
「な、なによあんた!」
琥珀に近い金髪に翠玉の目の背の高い男が、にっこりと笑って顔を覗いていた。
「昨日、なんか絡んでたから、気になって見てたんだよね」
「な、何を……」
「まあまあ。あの兄さんにも責任がないわけじゃないし、こういう中途半端なことしてわだかまりを残すのもよくないと思うんだよ、俺」
「何を言ってるのよ。誰なの、あんた」
「俺はアライトっていうんだ。だからお嬢ちゃん、少しちゃんと話をしよう」
笑顔のくせにしっかりと掴んだ腕に隙はまったく見当たらず、振り解こうにもびくともしない。
娘は観念したかのように、小さく頷いた。
* * *
「ふん、やはりチンピラなどこの程度だったか」
「はいはい」
ミーケルはパンパンと得意げに手を払うエルヴィラを引き寄せて、痣だの擦り傷だのができた場所に、小回復の魔術をかけていく。
「ああ、顔に痣も傷も作って」
「あれだけ数がいてはいちいち完全に躱す暇などなかったんだ。それにナイフまで出してきたからな。避けるならナイフのほうに集中しなきゃならなかったし、拳は力を逃しつつ受けたほうが面倒が少なかったんだ」
「面倒が少ない、じゃないよ。何日腫れたままになると思ってるんだ。鼻だって折れやすいんだからね」
顔を顰めたミーケルに言われて、エルヴィラは思わず首を竦める。チンピラのナイフよりもこの顔のミーケルのほうが怖い。
「この程度、爺様に扱かれてた頃は日常茶飯事だったぞ」
「君のお祖父さんて、ほんとうにどんなひとだったの」
「強かった」
「それはわかってる」
ひととおり目立つ傷を治してほっと息を吐き、それから倒れた者たちの怪我が腕の一本程度に収まってることを確認した。
まんいち死人が出たら即座にここを出なきゃならないと考えたのだが、その心配はないようだ。
リーダー格の男が「くそ、なんで……」と呻く。その声が聞こえたのか、ミーケルがしゃがみ込んで笑った。
「この子さ、クラーケンやら竜やらと一騎打ちやらかしたり屍竜に先陣切って突っ込んでったりするような脳筋騎士なんだよね。君ら程度が敵う相手だと思う?」
「なんだそれ……聞いてねえ」
「ま、相手を見極めることもできなかった自分を恨むんだね。自業自得だよ」
ふん、と鼻で笑って立ち上がり「行こうか」と振り返る。
すると、エルヴィラが「呼んでる」と指差した路地の向こうで、人型になったアライトが手招いていた。
*****
※この世界の平均身長は、地域にもよりますが、成人女性で160半ば~後半、成人男性で175~180程度としております。だいたい北方出身ほど体格がよくなります。
※エルヴィラさんの身長は約160cm。平均より低めです。体脂肪率は低めで腹筋は割れてるため、ややがっちり。見た目より体重は重め(60kgくらい)でも、引き締まってます。そしてその体脂肪率で何故という奇跡のFカップ。体脂肪少ないのに何故乳が育つのか。
あと、めちゃくちゃ食べます。体型は気にしてないわりに、尋常じゃない運動量なので太りません。ミケ背負ってスクワットとか軽くこなします。
乙女回路が内蔵されている脳筋で、先に殴れば勝つると思ってるタイプでもあります。
※ミーケルの身長は180cm強。平均よりやや高くらいです。腹筋は割れておらず、縦線入ってるくらい。ちょっとスポーツとか部活頑張ってる男子程度の筋肉量で細マッチョ未満です。なので、体重は70ちょいくらいかと。
食べる量も本気出したエルヴィラの半分くらいだし、見た目商売なので体型とかも一応気にしてます。
自分は顔がいいことを自覚しているタイプのクズ男です。「ただしイケメンに限る」の成功体験を積んで今に至っています。
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